投資分析 入門の入門
3. ばらつきのある結果と 「代表値」
計算しながら、投資案件にかかる利回りは 税引前キャッシュフローをもとに計算して いる例をよく見かけます。しかしこれでは 税引後と税引前という土俵の異なるキャッ シュフローを比較することになり、まった く意味がありません。
もしWACCを税引後で計算するならIRR の基礎となるリターンはEBIATやEBIATに 減価償却費を加え正味運転資本の変化を加 味したもの(税引後キャッシュフロー)を 使わなければなりません。反対に税引前キ ャッシュフローやEBITDAを基礎にIRRを 求めた場合には、WACCにおける負債の利 子率は、税引後ではなく税引前のものを採 用しなければならないのです。
ところで、これまで投資の結果得られる 利益やキャッシュ・インを確定的なものと して考えてきました。
しかし現実には投資の成果は不確実です。
そこで投資を検討する際には、過去に行っ た同様の投資案件に関する実績値(以下
だけでは、将来の参考となる考えをまとめ ることはできません。観測値をまとまりと して分析し、ひとつの数字に代表させるこ とが必要です。観測値のまとまりを「デー タ」といい、ひとつの数字を「代表値」と いいます。平均値(mean)は代表値のもっ とも代
・ 表
・ 的
・
なものです。しかし代表値は平 均値だけではありません。他にも中央値
(median)や最頻値(mode)などがあります。
■平均値、中央値、最頻値
以下に19個の観測値からなるデータがあ ります。
1,2,4,5,5,5,5,5,5,6,6,6,8,8,9,10,11,12,20
このデータについて平均値、中央値、最 頻値を計算してみると、平均値7、中央値6、
最頻値5、となります。
平均値(算術平均)は、観測値の合計を データの大きさ(個数)で割ったものです。
中央値は、観測値を小さいものから順番 に並べ替えて、ちょうど中央に位置する値 です。この例でいえば10番目が19個ある観
して2で割ったものを中央値とします。
最頻値はデータ分布において最も個数の 多い観測値です。この例では5が6個と一番 多く、それに次ぐのが6の3個ですので、最 頻値は5になります。
さてこのデータでは、観測値が1から20 までの間に分布していますが、正規分布の ような左右対称のベル型ではなく、観測値6 以下の部分に偏っています。こうした歪ん だ分布をもったデータについては、平均値 が必ずしも代表値としてふさわしいとは限 りません。7という平均値は、そもそも観測 値にはひとつも存在していません。
いま仮に観測値ひとつひとつを1kgの重 りと考え、その数値間隔に沿って図表6のよ うにシーソーの板の上に並べた場合、もし シーソーの支点が平均値(算術平均)のと ころにあればシーソーがつりあいます。つ まり平均値はデータの重心をあらわすもの と言い換えることができます。
そしてこの例の場合、ひとつしかない20 という観測値が、重心としての平均値を右
いる人がこの対象に対して一度しか投資を するつもりがないとすれば、その人が参考 とすべき代表値は、平均値よりも中央値や 最頻値のほうがふさわしいといえるでしょ う。なぜならその投資家においては自らの 当該投資にかかる投資成果の平均値を計算 することはないからです。
■算術平均、調和平均、幾何平均
さ て 、 こ れ ま で 平 均 値 を 算 術 平 均
(arithmetic mean)として計算してきました が、平均値には算術平均以外にも、調和平 均(harmonic mean)や幾何平均(geometric mean)といわれるものがあります。図表7は データ(x1,x2, …,xn)に関する、それぞれの 算出式です。
一般に平均値といえば、もっぱら算術平 均を使うことが多いようですが、データの 性格によっては、算術平均ではなく、調和 平均や幾何平均を使うことが必要です。
たとえば自動車で合計120kmの道を走っ た際の平均時速を計算してみましょう(図 表8)。ただし前半60kmの舗装道路は時速
60km 60km
30km/h 60km/h
算術平均:
n
n
n 1
x
nx
2x
1+=
+
…
+…
…
+
+ +
x
11
x
21
x
n×
× ×
x
1x
2x
nx
調和平均:
幾何平均:
x
H=x
G=図表7 算術平均・調和平均・幾何平均 図表8 平均時速を求める
60km/hで走り、後半60kmの未舗装道路は 時速30km/hで走ったものとします。このと き算術平均によって、60km/hと30km/hと を足して2で割った45km/hを平均時速と考 えてよいのでしょうか。
まず120kmを走り抜けるのに自動車は実 際に何時間かかったのかを計算してみまし ょう。最初の60kmは時速60km/hで走った ので所要時間は1時間、残りの60kmは時速 30km/hなので2時間、あわせて3時間で合計 120kmの道のりを走ったことになります。
これで120kmを3時間で割った40km/hが、
正しい平均時速の答えであることがわかり ました。
つまり算術平均では正しい答えを求める ことはできないのです。これに対して調和 平均では、所要時間を媒介変数として使わ なくても直接正しい平均時速を求めること ができます。図表7の式にしたがって実際に 確認してみてください。
また最近5年間の地価上昇率が、
8%,14%,5%,▲9%,6%
であったとします。この5年間の平均上昇率
を計算すると、算術平均では4.8%ですが、
幾何平均では約4.5%になります(単年度上 昇率から複数年度にまたがる幾何平均上昇 率を求めるための算式については、テクニ カルコラムをご覧ください)。
両者の差はそれほど大きくないように見 えます。しかし図表9のように大きな価格変 動があった場合には、両方式の差は極めて 重大です。算術平均では資産Aの平均上昇 率が25%[(100%+▲50%)÷2]、資産Bが 2.5%[(▲20%+25%)÷2]と算出されます。
しかし2年間で結局どちらも当初価格に戻っ ており、その2年間資産を持ちつづけていた 人にとってはキャピタルゲインもキャピタ ルロスもありません。ところが算術平均で は、あたかもキャピタルゲインがあったか のような錯覚を引き起こす数字が算出され るのです。
これに対して幾何平均を使えば、当初の 資産価格と最終的な資産価格との関係を正 しく反映した平均上昇率を求めることがで きます。内部収益率(IRR)も実は幾何平 均に基づいて投資利回り求めるものであっ たわけです。
以上のようにデータから何らか有益な情
算術平均 幾何平均
資産A 100万円 → 200万円 → 100万円
資産B 100万円 → 80万円 → 100万円 算術平均 幾何平均
0%
2.5%
0%
100% ▲50% 25%
▲20% 25%
単年度上昇率から複数年度の幾何平均上昇率を算出する
n
期間の幾何平均上昇率 は、単年度上昇率 に基づき以下の算式によって求められる。n
期間の幾何平均上昇率: 、 年度の単年度上昇率:R
tR
t)
(
)
( 1 + (
11 +
2) 1 + − 1
=
n nG
R R R
( 1 + )
R
)
(
)
( 1 + (
11 +
2) 1 +
=
n(
nR R R
n)
(
)
( 1 + (
11 +
2) 1 +
=
nR R R
n)
(
)
( 1 + (
11 +
2) 1 +
=
nR R R
n)
(
)
( 1 + R (
11 + R
2) 1 + R
n(証明)
t
t
年度末の資産価値: 、0年度末の資産価値: 、 年度末の資産価値:w
tw
0n w
nとすると、以下の関係が成り立つ。
w
0w
nR
G n( 1 + R
G)
n)
1 + R
G n1+ R
G=
1 1
2 0 1
−
× × ×
=
n n
w w
w w
w w w
t t
t
R
w = +
−
1
1
=
と表せる。両辺のn乗根をとると
であるため、
∴
R
Gとなる。(証明終)