5. 経験とその評価にもとづく有権者の投票外参加
5.9. 因果効果と無作為割り当て
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本章の分析は、前章で示した強化学習による参加メカニズムの前提であった市民の判断能 力を検証するものであった。過去の参加経験に対する評価が次回の行動につながるという分 析結果は、市民がこのメカニズムによって政治的活動への参加を決定している可能性をより高 めるものだといえる。また、本章での分析結果は前章で得られた知見とも整合的なものである。
市民が全く参加しないグループとそうでないグループとに分けられるということは、有権者が選 挙での投票において習慣的棄権者と習慣的投票者とに分けられるという前章でのシミュレーシ ョン結果と一致しているからである。つまり、シミュレーションと統計解析という2つのアプローチ による分析結果が、ともに参加(あるいは棄権)が「習慣的」に行われているということを示してい るのである。
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が無作為に行われていれば、1/N1Σy1 - 1/N0Σy0によって因果効果を推定することができる。
研究者が効果を推定したい独立変数を対象者に無作為に割り当てて行う実験研究では、一 般に内的妥当性(Internal Validity)があるとされ、研究者にとって関心のある要因の効果のみ を知ることができる(星野・繁桝,2004)。しかしながら、世論調査のように研究者による独立変数 の操作性のないデータでは、内的妥当性が低く関心のある要因の効果のみを知ることは難しい。
このような無作為割り当てを行っていない研究を相関研究と呼ぶが、相関研究によって独立変 数が従属変数に与える影響を推定するには、従属変数に影響を与える共変量が独立変数の 値によって異なる可能性があり、共変量の影響を排除する必要がある。
従来、共変量の影響を排除するためには回帰分析や構造方程式モデリング(SEM)を用いる ことが多かったが、これらの手法は独立変数同士の関係を交互作用も含めて明示的にモデル 化する必要があり、共変量の数が多くなるにつれてモデル化が困難になるという欠点がある。そ こで近年、Rosenbaum and Rubin(1983)によって提唱された傾向スコア(Propensity Score)を用 いた解析が主に医学や経済学などで行われるようになり、政治学でもImai(2005)やBrunell and DiNardo(2004)などで用いられている。
傾向スコアとは、複数の共変量を1つの変数に集約しその変数を用いてマッチングや層別解 析、重み付けを行うことによって上述した問題を解決しようとして考案された概念である(星野・
繁桝,2004)。具体的には以下のように定義される。第i被験者(回答者)の共変量の値をxi、割 り当て変数の値をZiとするとき、群1へ割り当てられる確率
e1:p(zi=1 | xi)
を第 i 被験者の傾向スコアという。実際には各被験者の傾向スコアの真値はわからないのでデ ータから推定する必要がある。一般的には被験者に割り当てたい変数を従属変数に、共変量 を独立変数とするロジスティック回帰分析によって、上記確率を推定することが多い。本研究で も、動員の有無を従属変数に、参加経験や社会経済的属性といった共変量を独立変数とした ロジスティック回帰分析によって傾向スコアを算出した。
ここで、X:動員の有無, Y:投票への参加, Z:共変量とすると、傾向スコアを用いて共変量を調 整することにより、高次元の交絡変数zを1次元に落とすことができ、「Z→Y」の関係は線型に限
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定されず、「X→Y」の関係は傾向スコアに依存してもよくなり、さらには Z からYへのモデリング が不要となる。しかしながら、傾向スコアを用いて因果効果を推定するには以下の前提条件が 必要となる。
「強く無視できる割り当て(Strong Ignorable Treatment Assignment)」
このため、傾向スコアを用いる際には①z を与えた下で,バランスがとれた割付けがなされてい る、 ②zがすべての交絡要因を含んでいることが必要となり、通常、ロジスティック回帰分析の 的中率などによって判断される。次に傾向スコアによる重み付け推定法について述べる。
本研究では、Rubin(1985) , Rosenbaum(1987)らがHorovits and Thompson(1952)の方法を拡 張した重み付け推定法を用いて、動員の投票参加に与える効果を推定する。この重み付け推 定法は傾向スコアの逆数による重み付け平均を用いる。具体的には、
となり、これらの差が平均因果効果となる。ただしy1は動員ありを、y2は動員なしを表 す。
本研究では、共変量として①性別、②年齢、③学歴、④15 年以上居住ダミー、⑤大都市ダミ ー、⑥町村ダミー、⑦農林水産業ダミー、⑧公務員ダミー、⑨主婦ダミー、⑩国政に対する信 頼、⑪年収、⑫各種組織加入ダミー、⑬政治参加経験ダミー、⑭政治的有効性感覚を用いた。
データは2章で用いた1976年-2003年までの全国世論調査を用いた。表5-5が推定結果で ある。
(y1, y2) z | x, 0 < p(z=1 | x) <1
(ただし、 はDawid (1979)の記法で、独立を表す)
E
^(y
1)= E
^(y
2)=
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1976 1983 1993 1996 2000 2003 全体 動員あり 0.92 0.88 0.91 0.91 0.91 0.88 0.90 動員なし 0.90 0.82 0.89 0.85 0.88 0.85 0.88 差(因果効果) 0.02 0.06 0.02 0.06* 0.04 0.03 0.02
n 523 571 1459 796 282 962 4431
*p<.05 データ
1976年「日本人の政治意識と行動調査(JABISS)」
1983年「日本人の選挙行動調査(JESⅠ)」
1993年「変動する日本人の選挙行動(JESⅡ)」
1996年「衆議院選挙に関する世論調査(JEDS96)」
2000年「社会意識と生活に関する世論調査(JEDS2000)」
2003年「開かれた社会に関する意識調査(JSS-GLOPE2003)」
表 5-5 投票に対する動員の効果
推定の結果、年代別では1996年の衆議院選挙のみ、動員された有権者とそうでない有権者 との投票率の差が統計的に有意であり、その他の年は動員には有意な効果がないことがわか った。また、全てのデータセットを同時に分析した結果も統計的に有意な効果は確認されなか った。以上より、動員は有権者の投票参加に対しては効果がないということが明らかになり、こ のことは先の投票外参加についての分析結果とも一致する結果といえる。