アマモ場等の海草藻場は、海藻藻場とともに、魚類にとって産卵や稚仔魚期の育成場として重要である(菊池1973,
小路 2009)。稚仔魚にとってアマモ場は、豊富な底生動物を採餌する餌場として、また捕食者から逃避する隠れ家としての機能を持つとされている。三河湾全体では高度経済成長期に広大な面積のアマモ場が失われたが、東幡豆の沿岸には比較的まとまった面積のアマモ場が残され(
3
章(
1
)、小型巻貝類、小型甲殻類、多毛類など葉上動物が多数生息している3
章 筆者らが調査した結果を紹介したい。調査は、春から初夏にかけて行った( ここでは、東幡豆のトンボロ干潟に隣接するアマモ群落とその周辺でみられる魚類について、2
)。20
14年
4月、
5月、
7月の計
3回)
。魚類の定量採集は、アマモ群落が密に生える密生区、パッチ状に分布する疎生区、アマモが生えてない砂地の
3か所で、
砕波帯ネットを岸と平行に
10
m曳網して行った0
(図
2)。 豊川の河口干潟において本種 20072008a 本種は、伊勢湾、瀬戸内海、有明海などに分布するとされていた(乾ほか)。荒尾()は、 キセルハゼ
5個体を採集し、三河湾からの初記録を報告した。三河湾は、本種 の生息分布の東限に当たる。また、本種の生息地は極めて局所的である。これらの点から生物地理学的にみて、本種にとって三河湾は貴重な生息場であると言える。本種は、河口干潟や前浜干潟に生息し、軟泥底に掘られたニホンスナモグリやアナジャコの生息孔内に生息すると考えられている(鈴木ほか2006)。本種が採集された豊川の河口干潟(砂泥質)では、アナジャコのものと思われる生息孔が多数見られた。なお、東幡豆のトンボロ干潟(砂泥質)では、ニホンスナモグリと同属のハルマンスナモグリの生息も確認されているが(石川ほか2016)、本種は確認されていない。
内湾や河口域に生息するハゼ科魚類の多くは、環境省や愛知県のレッドリストに掲載されており、干潟の減少や環境悪化を表している(乾・小山2014)。筆者の調査でも、レッドリストに掲載されたハゼ科魚種が多く見つかった(表
した魚種等もみられ、沖合 また、ニホンウナギやウツセミカジカなどの通し回遊魚、ボラやスズキなど様々な場所で出現 1)。
-沿岸
-河川、干潟
-アマモ場
-岩礁域(海藻藻場)など、生活史に
応じてダイナミックに流域・海域を回遊・移動する魚種、沿岸域の様々な環境要素に依存する魚種が存在していた。
種は、広い範囲を動き回り、アマモ場には一時的に来遊するタイプで、餌を探すため夜間や高潮時に来遊するものなどがいる。偶来種は、特にアマモ場を利用する目的はなく、偶然に来遊してきた種である。ただし、アマモ場への依存度は同じ魚種でも海域等によって少しずつ異なり、ある文献では周年定住とされた魚種が、別の文献では季節的定住とされる場合もある。正確に判断するためには、対象とする海域毎に、行動生態等も含めた綿密な周年調査を行う必要がある。本稿で示すタイプは、アマモに対する依存度のおおよその目安と考えて頂ければと思う。
トンボロ干潟周辺アマモ場の出現魚種
砕波帯ネットによる定量調査では、期間全体で、総計
4目 13種
67
1個体の魚類が採集された
(表
1973,していると考えられる(菊池 ほぼ全ての個体が稚魚であったことから、他の研究事例と同様、主に稚魚期の育成場として利用 2)。スズキ、ヘダイ、メバル類、タケノコメバルといった季節定住種は、いずれも個体数が多く、
寺脇ほか 1997)。スズキ、メバル類、タケノコメバルは、日本各地のアマモ場でよくみられる代表的な魚種である。一方、ヘダイは出現頻度こそ低いものの、時折まとまった個体数で報告されている魚である(上出ほか2012,
