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学ぶ側からみた中国の大学日本語専攻教育における敬語教育

1.2.2 のインタビュー調査においては、来日している元学習者 10 名を対象に、彼らの敬 語や敬語教育に関する意見を収集した。この調査を通し、中国の大学日本語専攻教育にお ける敬語教育に存在する問題点と不足点をいくつか把握することができた。しかし、質問 項目の設定やインタビューの時間などに限界があり、深く聞くことはできなかった。そこ で、本章では、1.2.2 の調査を改善する形で再度調査を実施することにした。

第1節 調査背景と調査目的

1.1.4 においても述べたように、現代中国語には体系的な敬語が存在しないため、中国 人日本語学習者の「敬語難」を指摘した研究が多く見られる(佐治,1992;宮岡,2005 な ど)。しかし、先行研究を概観すると、学習者の考えに注目し、彼らの視点を重んじる研究 は、管見ではほとんど見当たらない。学習者主体が盛んとなっている今日、学習者の観点 も極めて貴重なものであると思われる。

そこで、本章では、中国の大学で日本語専攻教育を受けた元学習者 10 名を対象に、1.2.2 の調査に改善を加えた形で、「中国の大学日本語専攻教育における敬語教育」に関するイン タビュー調査を行うことにした。

以上を踏まえた上で、第 2 章の第 3 節で挙げた研究【課題1】(中国の大学日本語専攻 教育における敬語教育について、学ぶ側はどのように考えているのか)を明らかにするた めに、以下の 3 点を調査目的として設定した。

【1】元学習者は、敬語(その必要性と重要性、目指すレベル、困惑点と困難点など)につ いて、どのように考えているのか。

【2】元学習者は、どのような敬語教育を受けてきたのか、それに対しどのように評価して いるのか。

【3】元学習者は、中国の大学日本語専攻教育現場で行われている敬語教育に対し、どのよ うなアドバイスや期待があるのか。

42 第2節 調査方法と分析方法

2010 年 8 月~9 月に、中国各地の大学で日本語専攻を卒業(5 年以内)後、日系企業へ の就職や大学院への進学を経て、現在来日している中国人 10 名(【表 5】を参照)に調査 に協力してもらった。なお、調査対象者を来日経験のある元学習者にしたのは、その実体 験を生かし、より多くの気づきや明確なニーズを示してくれると考えたからである。

【表 5】 インタビュー調査協力者である元学習者

番号 日本滞在歴 日本語学習歴 談話収集日 総談話時間 C2-01 約 2 年 約 9 年 2010/8/7 1:04:46 C2-02 約 2 年 約 7 年 2010/8/12 1:11:17 C2-03 約 2 年半 約 5 年 2010/8/15 1:24:52 C2-04 約 2 年 約 7 年 2010/8/17 0:59:08 C2-05 約 1 年半 約 9 年 2010/9/10 1:08:38 C2-06 約 3 年 約 8 年 2010/9/14 1:07:02 C2-07 約 1 年 約 5 年 2010/9/19 0:54:16 C2-08 約 1 年 約 9 年 2010/9/20 1:13:51 C2-09 約 1 年半 約 8 年 2010/9/27 1:05:24 C2-10 約半年 約 4 年 2010/9/30 1:35:58

筆者が事前に作成した「研究調査倫理・誓約書」を読んでもらい、「同意書」に署名と 捺印をもらった後、調査を開始した。より詳細なデータを得るために、母語である中国語 を用い、以下の質問項目による半構造化インタビューを行い、その内容を IC レコーダに録 音した。なお、時間制限も設けず、また語りの流れによっては、臨時に質問の順番を変え ることもあった。

(1) 今の日常生活で、言葉の面で難しく、また不自由に感じたことがあるのか。

43 もしあれば、それはどんなときだったのか。

(2) 今の日常生活で、どれぐらい敬語を使っているのか。

どのようなときに敬語が必要だと感じているのか。

(3) 今の自分の敬語レベルについて満足しているのか。

目指している敬語レベルは、具体的にどんなものなのか。

(4) 敬語について難しく、また不自由に感じたことがあるのか。

もしあれば、それはどのようなときだったのか。

(5) 敬語に対する考え方が変わったことがあるのか。そのきっかけは何だったのか。

(6) 中国で受けた敬語教育を振り返って、よかった/よくなかったところがあるのか。

(7) 自分の経験を踏まえて、望ましい敬語教育や有効な敬語学習方法があるのか。

具体的にどんなものなのか。

録音した内容はすべて文字化し、必要な部分に日本語訳をつけ、データを整理した。分 析手順は次のとおりである。まず 10 人のデータを一人ずつ、質問の順番に各質問項目に対 応する回答に分別した。次に分別した回答を一文一文読み、そこに含まれる意味を落とさ ぬよう縮約した。その後、縮約した内容を互いに比較し、データのユニットを仕分け、カ テゴリーを作った。最後に、構築したカテゴリーを整理し、分析・考察を行った。

