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表6.3.1 模型船の主要目

船名 船種 載荷状態 β(deg.) L (m) B (m) dm(m) Cb Ship No.

SR108 Container C.

満載 −4.0〜12.0 3.0 0.435 0.163 0.572 1

バラスト 0.094 0.518 2

Esso

Osaka VLCC 満載

−4.0〜20.0 2.5 0.408 0.170 0.831 3

バラスト 0.080 0.793 4

Ship A Car C. 満載

−4.0〜10.0 2.5 0.482 0.134 0.522 5

バラスト 0.111 0.491 6

Ship B Cargo C. 満載

−4.0〜10.0 2.5 0.419 0.140 0.698 7

バラスト 0.082 0.666 8

Ship C ULCC 満載

−4.0〜20.0 2.5 0.466 0.156 0.835 9

バラスト 0.076 0.802 10

Ship D LNG C.

満載

−4.0〜20.0 2.5 0.409

0.100 0.714 11

半載 0.093 0.707 12

バラスト 0.086 0.703 13

Ship E VLCC 満載

−4.0〜20.0 2.5 0.436 0.157 0.802 14

バラスト 0.077 0.761 15

Ship F Container C.

満載

−4.0〜20.0 2.5 0.386

0.130 0.566 16

半載 0.107 0.540 17

バラスト 0.085 0.516 18

Ship G Cargo C. 満載

−4.0〜20.0 2.5 0.376 0.158 0.651 19

バラスト 0.072 0.574 20

Ship H Cargo C. 満載

−4.0〜20.0 2.5 0.408 0.171 0.773 21

バラスト 0.071 0.711 22

Ship I RO/RO

満載

−4.0〜20.0 2.5 0.367

0.102 0.557 23

半載 0.093 0.537 24

バラスト 0.083 0.512 25

Ship J ULCC 満載

−4.0〜20.0 2.5 0.556 0.183 0.821 26

バラスト 0.089 0.783 27

 一方,P29船舶操縦運動予測モデルの標準化に関する研究委員会において採用された横流れ速度の 無次元値vベースの3次モデルは次式で表される。

YH =Yvv+(Yrmmx)r+Yvvv v3+Yvvr v2r+Yvrr vr2+Yrrr r3 NH =Nvv+(NrxGm)r+Nvvv v3+Nvvr v2r+Nvrr vr2+Nrrr r3



 (6.3.2)  (6.3.1)式および(6.3.2)式に示した二つのモデルに基づき,表6.3.1 に示す12隻の模型船(計27 載荷状態)を対象として実施された旋回腕試験および斜航試験による流体力の計測データの再解析を 行い,2次モデルおよび3次モデルに対する操縦流体力微係数を求めた。表6.3.1 中のβは流体力の 計測を行った斜航角の範囲,Lは垂線間長,Bは船幅,dmは平均喫水,Cbは方形係数である。SR108

およびEsso Osakaは船体形状や各種実験データや計算結果が広く公開されている船型,Ship A〜Jは

ト状態に対する流体力の計測データが存在しており,Ship D, F, Iについては半載状態に対する流体 力の計測も行われている。

6.3.3 流体力の近似精度の比較

 (6.3.1)式および(6.3.2)式に基づいて求めた操縦流体力微係数を用いて横力YH および回頭モーメン

NH を計算し,次式によって定義される決定係数R2に基づいて流体力の近似精度の比較を行った。

R2=1−

(yifi)2

(yiym)2 (6.3.3)

ここで,yiは横力YH または回頭モーメントNH の計測値,ymは計測値の平均値,fiは(6.3.1)式ま

たは(6.3.2)式による計算値である。R2の値が1に近いほど近似精度が良好であることを意味する。

 表6.3.1 に示した全模型船・載荷状態について2次モデルと3次モデルのR2の値を比較した結果

を図6.3.1 に示す。横軸は 表6.3.1 に示したShip No. (1〜27)を表している。各点を結ぶ直線は便宜

上付加したものであり,物理的な意味はない。横力YH,回頭モーメントNH ともに,3次モデルの R2の方が全体的に1に近く,一般に言われているように近似精度が良好であることを表している。

