魚類の生息環境としての沿岸域
内湾域は、沿岸の浅場と沖合の深場の大きく
2つの領域からなる。三河湾の場合、沖合の深場
では、比較的大型の魚類が生息し、群泳する種類を主な対象とした底曳網等が行われている(第
1
部 要素がみられる( 一口に浅場といっても海岸線が入り組んでおり、幡豆近海をはじめ、三河湾全体で多様な環境 多くの魚種にとって産卵場や稚仔魚の育成場等として重要である。5
章)。一方、海岸線が入り組んだ浅場は、底曳網等の商業漁業の場としては適さないが、1
章 れた場所に形成される前浜干潟、前浜干潟等の周辺でみられるアマモ場などである。これらの各1
)。例えば、大きな河川の河口に形成される河口干潟、それから少し離しく紹介)。そのような種の場合はシャベルやスコップによる採集も有効的である(乾・小山2014)。さらに、季節によって生息場所を移動する魚種も多いことから、同じ場所について年に複数回の調査を行うことが望ましい。このような魚類の採集調査は、子供の頃に水辺の生き物を採集したり、釣りをしたりといった経験の延長上にあり、非常に楽しいものである。海洋生物学や水産学等を専攻する研究者や大学生の中には、そうした幼少時の経験を基に進路を選択している人も多い。仮にそのような経験がなくても、大学進学後に周囲の友人等に誘われて始めるうちに、その楽しさにはまり、詳しくなっていくケースも沢山ある。また、特に専門の大学に進学しなくても、あるいは卒業後に研究職等に就かなくても、
図 1 調査地点(荒尾ほか(2007)、荒尾(未発表データ)をもとに作成)
河口干潟 前浜干潟 アマモ場 愛知県 岩礁域
三河湾
遠州灘 20km
調査の概要
ここでは、筆者が過去に調査した結果(荒尾ほか2007)を中心に、三河湾沿岸の浅場、特に河口干潟でみられる主な魚種について紹介する。図
主に底曳網で取れる魚種については第 東幡豆のトンボロ干潟のアマモ場でみられる魚種については次節を、三河湾の沖合や遠州灘等で 1に、主な調査地点の位置を示しておく。なお、
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部3
章 る(本章 場の魚類相を把握するためには、稚仔魚の採集用に開発された砕波帯ネット等の利用が適してい 魚は非常に小さいため、見つけ取りが主となるタモ網や釣りではなかなか採集され難い。アマモ た。のんびりと釣り糸を垂れるのも楽しい採集方法のひとつである。なお、アマモ場に多い稚仔 逃げ足が速い等の理由から、タモ網では捕まえにくい魚種については、釣りによる採集も行っ 2012が必要である(松沢)。 る。ただし適度に加減をしないと、生息環境を徹底的に破壊することになりかねないため、注意 落の内部や周囲、石の下、泥の中などの隠れ家に潜んでいる魚類を、足で網に追い込んで使用す 魚類採集には主にタモ網を使用した。タモ網は最も手軽で一般的な漁具である。海藻・海草群2
を、それぞれ参照してほしい。中には小型甲殻類の生息孔内を生息の場として利用している種もある(キセルハゼなど。後で詳 種組成を正確に把握するには、泥底、砂底、礫底など、様々な底質で調査する必要がある。また、 沿岸域の主要なグループであるハゼ科魚類では、種によって好む底質が様々であるため、その
2
を参照)。第 2 部 幡豆の海と生き物 4 魚 類
ハゼ科の多くは干潟減少や環境悪化の影響を受けて減少し、環境省や愛知県のレッドリストに掲載されているものも多い(表
2001カダヤシ、ミナミメダカの場合、塩分に対する耐性が強く(川那部ほか)、河口域に周年 したものと思われる。 大抵の人は驚くと思われる。これら純淡水魚の多くは、雨による河川の増水などで一時的に流下 いった純淡水魚が出現することもある。汽水域である河口干潟において、純淡水魚に出会ったら、 さらに、フナ類、モツゴ、タモロコ、スゴモロコ類、カダヤシ、ミナミメダカ、ブルーギルと る。 も出現する。これらの海水魚は、もともと塩分変化の耐性が比較的強いと思われるグループであ アサヒアナハゼ、ギンポ、ナベカ、ネズミゴチ、クロホシヤハズハゼ、アゴハゼといった海水魚 また、ボラ、スズキといった汽水魚に加え、クロソイ、タケノコメバル、メジナ、アイナメ、 を遡上する遡河回遊魚(サケ・マス類等)もあるが、三河湾沿岸ではこのタイプの種は少ない。 で成長する両側回遊魚(アユ、ウツセミカジカなど)に分けられる。ほかに、産卵のために河川 のために海に降る降河回遊魚(ニホンウナギ、カマキリ〔別名アユカケ〕など)、川と海の両方 くだ の育成場などとして利用する魚種もいる。通し回遊魚は、主に河川や湖沼で成長し、繁殖・産卵 浸透圧の変化に馴化する場所として、一時的に河口干潟を利用している。