第 4 章 横加速度制御とヨーレート制御を両立するアクティブ制御の一方式 62
4.3 横加速度 a y とヨーレート γ の両方の制御を可能にする新しい物理量 D ∗ を
ドライバは,通常走行時はヨーレート,危険回避のような咄嗟の場合は横加速度の発生を 抑制する操舵を行うといわれている[54]。そのため,車両の緊急状況に応じてヨーレートと 横加速度を抑制する新しい制御則を構築する必要がある。横加速度ay とヨーレートγ の両 方を制御するため,新しい物理量D∗ を(4.2)式で定義する。
D∗ =day + (1−d)V γ (0≤d≤1) (4.2)
横加速度ay = ˙V β+V( ˙β+γ)より,(4.2)式は(4.3)式で表せる。
D∗ =d( ˙V β+V( ˙β+γ)) + (1−d)V γ
=Cpxp+ dKR
m δr+Dphp (4.3)
Cp = [
−d P1
mV −d (
V + P2
mV )
+V ]
, Dp = [dKF
m d m 0
]
車両の規範モデルを(4.4)式で示す。
˙
xref =Arefxref +Brefuf
Dr∗ =yref =Crxref
}
(4.4) 車両モデルの出力推定値Dˆ∗と規範モデルの出力D∗r との誤差eを(4.5)式で定義する。
e= ˆD∗−D∗r =Cpxp+ dKR
m δr+Dphp−Crefxref (4.5) 拡大した状態変数xa= [ ˙xp e x˙ref]T, 入力δ˙r とすると,
˙
xa =Aaxa+Baδ˙r+Hahp (4.6)
Aa =
Ap 0 0 Cp 0 −Cref
0 0 Aref
, Ba =
Bp
dKR m
0
, Ha =
Hp
Dp 0
拡大系を用いて制御入力を構築する。(Ap, Bp)は可制御,(Aa, Ba)は不可制御である。
˙
xa =Aaxa+Baδ˙r+Hahp (4.7)
=
[A1 A2
0 Aref
] xa+
[B1
0 ]
δr+ [H1
0 ]
hp
A1 =
[Ap 0 Cp 0 ]
, A2 =
0
−Cref
, B1 =
Bp dKR
m
, H1 = [Hp
Dp ]
図4.1 D∗モデル追従制御システム
これより,状態量x˙ref は直接操作量の影響を受けない。そのため,不可制御な状態量で ある。もし,この状態量の挙動を支配するAref は不安定であれば,この系はどのような操 作量δrを選定しても,安定化することはできない。しかし,Ar は漸近安定である。状態量
˙
xref は制御できないが,漸近安定であるから,その状態量は時間の経過とともに0に向か う。したがって,拡大系である(4.6)式は可安定となる。
そのため,状態フィードバックによる制御入力は
δ˙r =−K1x˙p −K2e−K3x˙ref (4.8)
によって,制御を行うことができる。(4.8)式を積分し,(4.9)を得る。
δr =−K1xp −K2
∫ t 0
edτ −K3xref (4.9)
ここで,K1, K2, K3 はつぎの2次形式評価関数J を最小にする最適制御ゲインである。
J =
∫ ∞
0
(
qe2(t) +rδ˙r2(t) )
dt (4.10)
K1, K2, K3,次のリカッチ方程式を解くことにより求める。
ATaP +P Aa+Q−P Bar−1BTaP = 0 (4.11) したがって,フィードバックゲインK1, K2, K3は次式より求められる。
[K1 K2 K3
] =−r−1BaTP (4.12)
ここで,Q1, Q2 ≥0, r >0 P =
[P11 P12
P21 P22 ]
, Q=
[Q1 0 0 Q2
]
(4.12)式のリカッチ方程式を解くことにより求められる。
AT1P11+P11A1+Q1−P11B1r−1B1TP11 = 0 (4.13) AT1P12+P11A2+P12Ar−P11B1r−1B1TP12 = 0 (4.14)
[K1 K2] =−r−1[
BpT dDp
]P11 (4.15)
K3 =−r−1[
BpT dDp]
P12 (4.16)
4.3.1 重み係数 d 値の設計
操縦性,安定性を高めるには,通常時にはヨーレート応答,緊急時には横加速度応答と車 両の緊急状況を観察しながら,それぞれの応答を改善する必要がある。
(a) 横滑り角の微分β˙
(b) d値
図4.2 横滑り角の微分値と重み係数dとの関係
β の変化を観察することで,車体の緊急状態を把握することが可能となる。そこで,β の 変化値であるβ˙ の値を観察し,その変化に合わせて,本研究では,d= 0.1,0.5,0.8の3つ の値を切り換える。横滑り角の変化が少ない場合,通常の運転状態である。そのため,ヨー レートを重視した制御を行う必要があり,重み係数d値を0.1とする。横滑り角の変化が非 常に大きいとき,危険な状態であるといえる。そのため,横加速度を重視した制御が必要と なり,重み係数d値を0.8に切り換える。より操安性を向上させるため,横滑り角が変化は 少し生じた時点で重み係数d値を0.5に切り換える。その様子を図4.2に示す。本研究では
横滑り角の値を見ながら d値を決定した。今後は,dの設計法について理論的に導出して いく。
d値を0.1, 0.5, 0.8によりD∗ は以下のように変化する。
D∗0.1 = 0.1( ˙V β+V( ˙β+γ)) + 0.9V γ =Cp0.1xp+ 0.1KR
m δr+Dp0.1hp
Cp0.1 = [
−0.1 P1
mV −0.1 (
V + P2 mV
)
+V 0.1KF m
0.1KR m
]
Dp0.1 =
[0.1KF m
0.1
m 0
]
D∗0.5 = 0.5( ˙V β+V( ˙β+γ)) + 0.5V γ =Cp0.5xp+ 0.5KR
m δr+Dp0.5hp Cp0.5 =
[
−0.5 P1
mV −0.5 (
V + P2
mV )
+V 0.5KF
m
0.5KR
m ]
Dp0.5 =
[0.5KF m
0.5
m 0
]
D∗0.8 = 0.8( ˙V β+V( ˙β+γ)) + 0.2V γ =Cp0.8xp+ 0.8KR
m δr+Dp0.8hp
Cp0.8 = [
−0.8 P1
mV −0.8 (
V + P2
mV )
+V 0.8KF
m
0.8KR
m ]
Dp0.8 =
[0.8KF
m
0.8
m 0
]
このようにd値それぞれにおいて,A1 は安定である。しかし,d値を切り換えた際の安 定性については理論的に検証できていない。この部分は今後の課題である。