臨床リポート
黄連解毒湯を使用した 49 例の分析
対象と方法
結果1
結果2 黄連解毒湯は『外台秘要』の傷寒門に記載されてい
る。黄連・黄芩・黄柏・山梔子の4つの生薬からなる 方剤である。効能は瀉火解毒,主治は三焦熱盛である。
応用としては,①遷延している熱性疾患,②出血:吐 血・鼻出血・衂血・下血,③精神神経疾患:精神分裂 症,躁うつ病・神経症・血の道症など,④皮膚炎:乾 癬・蕁麻疹・湿疹・酒皶鼻など,⑤高血圧症,⑥胃腸 症状:胃潰瘍・胃炎など(『新版漢方医学』1))。
今回,当施設で過去3カ月間に黄連解毒湯を処方し た 49 症例の使用目的とその効果判定を行った。
当施設で 2011 年3〜5月の3カ月間に,黄連解毒 湯エキス顆粒(TJ-15)7.5 g/ 日(以下,黄連解毒湯)
を処方した患者は 49 名であった。ほとんどが実証に 近い人々で,少なくとも虚証の人はいなかった。
男 性 27 名, 女 性 22 名, 平 均 年 齢 は 56.3 歳 (23
〜 78 歳)と 60.3 歳(15 〜 80 歳)であった。疾患 分類は高血圧症関連疾患群が 29 例,鼻出血が3例(1 例は高血圧症と重複),皮膚疾患群が 18 例であった。
皮膚疾患は発赤が強く,皮膚瘙痒を強く訴えた人に投 与している。診断ができた症例は帯状疱疹2例,下腹 部湿疹3例,薬疹3例,日光皮膚炎1例であり,残り
の 10 例は疾患名を断定することができなかった。
投与方法は,A : 訴えに対し院内での投与,もしく はその後1〜2回の頓用,B : その後2〜3日間の短 期頓用的服用,C : 効果があったため,その後数カ月 間服用している長期投与例の3つに分けた。
また効果判定は,1:服用後1時間以内もしくは翌 日に有効であった群,2:有効とまではいえないが,
なんとなく改善したやや有効群,3:服用しても変化 がなかった不変(無効)群の3つに分けた。
投与した症例の効果は,45/49 例(91.8%)が有 効であった。即効的に有効であった症例は 26/49 例
(53.1%)であった(表1)。一方,不変(無効)例も 4例(8.2%)にみられた。即効的に有効だった症例 の中で,6例はその後も長期服用している。今回,患 者判定と医師判定に分けて評価を行ったが,判定に大 きな差はないことがわかった。
黄連解毒湯を投与したのは高血圧症関連疾患群が最 も多く,29/49 例(59.2%)であった。次は皮膚疾 患群 18/49 例(36.7%)であった。皮膚疾患群では,
10/18 例(55.6%)は疾患名がつけられなかったが,
残りの8/18 例(44.4%)では,病名をつけて投薬し 緒 言
表1 投与方法と効果判定 症例&判定 投与方法
例数 49
1:有効 26(53.1%)
2:やや有効 19(38.8%)
3:不変 4(8.2%)
A:数回の頓用 33 17(65.4%) 12(63.2%) 4
B:短期の頓用 10 3(11.5%) 7 (36.8%) 0
C:長期投与 6 6(23.1%) 0 0
結果3
た症例であった。発赤・腫脹と痒みを伴う症例(明確 な病名がない症例も含めて)では,黄連解毒湯の投与 で 17/18 例(94.4%)と高い比率で有効であった(表 2)。また3例の軽度な鼻出血患者に投与しているが,
有効であった(表2)。
そ し て 多 く は 頓 用 で 服 用 し て お り,15/29 例
(51.7%),その後数回または数日間の服用が8/29 例
(27.6%)であった。しかも長期に定期処方として服 用を続ける症例も6/29 例(20.7%)あった(表3)。
その愁訴は重複し,29 名の患者で 59 の愁訴となっ た(表4)。 主 に 頭 痛, ほ て り・ の ぼ せ, 動 悸, 肩 こりの訴えであり,55/59 愁訴(93.2%)に有効で あった。この 29 例の多くは1〜3回の頓用で,多く は 20 〜 30 分前後で愁訴の緩和・改善が認められた。
