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教材としての校歌 -和洋九段女子中学校・高等学校を例として-

ドキュメント内 校歌をめぐる表象文化研究 (ページ 131-143)

第1節 はじめに

校歌指導は入学してきた児童・生徒らに対し、主に音楽教員が歌詞に込められた建学の 精神や、歌唱指導を行うものではないだろうか。また、中等学校では定期テストで歌詞を 書かせたり、歌唱させたりしている学校もあると思われる。しかし、これらの指導は一貫 性のものであるということが特徴である。

東京都千代田区にある私立和洋九段女子中学校・高等学校(以下 和洋九段校)では校 歌を音楽授業で通年使用している。また、その仕様内容も独特で音楽教材の一つとして使 用しているという。

本研究では単調な旋律や修身的な内容が多いと言われている校歌の一般概念とは異なる、

和洋九段校の校歌を紹介すると共に、その校歌が教材207としてどのように扱われているか を明らかにすることを目的とする。

第2節 研究調査対象(和洋九段校)について

和洋九段校は、1897(明治 30)年に堀越千代が「和洋裁縫女学院」として設置した学校で ある。創立以来“和魂洋才”の精神と 1996(平成 8)年、新たな校訓“先を見て 齊ととのえる”を 精神に女子のみの中高一貫教育を行っている。和洋九段校は現在までに 4 つの校歌を所有 してきた。最初と 2 番目に制定された校歌は明治期(いずれも制定年不明)、3 番目は 1947(昭 和 22)年、そして 1997(平成 9)年に創立 100 周年を記念して新しく制定された校歌は 4 つ の楽曲から成り立つ賛歌(=校歌)である。4 曲それぞれタイトルを持ち(《Ⅰ.わたしたちの 学舎》、《Ⅱ.ベルが鳴る》、《Ⅲ.ほかならぬ私の花を》、《Ⅳ.海のかなたへ》)近代組曲のよ うな編成になっている。全ての作詞は新川和江208、作曲飯沼信義209である。各校歌は各 式典や行事時に歌われる。以下に記すのが、校歌の歌われている状況である。

曲名

わたしたちの学舎 入学式 1学期の始業式 合唱コンクールの発声練習曲 ベルが鳴る 1学期の終業式 2学期の始業式 中学一年生の合唱コンクール課題曲 ほかならぬ私の花を 2学期の終業式 3学期の始業式 中学二年生の合唱コンクール課題曲 海のかなたへ 3学期の終業式 卒業式 中学三年生の合唱コンクール課題曲

公式で歌われる場面

表6 公式な場所で歌われる状況

207 ここでいう教材という意味は、天城(1953)「学習効果を挙げる上に不可欠の物的財」

(『教材費の解説と研究』,港出版合作社,p1でのことである。

208 詩人。『季節の花詩集』で第 9 回小学館文学賞、『記憶する水』で第 25 回現代詩花椿賞 など数々の受賞歴があり、多くの詩は作曲されている。

209 作曲家。《名づけられた葉》、《うつくしい鐘が…》など新川氏の詩に作曲している作品 もある。絵画にも精通している。

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多くの学校では 1 つの曲(校歌)を歌い続けることが通常である。しかし、和洋九段校で はそのような概念にとらわれず新しい形の校歌を制定した。近年このような “校歌らしく ない校歌”210が制定される傾向が目立つ。学校側が半ば強制的に与えてきた校歌が子供主 体に変わってきているということである。子供達が理解できない言葉を使用したり、嫌々 歌ったりする旋律であってはならない。校歌はその学校に帰属意識を持たせる装置の一つ であるが、根本的に校歌を歌う主体は子供達である。“校歌らしくない校歌”というオリジ ナリティが付加価値をおき、帰属意識と、歌い続けたくなる子供たちの気持ちにマッチし た、新しい概念の校歌であるということではないだろうか。

さらに和洋九段校の校歌は 4 曲あるだけでなく、音楽教材として使われることを見越し て作られたというも特徴である。その校歌はどのようなものであろうか。

第3節 校歌について

和洋九段校の校歌は、1996(平成8)年に、創立百周年を記念するということで、校舎や校 則を変える大きなプロジェクトが始動した。その中で、校歌も新しく制定し直そうという ことになった。現在も在職している音楽担当の守口英一教諭が中心となり 5 年間かけて作 詞者、作曲者と協議を重ね、制作された。1991(平成3)年から構想が練られた「わたしたち の学舎」は、入学式・1 学期の始業式・合唱コンクール課題曲になっている楽曲である。Gdur、

