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教える側からみた中国の大学日本語専攻教育における敬語教育

第1節 調査背景と調査目的

第 3 章においては、来日している元学習者からみた中国の大学日本語専攻教育における 敬語教育の問題点を把握した。その結果、複数の問題点と不足点が指摘され、改善するた めの期待やアドバイスも語られた。

一方、これらの問題点と不足点を生み出した様々な教育現場に携わっている教師が、そ れぞれどのような敬語教育を行っているのか、敬語教育について、どのように考えている のかなど、彼らの理解や洞察を質的に調査することも、敬語教育の課題やあり方を探るた めには、貴重な手がかりになると思われる。そこで、第 4 章においては、中国の大学日本 語専攻教育現場に携わっている教師から意見を集めることにした。

以上を踏まえた上で、第 2 章の第 3 節で挙げた研究【課題2】(中国の大学日本語専攻 教育における敬語教育について、教える側はどのように考えているのか)を明らかにする ために、以下の 3 点を調査目的として設定した。

【1】現場教師は、どのように敬語を指導しているのか。

【2】現場教師は、自分の指導に対し、どのように評価しているのか。

【3】現場教師は、中国の大学日本語専攻教育現場で行われている敬語教育に対し、どのよ うな意見や期待があるのか。

第2節 調査方法と分析方法

2011 年 8 月に中国の異なった大学で日本語を教えている中国人教師 6 名(【表 7】を参 照)に調査に協力してもらった。なお、中国人教師に限定した理由は、現地では敬語が主 に「基礎日本語」などの授業で扱われ、それを中国人教師が担当することが多いためであ る。

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【表 7】 インタビュー調査協力者である現場教師

番号 日本滞在歴 日本語教育歴 談話収集日 総談話時間 C3-01 約 4 年 約 2 年 2011/8/15 1:00:33 C3-02 約 5 年 約 18 年 2011/8/21 00:41:04 C3-03 約 2 年 約 5 年 2011/8/21 00:31:36 C3-04 約 1 年 約 13 年 2011/8/26 00:49:55 C3-05 約 2 年 約 7 年 2011/8/29 00:48:45 C3-06 約 1 年 約 29 年 2011/8/31 00:52:25

調査の手順は、前章と同様であるため、省略する。質問項目は以下の通りである。

(1) 勤務先の大学では、敬語をどの段階で、どのぐらいの時間で学習者に教えているのか。

(2) 敬語を扱う授業を担当したことがあるのか。何回ぐらいあるのか。

(3) そのとき、どの教科書を使ったのか。自分で補助資料とか配ったのか。

(4) そのとき、どのように指導したのか。ほとんど教科書どおりに?

それとも自分のやり方で?

(5) 使った教科書や行った指導法について、よかった/よくなかった点があるのか。

(6) その時、学習者の反応はどうだったのか。

当時、彼らの成績や敬語能力には、満足したのか。

(7) 学習者にとって敬語や敬語教育がどれぐらい必要だと思うのか。

(8) 中国人学習者の敬語における困難点や問題点はどこにあると思うのか。

(9) 敬語教育におけるいい教材や有効な指導法は、どのようなものだと思うのか。

(10) 最後に敬語教育に対する意見があれば、自由に話してください。

調査方法と分析手順は、いずれも前章同様であるため、ここで省略する。

第3節 調査協力者別の事例分析

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本節では、調査協力者別にそれぞれの事例を示し、インタビューにおける語りを引用し つつ、調査結果を報告し、分析を行う。

4.3.1 現場教師 C3-01 さんの語り

C3-01 さんは、中国の大学で日本語専攻を卒業し、旅行会社に 1 年間ほど就職していた。

その後来日し、経済学について 2 年間勉強した。帰国後、母校に戻り、日本語専攻の大学 院に進学し、修士号を取得した。そのまま母校の日本語教師になって 3 年間が経った。

敬語の授業を担当した回数は 1 回のみであった。上海訳文出版社『新編基礎日語』(改 訂版)を使用し、1 年次の最後の 1 週間で集中的に敬語を教えたと話している。どのよう に指導したのかという質問に対し、C3-01 さんは以下のように答えている。

C3-01 さんのインタビューから翻訳引用(以下同様)

ほとんど教科書どおりに授業を行った。補助資料は使わなかったが、例文を補足し た。辞書からとったり、自分で作ったりしていた。特に、尊敬語と謙譲語の言い換え 練習を学習者にたくさんさせた。

まず文法知識として接続などのルールを教えた。それから例文を提示し、復唱させ た。その後、例文を作ってもらった。最後に、先生と学生の場面を設定し、ロールプ レイではなく、私が言う中国語を一文ずつ日本語に訳してもらった。