特に,日頃に比べ高い血圧に伴う症状,いわゆる高血 圧性脳症(頭痛,ほてり・のぼせ,動悸,肩こり,嘔 気)では 36/54 愁訴(66.7%)と高い比率を示した
(表3)。これらの中で,前後の血圧が測定できた 16 例では,危険な急激な血圧下降を示す症例はなく,自 覚症状の軽減もしくは消退を呈し,有用な対応策であ
臨床リポート/黄連解毒湯を使用した 49 例の分析
表2 疾患名と効果判定
症例数&医師判定 疾患群
例数(重複例あり)
50
1:有効 28(56.0%)
2:やや有効 17(34.0%)
3:不変 5(10.0%)
高血圧症関連疾患群 29(58.0%) 16 10 3 鼻出血 3 (6.0%) 2 1 0
皮膚疾患群 18(36.0%) 9 8 1
診断名:帯状疱疹 2 0 2 0
日光皮膚炎 1 1 0 0 湿疹:下腹部の発赤・瘙痒 3 1 2 0
薬疹 2 0 1 1
表3 高血圧症関連疾患群 29 例の投与法と効果判定 症例&判定
投与方法
例数 29
1:有効 16(55.0%)
2:やや有効 10(35.0%)
3:不変 3(10.0%)
A:数回の頓用 15 7(43.8%) 5 3
B:短期の頓用 8 3(18.8%) 5 0
C:長期投与 6 6(37.4%) 0 0
表4 高血圧症関連疾患群 29 例の愁訴(重複あり)
医師判定 愁訴(重複)
愁訴(重複あり)
59
1:有効 40(67.8%)
2:やや有効 15(25.4%)
3:不変(無効)
4(6.8%)
頭痛 22(37.3%) 13(32.5%) 7 2
ほてり・のぼせ 14(23.7%) 9(22.5%) 4 1
動悸 9(15.5%) 6(15.0%) 2 1
肩こり 7(11.9%) 6 1 0
嘔気 2 2 0 0
赤ら顔 2 2 0 0
不眠 1 1 0 0
耳鳴り 1 0 1 0
鼻出血 1 1 1 0
ることが実証された(図)。
過去3カ月間(2011 年3〜5月)に黄連解毒湯を 投与した患者は 49 例であった。その内訳は,①高血 圧症とその随伴症状(主に頭痛,ほてり・のぼせ,動 悸,肩こり),②鼻出血,③腫脹・発赤と瘙痒を併せ もつ皮膚疾患の3疾患群であった。
特に急激な血圧上昇に伴う症状(いわゆる高血圧性 脳症)に早期の対応が必要な臨床現場で,短時間作用型 の Ca 拮抗剤(ニフェジピン)の舌下投与が要注意2)の 現状下,黄連解毒湯の使用は危険を伴わない有用な対 応策であることが実証された。うち6例は1〜2回 / 日 の長期服用者で,血圧の安定化と頭痛,ほてり・のぼせ,
動悸,肩こり等の自覚症状の軽減・消退に効果があり,
長期服用でも安全であった。実証向きの方剤であり,苦 くて服用できない人は,証のとり間違いと考え服用させ るべきではない。また長期服用中,手足の冷えや寒がり などの寒証の徴候が起こらない限り,中止する必要はな い。今回の6例では寒証の出現はなく,現在も服用継続 中である。
鼻出血の3例のうち1例は,明らかに高血圧症と関
係し,ときどき鼻出血がみられていたが,本方の処方 後はみられなくなった。残りの2例は,西洋医学の注 射・内服薬を使うほどのひどい症例ではなかったので,
漢方薬が投与できたことは否めない。
2番目に多かった皮膚炎の3例は,下着やベルトに よる圧迫と摩擦が原因と考えられる発赤・腫脹と痒み を伴う皮膚炎(陰部湿疹ではない)に対して有効であっ た。さらに,重症帯状疱疹の初期症状の2例に後遺症 軽減を目的に黄連解毒湯を使用した。その効果をやや 有効と判定したが,投与しなければ,さらに重症化し たのかどうか,また遷延化したのかどうかは判断でき ない。しかし,これまでの経験からみると,これらは 比較的早期に発疹・水疱が暗赤色かつ痂皮形成となっ た印象があり,内服薬や注射剤などの西洋薬と黄連解 毒湯を積極的に併用すべきと考える。
