第 5 章 提案した方位情報提示手法に関する考察
5.1 ユーザ行動フロー仮説の検証
3.5節で述べたユーザの行動フロー仮説は、被験者のタスク遂行時の行動を全て網羅 するものであり、4章の実験結果は全てこのモデルのいずれかの経路を通るものであっ た。4章の実験結果から、このうち代表的な経路について考える。
4.2節では制限時間を設けた実験を行ったが、できるだけ短時間で方位情報を取得す るためには、頭部を回転する角度の総計を少なくする必要がある。すなわち、3.5節の モデル仮説の内、隣接するモータが振動する位置まで頭部を回転させることは時間の ロスにつながり、ユーザにとって理想的な情報取得方法とは言えない。また、最初に 振動する角度を確認するまでに頭部回転の向きを変えることなど、振動角度範囲の外 で頭部回転の向きを頻繁に変えることも時間のロスにつながる。これらを踏まえると、
短時間で方位情報を取得するためには図5.1に示すような行動が望ましいといえ、実 際に制限時間の少ない条件では多くの例がこの行動フローのようになった。この行動 フローでは、まず最初に回転を始めた向きを保って頭部を回転させ、振動する位置に 到達して方位情報を取得すると、その後は振動角度範囲の左右どちらかの端に向けて 頭部を回転させ、振動を感知しない位置に到達すればそこで方位情報を得、直ちに元 の振動角度範囲の方向へ頭部を戻すという行動をループする構成になっている。なお、
この図では頭部の向きを表す変数などを省略している。
また、4.2節でも述べた、回答開始時刻から被験者が1◦以上動き出すまでにかかった
時間(初動時間)について、回答開始時刻までに動き出すことの多かった被験者F、I、
Jと、他者より著しく値の小さかった被験者Bを除く4名のデータを表5.1に示す。こ のデータは、被験者C、D、E、Gにも一部見られた、回答開始時刻までに動き出した ものを省いたデータとなっている。さらに、初期状態でいずれかのモータが振動する タスクの場合の初動時間の平均値を併記している。
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図 5.1: 短時間で方位情報を取得するために適したユーザ行動フロー例
ここで、4.2節の結果より、時間に余裕のある場合と変わらない精度でもって方位情 報を認識できると分かった、4秒で方位情報を取得する場合を考える。表5.1より、こ の条件での初動時間は平均0.52秒である。残りの情報取得に割ける時間は約3.5秒で ある。一方、4章の表4.9より、この条件でのNcrossの値の平均は5程度である。初期 状態でどのモータも振動しなかった場合は、「最初に振動角度範囲を探索するモード」
においてNcrossが1加算され、「振動角度範囲の中から外へ出るモード」と「振動角度
範囲の外から中へ入るモード」のループを2回行った時点でNcrossの値は5となる。す なわち、3.5秒でこのような行動フローを辿ることが、短時間で精度良く方位情報を認 識するための1つのパターンであると言える。
さらに、初期状態でいずれかのモータが振動する場合の初動時間については、全体 の平均に対して、各条件で0.15〜0.45秒程度大きくなった。この時間差は、人間が振 動触覚刺激を感知してから方位情報を取得するまでにかかる時間を示唆していると言 える。
表 5.1: 被験者毎の初動時間の平均(単位:秒)
被験者名/実験条件 無制限 10秒 8秒 6秒 4秒 3秒 2秒 被験者C 0.96 0.91 1.04 0.86 0.86 0.74 0.57 被験者D 0.73 0.88 0.80 0.66 0.70 0.61 0.58 被験者E 0.48 0.60 0.56 0.57 0.59 0.38 0.41 被験者G 0.52 0.63 0.45 0.43 0.48 0.30 0.31 平均 0.67 0.75 0.72 0.63 0.66 0.52 0.46 初期状態で振動
1.03 1.18 1.24 0.97 1.09 0.69 0.63 する場合の平均
本研究で提案した情報提示方式とそれに伴うユーザ行動フローのモデル化により、振 動触覚刺激を用いて精度良く方位情報を認識するために必要な認知活動の要素を分析 できた。これにより、今後種々のアプリケーションを構築する際に参照できる指標を 提供できた。例えば、本研究においては方位情報の認識精度を重視したが、それより も情報を短時間で取得することを重視したアプリケーションを構築したい場合におい て、本モデルを用いることで、多くの時間を要する要素を抽出でき、その環境に適し たアルゴリズムの構築につなげることができる。
なお本研究では、提案した行動フローにおいて、各ブロックに示した認知活動のそ
れぞれに要する時間を詳細に推定することはできなかった。それぞれの認知活動に要 する時間を推定できれば、さらに有益で定量的な指標を提供できると考えられるため、
この推定方法を検討することが今後の課題として挙げられる。