第 4 章 方位情報認識の精度とそれに要する時間 を調べる被験者実験
4.1 振動角度範囲と回答精度・回答時間の関係を調べる実 験 ( 実験 I)験(実験I)
4.1.1 実験の目的
本実験では、振動角度範囲(∆xの値)を変更した各条件で被験者実験を行うことに より、ユーザに方位情報を精度良く、かつ短時間で認識させることのできる振動角度 範囲の条件を探ることを目的とする。
4.1.2 実験の方法
以下、本実験を行う方法について述べる。
実験条件 本実験では、∆xの値を、π/8[rad](22.5◦)、π/12[rad](15◦)、π/16[rad](11.25◦)、
π/32[rad](5.625◦)、π/64[rad](2.8125◦)とした5条件を用いて行う。この条件は、振動 角度範囲をそれぞれ2π[rad](360◦)を8分割、12分割、16分割、32分割、64分割する 値となるように設定している。また、特にπ/8[rad](22.5◦)の条件においては、振動角 度範囲の外側という概念が無く、常にいずれかのモータが振動していることになる。
実験環境 まず、3.4節に述べたシステムに関して、上記の5条件における方位情報提 示が実現できるように5種類のプログラムを用意した。
次に、実験室の環境について、図4.1に実験環境の見取り図を、図4.2に実験環境の 概要を示す。被験者は、四方を机で囲まれた場所に入り起立姿勢をとる。机には回答 用紙が被験者の正面、左45◦、右45◦の位置に固定されて配置されている。回答用紙を 3個所に配置したのは、被験者が頭部を回転させた状況のままでも回答用紙に記入し やすくするためである。また、被験者の左側に実験者Aがおり、ホストPCを操作す る。被験者の正面やや奥にはプロジェクタが配置され、その横に実験者Bが配置され る。被験者の正面方向、被験者から約2mの位置にスクリーンが存在する。スクリーン の中央には縦方向にカラーテープが貼られている。さらに、実験室の天井にはビデオ カメラが配置され、被験者の頭頂部の映像を撮影し、その映像がプロジェクタを介し てスクリーンに映し出される。
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図 4.1: 実験環境の見取り図
実験手順 まず、実験の開始前に、実験者により、被験者の頭部にπ/4[rad](45◦)間隔 に、振動モータを直接皮膚に装着する。この際、頭頂部に分度器を当て、正確にそれ ぞれの角度の位置にモータが配置されるようにする。振動モータはゴムバンドで固定 される。また、頭頂部にジャイロセンサと、軽い色付きの棒を0◦-180◦の軸に併せて装
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図 4.2: 実験環境の概要図
着する。装置が装着された様子を図4.3に示す。
次に、実験の1タスク毎の流れを以下に示す。
(1) まず、被験者はスクリーンを見ながら、スクリーン上に貼られたカラーテープと、
天井から撮影された自身の頭部の映像上の棒の位置を重ねる。これは被験者がタ スク開始時に常に正面方向を向いているようにするための作業である。
(2) 位置が合えば被験者は実験者に「はい」と合図する。
(3) 合図とともに実験者Aはプログラムを起動させ、実験者Bはプロジェクタのレ ンズを遮断する(被験者がスクリーンの映像を見て角度を推測することを避ける ため)。
(4) プログラムを起動させると、実験開始の合図として全てのモータが2回ずつ振動 する(振動のONtimeが400ms、OFFtimeが600msの振動パターンを2回繰り返 す)。この際は被験者は頭部を動かさない。
(5) その後、方位情報の提示が開始される。この時刻が被験者の回答開始時刻となる。
(6) 被験者は頭部を回転させて振動する方位を探索し、振動角度範囲の中央を探索・
確認する。
(7) 被験者は振動角度範囲の中央値が分かったと判断した時点で「はい」と合図する。
(8) 実験者Aは合図とともにプログラムを停止させる。この時刻が回答終了時刻と なる。
(9) 被験者は合図をした後、回答用紙に矢印で自身が振動角度範囲の中央値と認識し た方位を記入する。回答用紙の記入例は図4.4に示す。
以上がタスク1回毎の流れであり、この一連の流れを1回辿ることを1試行とする。
システムを起動させてからシステムを停止させ、タスクを終えるまでの流れを図4.5に 示す。
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図 4.3: 装置装着の様子
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図 4.4: 回答用紙の記入例
続いて、実験全体の進め方について、図4.6に実験の全体の流れを示す。
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図 4.5: タスク遂行手順
まず始めに、被験者は実験説明書(付録A参照)を熟読し、実験者からの説明を受け る。この説明の際、被験者にはできるだけ正確に方位情報を認識し、かつ素早く各タ スクを完了するように要請する。また、説明の際には図3.6に相当する図を用いた。
その後、各条件について練習を行う。練習内容は、まずそれぞれの条件について実 験者が正面方位を提示し、被験者は頭部を回転させ振動角度範囲の確認を行う。続い て、±π/8[rad]、±π/12[rad]、±π/16[rad]、±π/32[rad]、±π/64[rad]の順に各5試行ず つ本番のタスクと同様に先述した流れでタスクを行う。この際は1試行終了毎に実験 者は提示した角度を被験者に報告する。また、5回づつの練習で被験者が不十分と感じ た場合は、申告により3回づつ練習を追加する。
練習が終わった後、本試行を行う。±π/8[rad]、±π/12[rad]、±π/16[rad]、±π/32[rad]、