日光過敏症の1例は,初春にハイキングをしての紫 外線による日光皮膚炎で,発赤と痛痒さを伴っていた 患者が,2日間の黄連解毒湯服用で症状の改善がみら れた。またイライラ感を伴う顔面の湿疹をもつ患者に 本剤を投与し,4〜5日で症状が改善した2症例も あった。これらの3症例は印象的であった。このこと から皮膚疾患で,発赤・腫脹と痒みを伴う症例では有 効例が多く,特に抗アレルギー薬で眠気などの副作用 が心配な症例では,黄連解毒湯の使用は1つの対応策 と考えられる。
黄連解毒湯は,高血圧症の種々の随伴症状に有効で あり,特に高血圧性脳症などで,緊急時にも安全に使 用できることがわかった。手足の冷えや寒がり等の寒 証の徴候が出現しなければ,長期服用も可能であり有 用である。また皮膚疾患でも,発赤・腫脹と痒みを伴 う症例では有用例が多いことが証明された。構成生薬 はいずれも苦寒剤であるので,冷水で服用させること を奨励する。黄連解毒湯は実証向きの方剤であり,苦 くて服用できない人は証の鑑別を間違ったと考え,服 用させるべきではない。
臨床リポート/黄連解毒湯を使用した 49 例の分析
結 語
【文献】
1)杵渕彰.新版漢方医学.財団法人日本漢方医学研究所,1990,p.226 2)高久史麿・矢崎義雄監修.治療薬マニュアル 2011.医学書院,2011,p.463
図 前後の血圧が測定できた 16 有効例の血圧の推移
考 察
投与前 1時間以内 直近の血圧
50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 150 160 170 180 190 200 210 220
臨床リポート
龍神 綾子
りゅうじん医院(静岡県駿東郡)
循経皮膚疾患としての胃寒による 蕁麻疹の1例
中国医学では経絡に沿った皮膚疾患を循経皮膚病と 呼ぶ。皮膚病というと1つの疾患を指すように聞こえ るため,循経皮膚疾患というくくりを考えてみた。
皮膚疾患の治療に際しては,皮疹の性質を考慮した 方剤を選択するのが一般的である。しかし,その性質 が全身の状態そのものとは限らない。『黄帝内経素問』
の皮部論篇には経絡と皮膚の部位の関係について記載 がある。外からは見ることのできない臓腑の外に反映 された現象や部位を臓象というが,その意味では舌の 所見や皮膚の部位も臓象といえるであろう。
皮膚科の日常診療において経絡に沿った皮疹を見る ことは稀でなく,経絡に沿った皮疹を臓腑経絡弁証によ り治療することを模索している。それが,一筋縄でいか ないのは臓腑に表裏関係や相関関係があるためである。
また気の流れは十二経脈と,体の正中を流れる任脈 と督脈を合わせて十四経脈を巡るのを基本としている が,それらをつないだり,経脈の流れていない部分を 流れる絡脈を通って縦横無尽に気が巡るため,病態は 複雑になる。したがって,弁証には部位のみでなく問 診・舌診・脈診・腹診も重要であることは変わりない。
また 五臓はすべてつながっているので,弁証して いるとさまざまな臓腑の症状が出てきて,堂々巡りに 陥りがちだが,最初に皮疹が出た部位や,特に痒みの 強い部位を参考にすると,どの臓腑が中心になってい るかの目星をつけやすいと考えられる。
経絡に沿う皮疹で典型的なのは線状苔癬である。例 えば太陽小腸経(図1)に見られたり,太陰肺経と厥 陰心包経(図2)に見られたりする。ただしその線状 の皮疹が経絡そのものの場所かどうかについては,ま だ検証されていない。事実として,皮膚に教科書通り
の線状あるいは帯状の皮疹が存在する。
西洋医学的には線状苔癬はブラシュコ線に沿うとさ れている(図3)。このブラシュコ線は背部の1個の 表皮原基細胞が分裂し波状に遊走していった範囲を表 していると考えられており1),軀幹は前に向かって波 状に並行になり, 四肢では胎児の成長していく方向 に上下に延びている(図4)。経絡の流れが個体の成 長に関連があるとすれば,ブラシュコ線と経絡は密接 な関係にあるといえる。現時点で筆者は,ブラシュコ 線は経絡現象の1つと考えている。
緒 言
図1
図2