 横力について見ると,Ship No. 5〜8 (Ship A, B)のR2の値の差が特に大きくなっている。これら の模型船・載荷状態については,表6.3.1 に示した通り,流体力の計測を行った斜航角βの最大値が 10であり,図6.3.2 に示すShip Aの満載状態(Ship No. 5)の結果のように,βの値が大きな範囲で 両モデルに基づく計算結果に大きな差が現れている。一方,回頭モーメントについては,Ship No. 14 以降の模型船・載荷状態についてR2の値の差が大きくなる傾向が見られる。これらの模型船・載荷 状態の共通の特徴としては,図6.3.3 に示すShip Iの満載状態(Ship No. 23)のように,rの値が大 きい場合においてβに対する非線形性が大きく現れていることが挙げられる。

0 5 10 15 20 25

0.94 0.96 0.98 1.00 1.02 R2

Ship No.

: Cubic form : Quadratic form

0 5 10 15 20 25

0.94 0.96 0.98 1.00 1.02 R2

Ship No.

: Cubic form : Quadratic form

(a) Lateral force YH (b) Yawing moment NH 図6.3.1 2次モデルと3次モデルのR2の値の比較

6.3.4 斜航角βの計測範囲が近似精度に及ぼす影響

 図6.3.1 に現れた近似精度の差の原因の考察を目的として,微係数の算出に用いる斜航角βの範囲

を変更して再度解析を行い,斜航角βの計測範囲が流体力の近似精度に及ぼす影響について検討を 行った。

 まず初めに,β >10の範囲まで流体力の計測を行っているShip No. 1〜4およびShip No. 9〜27 の模型船・載荷状態を対象として,解析に使用する流体力の計測データの範囲をβ≤10に制限して 操縦流体力微係数を求め,横力および回頭モーメントの計算結果の比較を行った。一例として,Esso

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1 0.0 0.1 0.2 YH

β(deg.)

: r’ = 0.0000 : r’ = 0.3125 : r’ = 0.6250 : r’ = 0.9615

: Cubic form : Quadratic form

(a) Lateral force

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02 0.02 0.06 NH

β(deg.)

: r’ = 0.0000 : r’ = 0.3125 : r’ = 0.6250 : r’ = 0.9615

: Cubic form : Quadratic form

(b) Yawing moment

図6.3.2 2次モデルと3 次モデルによるYHNH の比較

(Ship A,満載状態, Ship No. 5)

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1 0.0 0.1 0.2 YH

β(deg.)

: r’ = 0.0000 : r’ = 0.3125 : r’ = 0.6250 : r’ = 0.9615

: Cubic form : Quadratic form

(a) Lateral force

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02 0.02 0.06 NH

β(deg.)

: r’ = 0.0000 : r’ = 0.3125 : r’ = 0.6250 : r’ = 0.9615

: Cubic form : Quadratic form

(b) Yawing moment

図6.3.3 2次モデルと3次モデルによるYHNH の比較

(Ship I,満載状態, Ship No. 23)

Osakaの満載状態(Ship No. 3)に対する結果を図6.3.4 に,Ship Gの満載状態(Ship No. 19)に対す る結果を図6.3.5 に示す。図中には解析には使用しなかったβ >10の範囲の計測データも表示して いる。

 図6.3.4,図6.3.5 ともに,横力については図6.3.2 の場合と同様にβの値が大きな範囲において

3次モデルと2次モデルの計算結果に大きな差が生じている。βの値が増加するにつれて,3次モデ ルの方が横力の増加率が大きくなり,計算結果と計測値との差が広がる傾向が見られる。一方,回頭 モーメントについて見ると,旋回運動が小さい(rの値が小さい)範囲では2次モデルの方が計測値 との一致が良いように見えるが,旋回運動が発達すると3次モデルの方が計測値との一致が良くなっ ている。

