■米国年金基金による不動産投資
アメリカでは年金の不動産投資は、初め はごく一部の野心的なビジョンを持つ保険 会社の役員によってクラブのような形で始 まりました。そして、今や大きなビジネス に拡大し、数百の大小の企業が何千もの年 金基金のために資産を運用するまでになっ ています。
アメリカで最も大きな確定給付年金基金 である、GE、IBM、そしてカリフォルニア 州等の年金基金は、不動産に対してこの20 年間、大きな投資をしています。また、近 年、確定拠出年金が、従業員に対して不動 産投資商品をメニューの一つとして提供し ています。通常は、REITのミューチュアル ファンドが多いのですが、アメリカにおい て最大の確定拠出年金の一つであるアメリ
カの教職員年金基金は、個別のビルに投資 する不動産ファンドを提供し成功していま す。2005年においては、こうした数千億ド ル規模(約50兆円以上)のアメリカの退職 者のための資金が世界中の不動産に投資さ れています。
アメリカの年金基金のための初めての不 動産ファンドは、1968年にノースカロライ ナのワコビア銀行によって導入されました。
そして、ニュージャージーのプルデンシャ ル保険が、その数年後に初めてのファンド を立ち上げています。当時のインフレが、
年金基金のポートフォリオの最大部分を占 めていた債券の価値を大きく下げる一方で、
不動産は通常賃料と価値は上昇したため、
不動産はインフレ下における一つの解決策 をもたらしたのです。その後、過剰投資と インサイダー取引による失敗で、年金の不
ラサール インベストメント マネジメント グローバル・ストラテジスト
ペンシルバニア大学卒業。ロンドン大学経済大学院で修士取得後、マサチューセッツ工科大学大学院にて PHDを取得。ベアリング投資顧問及び不動産リサーチ会社にてリサーチの責任者を歴任後、ラサール イン ベストメント マネジメント(運用資産:約260億ドル)のリサーチ及び投資戦略部門に1994年に加わり、現在は 投資戦略及びリサーチ部門の最高責任者。投資判断の決定機関である投資委員会メンバーも務め、多くの 年金基金やコミングルファンドの戦略立案にあたっている。
PREAにおいては、長年にわたりリサーチコミティーにて活動、直前期までは委員長を歴任。2000年には、
PREAより機関投資家向け投資分析及び投資戦略への貢献に対しGraaskamp Awardを授与される。
その他の公職としては、Real Estate Research Instituteの元理事長で現在フェローを勤めるほか、ULI,
NCREIF,NAREITの委員等も歴任。
著書(共著)に「Emerging Trend in Real Estate」がある。
●プロフィール
Ⅲ
動産投資の第一段階は終了します。有名な 年金基金では、1、2棟の非常に大きなビル に対して過剰投資をしたために、焦げつい た例も見られました。また取引の多くは、
ファンドの運用者側の取締役や従業員の特 定の利益と関係するものでありました。こ うした状況を受け政府は、1974年にERISA 法(The Employee Retirement and Income Security Act:従業員退職所得保障法)を制定 し、プルーデントマン・ルール(Prudent man rule)が導入されました。プルーデント マン・ルールに関し、年金基金を監督してい る労働省は、具体的に次のような四つの要 件を掲げています。
1)アセットクラスの分散およびアセットク ラス内での分散投資を行うこと
2)慎重なリサーチを行ったうえで投資判断 をすること。友人や家族、さまざまな関係 によって投資判断をしないこと
3)ベンチマークを使うこと
4)リターンと同様リスクも評価すること ERISA法制定により、年金基金は株式や 債券を含め一つのアセットクラスに過剰に 集中投資することができなくなり、多くの 年金基金が、基金内ですべての資産管理を 行うスタイルをやめました。これにより、
株式や債券、そして不動産に関するプロフ ェッショナルな投資管理、投資顧問会社が 増えたのです。
また、1970年代初めから1980年代初頭に かけてのインフレは引き続き債券ポートフ ォリオの価値を下げ、高インフレ下でもポ ートフォリオの資産価値を維持できるよう なアセットクラスを求めて、GMやGEなど の年金基金が、1970年代半ばから不動産投 資を始めました。その後、不動産に関心の
ある年金基金がベストプラクティスやリサ ーチを共有し、ERISA法に準拠する基準を 定めることを目的に、1979年にPREAが設 立されました。その1年後には、NCREIFが 保険会社数社とラッセルコーポレーション によって設立され、アメリカにおける初め ての不動産インデックスが作られたのです。
