第 5 章 金 / シリコンナノアンテナを用いた赤外光シリコン光検出器のカットオフ波長の長
5.2 提案した赤外光検出器における、逆方向バイアス印加時の障壁評価
5.2.1 温度特性取得による、逆バイアス印加時のショットキー障壁評価方法
第3章、及び第4章にて、ショットキー障壁φbを取得する際、Chuengの方法[54]を用いた。
この方法は、順方向電流において障壁を求めるので、逆バイアス印加時の障壁を求めることが できない。そこで、温度特性取得による障壁評価を試みた[60]。
ショットキー障壁φbは、逆方向電流IRを用いて、式5.1に表現される。
−𝑞𝜑𝑏
𝑘𝑇 = 𝑙n( 𝐼𝑅
𝑆𝑒𝑓𝑓𝐴∗∗𝑇2) (5.1)
ここで、Seff :ダイオードの実効面積(= 1.0×10-4cm2)、A** :実効リチャードソン定数(=120 A/cm2/K2)である。したがって、横軸に q/kT、縦軸に ln(IR/(SeffA**T2)をプロット(リチャードソ ンプロット)すると、式5.1の関係により、その傾きに-1を積算したものが、ある逆バイアス を印加したときのショットキー障壁φbとなる。このためには、温度を変えた電流電圧特性デー タを得る必要がある。そこで、デバイスの温度特性を取得した。温度特性の評価系について図 5.1に示す。評価するデバイスを温度コントロールステージ(mk1000, Instec, USA)内に設置し、
デバイス温度を制御する。また、実際のデバイス温度については、温度計(ミニサーモメータ、
Shenzhen DJX Electronic & Technology, China)をデバイスに設置し、実際の温度を計測した。温 度ステップについては、温度コントローラの表示温度にて、20℃から10℃ステップで8点取得 した。各々の温度について、電流・電圧特性(I-V 特性)を取得し、その逆方向電流 IRを電圧 毎に求め、それを用いて、リチャードソンプロットを行うことにより、ショットキー障壁を算 出した。また、電流の取り出しには、マニュアルプローバを用い、更に、評価したサンプルは、
ナノアンテナの径ϕ = 375 nmのデバイスと、ϕ = 500nmのデバイスにて、評価を行った。
Fig.5.1 シリコンナノアンテナ構造体を用いたプラズモン共鳴型シリコン赤外光検出器の における温度特性評価系
(a) 評価系の全体像
(b) 温度コントロールステージ内のデバイスの配置および電極の取り出し方法
5.2.2 温度特性取得による、逆バイアス印加時のショットキー障壁取得
I-V特性の温度依存性例について、ナノアンテナの径ϕ = 375 nmのデバイスの結果を図5.2 aに示す。この結果から、温度が高くなるにつれ、逆方向電流が大きくなることを確認できた。
また、それを用いて、バイアス電圧Vbが-0.05V及び、-6 Vのときのリチャードソンプロットの 例について、図5.2 b及び図5.2 cに示す。図5.2 bが、バイアス電圧Vbが-0.05Vの結果であり、
図5.2 cが、バイアス電圧Vbが-6Vのデバイスの結果である。この結果から、Vb = −0.05Vの際
には、ショットキー障壁が0.54eV と、Crとn 型シリコンの障壁よりもやや低いものの、ほぼ 同程度の値であった。また、Vb=-6Vでは、ショットキー障壁が0.36eVとなった。
Fig.5.2 温度特性の結果の例:ナノアンテナの径ϕ = 500 nmのデバイスにおける、電流・
電圧特性の温度依存性及び、リチャードソンプロット
(a) 電流・電圧特性の温度依存性
(b) バイアス電圧Vb=-0.04Vのときの、リチャードソンプロット (c) バイアス電圧Vb=-0.5Vのときの、リチャードソンプロット (d)
これらの方法を用いて、図5.3 にバイアス電圧Vbとショットキー障壁との関係をプロットし た。ナノアンテナの径ϕ = 500 nmのデバイスについて、図5.3 a, ナノアンテナの径ϕ = 375 nm のデバイスについて、図5.3 bに示す。各々のデバイスにおいて、サンプル数=2でデータ取得 を行った。まず、ナノアンテナの径ϕ = 500 nmのデバイスについてだが、図5.3 bを見ると、2 サンプルとも、同様の傾向を示し、マイナスのバイアス電圧の印加により、ショットキー障壁 は急峻に減少する傾向がわかった。Vb=-1 V 程度でショットキー障壁高さの減少は飽和し、
Vb=-6Vで0.3 eV程度まで減少していた。これは、初期状態の障壁高さの約1/2である。ショッ
トキー障壁φb =0.32 eVに対応するカットオフ波長は、3.83 µmなので、中赤外光を十分に検出 できるレベルに到達できていることが判明した。次に、ナノアンテナの径ϕ = 375 nmのデバイ スについてだが、障壁低下の傾向としては、ナノアンテナの径ϕ = 500 nmのデバイスと同様の 傾向を示し、マイナスのバイアス電圧の印加により、ショットキー障壁は急峻に減少する傾向 がわかった。図5.3 aに見られるように、Vb=-6Vで0.37 eV程度まで減少した。ショットキー障
壁φb =0.37 eVに対応するカットオフ波長は、3.35 µmであり、ナノアンテナの径ϕ = 500 nmの
デバイスよりもカットオフ波長が短いものの、中赤外光を検知できるレベルにあることが分か った。従って、提案した光検出器において、逆方向バイアス印加時に障壁が低減できることが
Fig.5.3 シリコンナノアンテナ構造体を用いたプラズモン共鳴型シリコン赤外光検出器に
おける、ショットキー障壁のバイアス電圧依存性 (サンプル数=2) (a) ナノアンテナの径ϕ = 500 nmのデバイスについての結果
(b) ナノアンテナの径ϕ = 375 nmのデバイスについての結果
分かり、検知波長を、波長3μm程度の中赤外領域に伸ばせる可能性があることが分かった。た だし、ナノアンテナの光吸収が中赤外領域に存在しなければ、赤外光を吸収しないため、中赤 外領域に於ける光検知ができない可能性がある。そこで、次項にて、ナノアンテナの中赤外領 域における光吸収特性を取得し、検証を行った。