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当帰四逆加呉茱萸生姜湯

ドキュメント内 0222_kanpo_no9_ol (ページ 32-36)

経過

当帰四逆加呉茱萸生姜湯3包・加工ブシ末 1.5 g(分3食前),大黄甘草湯(分1夕食後)を処方。

2月上旬,厳しい寒気は減じた。三叉神経痛は1日数回発来する。

3月上旬,顔面の突き刺す痛みは減少した。しかし,熱いものを食べると,左顔面に痛みが響く。

3月下旬,三叉神経痛はほぼ消失し,忘れるようになった。

以後は冷え・月経障害を主訴として2年間加療を継続している。

■ 解説■

 手足の冷えで候補となる漢方方剤は膨大な数にのぼ る。それらを鑑別していく上での要点は全体の陰陽虚 実から診ていくことにある。漢方初学者は「冷え」を 陰証と考えやすいが,実際は陽証の方が多い。足が冷 えると訴えていても,赤ら顔で体格・腹力の充実して いる人には陽証が多い。腹診において臍傍抵抗圧痛が あれば駆瘀血剤から検討する。足が冷えて顔がのぼせ る例では気の上衝(気逆)を考慮する。蒼い顔色をし て,横になりたがり,手足を触るとヒヤッとする人は 裏寒の著しい症例(少陰〜厥陰病期)であり,附子の 適応の可能性が高い。附子剤を要さない陰虚証にも冷 えはよくみられる所見である。

 冷えの強さで陰陽を弁別できる場合がある。陽証の 冷えは自覚的に強くても,術者が触ってみると軽度の 場合が多い。逆に裏寒の著しい症例の冷えは自覚的に は軽度でも,他覚的に顕著な傾向がある。なお,脳卒 中後の片麻痺患者の麻痺側の手足が冷えているのは,

動かせないからであり,必ずしも全身の冷えを反映し ていない。

 当帰四逆加呉茱萸生姜湯の病位は太陰病期とされる が,その適応となる冷えは自覚的にも他覚的にも著し い。その冷え方は独特であり,しもやけのように,手 足の先が赤く冷える傾向があり,筆者は赤冷えと教 わった。しもやけあるいは赤冷えをみたら,ただちに この方剤を思い浮かべていただきたい。

 当帰四逆加呉茱萸生姜湯は桂枝湯の5味に熱薬であ る当帰・呉茱萸・細辛に寒薬の木通を加えた構成であ る。木通の薬能は清熱利水であり,しもやけのような 手足が強く冷えた状態に用いる処方に,このような冷 やす薬を入れているところに立方の妙味を覚える。し もやけでは,手足局所にうっ血(熱)と血管拡張を伴っ ており,ときに熱感を呈する場合すらある。桂皮・呉 茱萸で強力に温めるだけでなく,当帰・芍薬でうっ血 を捌き,さらに木通で局所の熱を鎮める工夫があると

推測する。

 基本となる桂枝湯(桂皮・芍薬・大棗・生姜・甘 草)は感冒など急性期の太陽病期の主方剤であるが,

同時に慢性疾患の多い太陰病期の基本方剤でもある。

その理由は構成生薬の作用から理解できる。中心とな る桂皮は温薬で,発汗・解熱作用だけでなく,手足を 温め,痛みを鎮める。西洋薬に喩えれば,非ステロイ ド性抗炎症薬+血管拡張薬に相当しよう。次いで芍薬 は骨格筋および消化管の筋肉を緩め,痛みを鎮め,末 梢血管を拡張させる。臭化ブチルスコポラミン(ブス コパン )を連想していただきたい。甘草は副腎皮 質ステロイドホルモンの作用を強め,精神の過緊張を 鎮める。生姜・大棗は消化管粘膜を保護する。これら の生薬を合わせたのであるから,急性疾患だけでなく 慢性疾患にも対応できるのは当然なのである。

 この症例問題で読者が最も鑑別を要した薬は,桂枝 加朮附湯ではなかろうか。これは桂枝湯に利水薬の朮 と,熱薬である附子を加えた処方である。裏寒を伴っ た慢性の神経痛・関節痛で自汗傾向のある症例を適応 とする。しかし,当帰四逆加呉茱萸生姜湯に比較する と,ひたすら温める方剤であり,局所のうっ血を改善 する作用は弱く,しもやけを有する症例には向かない と考える。