中津川 1981)。またヘダイ幼稚魚は、クロダイ幼稚魚と餌料生物を巡って競合関係にあると考えられるが、出現盛期が約
2週 間ずれることで、時間的な住み分けがあると言われている(中津川1981)。周年定住種では、ギンポ、ヒメハゼ、アサヒアナハゼ、ヨウジウオで個体数が多く(表
2)、成 砕波帯ネットは、少人数(
2人以上)
で曳網できる小型のネットであり、水深が浅い場所で、稚魚や遊泳能力の弱い小型魚類等を採集するのに適している。ただし、曳網速度が遅く、遊泳能力の高い魚種や成魚は逃避してしまうので対象外となる。そこで、砕波帯ネットでは採集できないような魚類については、見つけ次第、投網による定性的な採集調査も行い、食性解析等に用いた(個体数の結果には加えていない)。採集された魚種は、菊池(1973)や寺脇ほか(1997)等を参考に、アマモ場への依存度に応じて、周年定住種、季節的定住種、一時的来遊種、偶来種といった4タイプのいずれかに当てはめた。周年定住種は、周年にわたってアマモ場に出現するタイプで、生活史の大部分をアマモ場で過ごす種であり、小型で運動性に乏しい種や水産的価値がほとんどない種が多く含まれる。季節的定住種は、特定の季節にアマモ場に出現するタイプで、主に稚魚期を過ごし、成長するとアマモ場を離れて大きくなる種であり、水産有用種が多く含まれる。一時的来遊
図 2 東幡豆トンボロ干潟に隣接するアマモ場。砕波帯 ネットによる魚類の定量採集は、アマモ群落の密生区、
疎生区、砂地の 3 か所で行った 東幡豆港
アマモ密生区 アマモ疎生区 砂地
0 250m
トンボロ干潟
前島
第 2 部 幡豆の海と生き物 4 魚 類
トンボロ干潟には、アカエイが多数来遊することも潜水調査等により確認されている(第
2部コラム
「干潟に現れる謎のくぼみ」を参照)。魚類の総個体数を採集時期で比較すると(図
春に比較的多く( 3)、
4月:
計
22
9個体、
5月:
計
35
3個体)
、初夏に少なかった(
7月:計
89個体)
。季節による出現魚種の違いを見ると、春には、スズキ、メバル類、ヘダイ等の稚魚が多かった。また、ギンポ、アサヒアナハゼも多く、大部分は稚魚または未成魚であった。一方で、初夏(
7月)には、ヨ
ウジウオが多くみられた。ヨウジウオは、立体構造に富むアマモ場等の海草群落を好んで利用する周年定住種である。採集場所による総個体数の違いを見ると、砂地(
28個体)では、アマモ密生区(
33
生区( 4個体)や疎
30
9個体)と比べて、
10分の 1程度しか採
集されず、非常に少なかった(図
地では 4)。種数でも、砂
5種と少ない傾向にあった。ギンポは砂地で
図 3 各月における魚類の採集個体数(全3か所の合計)とその内訳 7 月
5 月 2014 年 0 4 月
100 200 300 400
その他 ヨウジウオ アサヒアナハゼ メバル類 ヒメハゼ ギンポ ヘダイ スズキ
個体数 魚や未成魚も少数採集されたが、その多くは稚魚であった。やはり周年定住種においても、アマモ場は特に稚魚期の育成場として重要であったと考えられる(菊池1973,寺脇ほか1997 )。なお、ギンポは、夏の一時期にアマモ場ではみられなくなることから季節定住種とされることもあるが(木村ほか1983 )、ここでは周年定住種とした。これら以外の周年定住種としては、サンゴタツ、アミメハギが少数出現した。そのほか、砕波帯ネットでは、偶来種としてウキゴリ類、クサフグ、ギマが少数採集された(表
