1980年
3.4 小紋の造形性
幾何学的形態としての円紋は、早くから点 列線紋が土器などに表現され、幾何学的紋様 史上で伝統的な脈らくを形成している、と上
秋田公立美術大学研究紀要 第2号 平成27年3月 研究論文
金 孝卿 円形の幾何学的紋様についての構成学的考察
記した。そのため、点だけの構成されている 小紋を取り上げる必要があるので、ここで小 紋の造形的考察を行なう。
小紋のなかには、規則正しい幾何学的な形 態があれば、ネガティブな点が線を描く構成 も見られた。(図15)これは点を意識してそ の周囲を線で取り巻く形を指すが、線の一部 を切断してごくわずか(線の太さだけ)のず らせて、すきまを空けて空白(地)に点つく る場合もある。(図16)これは円形の存在感 としては弱いが、繊細な表現として様々な小 円形の小紋などには適当な形態といえる。こ の構成は、点を持たずに点を描く表現方法と して、現代の平面「形態構成」のエレメント として取り入られている。
このような形態と構造は、円形の幾何学的 紋様というより、点の大きさがグラデーショ ンに線化された形であるが、様々な大きさの 点の配列からはっきりした紗綾形小紋(図17)
を形成している。
3.4.1 小紋に表現された構造
そもそも小紋とは、点と点の近接性と方向 性もつ形として、点の大きさを効果的に生か したパターンといえる。菊水模様(図8)に 現れた形態は、視覚的に点の大きさと間隔に よって波の流動的な力が方向を表現している。
どころが、周囲の点の幅が微妙の変化によっ て、全体の点の構成がもたらすデリケートな 表現、偶然的な構造(図18)となっていた場 合もある。縞線の幅と細かい点が圧縮されて、
大きさによるグラデーション(図19)と錯視 的な表現効果により、整然とした秩序から視 点が移動しているようにも見える。
3.4.2 小紋の現れた形態
点の大きさと集合(または拡散)する点
(図9)により、強い方向性や遠近感を指し ている。円を形成する源となる点の大きさが 小さいため、円形という認識ではなく、点の 大きさが決める曲線が全体の方向を構成し、
花形や波形の面という視認性を強く感じさせ る。また、点の大小と密度(密接)によって は象徴的に意味は持たないが、装飾的意味と 凸凹の表現も可能であると思われる。
このように、点を巧みに構成することによっ て、曲線的なリズム感をもつパターンや陰陽 によって立体感をもつパターンも表現された。
これらもおびただしい数の点によって線的効 果を現した造形として、これらは装飾模様と して空間に対して充填的目的に使用し、現代 デザインにおいても点の大きさやモチーフバ リエーションによって多く取り入れている。
4 数理性によるシンメトリー性
幾何学的形態は、常に「シンメトリー性」
をもつ形態である。ここでシンメトリーとい う概念を探る。H ・ヴァイルの「シンメトリー」
では、シンメトリー(対称的)という用語の 意味を、次のように定義している。
秋田公立美術大学研究紀要 第2号 平成27年3月 研究論文
第一は、シンメトリーとは、よく釣り合い がとれた調和の意味として、ひとつの全体に 融合している「さま」をあらわす。「美」は シンメトリーと、結びついている。
第二は、シンメトリーという言葉には、自 然なつながりをつけている。また、左右対称 であって、高等動物、特に身体構造において 著しい、と述べている。
これらの意味から、「シンメトリー」の概 念は、左右対称をつくる美であると同時に、
幾何学的紋様の美しさもシンメトリー性であ るともいえる。対称の模写や模倣によらない 自律的な造形言語に基づき、洗練された美的 感覚があふれる造形表現でもある。
円形の幾何学的紋様におけるシンメトリー の特徴は、あらゆる主観的要素を取り除いた 単純化・簡潔化されている造形要素となるモ チーフの数と量(面積)が1:1/2:2…を形 成するシンメトリー性の構造である。
言い換えれば、円形の幾何学的紋様がシン メトリーに形成しているから美と繋がること にもなる。また、幾何学という秩序のなかで、
抽象化された理念的形態として、常に連続と いう規則の変化、交代、進行の過程が繰り返 す(リピード)との構成原理(図14)に基づ いている。
さらに、閉鎖性による基本図形の円形より、
曲線、三角形、四角形、菱形、十字形などに 変容していくが、いずれもシンメトリー性を 形成する。これらは、ユークリッド幾何学に 準ずる形態として、基本形の「図形」と地間 から生じる「地形」との相互によってつくり 出す。
この抽象的形態を、単なる衝動的な装飾に 見なされがちであるが、本来は、直線・曲線 というユニットの繰り返しによる構造をもっ ている。このような原理には、多くの事物や 具象的な姿や形が、共通する性質と属性を抜 き出して抽象化されながらも、釣り合いによ る調和を持たなければ成り立たない。
円形の幾何学的紋様の自体がシンプルで明 快なイメージを持つことは、いわゆるバラン
スがとれたシンメトリー性による調和が、簡 潔化されるバラエティーをもつからといえる。
