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抗菌薬の適正使用

ドキュメント内 第90回日本感染症学会学術講演会抄録(I) (ページ 50-55)

東京慈恵会医科大学葛飾医療センター泌尿器科1), 亀田総合病院感染症科2)

清田 浩1)細川 直登2)

われわれは既に抗菌薬の乱用により MRSA をはじめと する薬剤耐性菌の蔓延を経験してきた.その反省に立ち,

抗菌薬の使用は必要最小限にとどめるという基本的な考え 方,すなわち「抗菌薬の適正使用」という概念が生まれた.

この「抗菌薬の適正使用」という概念に基づき,薬剤耐性 菌の蔓延予防を目的に欧米では様々なガイドラインが作成 されてきた.わが国のガイドラインも欧米のガイドライン を参考に作成されている.しかし,皮肉なことにガイドラ イン先進国である欧米ではすでに様々な薬剤耐性菌の蔓延 を招いている.この現状をどのように理解し,今後わが国 でどのような対策を打つべきかを本シンポジウムでは考え ていきたい.

大曲貴夫先生には欧米とわが国のガイドラインの比較を

お願いし,欧米での遵守状況などもご紹介いただく.堀野 哲也先生には「抗菌薬の適正使用」も含めたわが国の加算 1・2 に基づく医療機関相互ネットワークの問題点と改善 点を,そして,石井良和先生には基礎のお立場から薬剤耐 性菌の蔓延予防に向けた薬剤耐性菌のモニター体制につい て考察していただく.さらに,追加発言として,髙橋聡先 生には「抗菌薬の適正使用」をどのように評価すべきか,

について述べていただく予定である.

1.薬剤耐性菌マネージメントの実際―欧米とわが国と の比較―

国立研究開発法人国立国際医療研究センター国際 感染症センター

大曲 貴夫 米国では CDC によるガイドラインの作成とそれへの遵 守を求めて対策を行ってきた.近年は医療関連感染症対策 が医療費抑制策として重視され,各医療機関の医療関連感 染症の指標が公的機関に報告を求められ,また一部の指標 が基準値を満たさない場合には医療機関に対して公的保険 からの償還が行われないなどの対策が行われている.また 昨年にはオバマ大統領より抗菌薬耐性菌対策のアクション プランが出され,耐性菌対策が更に進められていく予定で ある.

欧州は多くの国々で構成されており,その医療関連感染 症対策も極めて様々であり,耐性菌のコントロールの達成 状況にも幅がある.近年では欧州連合の規定に基づいて設 け ら れ て い る European Centre for Disease Prevention and Control(ECDC)が,耐 性 菌・医 療 関 連 感 染 症・抗 菌薬使用量などのベンチマーキングを行っており,各国の 指標は ECDC から公開されている.耐性菌対策としての 抗菌薬適正使用についてはその歴史は米国よりも古く,世 界の動向をリードしている.

日本における医療関連感染症対策は,厚生労働省の示す 指針を中心に医療機関内での組織構成と院内感染対策の要 素が示され,この遵守状況を行 政 機 関 に よ る 監 査 に て チェックしている.日本環境感染学会や当学会によって作 成された指針が医療現場では用いられており,抗菌薬適正 使用については日本化学療法学会による医師及び薬剤師を 中心とした教育および資格認定の仕組みが作られている.

米国・欧州・日本の感染防止対策の構造上の比較として は前記のようであるが,その結果の直接比較は難しい.第 一には国の感染防止対策の状況の代表値を出すためのサー ベイランスがどの国・領域でも行われているわけではない からである.これは極めて大きな事業であり,公的事業に せざるを得ない.例としては医療関連感染症のサーベイラ ン ス で あ る 米 国 の National Healthcare Safety Network

(NHSN)や 日 本 の Japan Nosocomial Infections Surveil-lance(JANIS)があるが,他の国々に同様の仕組みがな いために比較が難しい場合がある.その場合小規模のサー ベイランスの結果を比較するしかないが,地域・対象が限 定され方法も異なっているために限界がある.第二には耐

性菌の問題は局在化しており国毎に異なる.例えばカルバ ペネム耐性腸内細菌(CRE)の問題も,欧米と日本では 問題となっているカルバペネマーゼが異なる.また厳密に は耐性菌ではないが,欧米で問題となっているClostridium difficile 感染症は日本の場合には国としての疾患負荷を示 す指標がないため,実体がわかりにくい.限られたデータ に基づいて判断すれば,欧米における耐性菌の問題は日本 より大きいように感じられるが,問題を国内で正確に把握 し,相互比較に用いて日本の対策を諸外国で広く理解して もらうためにも,適切な指標の採用が必要である.

