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「心の病」 「心の絡む病」と 漢方と

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三島便り・漢方のある日々ー 11

る。以前は身体を動かすと胃部がチャポチャポしたが,

今はそれがなくなった。しかし,なお体が寒く,朝目 覚めてから動き出すまでに時間がかかる。同方処方。

 4月 21 日,ここ一週間疲れやすく,頭がボーッと する。食後すぐ横になりたい。顔に軽度のむくみ感が ある。四逆加人参湯(附子 1.2 g)に変方,甘麦大棗 湯は同じ。

 5月7日,煎じ薬は飲みやすい。体調的には安定し てきた。体重 30㎏。同方処方。

 5月 31 日,甘麦大棗湯は1日1回,午前中に服し ている。味が合う。前向きになる。同方処方。

 6月 14 日,煎液を薄く感じるようになり,いつも 食べていたものが食べたくなくなったり,ゲップが出 たり,煎液も日によって飲めたり飲めなかったり,口 中がピリピリしたりする,と。

 甘麦大棗湯は服そうという気がしなくなり,今回2 日しか服さなかった。この日は五苓散を投与する。

 6月 29 日,一昨日,脱水症状があった。このところ,

やたらと食べられるも肥らない。心のこだわりが消失 してから食欲が出てきた。甘麦大棗湯は服していない。

四逆加人参湯のみ投与。

 7月 25 日,最近疲れやすい。体のだるいのが取り 切れない。煎じ薬が,以前のおいしさがなく,もの 足りなく感じる。72 番のお薬(甘麦大棗湯)は落ち 着く感じがする。濃縮した甘いものを摂りたい。食 欲,便通はよい。が,トイレが近く,夜 6 回も起きる。

血圧 104/50mmHg。体重が 32.8㎏になった,と。

  Rp.ⅰ)茯苓四逆湯(附子 1.2 g)  各食前     ⅱ)甘麦大棗湯(エキス)1包+小柴胡湯       (エキス)1/2 包 夜

 腹診で,もちろん虚証腹だが,上半の腹直筋が薄く 筋ばり,柴胡剤を加味したかったので少量の小柴胡湯 を加えた。

 8 月 19 日,今回のお薬の方が合う。服すと体の中 があたたまる。同方処方。

 9 月 15 日,おいしく服している。体重 33㎏。同方 処方。

 10 月 13 日,煎じ薬,もう少し甘味が欲しいと感 じることがある。体重がまた 1㎏増えた。やや睡眠が 悪いというので,甘麦大棗湯,小柴胡湯を中止し,加

味帰脾湯(エキス)1包を夜服すよう処方。茯苓四逆 湯は同じ。

 11 月4日,よい方向に向かっている。睡眠も多少 よい。同方処方。

 11 月 24 日,体調がよい。漢方が飲みやすい。同 方処方。

 10 月に入った頃から,異様に瘦せた病的な顔貌が 消えてきた。瘦せてはいるが,健常な女性の顔である。

絡まった糸を解すように

 この患者の精神科の治療の詳細は,強いては聞いて いない。精神科の医師との相性がよいとの一言で十分 と考えるからである。それと,精神科の薬と私の処方 した薬とは喧嘩しない筈だ,との今迄の経験もある。

甘麦大棗湯とか,加味帰脾湯,或いは小柴胡湯の「心 に語りかける」漢方を処方したが,少量である。ベー スの薬は,新陳代謝を高める茯苓四逆湯(一時 四逆加 人参湯)である。患者はこの薬をおいしいと口にする。

 決して順風とのみはいえないが,確実によい方向に 動き出し,私も嬉しくなった。これをひとえに漢方の 力とは勿論いわない。漢方もそれなりに働いてくれた,

というのが正確であろう。特に,心の絡む病の治療は,

絡まった糸を解す作業と類似している。一気にパラリ とほぐせるような薬は論理的にも有り得なかろう。根 気よく,こちらをほぐし,あちらをほぐす。その結果 として全てがほぐれるのである。

 こういう患者と対していると,時々疲れてきて,い らつき,ついきつい言葉を口にすることがあるが,こ れは駄目。何はともあれ辛抱強く対していくことが最 も重要。患者と対している中で,頭に浮んでくる薬方 を心を込めて使えば,それがその時の適方となる。

直接「心」と絡んだ症状が増えている

 30 年前の私の開業した頃は,いわゆる内科の病気 が多かった。高血圧症,高脂血症,慢性肝炎,そして 勿論一番多かったのが,かぜを引いた,お腹をこわし た,等である。それになかなか治らないので,と関節 リウマチ,気管支喘息,膠原病の患者もそれなりに来 てくれた。が,西洋医学の治療,管理の進歩で,これ らの患者は少なくなった。特に関節リウマチの患者は 目に見えて減った。また,喘息の患者も,ステロイド の吸入で容易に発作をコントロールできるようにな

