これまで本編では、欧州におけるREIT制 度の導入の経緯や制度概要について紹介し てきたが、本稿では若干趣向を変えて、欧 州REITセクターにおけるM&Aの動向につ いて簡単にご紹介したい。かなり日本にも 馴 染 ん で き た 「 M & A 」( 企 業 間 の 合 併
(Merger)および買収(Acquisition)の略 語)という言葉であるが、特に最近では三 角合併の解禁等をキーワードとして、外資 による日系企業の買収の可能性などが様々 な記事で取り上げられている。英国や欧州 不動産セクターを見る限り、M&Aは企業 価値の成長もしくは潜在化の基本的な手法 として幅広く用いられており、その市場規 模たるやM&Aの本場と言われる米国と均衡 するレベルになっている。
グローバルな観点から見ると、2007年第
一四半期の不動産セクターにおけるM&A動 向は、前年同期比で2倍以上(約260%増、
取引額ベース)となっており、その勢いは 今日も増している。読者の記憶に新しいと ころでは、米国におけるプライベート・エ クイティ・ファンド最大手の一社であるブ ラックストーンによるエクイティ・オフィ ス・プロパティーズの買収(取引価格約4兆 円)があるが、欧州でも今年のイースター 明け4月10日にUnibail(フランス)による Rodamco Europe(オランダ)の買収(取引 総額約3兆円)が発表され、大西洋の両側を 挟んでM&Aの規模およびスピード感は以前 より増している。この活発なM&A市場の裏 側には、好調な資本市場を背景にして買収 資金が比較的簡単に調達できること、プラ イベート・エクイティ・ファンドの台頭や 業界内での戦略的M&Aの上昇が理由として 指摘されよう。
今年からスタートしたUK-REITの場合、
およびそれに伴う資金調 達およびM&A戦略の容易 化があった。通常、英国 の不動産ディベロッパー 銘柄は純資産価値(NAV)
に対して割安(ディスカ ウント)に取引される傾 向にあったが、REIT化に より割高(プレミアム)
に取引されるものとの期 待感があった。本稿でご 紹介するDerwent Valley およびLondon Merchant Securities(LMS)の合併 劇は、REIT化した後の事 業戦略をいかに展開して
いくべきか、経営陣の先見の明により事業 機会の先取りを狙ったM&Aのケーススタデ ィである。また、UK-REITスタート後の第 一号M&A案件として、市場関係者から高い 注目を集めた案件でもあり、今後の業界動 向を考える良い材料でもある。
最初にDerwent ValleyとLMSの位置づけ について簡単に説明しよう。図3が示す通り、
両社は英国不動産セクターにおいて中堅銘 柄として位置づけられる。共にロンドン中 心部をコア・エリアとする点では共通する ものの、ポートフォリオのグレード感や事 業 戦 略 の フ ォ ー カ ス と い う 観 点 か ら 、
Derwent Valleyの方がLMSよりも高く評価 されてきた。LMSは06年9月29日に「ある会 社との合併交渉を行なっている」とのリリ ースを発表し、その翌日に株価は約12.3%上 昇する。その後、株価は安定的に推移し、
11月14日にDerwent Valleyとの合併が発表 され、翌年2月1日に合併は完了する。
今回の合併劇で忘れてはならない存在が、
Derwent Valleyと極めて類似する戦略、事 業規模および時価総額を持つGreat Portland Estate(GPE)である。GPEは、ロンドン の中でもメリルボーン地区やグレート・ポ ートランド通り周辺等、ウェスト・エンド の中でもハイエンドなエリアにポートフォ リオを持つ優良ディベロッパーとして高く 評価されていた。ライバル会社であるこの2 社は、共にLMSを買収ターゲットとして検討
出典:Datastream 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 2,000 2,200 2,400
2006/06/0 2006/09/0 9月29日リリース
「ある会社との 合併交渉中」
11月14日 合併発表
2月1日 合併完了
1月31日 終値:1945
2006/12/01 2007/03/0 Derwent Valley(存続会社) London Merchant Securities(吸収会社)
図2 株価推移(06年6月1日−07年4月23日)
-20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000
1Q/06 2Q/06 3Q/06 4Q/06 1Q/07
(US$m)
Americas Europe APAC Japan Others 58,051
87,219 95,968
出典:Thomson Financial
Derwent Londonの誕生:
UK-REIT最初のM&A案件
し続け、その機会を狙っていたようである。
合併発表直前の3社の時価総額を比べる と、Derwent Valleyが約4,700億円、LMSが 約4,000億円、GPEが4,400億円と、中堅銘柄 の規模感としてこの3社はほぼ同格と言える だろう。LMSとの合併が可能となれば、合 併後の時価総額は約8,500−9,000億円とな り、中堅クラスを飛びぬけ大手五社に大き く近づくことになる。よりフォーカスした ポートフォリオ戦略および十分な事業規模
(時価総額)の確保は、投資家に評価される 2つのキーワードでもあり、LMSとの合併 によりその双方を獲得しようとDerwent ValleyとGPEは考えた。まさに一石二鳥の M&A戦略である。
そして興味深いことに、LMSとの合併提 案を正式に持ちかけたのはどうやらGPEの 方が一歩早かったらしく、06年9月29日付リ リースが出たときに、市場関係者の中では GPEが合併相手であろうとの噂が流れた。
しかしながら、すっかり相対で交渉を進め ているものだと考えていたGPEも、途中か ら雲行きが変わってきたことに気がついた ことだろう。ライバル会社であるDerwent Valleyが交渉に入ってきたことで、劣勢な ポジションに立たされたのである。そして
関心があるが、本件(LMS の合併)にはその魅力はな いと判断した」とのリリー スを発表し、今回の合併劇 の幕は一応閉じられた。合 併 会 社 は 「 D e r w e n t London」と名づけられ、
