• 検索結果がありません。

第 1 章 では現象・事象としての CSR(公害・環境問題を含む)が発生した背 景や、それに対する人々の考え方の変化を含む歴史的展開について論じてきた。

4. 小括

本章では、現象・事象としての

CSR

運動がその後実務家や研究者の分析を経 て、いかにして

CSR

論として経営・経済学領域の主要な論点に展開していった のかを概観した。社会や研究者の問題意識やそのバックグラウンドにより、

CSR

の概念定義は様々な観点から行われており、それゆえ

CSR

の意味するところが 論者により異なる原因となっている。近年では第

1

章でも確認したように

ISO

による 国際規 格も 発効 しその 流れに 一定 の方 向性が 示され つつ ある 。しか し、

CSR

にどのように取り組むかは依然として企業自身の主体性に委ねられる部分 も大きいため、企業が

CSR

として何を取り組むかについて、他律的に規定され ると考えるべきではない。

いずれにせよ現象・実践としての

CSR

はアカデミックな立場での

CSR

論の 先を行く形で実践の場で様々な試みがなされている。現在進行形で進む

CSR

の 実践を把握するとともに、CSR論の歴史的理論的研究がますます必要とされる だろう。

特に実践の場においては企業の多くが、CSRへの取り組み、環境対策の巧拙 が自社の競争力や財務業績に大きな影響を及ぼしうることを想定し、その取り 組みを環境・CSR報告者、テレビコマシャールなどの各種広告媒体を通じてア ピールし始めている。この背景には、エコファンドなどの社会的責任投資や環 境

NPO

など様々な主体が、これら企業側からの環境報告書の公開データや企業 訪問調査等を通じて、環境や

CSR

への取り組みの項目を成長性や収益性などの 従 来 の 経 済 性 を 中 心 と し た 企 業 評 価 に 加 え 始 め て い る こ と も 少 な か ら ず 影 響 していると思われる。

そこで次章では、CSR項目と環境対策を含む「持続可能性」という概念に基 づいた企業評価について考察することとする。

長 期 維 持 発 展

収 益 性 ・ 成 長 性

社 会 性

長期維持 発展

収益性 成長性

社会性

長期維持発展

収益性

(短期)

成長性

(中長期期)

社会性

(超長期)

(出所) 岡本大輔(1996) p.201。

従来の経営 フィランソロフィー・ブーム 企業のための社会性

企業目標=長期維持発展

図 表 2-5 企 業 の社 会 性 と企 業 目 標 の関 係 について

1 Bowen (1953) p.6.

2 Carroll (1999) p.270.

3 Davis (1960) p.70.

4 McGuire (1963) p.144.

5 櫻 井 (1991) p.3.

6 Steiner (1971) p.169.

7 Ackerman and Baur (1976) pp.6-7.

8 Committee for Economic Development (CED)(1971)p.16.

9 そ の 後 、Carroll (1991)はCarroll (1979)に お い て 提 示 し たCSRを 構 成 す る 4つ の 概 念 を そ の 重 要 度 に 分 け て 区 別 し 、CSRを 構 成 す る CSRピ ラ ミ ッ ド の 考 え 方 を 提 示 し て い る 。CSR の 構 成 要 素 と し て 第 一 に 挙 げ ら れ る の が 経 済 的 責 任 で あ る 。Carrollは 、社 会 か ら 望 ま れ る 製 品 や サ ー ビ ス を 公 正 な 価 格 で 世 の 中 に 提 供 し 、 事 業 を 存 続 さ せ 、 投 資 家 に も 報 い る だ け の 利 益 を あ げ る こ と こ そ 企 業 の 基 本 的 な 責 任 で あ り 、 ピ ラ ミ ッ ド の 土 台 を な す も の で あ る と す る 。 経 済 的 責 任 に 続 い て 法 的 責 任 、 そ の 次 に 、 法 的 責 任 を 補 う 意 味 合 い を 持 つ も の と し て 倫 理 的 責 任 を 挙 げ 、 ピ ラ ミ ッ ド の 最 上 部 に 、 ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 な ど 企 業 が 自 発 的 ・ 裁 量 的 に 取 り 組 む フ ィ ラ ン ソ ロ フ ィ ー 的 責 任 を 位 置 づ け て い る 。そ し て 、4つ の CSR構 成 要 素 は「 相 互 に 排 他 的 な も の で も な け れ ば 並 列 的 に 扱 う こ と を 意 図 す る も の で も な い 」と し て 、こ れ ら 総 体 と し て CSRを 捉 え る べ き で あ る と 主 張 し て い る 。

10 Davis (1973)

11 CSR各 論 に つ い て は 、 高 田 (1974)、 櫻 井 (1991)、 森 本 (1994) な ど が 詳 し い 。

12 エ プ ス タ イ ン (2003) p.211.

