︹ SE2700︶
4 年輪年代 測定法 による出土木製 品の年代
遺跡の発掘調査で出土す る各種木製品のなかで
,年
輪数がお よそ100以
上あるヒノキ材のも のであれば年輪年代測定法に よる年代測定が可能である。 ヒノキは年代を1年
単位で割 り出す ことのできる物差 し (これを暦年標準パターンと呼ぶ)は ,BoC.206年
か らA.D.1986年
まで が完成 している。現在,
これを使 って多 くの遺跡出土木材の年輸年代を明 らかにし考古学上の 成果を得ている。今回の平城京右京八条一坊十三・ 十四坪の発掘調査では
,年
輸年代測定法に適用で きるヒノ キ材の木製品 として井戸枠材や井戸枠内の堆積土か ら出上 した曲物容器類がある。 これ らのな かか ら樹皮付 きの井戸枠材1点 ,曲
物容器類3点 ,こ
の他にスギ材で作 った大型の折敷断片1
点の総数5点
について年代測定を行なった。 これ らの年輪年代が判 明す ると井戸の築造年代や 廃絶年代を推定す る手がか りが得 られ る。 また,
ヒノキの暦年標準パターンがスギにも適用で きるか どうか粥 らかになれば,
ヒノキの暦年標準パターンを使 った年代測定が より幅広い木製 品に適用できるようになる。 ちなみに 現生木の ヒノキ とスギの 年輪変動パターンのあいだに は,距
離が近い と高い相関関係にあることが判切 している。1)今回は
,
ヒノキの暦年標準パターンを用いて上記5点
の木製品の年輪年代を測定 し,井
戸の 築造年代や廃絶年代についてある程度の知見が得 られた ことと,
ヒノキの暦年標準パターンを 使 った年代測定がスギ材 の木製品にも適用できる見通 しが得 られた ことについて報告す る。A 試料 と方法
年 代測定 を行 な った試料 は
,
ヒノキ材 と判 明 した ものの 中か らSE 1365の
井戸枠板 のなかか ら樹皮が一部 に 残存 して い る板 を1枚 ,SE 1335の
堆積土 か ら出上 した 曲物容器 の底板1点 (PL.47‑38),SE 1867出
土 曲物容器の底板1点 (PL.47‑43),SE 2020の
枠 内か ら出上 した 柄 杓1点 (PL.47‑36),
この他 にSE 1870の粋 材 に 再利用 されて いた スギ材 の折敷断片1点 (PL.48‑55)を
加 えた総数5点
であ る。 これ らは,す
べ て柾 目板 に木取 りした ものばか りであ る。年輸幅の計測 は,木
製 品 の柾 目面 か ら年輪 幅読取器を使 って10ミ ク ロンまで読 み取 った。読 み取 った年輸 幅 デ ータは
,直
ちに コン ピュータに入力 し,試
料1点
ご との年輪変動 パ ター ン グラフの作成 を行 な った。年輪変動 パ ターンの照合 にあた っては,暦
年 標準 パ ター ンを構成 す る年輸 幅デ ータか ら求めた年輪指標値 を 自然対数値 に変換 した もの と,
これ と同様 に して求 めた試料1点
ご との 自然対数変換値 とを使 って,さ
きの 自然対数 変換値 を基本 に し,試
料1点
ご との 自然対数変換値 を1層
ず つず らしなが らその度 ご との相関係数rを
求 め,つ
ぎにt検
定 を行 なって,t≧ 3.5に
な る箇所 を すべて検 出 し,そ
の なかで も最大 のt値
に着 目す る方法をとった。最終決定 は
,
コ ンピュータで検 出 した箇所 を もとに,
日視 で もって双方 の年輸変動 パ ター ングラフを透視台上 に重ね あわせて,年
輪変動 パ ター ン全体 を詳細 に検討す る とともに,暦年標準 パターンのなか の指標年輪 の位置 で試料 の年輸変動 パ ター ンが一致す るか ど うかを確
1)光
谷拓実「わが国における年輪年代研究法の現状 と展望」『考古学 と自然科学』20,1988。′7J
井戸枠材 曲物
(底
板)曲物
(底
板)柄杓
(身
)折敷 (断片)
Tab.28
年代測定結果1
2
3
4 5ヒ ノ キ ヒ ノ キ ヒ ノ キ ヒ ノ キ ス ギ
SE1365 SE1335 SE1867 SE2020 SE1870