現状では日・米・欧における感染防止対策の手法は,相 互の交流の影響も有り極めて似通っており大きな差は無 い.一方で CRE に対する感染対策のように,世界的にも 対応策に共通したものがなく議論の最中にあるものもあ る.日本の感染防止対策の将来を考えた場合に必要となる のは,感染対策において汎用性の高い評価指標を設定し質 改善の仕組みを作ることである.第二には,医療の問題は 個々の国や地域の文脈に極めて強く依存しているものであ り,その問題を国内で十分に調査研究して解決し,成果を 学術的に世界に問うていくことである.個人的にも海外の 実践者・研究者から大いに期待されていることを強く感じ ている.成果を理解されるには世界的にも通用する評価指 標を用いて表現を行うべきである.日本での文脈という特 殊性を捨象しても通用する知見であれば世界的にも採用さ れるであろう.日本での耐性菌対策が実をむすべば,日本 に住む人々の健康に対して必ずや貢献できるはずである.

ひいてはその知見が海外諸国の対策に活かされれば,日本 としての国際社会への貢献にもつながるものである.

2.医療機関相互ネットワークにおける課題 東京慈恵会医科大学感染制御部

堀野 哲也 地域連携による感染対策の整備と強化のため,平成 16 年度に院内感染対策地域支援ネットワークがモデル事業と して実施され,平成 23 年 6 月 17 日の「医療機関等におけ る院内感染対策について」(医政指発 0617 第 1 号)には,

「緊急時に地域の医療機関同士が連携し,各医療機関のア ウトブレイクに対して支援がなされるよう,医療機関相互 のネットワークを構築し,日常的な相互の協力関係を築く こと」という文言が記載され,地域単位での感染対策がよ り注目された.さらに,この連携を後押しするように,平 成 24 年 4 月の診療報酬改定により感染防止対策加算が新 設されている.

感染防止対策加算はその施設基準によって感染防止対策 加算 1 と 2 に分類され,日常的な相互の協力関係を築くた めに,感染防止対策加算 1 の届出医療機関と感染防止対策 加算 2 の届出医療機関は少なくとも年 4 回程度の合同カン ファレンスを実施することが義務づけられている.合同カ ンファレンスでは,各医療機関における薬剤耐性菌等の検 出状況,感染症患者の発生状況,院内感染対策の実施状況,

抗菌薬の使用状況等の情報を共有し意見を交換することに

よって,自施設だけでは気付かれなかった改善すべき点を 抽出し,さらに適切な改善方法を提案することが目的のひ とつである.感染対策を実施するためには,設備,防護具,

さらに人的資源が必要であるが,感染対策に必要な,ある いは,割り当てることのできる費用や人数は施設ごとに異 なり,早急に改善しなければならない点や最重要課題も施 設によって大きく異なる.こういった施設間の違いを無視 して,単にガイドラインを踏襲した指摘や提案では何も改 善することはできない.そして,普段から相談できる関係 を保ちつつも,なれ合いにならずに,ときに厳しい意見も 交換できるような関係を構築することも必要である.

また,この医療機関相互ネットワークの目的が地域全体 の感染対策を充実させ,アウトブレイクが生じた場合に迅 速かつ適切に対応できること,あるいはアウトブレイクを 未然に防ぐことを目標とするならば,感染防止対策加算に 届出していないクリニックや長期療養施設等とも積極的に 連携することも重要であると思われる.

ここでは,現在実施されている合同カンファレンスでの 課題と将来への展望について報告する.

3.検出すべき耐性菌とモニター体制の確立に向けて 東邦大学医学部微生物・感染症学講座

石井 良和 耐性菌は,一度病院内に蔓延すると,その制御には多大 な資金と労力が必要となる.本来,ある抗菌薬に対する耐 性因子を保有する菌株は,当該抗菌薬に耐性を示すと考え られるが,臨床的ブレイクポイントの 耐性 を示さない 菌株も耐性因子を保有することがある.しかし,この非耐 性・耐性因子保有株は,抗菌薬の選択圧下において 耐性 化 する可能性があり,そのサーベイランスが重要である ことは言を俟たない.