4 分の 4 拍子、音域はソプラノ H-Fis²、メゾソプラノ H-C²、アルト H-C²である。

坂道を のぼりましょう もちの木坂 そして 中坂

坂の上 そびえ立つ わたしたちの学舎 窓にはいつも明るい日ざし

和やかに微笑みかわす 私たちは和洋の少女

見上げれば 大空に 七いろの虹がかかる 幾千の鳩が飛び立つ

坂道を のぼりましょう

210 校歌の旋律研究は、嶋田(1988)、が挙げられるが、近年の特徴的な校歌制定を報じる 記事、「校歌型破り列伝」(朝日新聞,2013年3月3日,夕刊11面)や有名ミュージシ ャンが校歌制作に関わった記事(朝日新聞山梨県版,2011年3月9日,朝刊29面(レミ オロメンのボーカリスト藤巻亮太氏が山梨県立笛吹高等学校の作詞・作曲を行った)や、

朝日新聞栃木県版,2011年4月8日,朝刊25面(元BOOWYの布袋寅泰氏が栃木県立 宇都宮工業高等学校の作曲を行った)等が挙げられる。

132 青春のわたしたちが 腕を組んで のぼる坂道

和洋 和洋

誇り高き学舎 和洋

譜例37 わたしたちの学舎

《ベルが鳴る》は、1 学期の終業式・2 学期の始業式・中学一年生の合唱コンクール課題 曲になっている楽曲である。Cdur、8 分の 6 拍子、ソプラノ H-G²、メゾソプラノ A-F²、

アルト A-C²である。

こころの中に ひとつずつ わたしたち

かわいいベルを 吊るしました

リリリリリーン リリリリリーン

離れていても ベルが鳴ります 友だちからの うれしいサイン

この学舎で出会った友だち

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お互いに自分をうつす鏡です 信じ合い 助け合い

鏡を磨いてゆきましょう 悲しみの雨が降る朝も

よろこびの太陽がかがやく真昼も この学舎で出会った友だち お互いに自分をうつす鏡です

わたしたち

こころの中に ひとつずつ ベルを 吊るしました

譜例38 ベルが鳴る

《ほかならぬ私の花を》は、2 学期の終業式・3 学期の始業式・中学二年生の合唱コンク ール課題曲になっている楽曲である。Asdur、4 分の 4 拍子、ソプラノ C¹-F²、メゾソプラ ノ C¹-Des²、アルト B-C²である。

うつくしい花を

咲かせなければと 思います

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ほかならぬわたしの名前で呼ばれる花を わたしの名前で呼ばれる花を

ちちははの愛に守られ わたしはまだ夢みるつぼみ 花ひらくときは

この世ではじめて奏でられる歌でありたい

光る風の中

ゆたかに流れる水のほとり 呼んでいます 呼んでいます たくさんの声が わたしを

うつくしい花を

咲かせなければと 思います

ほかならぬわたしの名前で呼ばれる花を

譜例39 ほかならぬ私の花を

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《海のかなたへ》は、3 学期の終業式・卒業式・中学生の合唱コンクール発声練習曲にな っている楽曲である。Gdur、4 分の 3 拍子、ソプラノ D¹-G²、メゾソプラノ D¹-D²、アル ト H-C²である。

わたしたちは

はばたくつばさを持っている

いつの日にか 飛んで行こう 海のかなたへ

「おはよう」「グー モン」

「ボンジュール」「ニイハオ」

握り合える あたたかな手と心 人間の住むこの星のすばらしさ

青い目のひとよ 黒光りする肌のひとよ

わたしたちは 学び合おう 高め合おう それぞれの国の文化を わかち合おう

水いろの星 地球よ回れ 世界じゅうの人々の

幸福のせて すこやかに回れ 回れ 回れ 回れ

譜例40 海のかなたへ

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このように 4つの楽曲は近代組曲と言われているように 4つの独立したような曲態で書 かれていることがわかる。しかし、歌詞を見てみると、1楽曲目の《わたしたちの学舎》で は 4 つの楽曲の中で唯一学校名が歌詞に含まれている。入学してきた生徒が上級生から校 歌を聞く・学ぶ最初の楽曲である。和洋九段校の周辺の環境、生徒としての自覚が芽生え る楽曲である。