では採集されていないが、このアマモ場や 成魚や成魚が採集された。さらに、本調査 砕波帯ネットでは得られなかった魚種の未 節的定住種)、ホウボウ(偶来種)といった、 網調査では、ボラ(偶来種)、イシガレイ(季 2)。また、補足的に行った投
目# 和名# 個体数 出現タイプ *
スズキ目 スズキ 212 季節的定住
ヘダイ 71 季節的定住
ギンポ 74 周年定住
ヒメハゼ 32 周年定住
ウキゴリ類1 1 偶来
カサゴ目 メバル類2 109 季節的定住
タケノコメバル 11 季節的定住
アサヒアナハゼ 78 周年定住
トゲウオ目 ヨウジウオ 71 周年定住
サンゴタツ 3 周年定住
フグ目 アミメハギ 5 周年定住
クサフグ 3 偶来
ギマ 1 偶来
#:分類・種名は、中坊編(2013)に従った。
*:菊池(1973)に従い、周年定住、季節的定住、一時的来遊、偶来に分類した。
1:標本では、ウキゴリ属のどの種か、判定不能であった。
2:シロメバル、アカメバル、クロメバルのいずれかと判断される標本が混在していた。
表 2 東幡豆トンボロ干潟のアマモ群落周辺において、砕波帯ネット で採集された魚類。計 4 目 13 種 671 個体の魚類が採集された
には大型個体、夏から秋までは小型個体が多く、概ね年に
2世代を繰り返すと考 えられている(奥谷2010)。トンボロ干潟のアマモ場においても、春にみられた個体標本の胴長(平均
11~
12㎜程度)
は、初夏(平均
7~
8㎜程度)に比べて大き
く、この説を支持する結果であった(図
ゼといった魚種が数多く出現していた。 タケノコメバル、スズキ、アサヒアナハ では、本報告と同様に、メバル類、ギンポ、 2003と共通点が多かった。鈴木・家田() 2003ける過去の調査結果(鈴木・家田) 現在西尾市)の各地先のアマモ場にお 竹島、三谷(蒲郡市)、一色(当時一色町、 アマモ場の魚類相は、同じ三河湾沿岸の 筆者らの調査で明らかとなった東幡豆の 以上、春から初夏に限定されるものの、 5)。
図 5 各月におけるヒメイカの胴長の度数分布 胴長(mm)
0 0 02
2
2 4
4
4 6
6
6 8
8
8 10
10
10 12
12
12 14
14
14 16
16
16 18
18
18 20
20
20 22
22
22 24
24
24 50
50 50
100 100 100
4 月
5 月
7 月
個体数個体数個体数 も
20個体と比較的多かったが、他の
4種は各
3個体
以下しか採集されなかった。ヒメハゼは海草群落内よりも周囲の砂地でよくみられるとの報告が多いが(中村1944,
2003,他の研究事例と同様(鈴木・家田 場にみられた周年定住種、季節的定住種の大部分は、 の方で出現個体数が多かった。このように、アマモ 上2012出)、東幡豆ではアマモ群落内
森口・高木
2009,
て、イカ類のヒメイカが採集された。ヒメイカは計 さらに、魚類以外のネクトン(遊泳生物)とし していることが示唆された。 上2012 出)、海草群落を選好して生活の場と
12
12個体も採集され、単一種としてはネクトン
の中で最多であった。ヒメイカは、成体でも胴長(外套背長)
16㎜程度とイカ類としては世界最小級であ り、背中の吸着器によりアマモの葉等に付着して生活し、主な餌は小型の甲殻類とされている(奥谷2015)。ヒメイカ個体の寿命は
15
0日程度、秋から春先
図 4 各場所における魚類の採集個体数(全3回の合計)とその内訳 砂地
アマモ疎生区 アマモ密生区
0 100 200 300 400
個体数
その他 ヨウジウオ アサヒアナハゼ メバル類 ヒメハゼ ギンポ ヘダイ スズキ