13 梅 津 (2002) pp.24-28.

14 Friedman (1970) pp.122-126.

15 Friedman (1962) p.133.

16 森 本 (1994) pp. 39-40.の 考 察 を 参 考 に し て い る 。

17 森 本 (1994) pp.41-46.

18 梅 津 (2002) pp.27-28.

19 例 え ば 、公 害 発 生 の 企 業 責 任 に 触 れ た 松 下 幸 之 助( た だ し 後 に 考 え を 転 換 し て い る 。)、経 済 同 友 会 幹 事 で あ っ た 日 向 方 斎 な ど 。 川 村 (2004)p.2お よ び 森 本 (1994)p.80な ど 。

20 森 本 (1994) p.81.

21 Carroll (1999) pp.284-285.

22 Freeman 1984) p.31.

23 Freeman 1984) p.31.

24 中 村 他 (1994) p.255.

25 Freeman 1984) p.38.

26 Freeman 1984) p.38.

27 Freeman 1984) p.46.

28 Freeman 1984) p.46.

29 Epstein (1987=1996) pp.9-13.

30 Epstein (1987=1996) pp.9-13

31 筆 者 は 、 経 営 戦 略 論 の 立 場 か ら 、 こ こ で は 図 2-2の 太 枠 部 分 ② 文 脈 的 ア プ ロ ー チ を 採 用 し て い る 。

32 合 力 (2004) pp.265-269.

33 合 力 (2004) pp.265-277.

34 法 的 責 任 ( 義 務 )を CSRの 範 疇 に 加 え る か 否 か に つ い て は 、 多 く の 議 論 が あ る 。例 え ば 高 田 (1989) は 、 法 的 責 任 は 他 律 的 に 与 え ら れ る も の で 、 経 営 者 の 自 発 性 = 自 律 性 が 本 質 的 要 素 で あ る 社 会 的 責 任 の 名 に 値 し な い ( 高 田, 1989, pp.21-22.) と し て い る の に 対 し 、 森 本 (1994)

は 、「 他 律 的・強 制 的 で あ る が ゆ え に 受 動 的・消 極 的 に 服 従 す る の で は な く 、最 低 順 守 す べ き 社 会 規 範 と し て の 法 を 能 動 的 ・ 主 体 的 に 実 践 す る と い う 意 味 で 、 そ こ に 自 主 性 を 見 出 し 得 る と し て 、CSRの 基 本 的 内 容 と し て 法 的 責 任 を 位 置 づ け て い る 。( 森 本, 1994, pp.72-73.)

35 た だ し 、 か つ て は 社 会 貢 献 だ と 考 え ら れ て い た 企 業 の 環 境 対 策 が 、 現 在 で はCSRの 中 心 的 な 位 置 を 占 め 、 各 種 環 境 関 連 法 の 成 立 に よ り 、 今 後 は 法 令 遵 守 の カ テ ゴ リ ー に 移 行 し つ つ あ る よ う に 、 い ず れ の カ テ ゴ リ ー に 属 す か は 時 代 や 価 値 観 の 変 化 に よ っ て 変 わ る も の で あ る 。

36 岡 本 (1996) pp.201-202.

3

章 環境・社会性を取り入れた「持続可能性」による企業評価の現 状と課題

1.

はじめに

現代の企業は、トータルシステムである社会のサブシステムとしての性格を 有し、外部環境から多大な影響を受ける一方で、企業の側からも外部環境にさ まざまな影響を与えている。その活動の及ぼす範囲は経済的な領域にとどまる ことなく、人々が企業なしには日常生活を送れないという点からわかるように 広範で社会的である。そして企業それ自体も財やサービスの生産・提供を行う 経済主体であると同時に、人々に雇用の場や自己実現の機会を提供する、ある いは地域社会に貢献するなどといった意味で社会的な存在でもある。

特に

90

年代以降、ますます進行しつつあるグローバリゼーションに起因す る諸問題や深刻化する地球環境問題への対応などこの「社会的な存在」として の企業に対する様々な要請が顕在化している。こうした「企業と社会」に関連 する課題は、すでに第

1

章でみたように、CSR という枠組みで議論される他、

社会説明責任(Social Accountability)、企業市民(Corporate Citizenship)、ある いは企業倫理(Business Ethics)といった分野でも同様の議論がなされている。

これらは、企業経営を経済的な視点のみならず広く社会の視点から捉えなお そうとする立場であるが、近年では、企業経営を経済性、社会性、環境性の

3

つの視点から考えていくことが必要であるとする主張が注目を浴びている。こ の経済、社会、環境の

3

つの領域を意識した経営は、「持続可能な経営」ある いは「 企業経 営の 持続 可能性 」など と呼 ばれ ること も多い 。「 持続 可能性 」の 考え方自体は、