10。2 9,6 10.4 11,0 6.1 275
261 204 186 179
737 740 730 716 638
未加工 (樹皮有)
外周を加工
めた後
,暦
年標 準 パ ター ンの暦年 を試 料 の年輪変動 パ ター ンにあてて,試
料 の残 存最 外年輸年 代 を求 め る こととした。B 結果 と考察
試 料
5点
の計測年輸数 と年輪変動 パ ターンの照合 を行 な った結果,そ
れ ぞれ の年輪年代を明 らかに で きた。判 明 した試 料 の残 存最 外年輪 測定年 代 お よびt値
につ いて は, Tab.28に
示 した とお りであ る。表中の
t値
は,
このt値
が高 いほ ど双方 の年輪変動 パター ンが酷似 してい る こ とを示す。 これをみ る と, 5点
の数値 が,一
応 の基本 としたt≧ 3.5よ りもは るかに高 い数 値 を示 してお り,
これ らの年輪変動 パ ターンが暦年標準パ ターン とよ く重複 してい ることを示してい る。以下
, 5点
の年輪年代 につ いて若千の考察 をす る。l SE 1365の
築 造 年 代 に つ い てSE1365の
井 戸枠 材 に使 われ て いた板 は一 部 に樹皮 を とどめて いた。 これ の最 外 年輪 測定年 代 は737年
であ った。 さ らに737年
に形成 された年輪 を顕微鏡下 で観察す る と,春
材 につづ く 夏材 はほ とん ど形成 され て いない と判断 で きたので,
この原材 は737年
の夏か ら秋 に伐採 され た可能性 が極 めて高い (も し,夏
材 が完全 に形成 され ておれば,
この原材 の伐採年 は737年
の 秋 か ら738年
4月頃 まで の2年
に またが る 時期 を 想定 し なければ な らない)。 つ ぎに,井
戸 SE 1365の築造年代 につ いてで あ るが,
この板材 の伐採年 を もって即,井
戸 の築造年代 とみ な す こ とはで きない。 た とえば,
この板 が転用材 であ る とす る と井戸 の築造年代 よ り古 い年代 を 示 す こ とも考 え られ るが,こ
の板材 を見 るか ぎ り,以
前何 かに使 われ ていた こ とを示 す痕 跡 は 全 く認 め られ ない。 とす る と,
この板材 は当初 か らこの井戸枠用材 として使わ れた とみて よか ろ う。残 るは,こ
の板材 がSE1365の
井 戸枠材 として伐採後,す
ぐ使われた ものであれば問題 は ないが,伐
採後,何
年 間 か寝 かせ てか ら使 用 した ものであれ ば,伐
採年 と築造年 代 とのあい だ に 時間的 ズ ンを 生 じる。 したが って,
この板材が 何年 間寝 か されていたかは 不 明であ るか ら,SE 1365の
築造年 代 を正確 に求 め る ことは で きない。したが って
,
この場合 は,少
な くと も伐 採 後数年 以内に築造 した ことが推定 され る。2 SE 1335,SE 1867,SE 2020の
廃 絶 年 代 に つ い てSE1335,SE1867,SE2020か
ら出土 した 曲物 (底板)2点
と柄 杓 (身)1点
はそれぞれ井戸 内の埋 土 か ら出土 した ものであ るか ら,
これの年輪年代が判 明すれば,井
戸廃絶 の年代 の手がr夕b
か りが得 られ る。 これ ら
3点
の形状 をみてみ る と,原
材 の中心部分 を使 って作 った ものかあ る いは樹皮 に近 い部分 を使 って作 った ものか不 粥であ る。 その上,曲
物 製 品 として仕上げた とき に周辺 を どの程度削 って加工 した ものか も推定 しがたい。 したが って,
これ ら3点
の残存最外年輪測定年代 は
,原
材 の伐採年 よ り古 い年代値 を示 してい る。 しか し,
この遺跡 は8世
紀末 を下 限 とす る点 を考 え る と
,
これ らの年代値 はいずれ も8世
紀代 を示 した ことか ら,か
な り原材 の外周に近 い部分 で木取 りしてい ることが推定 で きる。 しか し,