さらにこの校歌は女性3部で成り立っている。実際に生徒たちは3部合唱で歌っている。

複数の声部で書かれている楽譜は多くの学校で見受けられるが、実際に声部を分けて歌っ ている学校はあまり聞かない。しかし和洋九段校では、誰がどの声部を歌うということは、

声帯が出来上がってきた中学 3年生の時に、生徒自身が歌う選択する。中学 3年次の声部 を選択することから、生徒たちは全ての声部が歌えるということでもある。そして高等学 校では選択した声部を歌い続けるということになる。このような方法で選択させても、声 部には偏りが出ず、生徒等は自分の声帯に合わせて自分自身で選択しているそうです。

各楽曲が一年間に歌われる回数は2,3回と他の学校に比べたら多いとは言い難いが、歌 っている生徒等はこれらの校歌を好んで歌い、この校歌を歌うことのなかった卒業生も、

今では同窓会で練習して歌えるようになっている。

第4節 ある日の授業

“校歌を授業で取り入れている”ということから、この 4 つの楽曲がどのような授業形 態で取り入れられているのか調査するために、守口英一教諭の音楽の授業を見学させてい ただいた。まず、中学生の学習指導要領に記されている。音楽の「各学年の目標及び内容」

で歌唱に関する部分を記す。

学習指導要領の第2章5節音楽の第2「各学年の目標及び内容」

【第1学年】

1 目標

(1)音楽活動の楽しさを体験することを通して、音や音楽への興味・関心を養い、音楽によ って生活を明るく豊かなものにする態度を育てる。

(2)多様な音楽表現の豊かさや美しさを感じ取り、基本的な表現の技能を身に付け、創意工 夫して表現する能力を育てる。

(3)多様な音楽のよさや美しさを味わい、幅広く主体的に鑑賞する能力を育てる。

2 内容「A表現」

(1)歌唱の活動を通して、次の事項を指導する。

ア 歌詞の内容や曲想を感じ取り、表現を工夫して歌うこと。

イ 曲種に応じた発声により、言葉の特性を生かして歌うこと。

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ウ 声部の役割や全体の響きを感じ取り、表現を工夫しながら合わせて歌うこと。

【第2学年及び第3学年】

1 目標

(1)音楽活動の楽しさを体験することを通して、音や音楽への興味・関心を高め、音楽によ って生活を明るく豊かなものにし、生涯にわたって音楽に親しんでいく態度を育てる。

(2)多様な音楽表現の豊かさや美しさを感じ取り、表現の技能を伸ばし、創意工夫して表現 する能力を高める。

(3)多様な音楽に対する理解を深め、幅広く主体的に鑑賞する能力を高める。

2 内容「A表現」

(1)歌唱の活動を通して、次の事項を指導する。

ア 歌詞の内容や曲想を味わい、曲にふさわしい表現を工夫して歌うこと。

イ 曲種に応じた発声や言葉の特性を理解して、それらを生かして歌うこと。

ウ 声部の役割と全体の響きとかかわりを理解して、表現を工夫しながら合わせて歌う こと。

【共通事項】

(1) 「A表現」及び「B鑑賞」の指導を通して、次の事項を指導する。

ア 音色、リズム、速度、旋律、テクスチュア、強弱、形式、構成などの音楽を形づく っている要素や要素同士の関連を知覚し、それらの働きが生み出す特質や雰囲気を 感受すること。

イ 音楽を形づくっている要素とそれらの働きを表す用語や記号などについて、音楽活 動を通して理解すること

4-4-1)2012 年 6 月 27 日

中学一年生の授業 《ベルが鳴る》を初めて歌う。

10:45 授業開始。前回の復習。五線譜の黒板に記号を書きながら生徒全員に確認しながら ト音記号、ハ音記号、ヘ音記号、音部記号、拍子記号、8 分の 6 拍子、2 分の 4 拍 子、♯(シャープ)半音上げる、日本語で嬰、 ♭(フラット)半音下げる、日本語で 変、 ♮(ナチュラル)元の高さに戻す。臨時記号、全音符、二分音符、四分音符、

八分音符、十六分音符、四分音符を幾つ集めたら二分音符になるか?、八分音符を 幾つ集めたら二分音符になるか?、はた、ぼう、たま、けたの確認。

10:55 新しい内容の学習。付点四分音符は四分音符とその半分からできている。付点八分 音符は八分音符と八分音符の半分からできている。付点二分音符は二分音符と二分

ドキュメント内 校歌をめぐる表象文化研究 (ページ 131-143)

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