 寒気(さむけ)も重要な目標である。急性期の寒気 は,冷気あるいはウイルス駆除を目的とした産熱のた めの生体反応であり,冷えとは明らかに異なった病態 である。発熱を伴わない寒気が慢性に存することは,

漢方医学では表の働きの低下と認識される。表の機能 を改善する方剤には桂枝湯類,麻黄附子細辛湯などが あり,解表剤と呼ばれる。「寒気」だけで,かぜを引 いたといってかぜ薬をすぐに服用するような人は桂枝 湯類のような発汗作用を有する薬で表を温めるのが最 善である。ここで桂皮とともに重要な生薬が細辛であ る。味はやや辛いが,体を防衛する機能の低下した表 をピリッと引き締める作用がある。手足を温めるだけ でなく,精神面を引き締めることで冷えと寒さを改善 していく。向精神薬に同様の作用は期待できない。

 冷えの鑑別

 構成生薬の意義

 慢性の寒気

 漢方のことなど何も知らなそうなベテラン整形外科 医の K 氏が「慢性の疼痛患者にこの薬を使ってみて 良いことはあっても悪いことはまずない」と話してく れて驚いたことがある。この薬,隠れたファンが多い ようだ。

 関節痛だけでなく,神経痛・腹痛・頭痛と痛みの種 類は多岐にわたる。面白いところではバネ指に効くと いう山田光胤先生の口訣である。整形外科医の森久保 治道氏はバネ指 39 例に本方を用い,女性 35 例は全 例軽快し,男性4例は2例で手術を行ったと報告して いる1)。筆者も数例経験があり,いずれの例も手術し ないですんだ。

 味は呉茱萸湯と同様,冷えの強い人には抵抗ないが,

冷えの乏しい人にはとても飲みにくい薬として知られ ている。自分が冷えているか否かわからない人は一度 味わってみてはいかがであろうか。この薬を抵抗なく 服用できる人の冷えは相当強い。

 腹診所見で鼠径部の圧痛は手足の赤冷えとともに本 証を診断する上で有用である。うっ血所見の1つと思 われる。鼠径部は陰部に近いので,この部の診察を行 う場合,筆者は患者が着衣の状態で,予告してから服 の上から按圧しているが,診断的には問題ないようで ある。