これ らは曲物製 品に加工 され てか らどの程度 の期 間使用 した後, 3基
の井戸に投棄 され た ものか不 明であ る。 これ らの点を 考慮 に入れ る と3基
の井戸 の廃絶年代 は,そ
れぞれ の残存最外年輪 測定年代が示す年代を上限 とし,こ
れ よ りかな り後 になってか らの ことが 推定 され る。この よ うに
, SE 1365の
場合 と 違 って,加
工 した木製 品の年輪年代 は一 つの時間的定点を与 える ものの,遺
構 の年代観 とは直 接結 び付 か ない場 合 が多 い。 したが って,こ
の よ うな木製 品か ら得 られ る年輪年 代を もとに し て,井
戸3基
の廃絶 年代 を推定す るにあた っては,
これ らの測定年 代ばか りで な く井戸掘形や 井 戸 内の埋土か ら出土す る土器や瓦 あ るいは木筒等 の年代 を勘案 して総合的に半J断しなければな らない。
+3 SE 1870出
上 の ス ギ製 折 敷 の年 代 測 定 に つ い てこの折敷の断片は
,
もとの形状か らす るとはぼ中央付近で左右対称に割れてお り,樹
心に近 い方の左半分が井戸枠材に転用 されていた ものである。 ヒノキの暦年標準パターンとこのスギ 材折敷の年輪変動パターンの照合の結果,459年
〜 638年 の ところで最大のt値 (6.1)を
検出 した。この
t値
は,有
意な相関関係があるか どうかを検定す る時に一応の基準 としたt≧ 3.5Fig.88
ヒノキの暦年標準パターングラフ(下
)と井戸部材 (樹皮つ き)の
年輪変動パターングラフ (■)Fig.89 ヒノキの暦年標準パターングラフ(下)と折敷
(ス
ギ材)の
年輪変動パター ングラフ(上)八 ハ
ハ 却 潤 氏 ハ 凡 ヽWr γ V々
ヽV︐ど 。 sBcly
守 だ 年 鋼 掏 ¬ 八
.̲̲̲̲̲……
よりもかな り高い数値である。 この結果を もとに
,
日視でもって双方 の年輪変動パターングラ フを重ね合わせてみても,両
者 はほぼパランルな形で変動変化 してお り,正
しく重複 している ことを確認 した。Fig.89に
は ヒノキの暦年標準パケーングラフ(下)と
スギ材折敷の年輪変動 パターングラフ(上)とを示 した。 ここで ヒノキの暦年標準パターンを構成す る試料が主に平城 官跡出土の柱根類であることを考 えると,
このスギ材の産地 は これ らの柱根類が伐採 された産 地 と近いことが推定 され る。 この結果か ら,地
域的な問題は残 るものの ヒノキの暦年標準パタ ーンを使 った年代測定がスギ材のものにも適用できるとの見通 しを得 ることができた。なお,今回の場合
,完
形品でなか った ことと,転
用材であることを考 え合わせ ると,原
材の伐採年 よ りかな り古い年代を示 していることが考えられ るため,こ
の年代値を もってただちに丼戸の築 造年代 とみなす ことはできない。C
今回
,
ヒノキの暦年標準パターンを使 って,井
戸枠材1点 ,井
戸埋土か ら出上 した曲物容器 類3点
の年代測定をお こない,そ
れぞれの年輪年代を求めることができた。その結果,SE1365
については築造年代を,SE1335,SE1867,SE2020に
ついては曲物類を井戸に投棄 した年代の 上限すなわち,廃
絶年代を考察す る上で大変有効 な年代値を提供できた。 また,SE1870の
井 戸枠に転用 されていたスギ製の折敷 (断片)の
年輪年代を求めることができた ことに よ り,地
域的な適用範囲の問題は残 るものの
,
ヒノキの暦年標準パターンを使 った年代測定汝がスギ材 の木製品に も応用できる見通 しが得 られた。と め ま
・奈良 川 野 野 森 手 日
朗 石 長 長 青 岩 秋
木 知 野 良 畿
″ 栃 高 長 奈 近
なお
,最
後に ヒノキ,ス
ギを含めた6樹
種を用いた暦年標準パターンの作成状況をかかげて1)お く
(Tab.29)。採 取 地 作 成 年 代 試料の年代
ヒ
ノ
キ
ドキュメント内
1 条坊遺構 と地 割
(ページ 35-38)