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のスクリーニ ングは,オキサシリンと比較してセフォキシチンの感度が 高く,基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌 にはセフポドキシムおよびセフポドキシム/クラブラン酸 の感度が高い.MRSA は,今でも院内感染の主要な原因 微生物であり,接触感染予防策の適正さを量る一つの指標 である.一方,ESBL 産生菌は市中において健常人に発症 す る 単 純 性 膀 胱 炎 の 原 因 微 生 物 と し て 知 ら れ て い る.

MRSA も近年,外来患者から分離される市中感染型(CA)

クローンの検出頻度が高くなってきたが,CA-MRSA は カルバペネム系薬およびミノマイシンに感性を示す菌株が 多い.したがって,現時点では,これらの薬剤をキードラッ グとして院内感染型(HA-)MRSA と区別することが可 能である.

注目される耐性菌としてカルバペネマーゼを産生する腸 内細菌科細菌(CRE)とアシネトバクター属菌が挙げら れる.諸外国で注目されている CRE はカルバペネマーゼ 産生株と同義であるが,感染症法の報告基準に従うと必ず しも同義とはならない.一方,アシネトバクター属菌が産 生するカルバペネマーゼは,カルバペネム系薬の分解効率

が悪く,本邦で分離される菌株の MIC 値は高値を示さな い.このような理由から,これらの耐性菌のスクリーニン グ法の構築が必要とされている.本シンポジウムの発表で は,私たちが使っているこれらの耐性菌に対するスクリー ニング法について紹介する.

院内感染の発生が疑われる場合は,パルスフィールド電 気泳動(PFGE)などの分子疫学的手法を用いて解析する.

しかし,PFGE は時間と労力を要するため,日常検査の一 環として実施することは困難である.私たちは,自動同定・

薬剤感受性検査機器から得られるデータとマイニングの手 法を用いて,クローナリティーを高い確率で類推する方法 を開発した.さらに,私たちは日常検査で得られた薬剤感 受性検査成績をもとに耐性菌サーベイランス実施し,且つ アンチバイオグラムを作成するためのシステムを構築し た.本発表では,これらのシステムについても触れ,検出 すべき耐性菌とモニター体制の確立に向けた取り組みにつ いて議論する.

追加発言

札幌医科大学医学部感染制御・臨床検査医学講座 髙橋 聡 シンポジウム 13

感染症におけるリスクコミュニケ―ション

防衛医科大学校防衛医学研究センター広域感染症 疫学・制御研究部門1),埼玉医科大学国際医療セ ンター感染症科・感染制御科2)

加來 浩器1)光武耕太郎2)

危機管理事態への対応策は,その事態をいち早く探知す ること(Event Detection),その事態を適時・適正に評価 すること(Risk Assessment),それによる被害を管理し その影響を局限化させるための対策を実施させる こ と

(Risk Management)に分けることができるが,これらの 活動をスムーズに行うためには病院内外の関係者(ときに 一般市民を含む)の理解と協力が必須となる.リスクコミュ ニケーション(Risk Communication)とは,「従来の対応 では乗り越えることができない規模の危機管理事態が発生 又は発生することが予測される時に,行政が地域住民に対 して,安全対策や許容できるリスクについて相互の意思疎 通を図るために行なう情報伝達」と定義されている.これ までも 2009 年 4 月のパンデミックインフルエンザ発生時 や 2011 年 3 月の東日本大震災の際に,近年では 2014 年の 西アフリカにおけるエボラ出血熱や 2015 年の韓国におけ る MERS アウトブレイクに関連した輸入感染症対策や,

2014 年 8 月の代々木公園に関連した国内デング熱発生な どの際に,国・自治体から国民・市民に向けてマスコミを 通じたリスクコミュニケーションが行われ,安全・安心な 医療提供のための準備や環境保持に貢献した.一方で,わ れわれ医療従事者にとって身近な例として,施設内におけ るインフルエンザやノロウイルス感染症などのアウトブレ イク,薬剤耐性菌の集団発生事例などが挙げられる.この ような状況では,主治医は患者・家族に対して必要な治療

ドキュメント内 第90回日本感染症学会学術講演会抄録(I) (ページ 50-55)

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