 当帰四逆加呉茱萸生姜湯の解説については,大塚敬

節先生の『日本東洋醫學會誌』(現『日本東洋医学雑 誌』)の論文2)が有名である。興味ある方にはご一読 をお勧めする。以下にまとめを紹介する。

①手足の寒冷を訴え,甚しいものは,肩から足にまで  水が流れるようだと訴える。

②慢性に経過する下腹痛があり,それが腰痛,四肢痛  にまで及び,時には,背痛,頭痛を訴えるものもある。

③疼痛の本態を近代医学的な検索によって明確にしが  たいことが多く , 神経性のものと診断せられる傾向  がある。

④肝経の変動によって起ると考えられる症状が多く,

 殊に生殖器,泌尿器からの障害が多く,尿がもれる,

 または夜間の失禁,性交不快のため性交を嫌悪する,

 性交によって,症状が増悪する。性欲がない。不妊  の傾向がある。そのため離婚して独身生活をおくり,

 または結婚をしないものが多い。

⑤開腹手術殊に子宮筋腫や卵巣嚢腫の手術,妊娠中絶,

 帝王切開,下腹や腰部の外傷などの既往症のあるも  のが圧倒的に多い。

⑥当帰四逆加呉茱萸生姜湯の服用,2,3週間で著効  があらわれる。

⑦婦人に多く男性にはまれである。

 疝気症候群  疼痛にも有効

【文献】

1)森久保治道.弾発指(バネ指)に対する漢方薬の効果.漢方の臨床,

      2004,51(4),p.475

2)大塚敬節.疝気症候群 A 型の提唱.日本東洋醫學會誌,1974,25(1), p.19

表 疼痛・冷えより鑑別する方剤

方剤 六病位・虚実 この症例に合う点 合わない点

桃核承気湯 陽明・実 瘀血・冷え・月経不順 陰陽虚実異なる

桂枝茯苓丸 少陽・実〜間 瘀血・冷え・月経不順 陰陽虚実異なる

当帰芍薬散 太陰・虚 陰虚証・瘀血・水滞・冷え・月経不順 しもやけ

苓姜朮甘湯 太陰・虚 陰虚証・冷え・水滞 しもやけ・頻尿なし

桂枝加朮附湯 太陰・虚 陰虚証・疼痛・冷え・痺れ しもやけ

芍薬甘草附子湯 太陰・虚 陰虚証・腹直筋緊張・疼痛・冷え・痺れ しもやけ

 今回は前回に引き続き,補気生薬である人参を紹介 いたします。人参は黄耆とならんで重要な「元気がな い,気力がない,疲れやすいといった症候を治す」補 気の生薬であり,食欲不振を改善させます。滋養強壮 剤としてあまりに有名で,「五臓を養い,精神を安ら かにし,津液不足を補う」ものとされています。つま り,体液不足を補い(生津作用),元気にしてくれる(補 気作用)生薬です。それに「みぞおちのあたりの痞え(心 下痞といいます)を取り除く」薬能を持っています。「元 気をつけ,体液不足を補い,みぞおちあたりの痞えを 取る生薬」とまとめることができそうです。

 一方,前回紹介した黄耆は補気作用のほかに「汗を 止める」など止汗や利水の効能があります。この効能 が人参とは大きな違いですね。両生薬を組み合わせる と「汗を止めながら体液不足を補い,大いに元気にし てくれる」方剤ができそうです。補中益気湯や十全大 補湯それに清暑益気湯などには両生薬が配合されてい ます。体力が落ちて寝汗など多汗の人に使われますが,

これらの生薬が重要な役割を果たしているものと思わ れます。参耆剤といって現在では重要な漢方薬です。

ほかにもありますので探してみてください。

 次は人参を含有する方剤をみてみたいと思います。

 まずは人参湯です。人参湯(効能又は効果:体質虚 弱の人,或いは虚弱により体力低下した人の次の諸症:

急性・慢性胃腸カタル,胃アトニー症,胃拡張,悪阻,

萎縮腎)は,人参・朮・甘草・乾姜から成る方剤で,

胃腸機能の衰弱した状態を回復させ元気にしてくれま す。胃腸機能が低下することでエネルギーである気が 作られず,冷えを生じた場合に適用となります。乾姜・

人参は消化管の血流を増加させることで胃腸を温め,

人参・朮・甘草で胃腸機能低下を改善させます。した

がって,冷えることで起こる胃腸カタル・胃アトニー あるいは下痢に用いられるのです。胃弱で冷えがあり,

みぞおちあたりの痞えがある人が目標になります。

 人参は,大建中湯にも含有されています。大建中湯 は小建中湯に比べ作用が強いということで,大の文字 が冠されています。建中湯類の中では他の方剤とは構 成生薬が異質です。前回の黄耆建中湯を始めとして多 くの建中湯は桂枝加芍薬湯を基本としていますが,大 建中湯は人参湯の加味方ともいえる漢方薬です。

 大建中湯は人参・乾姜・山椒・膠飴からできており,

「お腹が冷え,腸蠕動不穏が起き,腹痛するもの」に 用いられます。本剤の構成生薬は全て温めるもののみ から成り,冷えによる便秘や下痢を改善させます。山 椒はお腹を温めるとともに腸管血流と腸蠕動を促しま す。乾姜も胃腸を温めて腸管血流を促進すると同時に,

腸蠕動運動の行きすぎを抑制します。人参も腸管血流 を改善するとともに行きすぎた腸蠕動を抑制します。

膠飴は蠕動運動が抑制された場合,促進的に働きます。

本剤は腸管に働き,腸管運動が抑制された場合は山椒 や膠飴で促進させ,腸管蠕動が過度に亢進しすぎた場 合は乾姜と人参がそれを改善するのです。つまり大建 中湯は,漢方薬特有の中庸を保つ作用をもった方剤だ といえます。腸管運動を促進する,いわゆる一方通行 の薬とは趣を異にするので,本方剤は冷えによる便秘 にも下痢にも使われ,最近ではイレウスの予防や改善 の目的にも使われています。

 このほかに人参の配合された方剤には白虎加人参 湯・炙甘草湯・六君子湯・半夏瀉心湯・小柴胡湯・麦 門冬湯・呉茱萸湯などがあります。いずれも「気虚」

「津液不足」「心下痞」のどれかを目標に使われており,

人参の存在の大きさがわかります。

石毛 敦

横浜薬科大学漢方薬物学研究室教授

方剤における生薬の役割②

人参◉ 大建中湯

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