また、産卵場や稚仔魚 また、河口干潟では、様々な通し回遊魚が出現した。通し回遊魚は、河川と海を往来する途中で、 や生物の生息環境のバロメーターと言えるかもしれない。 1)。つまり、ハゼ科魚類の出現状況は、その内湾沿岸域の魚類相 しい発見が待っているはずである。 である。採集のルールに目を通したら、道具を持ってぜひ採集に行っていただきたい。きっと新 されたい。近所の釣具店等でも情報は得られるかもしれない。また、安全面にも十分配慮が必要 あるので気を付けてほしい。詳しくは、各都道府県の水産担当部署による漁業調整規則等を参照 や河川等で魚類を採集する際には、禁止されている場所、時期、使用が禁止されている漁具等が タモ網等を用いた魚類の採集調査は個人レベルで十分可能である。ただし、読者の皆さんが、海
河口干潟の魚類
さて、三河湾の浅場に生息する魚類について、まず河口干潟から紹介しよう。三河湾沿岸では、豊橋平野を流れる豊川、岡崎平野の矢作川や境川等の流程の長い河川の河口において、発達した河口干潟がみられる。一方、渥美半島や知多半島側には流程が短い河川が多く、河口干潟はあまり発達しない。三河湾の河口干潟には、計
60種の魚類がみられた(表
最も重点的に調査した場所であったという事情もあるが、ハゼ科が計 1)。他の場所に比べて種類が多いのは、
25種と多数みられたことが
大きい。ハゼ科は汽水域に生息する種が多く、泥底にはトビハゼ、砂泥底にはヒモハゼやマサゴハゼ、キセルハゼ、エドハゼ、砂底にはヒメハゼなどといった具合に、様々な底質に生息する。ハゼ科は世界の多くの内湾域や河口域で優占する(加納ほか2000,
瀬2004,能
乾・
小山2014)。また、
分類・種名 出現場所 レッドリストのランク
目 科 種 河口
干潟 前浜 干潟
アマ モ場
岩礁 域
環境省 2014
愛知県 2015
エイ目 アカエイ科 アカエイ ● ● ●
カライワシ目 カライワシ科 カライワシ ●
ウナギ目 ウナギ科 ニホンウナギ ● 絶滅危惧 IB 類 絶滅危惧 IB 類
コイ目 コイ科 フナ属未同定種 ●
ウグイ ●
モツゴ ●
タモロコ ●
スゴモロコ属未同定種 ●
サケ目 アユ科 アユ ●
ボラ目 ボラ科 ボラ ● ● ● ●
メナダ ●
カダヤシ目 カダヤシ科 カダヤシ ●
ダツ目 メダカ科 ミナミメダカ ● 絶滅危惧Ⅱ類 準絶滅危惧
スズキ目 メバル科 クロソイ ● ●
シロメバル ● ● ●
タケノコメバル ● ● ● ●
ムラソイ ●
ハオコゼ科 ハオコゼ ●
コチ科 マゴチ(クロゴチ) ●
スズキ科 スズキ ● ● ● ●
サンフィッシュ科 ブルーギル ●
ヒイラギ科 ヒイラギ ●
タイ科 クロダイ ● ●
キス科 シロギス ●
シマイサキ科 コトヒキ ●
シマイサキ ●
メジナ科 メジナ ● ●
アイナメ科 アイナメ ● ●
カジカ科 カマキリ(アユカケ) ● 絶滅危惧Ⅱ類 絶滅危惧 IB 類 ウツセミカジカ(カ
ジカ小卵型)
● 絶滅危惧 IB 類 絶滅危惧Ⅱ類 アサヒアナハゼ ●
ニシキギンポ科 ギンポ ● ● ●
ヘビギンポ科 ヘビギンポ ●
イソギンポ科 トサカギンポ ● イダテンギンポ ●
ナベカ ● ●
ネズッポ科 ネズミゴチ ● ●
カワアナゴ科 カワアナゴ ● 準絶滅危惧
表 1 三河湾沿岸の干潟・アマモ場・岩礁域に出現する魚種
(荒尾ほか(2007)、荒尾(未発表データ)をもとに作成)
分類・種名 出現場所 レッドリストのランク
目 科 種 河口
干潟 前浜 干潟
アマ モ場
岩礁 域
環境省 2014
愛知県 2015
スズキ目 ハゼ科 ミミズハゼ ● ●
ヒモハゼ ● 準絶滅危惧 絶滅危惧Ⅱ類
トビハゼ ● 準絶滅危惧 絶滅危惧Ⅱ類
マハゼ ● ● ●
アシシロハゼ ●
アベハゼ ●
マサゴハゼ ● ● 絶滅危惧Ⅱ類 絶滅危惧Ⅱ類
アカオビシマハゼ ●
ヌマチチブ ●
チチブ ●
ヒナハゼ ●
クロホシヤハズハゼ ● シマヨシノボリ ●
オオヨシノボリ ● 準絶滅危惧
ゴクラクハゼ ●
ウロハゼ ●
ツマグロスジハゼ ●
スジハゼ ●
ヒメハゼ ● ● ●
スミウキゴリ ●
ウキゴリ ●
ニクハゼ ●
ビリンゴ ● ●
キセルハゼ ● 絶滅危惧 IB 類 絶滅危惧 IA 類
エドハゼ ● ● 絶滅危惧Ⅱ類 準絶滅危惧
アゴハゼ ● ●
ドロメ ●
イトヒキハゼ ●
カレイ目 カレイ科 イシガレイ ● ● ●
フグ目 ギマ科 ギマ ● ●
フグ科 クサフグ ● ● ● ●
レッドリストのランクは、環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室(2014)、愛知県環境 部(2015)を参照した。