 続いて,Ship No. 1〜4およびShip No. 9〜27の模型船・載荷状態を対象として,β≤10の計測 データから求めた操縦流体力微係数を用いて横力および回頭モーメントを計算し,β >10 の計測 データも含めてR2の値を求めた結果を図6.3.6 に示す。横力については,2次モデルの方は多くの 模型船・載荷状態においてR2が1に近い値を保っているのに対し,3次モデルの方は図6.3.1 と比較 してR2の値が減少している。図6.3.1 に示したShip No. 5〜8に対する3次モデルのR2はβ≤10 の範囲における近似精度が良好であることを示していたが,計測範囲外の運動状態への適用には注 意が必要であると考えられる。これに対して,2次モデルによる流体力の近似精度については,βの 計測範囲による影響は比較的小さいものと考えられる。回頭モーメントについては,2次モデルと3 次モデルの違いによる顕著な差は見られない。

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1 0.0 0.1 0.2 YH

β(deg.)

: r’ = 0.0000 : r’ = 0.3125 : r’ = 0.4750 : r’ = 0.6375 : r’ = 0.8000

: Cubic form : Quadratic form

(a) Lateral force

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02 0.02 0.06 NH

β(deg.)

: r’ = 0.0000 : r’ = 0.3125 : r’ = 0.4750 : r’ = 0.6375 : r’ = 0.8000

: Cubic form : Quadratic form

(b) Yawing moment

図6.3.4 2次モデルと3 次モデルによるYHNH の比較

(Esso Osaka,満載状態, Ship No. 3)

−4 0 4 8 12 16 20

−0.3

−0.2

−0.1 0.0 0.1 0.2 YH

β(deg.)

: r’ = 0.0000 : r’ = 0.3125 : r’ = 0.6250 : r’ = 0.9615

: Cubic form : Quadratic form

(a) Lateral force

−4 0 4 8 12 16 20

−0.10

−0.06

−0.02 0.02 0.06 NH

β(deg.)

: r’ = 0.0000 : r’ = 0.3125 : r’ = 0.6250 : r’ = 0.9615

: Cubic form : Quadratic form

(b) Yawing moment

図6.3.5 2次モデルと3次モデルによるYHNH の比較

(Ship G,満載状態, Ship No. 19)

0 5 10 15 20 25

0.94 0.96 0.98 1.00 1.02 R2

Ship No.

: Cubic form : Quadratic form

0 5 10 15 20 25

0.94 0.96 0.98 1.00 1.02 R2

Ship No.

: Cubic form : Quadratic form

(a) Lateral force YH (b) Yawing moment NH 図6.3.6 2次モデルと3次モデルのR2の値の比較

 最後に,船型を表すパラメータによって操縦流体力微係数を整理した結果を図6.3.7,図6.3.8 に 示す。図中,■印はShip No. 5〜8に対する操縦流体力微係数,○印はその他の模型船・載荷状態に 対する操縦流体力微係数を表している。また,各図の横軸のパラメータは対応する操縦流体力微微係 数を多項式近似した場合にR2の値が最大となったものを選択して示している。なお,使用されてい る記号の定義は文献[4]に掲載している通りであり,紙面の都合上,ここでは説明を省略する。

 まず線形微係数について見ると,■印,○印に関係なく横軸のパラメータに対して一定の傾向を示 していることが分かる。一方,非線形微係数について見ると,線形微係数と比較してばらつきがやや 大きくなっている。特に,Ship No. 5〜8に対する操縦流体力微係数を示した■印は他の模型船・載 荷状態に対する操縦流体力微微係数を示した○印とは異なる傾向を示していることから,前述の通