文法の説明と練習が終わった後、本文会話に入った。意味を理解してもらった後、

暗誦させた。本文の暗誦は宿題の一つでもある。翌日の授業で、まず暗誦をチェック してから、前日習った敬語文型で単文通訳の練習をした。

C3-01 さんの語りから、彼女の指導では、敬語を文法項目として扱う傾向が強いことが 分かる。表現形式の言い換え、例文の復唱、単文作り、中文和訳、本文暗誦など、いずれ の練習も実場面との関連性が配慮されていなかった。C3-01 さん自身も自分の教え方につ いて、従来の伝統的なやり方だと語っている。このような教え方について、C3-01 さんは 以下のように評価している。

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自分の行った敬語指導は、必要であるが、十分だとはいえない。例文を復唱できて も、先生の言った中国語を日本語に訳すことができても、日常生活では自分が敬語を どのように使えばよいのか、特にどんな相手に、どんな場面で、どの敬語を使うべき なのかといった指導は、まだまだ不十分だと思う。

以上の語りから、C3-01 さんは、自分の敬語指導について、実際の場面で敬語をどのよ うに使うのかといった運用面において不十分であると自覚しているといえよう。自分の敬 語指導を受けた学習者の反応や成績などについて、以下のように語っている。

表現形式が多すぎて、いきなり覚えさせるのは無理だと思う。自分にとって、一番 使いやすいものを一つ選んで、どんな場面でもそれを使うことを学習者に教えた。一 般的には、特殊形→~(ら)れる→お/ご~になるという優先順位で使うことを学習者 にすすめた。

学習者は敬語に触れると、面倒そうな顔をしていた。教科書にも集中的に現れてい るため、1 週間前後で一気に教えなければならなかった。しかし、全然消化できない 学習者を見て、つい「どうしても使えなかったら、です・ます体でも十分だ」と言っ てしまった。

1 週間前後で複雑な敬語を消化するのは、学習者にとって不可能であると判断し、優先 順位をすすめたり、です・ます体でカバーしたりしている C3-01 さんであった。両方とも 場面と切り離した指導法であるといえる。学習者にです・ます体以上の敬語を使わなくて もいいとすすめた C3-01 さんに、敬語や敬語教育の必要性について、意見を求めた。

確かに大学 1・2 年次の時、です・ます体でも十分だと思うが、高学年になると、就 職活動などの場面では、それ以上の敬語も必要となってくる。もちろん、仕事内容に もよると思う。中国で就職する場合、上司に対しても、です・ます体でも十分な職場 もたくさんある。しかし、日本で就職したいのであれば、です・ます体以上の敬語も 使えないと厳しいと思う。

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C3-01 さんは敬語の必要性と重要性を認めつつも、中国で就職する場合と日本で就職す る場合を区別して考えているようである。これは彼女自身の体験と深く関わっていること が、その後のインタビューで明らかとなった。

大学を卒業して、就職して、来日するまでは、尊敬語や謙譲語の必要性と重要性に あまり気づかなった。大学の先生にも職場の上司にも、です・ます体で話していた。

親しさを表したくて、非です・ます体で話したこともある。注意されたことはなかっ た。しかし、今思えば、相手に不愉快な気持ちにさせたかもしれないととても恥ずか しい。

日本に来てまもなく、日本語が自分より上手なルームメートから、アルバイト先で 敬語がうまく使えず、客と店長に叱られたという話を聞いて、初めて敬語(特に尊敬 語と謙譲語)の必要性と重要性に気づいた。その後、自分もアルバイト先でマニュア ル敬語を覚えさせられ、客に必ず使うように注意された。

来日当初は、指導教授にもです・ます体で話していたが、事務局の人が先生にもっ とレベルの高い敬語を使っているのを聞いて、自分も真似するようになった。その後、

覚えた敬語をアルバイト先の店長に使ったら、「日本語がうまい」とほめられ、「敬語 力=日本語力」と思った。

来日がきっかけで、敬語としてです・ます体しか使わなかった C3-01 さんも徐々に尊 敬語や謙譲語の必要性と重要性に気づくようになり、使うようになったという。自分自身 も敬語の使い方に悩まされた C3-01 さんは、中国人学習者の敬語における困惑点と困難点 について、以下のように語っている。

中国語には敬語はないから、敬語より非です・ます体で話したほうが親しみが表せ ると誤解している中国人学習者が多い気がする。日本に来る前の自分も先生や上司に 非です・ます体で話していた。日本人は寛容度が高いから、嫌でも何も言わない。学 習者はそれに気づかずに社会に出たら、とても危ないと思う。