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Lpp2.0m~2.5mの比較的小型の模型を用いた回流水槽での実験[1]が行われている。その目的は抵抗軽減や

推進器との干渉影響に関わる推進性能の改善の他、操縦性能の調査とその改良にある。模型試験結果から船体 に関する微係数やプロペラ・舵の相互干渉の係数を求め、数値シミュレーションを実施して操縦性能を評価す る方法もあるが、斜航試験とPure Yaw試験のみから針路安定性を簡易に判別する方法もある。後者は試験や 解析に要する時間が比較的短いことから船舶の計画段階における操縦性能の確認に特に有効である。本節では 幾つかの船型を対象に実施された回流水槽での PMM 試験結果とそれを用いた針路安定性能判別結果を報告 する。厳密な意味でPMM(Planer Motion Mechanism)試験とは、PMM装置を用いて模型船に正弦関数状 の運動を与えるDynamic試験を指す。しかしここでは斜航角を設定するのにPMM装置を用いた斜航試験も 広い意味でのPMM試験として表現する。

7.2.1 実施された水槽試験

ここでは実施された試験について報告する。

1) 回流水槽

PMM試験に用いられた船型開発用回流水槽の主要目を次に示す。

型式 : 垂直循環式2インペラー型回流水槽 観測部寸法 : 長さ6.0m×幅2.0m×水深1.0m

最大流速 : 2.0m/s

2) PMM装置

同装置はLpp2.5m以下の模型船を対象としたものであり、次の特徴を持つ。

型式 : 2軸独立制御による簡易式大振幅PMM

運動設定範囲 : 最大Swaying振幅±0.9m、最大Yawing振幅±45deg 運動制御 : 2基のACサーボモータをパソコンで制御

3) 検力システム

模型船は 3 分力計とパンタグラフを介して PMM 装置に拘束されている。検力計の設定位置に応じて重心 ベースの検力を行う方法と Midship ベースの検力を行う方法とがあるが今回は後者の設定とした。船舶の針 路安定性については重心固定座標上の力の釣り合いで論じられるべきであるため解析において重心ベースの 運動方程式での微係数への変換を行った。

船体の検力 : X力200N、Y力200N、Z軸モーメント80Nm

運動拘束 : Surge、Sway、Yaw、Heelを拘束、Heave、Pitch自由 その他の検力 : 舵直圧力FN、スラストT

ここでは舵は船体の一部とみなされており、計測された舵直圧力は解析には使われていない。

4) 供試模型船

PMM 試験に供された模型船は Table 1 に示した 3 隻である。KVLCC2-87 船型は良く知られた肥大船型

KVLCC-2を基本とし、より肥大度が高い船型としてCbが0.87に設定されたものである。船首、船尾のプロ

フィルと舵は KVLCC-2と同一である。SR221-A 船型は針路安定性が比較的良くないことが知られている。

[2]

Table 1 Principal Particulars

Model KVLCC2 KVLCC2-87 SR221-A

Lpp 2.000m 2.000m 2.000m

B 0.3625m 0.3625m 0.3625m

d 0.1300m 0.1300m 0.1206m

xG’ 0.0350 0.0245 0.0247

Cb 0.81 0.87 0.81

7.2.2 PMM試験の解析

回流水槽におけるPMM試験の解析方法については平成22年から24年に行われた船舶操縦運動の予測モ デル標準化研究委員会の報告書に詳しいのでここでは割愛する。非線形微係数としては3次の項を用いる解析 を行った。船舶の針路安定性の評価は重心固定座標上での斜航流体力と旋回流体力の関係から行われるべきで あることから Midship ベースの検力システムでの試験で得られた微係数を重心ベースのものに変換する必要 がある。[3] 変換に用いられた式を以下に示す。添え字Gの有無で微係数が重心ベースのものとMidship ベ ースのものとを区別している。x'GはMidshipから見た重心の前後方向の位置の無次元値である。

v Gv

Y Y ' = '

G v v

Gr

Y Y x

Y ' = ' − ' '

G v v

Gv

N Y x

N ' = ' − ' '

G r Gv v

Gv

N N Y x

N ' = ' − ( ' + ' ) '

斜航流体力と旋回流体力の線形微係数を用い、針路安定性指数Cは次のように定義される。

Gv x Gv

Gr

Gv

N Y m m N

Y

C = ' ' − ( ' − ' − ' ) '

Pure Yawing試験の解析において線形微係数Y'rは前後方向の付加質量係数の項-mx'を伴って得られるため、

特別にm'xの値を求める必要は無い。

7.2.3 試験結果

Table 2,Fig.1に3船型についての横力とそのモーメント成分に関わる重心周りの線形微係数と針路安定性

指数を示す。

1)

2)

Table 2 The Course Stability Criterion

Model KVLCC2

Cb=0.81

KVLCC2 Cb=0.87

SR221-A Cb=0.81

Condition H+P+R

m’ 0.2940 0.3160 0.2917

xG’ 0.0354 0.0245 0.0247

YGv’ -0.3773 -0.3460 -0.3156 NGv’ -0.0991 -0.0865 -0.0993 YGr’- mx' 0.0757 0.0458 0.0401 NGr’ -0.0492 -0.0486 -0.0442

C -0.0031 -0.0065 -0.0111

Fig.1 Course stability criterion

KVLCC2は3船型の中で最も針路安定性は良いと判定された。絶対値は小さいが負の極性が示されており、

判別としては若干の不安定である。KVLCC2-87の針路安定指数はKVLCC2より負に大きく、肥大度が増し た影響が表れている。更に針路安定性が良くないと評価されたのはSR221-A船型である。同船型はV型船尾 フレームラインを有するものであり、Lpp3.5m模型船で実施された自由航走のスパイラル試験では約10°の 不安定ループ幅を持ったことが報告[2]されている。

