第 5 章 アフレック・ダイン機構 33
5.3 平坦方向の発展
5.3.1 インフレーション中
インフレーション中は、H =HI ≫m3/2なので、ポテンシャル(5.20)中の隠れたセ クターからくる項は無視できる。よって、ポテンシャルは
V(ϕ, ϕ∗) = −cHI2|ϕ|2 +
( aHI
nMn−3λϕn+ h.c.
)
+ |λ|2
M2n−6|ϕ|2n−2 (5.21) となる。
c >0なので、ポテンシャルは原点で持ち上がった形をしており、ϕ = 0は安定点で はない。一方、ϕが大きな領域では(5.21)は|ϕ|2n−2で持ち上がっていく。すなわち、い わゆるワインボトル型のポテンシャルとなっており、ϕ ̸= 0の点に安定な極値を持って いる。図(5.1)
この安定点の動径方向は、おおよそ次のような値になる。
|ϕ0| ≃
(βHIMn−3
|λ|
)n1−2
(5.22) β は a, c, nに依存する定数で、(5.21)の第2項を無視できるならばβ =√
c/(n−1)と なる。インフレーション中のハッブルパラメータHIは定数なので、このポテンシャル は静的である。よって、ϕはこの安定点にあると考えられる。
一方、U(1)を破る(5.21)の第2項は位相方向にcos(θa +θλ +nθϕ0) = −1 を満た す最小点θϕ0 を持ち、場はその点に安定に存在している。ただし、複素数xの位相を x=|x|eiθx と表している。
5.3.2 インフレーション終了から ϕ が振動を開始するまで
インフレーション終了後からH ≥m3/2時期を考える。この時期、宇宙はインフラト ンの振動によって物質優勢になっている。物質優勢ではハッブルパラメータHと時間 tはH = 23t−1の関係にあるから、ϕの運動方程式(5.19)は
d2ϕ dt2 +2
t dϕ
dt +dV(ϕ, ϕ∗)
dϕ∗ = 0 (5.23)
となる。V(ϕ)はインフレーション中と同様(5.21)の形をしているが、Hは時間の関数 となっており、ポテンシャルの形は時間的に変化する。図(5.2)
ここでは簡単のために、ポテンシャル(5.21)の第2項は0とおいて考えることにす る。もしa̸= 0であっても、位相が変化するだけで本質的な変化はない。よって、運動 方程式は
d2ϕ dt2 +2
t dϕ
dt −4
9ct−2ϕ+ (n−1)|λ|2 ϕ2n−3
M2n−6 = 0 (5.24)
となる。この時期の特徴は、ϕの極値
|ϕ0(t)|=
(β′Mn−3t−1
|λ|
)n−12
(
ただし、β′ =
√ c′
n−1, c′ = 4 9c
)
(5.25) が時間とともに減少することである。それにともなって、もともと極値にいたϕは引 きずられて小さくなっていく。以下ではそれを示そう。
ここで、簡単のために次のように変数変換をする。
z = lnt
ϕ =|ϕ0(t)|χ=
(β′Mn−3e−z
|λ|
)n−12
χ (5.26)
z, χを使って(5.24)を書き直すと、次式になる。
¨ χ+
(n−4 n−2
)
˙ χ−
[
c′+ n−3 (n−2)2
]
χ+c′χ2n−3 = 0 (5.27)
この方程式には不動点
¯ χ=
(
1 + n−3 c′(n−2)2
)2n1−4
(5.28) が存在する。パラメータn, c′はn > 3, c′ > 0を満たすことから、χ¯ & 1であり、仮に 初期値がこの不動点にあったならば、ϕはポテンシャルの最小地点より少しだけ大きい 値ϕ(t) = ¯χ|ϕ0(t)| に固定されたまま、|ϕ0(t)|の減少とともに小さくなっていく。
もしχが不動点からずれていた場合には、χはχ¯の周りを振動しながら|ϕ0(t)|の減 少を追っていくことになる。(5.27)からわかるように、この振動はnの値によって異 なっており、n > 4では減衰振動を、n = 4では振動をする。(n <4ではポテンシャル
いくことがわかる。
5.3.3 ϕ が振動する時期
さらに時間が経過しHがm3/2程度まで小さくなると、mϕ ∼m3/2であるから、ポテ ンシャル(5.20)中のm2ϕ項及びAm3/2項も重要になってくる。この時期のポテンシャ ルは次式のようになる。
V(ϕ) = (
m2ϕ− c′ t2
)
|ϕ|2+
((Am3/2+aH)λϕn
nMn−3 +h.c.
)
+|λ|2|ϕ|2n−2
M2n−6 (5.29) バリオン数を破るA項がポテンシャルに効き始めることで、バリオン数を生成するこ とができる。
このポテンシャルは、(5.29)の第1項を見るとわかるとおり、H2 ∼ ct2′ .m23/2 (t&
m−3/21)になると今までのワインボトル型から原点にミニマムを持つ形に変化する。そし てこれ以降、ϕは原点の周りを振動しながらϕ= 0へと落下していくことになる。
(図5.3)
インフレーション中のポテンシャル(5.21)からわかるように、初期値ではcos(θa+ θλ+nθϕ)で入っていたϕの位相は、H ∼m3/2を境にAm3/2項がaH項より大きくなる ことでcos(θA+θλ+nθϕ)に変化する。よって、仮にθA̸=θaだったなら0でないθ˙が生 じることになる。これにより、B−L数密度nB−L= 2|ϕ|2θ˙が生成されるわけである。
また、サハロフの3条件で見たとおり、C, CPの破れもバリオジェネシスに必要な条 件であるが、A項は位相を通じてこの破れも起こしている。
ポテンシャルの時間発展の模式図
ポテンシャルV(ϕ)の時間発展を模式的にまとめておく。図の横軸は|ϕ|、縦軸はV(ϕ) である。インフレーション中はポテンシャルは固定され、ϕはポテンシャルミニマムに いる。インフレーション後、ポテンシャルミニマムは小さくなっていき、ϕもそこに付 いて行く。H < m3/2になると原点がポテンシャルミニマムになり、ϕは振動しながら 原点に落ちていく。
0
0
図 5.1: インフレーション中:H =HI
0
0
図 5.2: インフレーション後:m3/2 < H < HI
0
0
図 5.3: 平坦方向ϕの振動期:H < m3/2