三島便り・漢方のある日々̶11 /「心の病」「心の絡む病」と漢方と

り,効果の不確実な漢方の出番がやはり少なくなった。

 逆に増えてきたのは,いわゆる「心の病」「心の絡 む病」である。勿論,開業当時も,ストレスによるこ れに類した疾病は少なくなかったが,自律神経失調症 状の目立つものだった。今のそれは明らかに,もっと 直接「心」と絡み,根の深い感じがする。本誌『漢方 と診療』第7号(2011)の「三島便り・漢方のある日々̶

9」に記した 62 歳 女性の類といえる。

 この種の患者に,あなたの病気は内科の領域ではあり ません。紹介状を書きますから,心療内科なり精神科を 受診してください,と対応できれば,ことは簡単であ る。しかし,わざわざ漢方を求めてやってくる患者には,

たとえ標榜が内科であろうと,側面援助が精々であろう とも,真摯に対すべきだ。病めるものは溢れる情報の中 から己に合いそうなものを選び出す能力が冴えてくる。

これに依って漢方を受診するのだからである。

 これら患者は愁訴が多方面に及び,何が主訴なのか 分かりづらいものと,逆に緘黙のものの2つのタイプ に分かれるように思う。前者に対しては,色々あって 辛いでしょうが,今一番先に治したいものは何でしょ うかと問えば,たいてい愁訴を1つか2つに絞って答 えてくれる。それを狙って,自分の薬籠の中からイメー ジに合うものを選んで投与する。その際,1種類とい うことはなく,多くは2種類,或いは3種類になる。

それは,2つの症状,3つの症状に,同時に対処しよ うとする意のみではなく,その主訴としての1つの症 状を治すに,組み合わせる方が具合がよりよい気がす るからである。この合方に関しては,別の機会に改め て是非論じたい。

漢方でやさしく「心」に手を差し伸べる

 処方するに際しては,あなたのその一番辛い症状を 取るお薬を出します,といわない方がよい。心理的に 更にそれに執着させてしまう可能性があるからであ る。さりげなく,よいお薬を考えますから,きちっと 服してください,といった程度にする。最初は1週間 分(を限度に)処方する。再来時には,どうでしたか でなく,どうですかとぼやけたいい方をする,ここで も一番辛いと答えた症状については,軽く最後の方で 聞くことにする。ご飯は食べれますかとか,便通はど うですか,足は冷えますか,といった一般的なことを

聞いていくと,お通じが毎日気持ちよくあるようにな りました,といったことが必ず1つ2つはあるので,

すかさずよかったですね,きたないものをお腹の中に 溜めておくことはありません。お腹がきれいになれば 気持ちだって清々してくる筈です,とそれを殊更強調 して相手を自分の土俵に引き込む。逆に患者のペース に巻き込まれると収拾がつかなくなってしまう。

 そして,特に(漢方による)マイナスもないと思わ れる場合は,案外最初の勘が当たるものだから,同じ 処方を2週間分,3週間分与える。このようにして診 ていると,効果のあるものは全体的にほぐれてくる感 じを受ける。この場合は同じ方を更にしばらく続ける。

全く変らなければ,当然再度薬方の検討をする。

 この類の患者の中には,インターネット,その他情 報が溢れているので,それで調べて,この漢方は私に はどうでしょうか,とメモをしてくるものもまれでな い。その時は,それはよいお薬だと私も思います。使っ てみましょう,と患者に従うのがベターだ。それでうま くいけば,よかったですねといえばよいのだし,逆の場 合もそれにけちをつけるようないい方は慎んで,スムー ズに自分の土俵に引き込む切っ掛けにすればよい。

 次に緘黙タイプの患者は,こちらから1つ1つ静か に質問する。あまり根掘り葉掘り聞かない方が好まし い。後の対処は前者と同じ。

 いずれにしても,結構根気のいる作業であるが,慣 れてくると却って楽しいものだ。うつっぽいから抗う つ剤を,イライラするから安定剤を,のみで解決する ものではない。勿論,抗うつ剤,安定剤を否定するの では決してない。なくてはならない薬であるが,心の

(絡む)病の治療のベースには,患者と治療者との間 に心のこもったやりとりが必須である,と信じる。

 この視点から,漢方は誠に貴重な薬で,上述した治 療を,より実行しやすくしてくれる。大黄とか附子な ど,使い方を誤ると体に害を与える薬物も勿論存在す るも,基本的には,漢方薬はつめたい無機物とは異なっ た,各々が個性を持つ存在で,身体,特に「心」に対 してやさしく手を差し伸べてくれる。

 その個性に通暁し,それを上手に治療に応用し得る 漢方の使い手,真の漢方の職人を目指したい。

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