±π/64[rad]の順に5回ずつ行うことを1セットとし、これを休憩を挟み4セット行う。
試行回数は各条件において20試行ずつ、全体で計100試行である。練習の時と違い、
本試行では被験者に提示角度を伝えない。また、実験終了後にアンケート調査を行う。
実験の1人あたりの所要時間は2時間程度であった。
なお、被験者に提示する角度は0◦〜360◦の整数値であり、全方位を満遍なく、かつ ランダムな順番で提示できるようにした。
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図 4.6: 最適な振動角度範囲を調べる実験の全体の流れ
被験者 被験者は20代の頭部に皮膚疾患のない健康な男子大学生及び大学院生8名で ある。事前に実験の趣旨、内容について十分に説明し、被験者から実験参加の同意を 得た。また、被験者には相応の謝金を支払った。被験者の属性を表4.1に示す。
表 4.1: 実験Iの被験者の属性 被験者名 性別 年齢 被験者A 男性 25 被験者B 男性 21 被験者C 男性 23 被験者D 男性 23 被験者E 男性 25 被験者F 男性 23 被験者G 男性 24 被験者H 男性 25
計測項目 本実験において計測する項目は以下の3つである。
• 被験者の回答結果(回答用紙、回答時間)
• ジャイロセンサの出力履歴
• アンケート調査による主観評価
この内、ジャイロセンサの出力履歴とアンケート調査に関しては被験者8名の内6名
(被験者C、D、E、F、G、H)に関して計測した。またアンケートの質問項目は表4.2
に示す。このアンケート項目は、主として被験者がどの程度の精度の方位情報を得ら れていると感じているか、また提案した方位情報提示方式を用いて方位情報の取得が 円滑に進められると感じているかを調べる目的で作成している。
4.1.3 実験の結果
実験の結果として、各被験者の回答角度誤差の標準偏差を表したものを表4.3に、各 被験者の平均回答時間を表したものを表4.4に示す。ここで、回答角度誤差の標準偏差 とは、各条件において提示した角度と被験者が回答した角度とのずれの標準偏差のこ
表 4.2: アンケート項目 番号 内容
Q1 それぞれの条件で、どの程度自信を持って回答できましたか?
(1)±5◦以内の誤差であるものが多いと思う (2)±10◦以内の誤差であるものが多いと思う (3)±15◦以内の誤差であるものが多いと思う (4)±20◦以内の誤差であるものが多いと思う (5)±20◦以上の誤差であるものが多いと思う
Q2 どの振動角度範囲のものが一番回答しやすかったですか?
Q3 実験全体を通じて、試行回数が増えるにつれ、提示された 方向が分かりやすくなることはありましたか?
Q4 実験全体を通じて、提示された方向は直感的に分かりましたか?
(1:全然分からない→3:どちらともいえない→5:良く分かった)
Q5 実験全体を通じて、どのモータの振動が分かりやすかったですか?
(複数回答可)
(1)前(2)右前(3)右(4)右後(5)後(6)左後(7)左(8)左前(9)どれも同じ Q6 実験全体を通じて、どのモータの振動が分かりにくかったですか?
(複数回答可)
(1)前(2)右前(3)右(4)右後(5)後(6)左後(7)左(8)左前(9)どれも同じ Q7 使用中に不快感を感じましたか?それはどのような不快感ですか?
Q8 このデバイスを用いたナビゲーションシステムがあれば使いたい
ですか?どのような状況で使いたいか、理由とともにお答えください。
Q9 今回の実験の感想をご自由にお書きください。
とであり、この値が小さいほど回答のばらつきが小さく、精度良く方位情報を認識で きていることになる。
表 4.3: 実験Iの被験者毎の回答角度誤差の標準偏差(単位:◦) 被験者名/実験条件 ±π/8 ±π/12 ±π/16 ±π/32 ±π/64
被験者A 10.0 6.5 6.4 5.8 6.4 被験者B 12.7 11.1 9.1 8.2 8.7 被験者C 17.9 15.6 16.5 9.2 15.4 被験者D 16.3 17.5 10.9 12.1 4.7 被験者E 18.0 19.1 14.1 10.5 14.1 被験者F 19.4 21.6 17.4 9.4 16.5 被験者G 10.8 7.3 7.6 6.9 6.1 被験者H 17.0 14.1 14.2 11.9 10.8
全体 16.4 15.6 13.4 9.9 11.5 被験者Eを除く全体 16.1 14.9 13.3 9.8 11.6
表4.4において、被験者Eは他者と比べて著しく回答に時間を要してることが分か る。また、被験者Eは全ての条件において、回答時間の標準偏差が他のどの被験者の データよりも大きくなっており、回答時間のばらつきも極めて大きいことが分かる。こ れより、以下の統計量は被験者Eを除いた7名のものとする。
被験者Eを除いた7名の、各条件における回答角度誤差の標準偏差と平均回答時間 を示したものを図4.7に、また各条件での回答角度誤差を5◦刻みのヒストグラムで表 したものを図4.8に示す。
結果として、回答角度誤差の標準偏差、平均回答時間とも±π/32[rad]条件において 最も小さい値となった。回答角度誤差の標準偏差に関しては、±π/32[rad]条件が他の 全ての条件に対して有意差があり(F検定、±π/64[rad]条件に対してp<0.05、その他 の条件に対してp<0.001)、回答時間に関しては±π/32[rad]条件は±π/8[rad]条件に対 して有意差があった(t検定、p<0.001)。
また、各被験者に行ったアンケート調査に関して、Q1〜Q6の結果を表4.5に示す。
Q7〜Q9の結果については付録Bに示す。
まず、Q1に対し、全ての被験者が振動角度範囲が小さくなるほど回答しやすかった とした。また、Q2に対し、最も回答しやすかった条件は±π/64[rad]とするものが多