80

年代を通じて環境問題や南北問題などが国連などで議論され た際に頻繁に登場した、「持続可能な発展/開発」(Sustainable Development)と いう概 念が基 にな って いる。「持続 可能 な発 展/開 発」と いう 概念 は、地 球環 境 や こ れ か ら の 経 済 社 会 の あ り 方 を 考 え る 際 の 重 要 な キ ー ワ ー ド と さ れ て お り、この考え方を企業経営の分野に照らし合わせたものが持続可能な経営であ るといえる。

最近では、我が国の企業においてもこの持続可能な経営への関心が高まって いる。

97

年に京都で地球温暖化に関する国際会議が開催されたことをきっ かけ に、環境問題に関心を持つ国民が増えたことや政府による環境規制が強まった ことなどがその直接的な原因として考えられるが、エコ・ファンドなどの社会 的責任投資の登場により、環境対策や

CSR

あるいは持続可能性といった項目が、

実際に企業評価の項目として重視され始めたことも大きいといえる。しかし本 来の企業目的との整合性や、手法や考え方など、実際に持続可能性の概念を用 いて企業評価を行うためには、技術的、制度的にまだまだ解決しなければなら ない点が多く、持続可能性に基づいた企業評価の実現はそれほど簡単なことで はない。その企業の属する文化的・社会的背景の違いやその時々での経済条件 の違いにより、CSRや持続可能性概念の捉え方が大きく異なる可能性があるか

らだ。

本章では以上のような問題意識を持ちながら、持続可能性に基づいた企業評 価やその考え方などを検討し、その具体的な項目、基準、および手法について の現状を整理し、その課題について考察する。

2.

持続可能性とは何か

地球温暖化などをはじめとした環境問題の量的、質的な拡大と深刻化・多様 化・複雑化が当初の予想を上回るスピードで進行していることが明らかになる にしたがって、自然環境に対する人間の活動の介入に対しても、これまで以上 により大きなレベルでかつ早急な対応が求められるようになってきている。ま たこの環境問題は、先進工業国と発展途上国との南北経済格差、貧困問題、資 源、人口爆発などとも複雑に絡み合っていることが指摘されており、これらは 個別の問題としてではなく、統合的、整合的、包括的な問題として考えていか なければならないとされている。その考えを代表するキーワードが「持続可能 性」という言葉である。

持続可能な発展あるいは開発(Sustainable Development)と訳されることの多 いこの概念の最も代表的な定義は、1984 年、国連総会でグロ・ハルム・ブルン トラント・ノルウェー首相(当時)が主宰した、「環境と開発に関する委員会」、

通称ブルントラント委員会の全体報告書

Our Common Future

の中で述べられた、

「将来の世代が自らの欲求を充足する能力を損なうことなく、今日の世代の欲 求を満たす」ような発展のあり方、というものである1。「持続可能性」という 言葉自体は、水産資源などの世界的な乱獲競争の反省から生まれた「最大維持 可能生産量」の理論2を通じて、資源利用の「持続可能性」とし て論じられるよ うになったのが最初であるといわれている。すなわち、魚類などの再生可能な 資源は 、その スト ック から産 み出さ れる 純再 生産量 だけが 利用 可能 であっ て、

利用量がそれを超過すると、ストックが減少し、資源の枯渇を招くということ を前提に論じられた。このような考え方が、人類の活動が環境と人類自身に破 局 を 招 か な い た め の 政 策 の 方 向 性 と し て 頻 繁 に 提 案 さ れ る よ う に な っ た と さ れる3

WWF(世界野生生物保護基金)では、この持続可能性を「エコシステムが支

える環境の許容量の範囲内で生活しながら、人間生活の質を改善していくこと」

と定義している。また産業界では、国際的な企業経営者の団体である持続可能 な発展のための世界経済人会議(

WBCSD)が Our Common Future

の中での言 葉を引 用する 形で 、「 持続可 能な発 展と は、 調和に よる固 定状 態で はなく 、む し ろ 現 在 の ニ ー ズ と 同 様 に 将 来 に お い て も 矛 盾 し な い よ う な 形 で 資 源 を 活 用 し、投資・技術開発を方向づけ、制度を変革していく一連の変化のプロセスで ある」と定義している4。そして環境保護と経済的発展の両立を目指す

NPO

ある

The Natural Step

は、持続可能な社会を実現する条件と して、①自然の中に

地殻からの物質の濃度が増え続けることがない、②自然の中に人間社会で製造