風をよむ や 風をきる 等の 風 にちなんだ言い回しがあるが、ここでは そのももズバリの 風をみる 話しをしたい。
入社以来、約26年の間、レーダ関連の開発に携わってきた。当初は 普通 の レーダ、つまり、一般的におなじみの移動物体を見るレーダの開発に携わってきたが、
最近の数年間は風を見るレーダやライダー(レーザレーダ)に関わっている。
レーダといえば、我々が利用する民間航空機の管制をおこなうための航空管制レー ダや天気予報でおなじみの気象レーダがすぐに頭に浮かぶのではないだろうか。これ らのレーダは、アンテナから電波を発射して見ようとする対象物からの反射波を受信 しているが、風をみるレーダは、風そのものからの反射を得るものではなく、雨粒や 大気中のチリ等からの反射を得て、それらが風にのって移動するのを観測し、間接的 に風をみるものである。
空港気象ドップラレーダ
航空機事故の大部分は離発着時に集中すると言われており、その離発着時の航空機 に重大な影響をあたえるが、滑走路周辺の風の急激な変化である。1975年にニュー ヨークのケネディ空港で着陸しようとした航空機が、マイクロバーストと呼ばれる急 激な下降気流に巻きこまれ墜落、112名の死者を出す事故が発生した。これを契機 に航空機に関してマイクロバーストの危険性に対する関心が増してきた。
風の急変する領域を総称して「ウィンドシヤー」といい、地上から500mまでの ものを「低層ウィンドシヤー」と称し、航空機の安全に大きな影響を与えるといわれ ている。米国では1980年代に、この低層ウィンドシヤー検出用のレーダの開発が 進み、90年代の初めから主要空港を中心に約50箇所に展開され、航空機の安全運 行に供されている。
我が国においても、90年代の初めから気象庁を中心に開発がはじまり、1995 年、関西空港に我が国最初の空港気象ドップラレーダが設置され、以降、羽田、成田、
千歳、伊丹、那覇と国内主要空港に順次設置されてきた。
空港気象ドップラレーダは5GHz帯の電波を使用し、7mのパラボラアンテナか ら0.7度のビームで空間を3次元走査して、風の流れにのった雨粒からの反射波を 受信する。各種信号処理の後、表示装置に風向・風速を表示するとともに、ウィンド シヤーを検出すると、アラームを発して管制官に知らせる。
後方乱気流検出装置
これも航空機の安全運行に関するもので、大型機が通過する際に発生する乱気流を 検出する装置である。大型航空機が離陸する場合,大型航空機の主翼から後方乱気流 が発生し、小型機がこれに続くと乱気流の影響を受け、最悪の場合墜落にいたる。実 際、過去に後方乱気流に巻きこまれた事故が報告されており、そこで現在は民間航空 機においては安全のため3分以上の間隔をあけて運航されている。
この後方乱気流の検出にはレーザレーダ、別名ライダ(Light Detection And Rang-ing)が用いられる。大気に向けてアイセーフ帯のレーザを発射し、空気中に漂うエア ロゾルからの微弱な反射光を受信して、乱気流の状態を観測するものである。現在は まだ開発段階であり、完成すれば後続機の離陸までの時間を狭めることができて,混 雑空港では運航の効率化と安全性の向上が期待できる。
ウィンダス
読者諸氏はウィンダスという言葉をご存知だろうか。多分アメダスならほとんどの 読者がご存知と思うが。天気予報で有名なアメダスの正式名称は地域気象観測システ ム(AMeDAS:Automated Meterological Data Acquisition System)といい、全 国1300地点余りの無人観測所で降水量、気温等を自動観測し、東京のセンターに自 動配信している。これに対し、ウィンダスは局地的気象監視システム(WINDAS:
Wind Profiler Network and Data Acquisition System)と呼ばれ、上空の風の状 況をきめ細かく観測し、東京の気象庁にある中央監視局に観測データを自動配信して いる。平成13年4月から全国25箇所に設置された風観測用のレーダ(ウィンドプ ロファイラー)により観測を開始した。現在は31箇所まで増設されており、アメダ スに対してウィンダスと名づけられた。ウィンダスは豪雨や豪雪などの局地的な気象 災害の要因である 湿った空気 の流れを連続的に観測する事が可能であり、集中豪 雨等の局地的現象に対する予測精度の向上が期待されている。
ウィンドプロファイラーはアクティブフェーズドアレイ方式のLバンド(1.3G Hz)レーダであり、一辺が4mで開口面積16m2 のアンテナから上空5方向(東西 南北と鉛直方向)にビームを送信し、各ビームは大気の乱れ(乱流)による屈折率変 動によって生じる散乱波を受信する。乱流は大気の流れ(風)に乗って移動するので、
各ビームで検出したドップラ速度の組合せから風向・風速を求める。風のプロファイ ルを測ることからウィンドプロファイラと呼ばれる。
赤道大気レーダ
ウィンドプロファイラは局地予報のため、上空約5〜6kmまでの風の状況を観測 するものであるが、赤道上空(約20km)の大気の流れの観測は全地球的な異常気 象の解明にも役立つといわれている。これは赤道付近が全地球的な大気循環の源(赤 道付近で暖められた大気が両極に向って流れる)であり、この大気循環を長期連続的 に観測する事が学術的に重要とされている。2001年3月に京都大学宙空電波科学 研究センターはインドネシア航空宇宙庁の協力のもと、インドネシアのスマトラ島に 赤道大気レーダを設置して、観測を開始した。
赤道大気レーダは560本の八木アンテナを直径約110mの円形フィールドに配 置し、電子制御によりアンテナビームを形成するアクティブフェーズドアレイ方式の レーダであり、50MHz帯の電波を上空に発射し、約20km上空までの大気の流 れを観測できる。
本レーダの構想は1980年代初めころからあり、京都大学の先生方を中心に、ま ずは設置場所を探すのに大変苦労さたと聞いている。設置場所はインドネシアのスマ トラ島の赤道直下、ブキティングという町から更に1時間ほど車で走ったところであ り、甲子園球場くらいの広さにジャングルを切り開き、アクセス道路を整備して、日 本から送った機材を港に陸揚げし、港からレーダサイトまで陸路トラック輸送して組 上げたものである。
おわりに
入社以来これまで、いろいろなレーダの開発に携わり、実際に装置設計も担当して きたが、本当に技術の進歩が著しいのを実感する。入社当時はトランジスタを組み合 わせてフリップフロップなどを組んでいたが、それからIC論理回路となり、しばら くしてマイクロプロセッサが登場し、瞬く間にプロセッサ回路に置きかえられた。ま た、ICの集積度が飛躍的増大し、特にメモリなどは旧製品がすぐに製造中止となり、
レーダのように、一度開発すると10年〜20年使用される製品などは、補給部品の 入手に非常に苦労するとともに、新部品による再設計も再三である。製品サイクルの 長いものの宿命か。