4. 強化学習モデルにもとづく有権者の投票参加
4.3. 投票率、個人の行動と選挙結果
本節では、まずファウラーモデルを追試し、シミュレーション結果がファウラーの報告と同様の 結果を得られたことを示す。その上で、このモデルにおける有権者の投票方向と選挙結果が現 実と乖離していることを示す。
表4-1はファウラーのモデルを追試した時の党派別平均投票率である。平均投票率は Fowler(2007)で報告されている結果とほぼ同じ値が得られ、投票コストがある程度高くても有権 者が投票することを示している。次に、図4‐2は1000ステップ目(t=1000)の有権者の過去6回 の投票回数を表したものである。1回も投票に行かない有権者とほぼ毎回投票する有権者に分 かれることが示され、ファウラーの報告通り、このモデルでの有権者は習慣的投票を行っている ことがわかる。
24ベンダーらのモデルにおける、有権者の投票確率を表す式は以下のとおり。
πi,t ≧ ai,t ならば pi,t+1(V) = pi,t(V) + α(1−pi,t (V)) πi,t < ai,t ならば pi,t+1(V) = pi,t(V) − αpi,t (V)
25 ベンダーら、ファウラー両者のモデルともに一定の確率で投票確率を変えない有権者がいる。
26 この操作の目的は、主に初期値の影響をなくすためである。
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図 4-2 有権者の投票回数
ここまでの結果から、追試したモデルはファウラーのモデルを再現しているといえる。そこで 次に、このモデルがどのような選挙結果を生み出しているのかを検討する。図4‐3は1000回繰 り返したシミュレーションのうちのある回における、各党への投票者数及び棄権者数をステップ ごとにグラフ化したものである。グラフの横軸は200ステップまでとなっているが、この後も大きな 変化は見られなかった。この図から、最初に選挙に勝った政党がその後の選挙でも勝ち続けて いるのがわかる。そこで、この回の有権者の投票回数を政党別に分けて表したものが図 4‐4 で ある。この図からも常に投票している有権者は最初に勝った政党に投票している有権者しかい
C Democrats Republicans
0.05 0.447 0.464
0.25 0.248 0.254
0.80 0.121 0.086
平均投票率(t=1000)
表 4-1 投票コストと平均投票率(Fowler's Model)
- 43 - ないことがわかる。
これらの図は1000回のシミュレーションのうちの1つを抜き出したものである。1ステップ目の 選挙での両党の勝利確率はほぼ50%ずつであるため、表4-1のように1000回のシミュレーショ ンの平均値を取れば、両党が同じくらい勝利をしているように見える...
。同様に、有権者の行動も 1000 回のシミュレーションの平均では確かに習慣的投票を行っているように見える...
。しかしなが ら本来このモデルは、各ステップの選挙結果と有権者の期待度(a)によって、有権者が強化学 習を行いながら選挙を繰り返していくことを表現したモデルであったはずである。ところが、シミ ュレーション結果を1つずつ取り出して検証していくと、モデルの中の有権者は勝利か敗北のど ちらか一方しか経験できず、したがって、学習結果によって変動する投票確率や期待度も一方 向にしか変化しない。これでは、モデル内の有権者の学習過程を詳細に分析することができず、
シミュレーションを用いた研究の利点を十分に活かせていないのである。
図 4-3 ファウラーモデルのシミュレーション
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図 4-4 党派別投票回数分布
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コンピュータを用いたシミュレーションを行う場合、集計結果だけではなく、個人レベルの行 動過程も検証されなければならないことは、ファウラー自身も述べている。シミュレーション過程 の分析は、モデル内のエージェントの行動を理解する上で不可欠である。結果のみに注目す ることで、シミュレーションモデルの示す現象の解釈を間違う危険があるからである(Bendor, Moe and Shotts, 2001;稲水2006)。この結果を踏まえ、次節ではFowler(2007)のモデルの修正 点を習慣的投票の理論から探り、新たなモデルを構築する。