2007年2月1日に合併が完了した後の株価も 極めて堅調に推移しており、市場関係者か らの支持を得ることが出来た様子だ。
ここで3社のポートフォリオ構成を見てみ よう。下図(図4)を見て最初に気がつくの は、Derwent ValleyとGPEが極めて類似す るポートフォリオを持っている点であろう。
LMSもロンドン中心部をコア・エリアとす るものの、スコットランドやロンドン市以 外にグレードの劣る物件を保有しているこ とから、他の2社より見劣りすると指摘され ていた。Derwent ValleyとGPEの思惑とし ては、LMSを手中に収めた後、ロンドン以 外のノン・コア物件を売却し、戦略的に重 要な物件および開発案件を継続保有するこ とで、よりロンドンにフォーカスしたポー トフォリオの構築を狙っていた。
図5は合併会社であるDerwent Londonの ポートフォリオ構成であるが、当然のこと ながら以前のDerwent Valleyのポートフォ リオよりもロンドン中心部以外の比率が増 えている。また、2007年2月1日に合併が完 了して後、第一号の売却案件として3月20日 にロンドン北部のSwiss Cottageにある住宅 用地の売却を発表した(売却価格18.25百万 ポンド)。
8,8337,696 5,848
3,821 2,829
1,773 2,048 1,894 1,810 1,592 1,180 1,207 734
-5,000 10,000 15,000
Land SecsBritish LandLiberty IntlHammerson
Slough Brixton
London MerchantDerwent ValleyGreat Portland Capital & Regional
Shaftesbury Minerva UNITE
Helical Bar
(US$m)
合併会社
出典:UBS
注:06年11月13日時点(合併発表前日)
合併比率等
時価総額等、Derwent Valleyお よびLMSは比較的同等であったた め、本案件では「Share-for-Share」
(株式交換)による合併が選ばれた。
L M S の 株 主 に は 、 株 式 交 換
(Derwent10株をLMS67株と交換。
Derwent LMS GPE
West End 74%
City borders 26%
West End 49%
City borders 20%
Scotland 12%
19%
West End 78%
22%
ポートフォリオ分散(エリア別)
Offices 88%
London retail 12%
Office 83%
Retail 17%
出典:UBS
Offices 55%
London retail 9%
Strategic sites 8%
Other retail 22%
Other 6%
合併比率等
図6:Derwent Valley及びLMSのポートフォリオ分布 (ロンドン中心部のみ)
出典:UBS
地域分散 セクター分散
出典:会社資料
West End 61%
City borders 23%
Scotland 23%
Other UK 10%
Offices 71%
London retail 11%
Strategic sites 4%
Other retail 11%
Other 3%
図5 Derwent London(合併会社)のポートフォリオ構成
GPEの株価は合併の交渉中にやや弱含みに 推移しており、Derwent Valleyのような合 併提案が出せなかったことは、今回の合併 成立の是非を分ける重要な点である。
GPEとの交渉が行なわれていたその裏側 で、穏便かつ迅速に合併交渉を進めていた の は Derwent Valleyの CEOで あ る John Burns氏(62歳)である。最終的にはLMS の企業価値に対する評価額が今回の合併の 成否を分けることになるのだが(Derwent ValleyはGPEよりLMS一株当り約50ペンス
(20%程度)高い評価をしている)、当初は 確実にLMSを手中に収めることができると 考えていたGPEにとって、Derwent Valley が潜水艦のように突然現れたことは、驚き 以外の何物でもないであろう。今回の勝者 となったBurn氏だが、LMSのCEOである Robert Rayne氏(57歳)とは旧知の関係に あり、以前より2社の合併構想を密かに練っ ていた。そして2006年9月中旬にBurn氏は Rayne氏に対して合併構想の話を持ちかけ ると、意気投合した二人は急速に案件執行 へと話を進めていった。ちなみにDerwent V a l l e y で 本 案 件 を 牽 引 し た の は T o b y Courtauld氏(38歳)、野望に燃えた若きマ ネージング・ディレクターとして業界に知 られていた。
Burn氏は、LMSとの合併は突然思いつい たものなのかとのメディアの問いに対して、
リオは当然のこと、将来的な開発パイプラ イン、財務状況、適切なM&Aの手法等も十 分に分析し、LMSの正当な企業価値および 合併の可能性について継続的に検証を行な ってきた。この十分に時間をかけた分析が、
合併提案における自信につながり、GPEと の合併の噂が出たときにも即座な対応を可 能とした。蓋を開けてみると、Derwent ValleyはGPEの提示額を大きく上回り、
LMSを見事に手中に収めることになる。
合併会社における人事では、LMSのCEO であるRobbie Rayne氏が会長のポストにつ き、Derwent Valleyの会長であったJohn Ivey氏が副会長(Deputy Chairman)とな る。上述のJohn Burns氏は、合併会社の CEOとして新会社の舵きりを任されること となる。その他の人事も両社の主要経営陣 をそれぞれ主要ポストにつけることで、合 併シナジーの実現化を目指す。
2007年3月、Derwent Londonは07年7月1 日からUK-REITに転換すると発表をした。
REIT化に必要な転換税(Exit Tax)は約 110億円(46百万ポンド)、REIT化に伴い免 除される繰延べキャピタルゲイン課税額が 約670億円(293百万ポンド)となり、その 差額560億円がREIT化による初年度(ワ ン・オフ)のメリットであるとしている。
Derwent Lonsonの誕生劇から考えられる 点がいくつかあるが、M&Aの手法に関する
「LMSのことはずっと考えていた」
ポイント