PMM試験はプロペラ・舵付きの模型船で行われた。同時に実施された舵角試験で得られた船体と舵の干渉

係数aH,x’Hを用い、KVLCC2に関して舵の影響を差し引いて船体のみに作用する微係数を求めた。同船型に

ついてのCMT結果との比較をTable 3に示す。CMT結果[4]の斜航流体力の微係数はβ表記が採られていた が比較のため、v表記に換算されている。ここに示すのは全てMidshipベースで求められた微係数である。

KVLCC2 KVLCC2-87 SR221-A

Table 1 Comparision of Derivatives PMM in CWC

(FEL)

CMT (NMRI)

Lpp 2.0000m 2.9091m

Yv’ -0.3161 -0.3109 Yvvv’ -1.2294 -1.5883 Nv’ -0.1328 -0.1375 Nvvv’ 0.0145 -0.0294 Yr’-mx 0.0535 0.0587

Yrrr’ 0.0084 0.0083 Nr’ -0.0492 -0.0476 Nrrr’ -0.0350 -0.0136

Table1に示された微係数を用い、次式で求めた斜航流体力、旋回流体力とそれらのモーメント成分をFig.2

に比較する。

横運動が大きくなり、流体力に含まれる非線形性分の影響が比較的大きくなる領域についてはCMT結果と 回流水槽でのPMM試験結果には若干の差が認められるが斜航流体力、旋回流体力とそれらのモーメント成分 について概ね良い一致が示されている。

3 )

( ' ' ' '

' Y v Y v

Y v = v + vvv

3 )

( ' ' ' '

' N v N v

N v = v + vvv

3 )

( ( ' ' ') ' ' '

' Y m m r Y r

Y r = r− − x + rrr

3 )

( ' ' ' '

' N r N r

N r = r + rrr

3)

Fig.2 Comparison between the results of CMT and PMM Test

参考文献

[1] 川島敏彦、橋詰泰久 :“回流水槽の現状と課題”、日本船舶海洋工学会推進性能研究会シ ンポジウムテキスト、平成22年12月

[2] 社団法人日本造船研究協会 :操縦運動時の船体周囲流場に関する研究成果報告書(第221 研究部会)、平成8年3月

[3] 安川宏紀:ミッドシップと重心ベースの微係数の変換、日本船舶海洋工学会、船舶操縦運 動予測モデル標準化研究委員会資料、平成25年10月

[4] 芳村康男:操縦流体力データベース、日本船舶海洋工学会、船舶操縦運動予測モデル標準 化研究委員会資料、平成24年2月

シリーズ肥型船の操縦運動

はじめに

近年,海上輸送効率向上のため船の肥大化が進んでおり,今では方形係数 を越える 船も珍しくない。しかし,船の肥大化が進むと針路安定性が損なわれることがよく知られており,

その結果航行安全性に支障が生じることが懸念される。しかしながら,どの程度までの肥大度であ れば安全上許容できるのか,それについて明確な指針はない。また,公表された結果´½ µを見る限 り, がを越えるような船の操縦性能の調査を行った例は無いようであり,基礎となるデー タが不足しているように思われる。

本研究では, である と呼ばれるタンカー船型 ´¾ µをベースに, を

と系統的に変化させた隻の船型を独自に設計し,合計隻の模型船を製作した。この模型 船を用いて,操縦性能を把握するための自由航走模型試験を実施し,船の操縦運動に及ぼす の 違いを把握する。

座標系

に,使用した座標系を示す。船に固定された座標系 と空間に固定された座標系

¼

¼

¼

¼を考える。原点は船のミドシップ位置にとり,船の前方に軸,船体横方向に軸,

鉛直下向きに軸をとる。¼軸に対し軸の成す角度を方位角としと表す。また,舵角をÆ,ミ ドシップ位置での斜航角を,回頭角速度を ,前進速度成分を,ミドシップ位置での横方向速 度成分を,船速を とする。

o U

u x x

y y

-vm β

ψ δ

r

0

o0 0

対象船

本研究では,方形係数を系統的に変化させた隻を対象とする。 !"に模型船の主要目を示 す。表中,#$!は, の船型であり, と呼ばれる船´¾ µのことである。

に,水槽試験に使用した#$! の模型船の写真を示す。これに対して,主要目と船 首尾部のプロフィルは同一とし, を と系統的に変化させたのが,#$! #$!で ある。この隻はシリーズ船となっており, による操縦性能の違いが明確に把握できる。なお,

元となる は,船長船型である。隻のボディプランを示す。試 験は,満載状態 %""と記載とバラスト状態 &""と記載状態で行った。なお,本船のバ ラスト状態は,独自に設定したものである。

#$!"

!" '()")(%"* +)"

#$! #$! #$!

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¿

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¿

- ,

自由航走模型試験の概要

隻の模型船を用いて,三菱重工業長崎研究所耐航性能水槽 長さ-,幅,深さ にて,自由航走模型試験を実施した。具体的には,舵角の旋回試験と/な らびに/0$0試験を行った。アプローチ船速¼は,%""-/ 実船1相当

&""/ 実船で-1相当とした。操舵速度は,実船で-/相当,ヨー慣動 半径はとした。プロペラ回転数は一定として,トルクリッチは考慮しない。

に自由航走模型試験の概要図を示す。曳引車からのリモート・コントロールにより,プロ

Propeller dynamometer Motor Rudder model

Propeller model Rudder dynamometer

Directional jyro Target Amp.

PC

Towing carriage

Camera

Ship model

2 (+( * *$%"

た位置情報をもとに,船速や船体斜航角を計算する。さらに,舵角,回頭角速度,方位,舵直圧 力,プロペラ推力を計測した。