公的な基金は、少し遅れて不動産投資を 始めました。例えばCalPERSは1983年に不 動産投資の資格認可を得ています。PREA やNCREIFは、当初は企業年金が主体でし たが、公的な基金も参加を始め、今日では 公的年金基金が最も活発なメンバーとなっ ています。
一方、1980年代にはアメリカの不動産市 場においては、税制上のメリットあるいは 短期的な利益をねらって不動産に投資する 投資家も現れました。レーガン政権時代、
景気を刺激するために、大幅な不動産の減 価償却制度も登場し、その結果、多くの不 必要な建設が行われ、不動産の価値は大き く上昇しバブルとなったわけです。バブル は1990年代の初めにはじけ、一部を除き、
機関投資家は一時期不動産から手を引きま した。しかし、金融危機の後、近代的な不 動産投資マネジメント業界が立ち上がって きます。その中で、1980年代末から1990年 代初めの5年くらいの間に証券化が進み、
CMBSとRMBS、そしてREITという三つの 重要な新しいビークルが生まれると、不動 産の透明性も高まってきたということで、
機関投資家たちはまた不動産市場に目を向 け始めるようになりました。情報開示のス タンダードができ、私募の不動産投資家に 対しても提供されるようになり、さらに、
ベンチマークはどんどん改善され、2001年 にドットコム・バブルがはじけたあたりか ら、この不動産というアセットクラスが安 定的な収益源として、年金基金のポートフ ォリオに用いられるようになったのです。
今日、アメリカにおいては大規模な年金 基金は、6〜8%を不動産クラスへアロケー ションしています。また、アメリカにおけ る確定拠出年金の15%が、現在、不動産も 投資メニューとして提供しています。
多くの年金基金はリスクごとの分散を図 ろ う と し て い ま す 。 年 金 基 金 は N P I
(NCREIF Property Index)等のインデック スを活用してスタイルの違う投資を行うこ とができます。
一つ目のスタイルは不動産ポートフォリ オのコア投資で、インカムと安定性に焦点 を当てたものです。通常、国内投資のみで、
インデックスの枠内で投資するものです。
インデックスや地域別、種別のサブインデ ックスを使うことにより、市場全体とコア
のポートフォリオのパフォーマンスを比較 することができるわけです。確実なベンチ マークをもとにした安定投資のスタイルが どんどん増えています。
二つ目はグロース(Growth:成長)投資と かバリューアッド(Value-add:付加価値創造)
投資といわれるスタイルで、コアとしては リスクが高い資産に投資し、付加価値をつ けてコアの投資家が買うことができるよう な資産に転換するというやり方です。バリ ューアッドのパフォーマンスは、コアのイ ンデックスと他のバリューアッドのファン ドを比較することによって検討できます。
ヨーロッパにあるINREV(European Association of Investors in Non-Listed Real Estate Vehicles)という組織は、非上場の プライベート・ファンドに関する組織で2年 前に創設され、ヨーロッパ全体のファンド のデータをトラッキングしています。アメ リカでは、プライベートな不動産のコンサ ルタントが同じようなものを出しています。
最後は、オポチュニスティック投資で、
コアのインデックスは全く無視し、組成の 年の近い同様なファンドを比較することに よって、絶対的なパフォーマンスを競いま す。オポチュニスティック・ファンドは 往々にして国際的な投資を行い、レバレッ ジも非常に高い状況が多くなっています。
直接投資 パートナーシップ投資 ジョイントベンチャー投資
モゲージ シンジケートローン
モゲージプール プライベートプレイスメント
未格付けCMBS
REITおよび不動産会社 無担保ローン 格付けCMBS 非上場REIT
私募エクイティー コミングルファンド
REIT 不動産会社 エクイティー
直接投資 プライベート
間接投資 プライベート
パブリック マーケット
デット
図表1 不動産ポートフォリオ:資本市場マトリクス 図表2 投資スタイル:リスク・リターンへのアプローチ 安定したインカム 成長性重視
Risk
Return
リスクフリー レート
●情報の不足
●非効率な資本市場
●十分な資本投下が されていない資産
●アクティブマネジメント
●成長マーケット
●リーシング改善と リポジショニング
●満室稼動物件
●豊富な情報
●効率的資本市場
Income
Growth/Value-Add
Opportunistic