5 デザインへの利用
円紋は、視覚的に認識しやすいサイン、シ ンボルマークとして、視覚コミュニケーショ ン・メディアの役割を果たし、これらに相応 しい形のデザインに十分整えられているとい うことができる。ビジュアル・コミュニケー ションの視点からデザインへの展望が見られ るだけでなく、その形の美しさを生かすよう に、デザインされたものである。
また、円形の基本モチーフとしてビジュア ル・ソースとしての役割をもち、応用によっ て造形の豊かさが視覚伝達の目的としてデザ イン的な役割を十分果たしている。視覚デザ インの表現性における美的表現を一層高めて いくともいえよう。
いわゆる、これを現代デザイン用語によれ ば、ベーシックタイプにデザインされたシン ボルマークであるが、広い意味では、サイン・
デザインとして捉えられる。この視覚デザイ ンへの展開と応用は、優れたデザインとして 造 形 力 を 見 せ る 。 現 代 デ ザ イ ン は 、
CI(C or
porateI dentit
y)計画の手法として多 く取り入られてきた。
特に、企業のトレンドマーク、名刺、封 筒、レターベッド、ユニフォーム、社章、建 物の入り口のサインのようなイメージ・コミュ ニケーション・デザインに応用されている。
我々の生活空間をみると、色彩や紋様(模様)
がデザインされていない形態は、日常用品、
機器、衣装、装身具、建築物など、ほとんど 存在しないといってもよい。(図20)
金 孝卿 円形の幾何学的紋様についての構成学的考察
デザインとは、生活のために必要な様々な 物をつくるにあたって、材料、構造や機能は 美しさと調和を考えて、一つの形態あるいは 形式へとまとめ上げる総合的な計画、設計を ふくめた造形と捉えるならば、幾何学的紋様 は近代デザインの形態と形式をもつプロセス というより、現代デザインが見られる以前に 在る伝統デザインである、と考えられる。
このような意味から考えると、デザインの 3要素とは、「色彩・形態・紋様(パターン)」
として捉えられる。また、「紋様」はすべて の実用的、機能的な物の表面に表象する必要 不可欠の図案として、パターン化され、デザ インされた造形エレメントである。
たとえば、器物のデザインでは、色彩と形 態が決まるとその後は、器物に入れるパター ンが問題となる。これは紋様が生活周辺のす べての器物の衣装、衣類などに繊細なパター ンの美しさと、細部な機能美の表現である独 特なテクスチャの役割も果たしているからで ある。
6 結論
幾何学的形態は、古くから自然主義的とも いえる動物紋と並んで、水平、垂直、斜め、
円、渦巻といった、点と線で表現された形で ある。いずれも幾何学が登場する以前、原始 時代の岩壁画や土器などにも見られる表現と して、古代人の生活を豊かにしてきた。
円形、三角形、四角形の造形要素による自 律的な「純粋形態」として、数理性を内包す る抽象が幾何学的形態、あるいは構成的形態 をつくり出すのが幾何学的紋様であるという ことができる。こうした幾何学的あるいは数 学的な抽象形態は、平面はじめ立体的な造形 物に幅広く用いられてきた。
本論で取り上げた、円形による幾何学的紋 様には、主に点の細やかさの曲線的表現が多 いなかで、ユニット自体が象徴的意味として 用いられた場合も少なくない。特に、崩れ七 宝紋のように幾何学的な定形と数理性を外し た、非定形の表現がともに使われた例は、世
界のどこにも見られない。これらのアシンメ トリーやアンバランス的な形態は、現代的感 覚に満ち、古さを感じさせない「ダイナミッ クスな造形」ということができる。
紋様デザインの古典である万国図案大辞典、
連続紋様図案集、世界紋様辞典、家紋集など で見られる伝統紋様そのままが、今日の装飾 デザインでは古風な紋様でも、現代に共通す る美の共感がある。
また、絵画、グラフィック・デザイン、空 間デザインなど、平面と立体の様々な領域で 造形要素として部分的に広域的に用いられて いる。その範囲は、シンボル、包装紙、壁紙、
衣装、織物などを含め、さらに壁、天井、窓 戸、格子などのような大面積を要する建築物 の全体が、パターンにデザインに及ぶ。
以上のように、円形による幾何学的紋様に ついて分析したが、円形の幾何学的紋様には モチーフや対称、回転、移動、重ね、分割な どのシンメトリー造形法の応用により、様々 な造形が生み出されると考えることができる。
形成過程と発展状況からみて、美しさと共に 情緒的、視覚デザイン的効果を挙げている。
これからは円形を踏まえ、三角形・四角形 による幾何学的紋様について、さらなる研究 を重ねていきたい。
{ 図版目録}
図1 フィリップ・B ・メッグズ・藤田治彦 「グ ラフィック・デザイン全史」淡交社、1996 年
図2 矢部良明「日本やきもの史」美術出版社、
ドキュメント内
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(ページ 72-76)