投資分析 入門の入門
2. 慎重を要する 「率」の利用
要です。
たとえば前回(ARES17号)、IRRの説明 の中で述べたように、貸付型と借入型とが 混在するキャシュフローパターンをもった 投資案件においては、IRRが高くても、額 としての利益は取るに足らない場合があり ました。
■ノンリコース・ローンとリスクの増大 また最近は不動産投資事業において、ノ ンリコース・ローンを利用することで負債 のオフバランス化をはかるとともに投資利 回りの向上を図ることが多くなっています。
そしてその際にレバレッジ効果によるエク イティ利回りの上昇効果に目を奪われて、
多大なリスクを抱え込むことのないように 注意しなければなりません。
たとえば、ある企業が毎年8億円の純収益 を獲得できる収益不動産を100億円で取得し 直接保有している場合には(図表3)、その 投資利回りは8%です。
これに対して図表4のとおり、ノンリコー
合、レバレッジ効果によってエクイティ投 資利回りは14%[5.6億円÷40億円]に上昇 します(図表5(a))。
しかしSPCエクイティはfirst loss position といわれ、その保有者は資産価値が下落し たときに発生する損失の第一次的負担者と なります。もしこの不動産の価値が40%下 落すれば、それだけでSPCエクイティの価値 は100%失われてしまいます。資産価値下落 の影響が2.5倍(100%÷40%)に増幅される わけです(図表5(b))。運用収益(インカム ゲイン)についても同様です。もし不動産か ら得られる純収益が8億円から6億円に低下 し,投資利回りが8%から6%へと▲2%下落 した場合、SPCエクイティへの配当は3.6億 円(6億円−2.4億円)となり,純投資利回りで は14%から9%(3.6億円÷40億円)に減少し ます。投資利回りの下落幅は▲5%(9%−
14%)であり,直接保有していた場合の下落 幅▲2%の2.5倍になります(図表5(c))。
つまりノンリコース・ローンのレバレッ ジ効果によって投資利回りは向上しますが、
不動産 100 利回り8%
不動産 100 利回り8%
コーポレート ローン
160
(100+60)
コーポレート ローン
60 本体B/S
その他 資産 100
自己資本 40
SPC
〈SPCエクイティの期待利回り〉
100億円×8%−60億円×4%
40億円
=14%
不動産 100 利回り8%
エクイティ 40 エクイティ
40
本体B/S
その他 資産
100
コーポレート ローン 100(60+40)
コーポレート ローン
60
自己資本 40 ノンリコース
ローン 60 利率4%
図表3 コーポレート・ローンによる直接保有 図表4 ノンリコースローンのレバレッジを利かせた SPCエクイティによる投資(間接保有)
その代償として、投資リスクが増大するこ とをよく理解しておかなければなりません。
■WACCと税引後利子率
さらに投資利回りを、ハードルレート
(投資の可否判断基準利回り)としての資本 コストと対比する場合には、両者が同じ土 俵にあるものかどうかをよく吟味すること が必要です。
一般的に資本コストは負債の利子率と株 主資本のコストとの加重平均値(WACC;
weighted average cost of capital)が利用さ れます。頭文字をとった略語によって「ワ ック」と呼ばれています。そして企業財務 の教科書の多くが、WACC計算における負 債の利子率は、税引後利子率を使うのが一 般的であると解説しているため、これに基 づいてWACCは計算されることが多いよう です。
税引後利子率とは、法人税の計算上、支 払利息は損金算入が可能なことから、以下 のとおり、その節税効果を差引いた後の利 子率をいいます。
支払税=(利子前所得−支払利息)×実効税率
=利子前所得×実効税率
−(借入額×利子率×実効税率) 節税効果;利子率×実効税率
税引後利子率=利子率−(利子率×実効税率)
=利子率×(1−実効税率)
さて税引後利子率を基礎にWACCを算出 し、それをハードルレートとする場合には、
投資案件の利回り(IRR)も税引後キャッ シュフローを基礎に算出しなければなりま せん。なぜならWACCにおいて節税効果を 織り込んだ以上、すべてのキャッシュフロ ーを税引後に統一して比べなければ無意味
純投資 純収益 ノンリコース
ローンの金利 金利控除後利益 純投資利回り
直接保有 100億円 8億円 − 8億円 8%
間接保有 40億円 8億円 2.4億円 5.6億円 14%
(b)資産価値下落(▲40億円)の影響
純投資(イ) キャピタルロス
(ロ)
純投資あたりの下落率
(ロ/イ) 比
直接保有 100億円 ▲40億円 40% 1
間接保有 40億円 ▲40億円 100% 2.5
(c)純収益下落(8億円→6億円)の影響 下落前純投資利回り
(イ)
下落後純投資利回り
(ロ)
純投資利回りの下落幅
(ロ−イ) 比
直接保有 8% 6% −2% 1
間接保有 14% 9% −5% 2.5
計算しながら、投資案件にかかる利回りは 税引前キャッシュフローをもとに計算して いる例をよく見かけます。しかしこれでは 税引後と税引前という土俵の異なるキャッ シュフローを比較することになり、まった く意味がありません。
もしWACCを税引後で計算するならIRR の基礎となるリターンはEBIATやEBIATに 減価償却費を加え正味運転資本の変化を加 味したもの(税引後キャッシュフロー)を 使わなければなりません。反対に税引前キ ャッシュフローやEBITDAを基礎にIRRを 求めた場合には、WACCにおける負債の利 子率は、税引後ではなく税引前のものを採 用しなければならないのです。
ところで、これまで投資の結果得られる 利益やキャッシュ・インを確定的なものと して考えてきました。
しかし現実には投資の成果は不確実です。
そこで投資を検討する際には、過去に行っ た同様の投資案件に関する実績値(以下
だけでは、将来の参考となる考えをまとめ ることはできません。観測値をまとまりと して分析し、ひとつの数字に代表させるこ とが必要です。観測値のまとまりを「デー タ」といい、ひとつの数字を「代表値」と いいます。平均値(mean)は代表値のもっ とも代
・ 表
・ 的
・
なものです。しかし代表値は平 均値だけではありません。他にも中央値
(median)や最頻値(mode)などがあります。
■平均値、中央値、最頻値
以下に19個の観測値からなるデータがあ ります。
1,2,4,5,5,5,5,5,5,6,6,6,8,8,9,10,11,12,20
このデータについて平均値、中央値、最 頻値を計算してみると、平均値7、中央値6、
最頻値5、となります。
平均値(算術平均)は、観測値の合計を データの大きさ(個数)で割ったものです。
中央値は、観測値を小さいものから順番 に並べ替えて、ちょうど中央に位置する値 です。この例でいえば10番目が19個ある観