〔3〕経済学への応用 経済成長とインフレ
ここではくさびのカタストロフィーの応用として、「経済成長」と「インフレーション」に ついて扱う。これらはそれぞれくさびのカタストロフィーを形成するわけだが、ここでは この二つを同時に扱いどのようなカタストロフィーが起こるかを考察する。
成 まず経済成長から始める。行動変数を成長率と
すると、コントV一ル要因は経済の引き締めの度.
合および対外政策どして平価の交換率(これを切 り下げ度とよぷ)を考えることができる。
例として次の状況を考える。まず図1の1に
沿った強い引き締め、引き続いて切り下げ、そし てすこしの引き締めのゆるめがあったとする、こ のとき、Xントロール要因はく1)の位置にあB、つまP低成長となっている。ここでさらに引き締
めをゆるti)、少し平価を切ll kげると、(2)→(3)
へのカタストPフt一ジャンプが起きて、高度成 長となる。 これは実際に、1968年に趨こった イギリスの状況をモデルとしている。
次にインフレに関して、インフレの度合を行動 変数とする。この場合もその一=ントロール要因と
しては経済成長のときと同じく、経済の引き締め と平押の切B下げが考えられる。しかしこれらは、
インフyには反対の効果を与える要因(闘争要因)
として働く。このインフレのモデルは図2のよう に経済成長のモデルを45。回転したものになって いる。先程と同O例で考える。(1)の点ではデフ
レであるが、(1)と(2)の間でカタストロフィーを 起こし、再び高インフy一ションが発生する。
以上二っのモデルを同時に考察することにより、
経済状態がよく解釈できる。図3は一つのコント ロール平面に経済成長とインフレの分岐集合
(くさびの曲線)をかいたものである。1に沿って 見ると、(1)ではデフレの低成長でつまり不景気 である。そして(1)と(2)の間でカタストロフィーが
K. {s)
tl}
1t
耶
ひさしめ度
菰
12L/t,図!
鰍
インフレ
(1}tt〈
デフレ
t ひきしめ度
り切 (3)
下げ ,
ひきしめ
起こり高インフレになるが、相変わらず低成長で不景気 である。つまワ(2)の状態が最悪のスタグフレーション である。次に(2)と(3)の問で成長率もカタストロフィ ーを起こして高成長の高インフレとなるのである。こ れが、1968年のイギリスの状況である。
経済の理想状態は、図3でmの道のように二つの
くさびの問から二つのくさびの曲線の重なった部分に 入り込み、そこで停滞していることである。そのときは、低インフレの高成長となるhけである。
切り下げ
(3)
(2)
1)
高艮 成
抵インフレ
高インフレ
1八皮
長
図3
他の経済学への応用としては、株式市場の暴落(薮131Dが有名である、
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§3 忘用に対する注意と批判
カタストロフィー理論の応用に対してトムは、「カタストロフィーのモデルは、同時に 科学的な理論以下であるし、以上でもある。これを、我々はそれによって与えられたデー
タを系統化し、分類するための言語あるいは方法と見るべきである。… 中略…
事実どの現象もカタストロフィー理論からの適当なモデルで説明することはできない。・
・・ ?ェ… すべてを説明する理論はなにもない。このことはモデルを物理学の定量的 な法則や実験的試みから得られると同じものを期待してほいけないことを意味する。・・
・」([123 ]p.35)と述べ、さらに初等カタストロフィ・一・・理論はカタストロフィー理論に は等しくないことを強調した。つまリカタストロフィー理論は、ある現象を解釈するため の一つの言語であり、初等カタストPt 74一はその第一歩であるということになる。また トムは、「私が提供するものは科学的理論ではなく、方法である。モデル構成の第一歩は 与えられた形態の経験とよく調和する力学的モデルの描写をすることであ号、これはまた 考察している現象の理解の第一歩である.我々は理論家が(カタストueフィt…理論によっ て描写された特定の過程の)定量的モデルを開発することを望むこともできようが、しか
しそれはあくまでも望みに過ぎなv㌔」([123 ]Pe36)と述べている。感用に関して経験 とよく調和がとれていなければいけないわけだが、この意味ではこの章の§1,§2で掲げ t例は、まウたく明白であるかもしれない、しかしそれらは、ゼ古い事実を新しい知識と