第3節 調査協力者別の事例分析

本節では、調査協力者別にそれぞれの事例を示し、インタビューにおける語りを引用し つつ、調査結果を報告し、分析を行う。

3.3.1 元学習者 C2-01 さんの語り

C2-01 さんは中国の大学で日本語専攻の学士号と修士号を取得後、大学で 1 年間日本語 を教えていた。その後国費留学生として来日し、教育学大学院の博士後期課程に在学して いる。日本では中国語講師のアルバイトをしているが、博士号を取得後、中国の大学に戻 り、日本語教師になることを夢見る。そんな C2-01 さんは自身の経験を踏まえ、学習者と 教師両方の立場から、敬語や敬語教育に関する考えを語ってくれた。

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まず、来日後の生活において最も困っているのは、語彙量の足りなさと敬語の使い方で あると C2-01 さんは話している。敬語に関しては、以下のようなエピソードが語られた。

C2-01 さんのインタビューから翻訳引用14(以下同様)

日本人は「~(さ)せていただく」をよく使うから、自分も真似したくて…ある日、

歓迎会の幹事に「招待させていただきます」と言われて、「新入生になったとき、また 招待させていただきます」と答えてしまった。相手の一瞬分からない顔を見て、すぐ に自分の言い間違いに気づいた。しかし、授業時間になったため、訂正はできなかっ た。「~(さ)せていただく」は「~する」の謙譲語で自分の動作に使うものだと知っ ているのに、そのとき頭が混乱してしまっていた。

アルバイト先でお客さんからの電話に慌てて出たら、「~でございます」、「~様で いらっしゃいますか」などの敬語を使いたくてもなかなかスムーズに出てこなかった。

考える余裕もなく、意味疎通を優先に敬語を使うのを諦めた。電話を切った後、冷静 に考えると、「お待ちしております」とか「かしこまりました」なども使うべきなのに、

使えなかった自分にがっかりした。

以上のエピソードから、教師の経験を持つ C2-01 さんでも、来日後の生活において、敬 語による困惑点と困難点を感じており、とりわけ尊敬語や謙譲語を思うとおりに使えない ことがうかがえる。自分の敬語に対する苦手意識は、大学時代に受けた敬語教育に起因し ていると C2-01 さんは語り始める。具体的には次のようなことである。

中国の日本語教育における敬語教育は足りなすぎて、もっと強化すべきだと思う。

一番の問題点は会話の練習不足だと思う。上海外語教育出版社の『新編日語』を使っ て精読の授業で敬語を教わった。常用の尊敬語や謙譲語がまとめられた表を暗誦した だけで、練習はほとんどなかった。そのせいか自分も周りのクラスメートも就職活動 で敬語が使えなくて悩んでいた。

14 インタビューは中国語で行ったため、引用する内容は、インタビューの際調査協力者や筆者の発 話に基づき、筆者が翻訳・要約したものである。

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C2-01 さんは、自分の大学時代に受けた敬語授業について、講義式であり、話す練習が 少なかったと振り返り、批判的に捉えていることが分かる。表現形式を覚えていても、敬 語がうまく使えないということに C2-01 さんは大学時代から悩んでいるようである。次に、

C2-01 さんが敬語の必要性と重要性をどのように考えているのかを聞いてみた。

中国の大学では、先生もあまり敬語を使わないから、敬語の重要性と必要性を認識 していない可能性が高い。その影響で学生も敬語を使わなくてもいいと誤解してしま う。自分が敬語の必要性と重要性に気づいたのは大学院 3 年生だった。通訳のアルバ イトとして、ある中日交易会に参加したとき、意味を優先に敬語を使う余裕がなかっ た自分とは違って、敬語まで完璧に使いこなした相手側の通訳を見て、敬語は本人だ けでなく、会社の全体印象を左右するほどの役割を果たせることに気づいた。

来日後の生活においても、友達以外の相手にはいつも敬語を使っている。アルバイ ト先ではお客さんに、学校では先生や親しくない研究室の人に話す際、常に敬語が必 要だ。特に、自分は今博士だから、です・ます体に限らず、もっとレベルの高い敬語

(尊敬語や謙譲語など)も使いこなせなければならないと思う。

C2-01 さんが敬語の必要性と重要性に気づいたきっかけは、初級で受けた敬語授業では なく、大学院を卒業する直前に経験したアルバイトであることが明らかとなった。そして、

来日後の生活を通し、C2-01 さんは敬語の必要性と重要性に対する認識が更に強まったこ とが分かる。自分の現在の敬語レベルと目指すレベルについて尋ねたところ、以下のよう に語った。

自分の敬語はあまりよくない、使いこなせていないと思う。今は頭で考えているこ とを敬語で話すと混乱してしまう。理想のレベルとしては、日本人のように考えてい ることを頭で整理しなくても敬語で自然に話せることを目指したい。敬語が自然に使 える人が羨ましい。

自分の敬語レベルに全然満足しておらず、敬語を自然に使いこなす人になりないたいと 語る C2-01 さんであったが、敬語を使う際、難しくまたは不自由に感じたところを具体的