第 6 章 離散時間スライディングモードオブザーバの新しい構成
6.4 数値例
図6.2 ブロック線図
誤差推定オブザーバを利用した離散時間型スライディングモード制御オブザーバのブロック 線図を図 6.2に示す。
双対性を用いた等価制御システムと非線形システム部分u[a]nl(k)を用いることで出力行 列に制約を受けないスライディングモード制御オブザーバを構成した。不確かさによる誤差 を推定するため,誤差推定オブザーバを利用する。その結果,出力条件を解除し,不確かさ に対して,正しい状態推定を可能にした。また,干渉問題の除去も可能とした。
これより,Fig.6.2に示した新しい離散時間型スライディングモードオブザーバはスライ ディングモードオブザーバの問題点であった不確かさが含まれても正しい状態を推定可能,
出力行列制約の解除,別の制御法の併用による干渉問題の除去を可能としたオブザーバと なる。
させることにより,アームの先に取り付けた倒立振子を倒立状態にすることを目的とする。
アーム,振子の係数を表 6.1に示す。モータのトルクu[rad]とする。
アーム,振子それぞれの運動方程式を線形化し,システム方程式を導出する。
˙
x=Ax+bu (6.43)
y=
[0 0 1 0
0 0 0 1
]
x (6.44)
x=[θ˙1 θ˙2 θ1 θ2
]T
(6.45)
A=
a11 a21 0 a41
a12 a22 0 a42
1 0 0 0
0 1 0 0
(6.46)
a11 =−D1(I2+M2L22)/a5, a12 =M2L1L2D1/a5
a21 =M2L1L2D2/a5, a22 =−D2(I1+M2L21)/a5
a41 =−M22gL22L1/aa, a42 =M2gL2(I2+M2L21)/a5
a5 = (I2+M2L22)(I1+M2L21)−M22L21L22 B =[
G∗(I2+M2L22)/a5 −(M2L1L2G)/a5 0 0]T
図6.3 回転型倒立振り子
表6.1 パラメータ
アーム 振り子
記号 値[単位] 記号 値[単位]
角度 θ1 θ2
角度の初期値 θ1(0) 0[rad] θ2(0) 0.3[rad]
質量 M1 0.677[kg] M1 0.099[kg]
重心からの距離 L1 0.52[m] L2 0.175[m]
摩擦係数 D1 5.69[Nms/rad] D2 0.0013[Nms/rad]
慣性モーメント I1 0.6347[kgm2] I2 0.001[kgm2]
オブザーバの初期値を[θ1 θ2]T=[0 0]T とする。オブザーバを設定する際には外乱の情 報は全く得られない。
実際の制御対象にはモデル化誤差,モデルのパラメータ変動,外乱などの不確かさとし てh=0.7 sintを与える。これはアームにランダムな外部からの力が加わるとみなしている。
このシステム方程式を0.1[s]で離散化し,オブザーバおよび制御則を設計する。
6.4.1 スライディングモードオブザーバの適用
図6.4 アームの状態誤差 e1 e˙1 [rad] とスライディングモードオブザーバを用いた振り 子の状態誤差e2 e˙2[rad]
システムの推定値xˆとその状態xの差である推定誤差[ ˙e, e]T を図 6.4に示す。ここで,
˙
e = [ ˙e1 e˙2]は,e˙1 =θˆ˙1−θ˙1, e˙2 =θˆ˙2−θ˙2, e= [e1 e2]は,e1 = ˆθ1−θ1, e2 = ˆθ2−θ2
を表している。黒い実線はe˙1,濃い灰色の実線はe˙2,薄い灰色の実線はe1,より薄い灰色 の実線は,e2 を表している。e1 は振動しながら発散し, 10秒後には0.9×105 となり,e2
は緩やかに発散し,10秒後には0.5×105 の値となる。また,e˙1は小刻みに振動しながら 発散し,10秒後には0.4×105 となり, ˙e2 は小刻みに振動しながら大きく発散し,10秒後 には6×105の値となる。
図 6.4 からわかるように,不確かさの影響を受け,安定性は得られず,発散する。これ は,安定な切換面を設定できず,スライディングモード制御特性が機能しなくなった結果で ある。
6.4.2 誤差推定オブザーバから得られる推定誤差
提案した誤差推定オブザーバから得られる推定誤差eˆa のシミュレーション結果を図 6.5 に示す。
(a) ˆea1, ˆea2 (b) ˆea3 , ˆea4
図6.5 提案した誤差推定オブザーバから得られる推定誤差ˆea
ˆ
ea は,双対性を用いて設計したスライディングモード制御オブザーバでは抑制しきれな かった推定誤差ey を推定している。eˆaは,xˆaとxˆの偏差と等しくなる。
(a) ˙e1,e˙2 (b) e1, e2
図6.6 提案した推定誤差から得られる推定誤差
提案した離散時間型スライディングモード制御オブザーバ全体により推定された状態xˆと 実際の状態xとの推定誤差を図 6.6に示す。
このシミュレーション結果より,すべての推定誤差がほぼ0に収束している。このことか ら,離散時間型スライディングモード制御オブザーバは正しく状態を推定できることがわか
る。図 6.6から,変動する状態に対しても,提案したスライディングモード制御オブザーバ は正しい状態推定を導き出していることがわかる。
これより,従来のスライディングモードオブザーバに必要であった切換面と出力行列との 依存関係による出力制約や外乱の上界値が既知であるなどの条件を課すことなく構成可能と なった。また,正しい状態を推定できることが確認できた。