0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 0.20

−0.60

−0.40

−0.20 0.00

Y’v

Cb B / L −0.400.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 0.20

−0.30

−0.20

−0.10 0.00

Y’r − m’ − m’x

Cb B / L

(a) Yv (b) Yrmmx

0.02 0.07 0.12 0.17

−8.00

−6.00

−4.00

−2.00 0.00 2.00

Y’vvv

d (1 − Cb) / B −3.000.05 0.10 0.15 0.20

−2.00

−1.00 0.00 1.00 2.00

Y’vvr

Cb B / L

(c) Yvvv (d) Yvvr

0.02 0.07 0.12 0.17

−1.60

−1.20

−0.80

−0.40 0.00

Y’vrr

d (1 Cb) / B 0.02 0.06 0.10 0.14 0.18

−0.20

−0.10 0.00 0.10

Y’rrr

σa d Cb / B

(e) Yvrr (f) Yrrr

図6.3.7 船型を表すパラメータによって3次モデルによる横力に関する操縦流体力微係数を整

理した結果

0.05 0.07 0.09 0.11 0.13 0.15

−0.20

−0.10 0.00

N’v

k −0.100.05 0.07 0.09 0.11 0.13 0.15

−0.05 0.00

N’r − x’G m’

k

(a) Nv (b) NrxGm

0.02 0.06 0.10 0.14 0.18

−1.20

−0.80

−0.40 0.00 0.40 0.80N’vvv

σa d Cb / B −1.000.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 0.20

−0.80

−0.60

−0.40

−0.20 0.00 0.20N’vvr

Cb B / L

(c) Nvvv (d) Nvvr

0.02 0.06 0.10 0.14 0.18

−0.25

−0.15

−0.05 0.05 0.15 0.25

N’vrr

σa d Cb / B −0.080.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 0.20

−0.06

−0.04

−0.02 0.00 0.02

N’rrr

Cb B / L

(e) Nvrr (f) Nrrr

り,斜航角βの計測範囲の狭さによる解析結果への影響が現れているものと考えられる。

6.3.5 おわりに

 九州大学において過去に過去に旋回腕試験と斜航試験を実施した12隻の模型船(計27載荷状態) の流体力の計測データを対象として,2次モデルと3次モデルを適用した解析を行い,採用モデルの 違いによる流体力の近似精度の差異や特徴について比較検討を行った。その結果,広範な運動状態に 対して流体力の計測が行われている場合には3次モデルの方が近似精度が良好であるが,計測範囲 が狭い場合には2次モデルの方が良好な近似結果を与える可能性があることを示した。従って,狭 い範囲のβやrに対して実施された旋回腕試験やCMTの計測データに対して3次モデルを適用し て解析を行う場合には,注意が必要であるものと考えられる。

参考文献

[1] 小瀬邦治,佐伯敏朗:操縦運動の新しい数学モデルについて,日本造船学会論文集,第146号 (1979),pp.229-236.

[2] 小川陽弘,長谷川和彦,芳村康男: MMG報告-V操縦運動数学モデルの実験的検証と改良,日 本造船学会誌,第616号(1980),pp.565-576.

[3] Clarke, D. : The Foundations of Steering and Manoeuvring, Proceedings of the 6th IFAC Conference on Manoeuvring and Control of Marine Craft (MCMC 2003) (2003), pp.2-16.

[4] 日本船舶海洋工学会 船舶操縦性予測モデルの標準化に関する研究委員会: P29船舶操縦性予測 モデルの標準化に関する研究委員会報告書(2012).

[5] 井上正祐,平野雅洋,向井一浩:操縦時船体に働く横力・モーメントの非線型項について,西 部造船会々報,第58号(1979),pp.153-160.

[6] Kijima, K., Katsuno, T., Nakiri, Y. and Furukawa, Y. : On the Manoeuvring Performance of a Ship with the Parameter of Loading Condition, Journal of the Society of Naval Architects of Japan, Vol.168 (1991), pp.141-148.

[7] Inoue, S., Hirano, M. and Kijima, K. : Hydrodynamic Derivatives on Ship Maneuvering, International Shipbuilding Progress, 28 (321) (1981), pp.112-125.