した」と見て、解して下層スFWフィー理論のすべてではないことに注意しなければなら ない。また各分野における応用の中で用いられる専門的知識は、それを仮定することによっ て現象が解釈されるのである。
次にこのようなカタストmフィー・理論の応用に紺する批判は幾多あze 。そのうち前二節 で述べた応用例に対するものを以下に掲げる。
コースティクスのようにそのポテンシャルが数学的に記述されているものに対しては、
「すべての現象はカタストロフィー理論の数学によって支配される。」([18])というように、
カタストロフィPt理論は問題なく適用される。しかしポテンシャルや仮定が不明確なもの に対するカタストロフィー理論の晦用にはもっともなことだが、特に批判が集中している。
実際1976年にズッスマン(H.J. S ussman)は、「株式市場の暴落」、「刑務所の暴動」、「軍事 行動に関する世論のモデル」に対する応用を詳細に分析し、「漠然と形式化された、誤りの仮 定に基づき、しかもいくつかの自明でない予想へと導くものであること。さらにこれらの 予想の大部分は現実と一致しなv㌔」([105],[1◎6],[IG71)と批判しk。さらに誰もが自 然に疑問に思うことだが、コントロール要因の個数が限られていること、まfa何をコント
ロール要因にするのが妥当であるか等の問題点もある。
次に、飲酒運転に対する批判を掲げる([89])。
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第一は、実験のデータがくさび曲線によくあつていると言っているが、実際はそれ程よ く合ってほいないということである。
第二は、実際のスピードをコントロール変数としたとき、二つの問題が起こる。その一 つは、スピードの見積もりである行動変数を見出だすことであり、もう一つは被実験者が カタストnフィー多様体全体に散らばらずに、なぜほとんどすべて分岐集合の付近に集中 するかを説明することである。
「カタストロフt一理論は正しいか」の問いに対しては、トムの定理を中心とするその数 学的理論は正しいといえる。しかし応用面となると上に述べたように多くの批判や問題点
もあり、実際の応用例に対しては多くの誤りもあるように思われる。ところで約三百年前 の微積分を発見した轟ユートンの理論が後になってVろいろ間違っていることがわかっk が、それは微分積分学の間違いを意味していたわけではない。それと同じようにカタスト
ロフィー理論の応用についてはその是非よt)も応用のされ方に多くの誤拳があるように思 われる。このようなことは、数学としては受け入れがたいことではあるが、反面試行錯誤
をすることによぎ1旛用鐙発展があることを考えれば、必要なことかもしれない。
最後に、「カタスlffフィー理論は有用か」の問いに対しては、多くの異なる過程の特徴 の共通語彙を提供するという意味では有用である。しかし多くの場合我々がすでに知うて い轟以上勇ことを述べないという意味で慧有用ではない。
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終章
この論文を終えるにあたり、ここでは今後の研究の課題等について述べる。
序章で述べたように 構造安定性 の概念を理解しさらにライフワークの一つであるト ムの著書「構造安定性と形態形成」を読み理解していく上で、ここでの二年間の研究は大い に役立っk。それは内容的には一部であるかもしれないが、構造安定性を理解でき、また 今後の研究の方針を与えていただいた。今後はこの二年間の研究をもとにさらに進んで数 学における構造安定性を研究しっっ、広く社会における構造安定性にも目を向けていきk い。そして輻広い知識をもって前掲のトムの著書をよll 一層深く理解していきたい。加え て有益な形でのカタス峰mフィー理論の感用についても考え、自らも応用していきたいと
望んでいる。
最:後に、本論文の作成にあたVIPまた二年間の研究に薄して指導・助言をいただいた兵庫 教育大学の先生方に厚くお礼を申し上げます.特に、小池敏司先生には入学当初から研究 に対し厳しく指導していただき、論文作成にあたっても貴重な時間を割いていただきまし たeこの場を借矯て感謝の意を表します。
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