10.レピュテーションの重要性
仮説 3 については、上下位基準 25%、30%について比率の大小関係が僅かに 認められたものの、すべてにおいて帰無仮説は棄却されず、統計的に有意な差
いという結果になった。しかし、3 パターンとも上下位基準
25%、30%、35%
のすべてで帰無仮説は棄却されず、統計的に有意な差は認められなかった。
以上により、仮説
1
は支持されないという結論になった。すなわち、景気回 復期、好況期には環境経営に取り組むからといって高業績を維持できるわけで はなく、業績維持にはその他の要因が大きく影響するという結果になった。仮説
2
については、上下位基準25%、30%、35%のすべてにおいて比率の大
小関係が認められたが、上位下位基準25%のみ統計的に有意な差が認められた。
比率の差の検定ではそのうち
2
つについて帰無仮説は棄却されなかったので、やはり仮説が支持されたとまではいえない。すなわち、景気回復期において、
もともと高業績にある企業のうち、環境経営に力を入れている企業は、力を入 れなかった企業に比べて、業績が悪化するわけではないといえる。
仮説
1、仮説 2
をまとめると、もともと高業績にある企業にとって、環境へ の取り組みが積極的であることは高業績を維持するとはいえない。また、業績 が悪化するともいえない。景気回復期における環境への取り組みは高業績維持、業績悪化のいずれも大きな影響を与えないということが指摘できる。
次に低業績企業について見ていくことにしよう。仮説は以下のとおりである。
低業績企業について、
仮説
3
:環境経営度が高い企業がその後高業績を回復する確率は、環境経営 度が低い企業が高業績を回復する確率よりも高い。仮説
4
:環境経営度が低い企業がその後業績を低迷させる確率は、環境経営 度が高い企業が業績を低迷させる確率よりも高い。図表 5-12 仮説 3、4 の比率の差の検定 期間
サン プル 数
上下位
基準 仮説 x1 x2 n1 n2 pˆ1pˆ2 Z
検定 結果 z=1.64
5
有意 確率
(%)
2003-2008 459 25% 3 5 6 23 37 0.06 0.54 × 29.5
2003-2008 459 30% 3 11 9 40 46 0.08 0.87 × 19.2 2003-2008 459 35% 3 13 16 55 63 -0.02 -0.22 × 41.3 2003-2008 459 25% 4 19 6 37 23 0.25 1.93 ○ 2.68 2003-2008 459 30% 4 24 10 46 40 0.27 2.57 ○ 0.51 2003-2008 459 35% 4 29 23 63 55 0.04 0.46 × 32.3
(出所)筆者作成。
仮説
3
については、上下位基準25%、30%について比率の大小関係が僅かに
原因となって高業績を実現できるわけではない。業績が回復するとまではいか ないということを意味している。ある意味では当然の結果であり、前節で指摘 したように、低業績企業が高業績へと回復するためには、環境経営に力を入れ ること以外の要因が必要となる。
仮説
4
では、上下位基準25%、30%、35%のすべてにおいて比率の大小関係
が認められ、そのうち25%、30%においては帰無仮説が棄却され、有意差が認
められた。このことから、仮説4
は支持されたといえよう。前節の仮説4
(2002 年基準)で示したように、不況時に環境経営に力を入れなかった低業績企業は、環境経営に力を入れた低業績企業に比べて、業績が低迷し続ける可能性が高い という結果になった。すなわち、たとえ業績が低迷していたとしても、環境経 営に力を入れている企業は、業績回復とまではいかなくとも、業績低迷を脱す る可能性が高いということを示しているのである。
4
つの仮説についてまとめると以下のようになる。すなわち、 仮説
1
で示したように高業績の企業群にとっては、たとえ環境 経営に力を入れていたとしても高業績維持をすることにはつながらず、仮説2
で示したように環境経営に力を入れていないからといって業績が悪化するわ けではないということが確認できた。分析の対象期間である好況時には特にこ の傾向が認められるようである。一方、低業績企業群にとって、仮説
3
で示したように環境経営に力を入れて もそれが業績の向上につながるわけではないが、仮説4
で示したように環境経 営に力を入れたほうが業績低迷から脱出する可能性は高くなるということが 明らかになった。5. 2. 2000-2004
年の分析との比較前節で行った分析(2000-2004)では、2 年後(2000-2002、2002-2004)と
4
年後(2000-2004)の計3
つの期間を用いて環境経営度と財務業績の関係の検 証を試みたが、仮説によっては、設定した期間によって分析結果が異なるとい う 解 釈 の 分 か れ る 結 果 と な っ て し ま っ た 。 そ の た め 、 本 節 で 行 っ た 分 析(2003-2008)と単純な比較はできないが、おおむね以下のことが指摘されよ う。
仮説
1
に関しては、前節の分析結果と本節の分析結果は全くといってよいほ ど異なる結果になった。すなわち、もともと高業績の企業に関して言えば、2000-2004
年の期間では環境経営度が高い企業ほど高業績を維持できる可能性が高かったが、2003-2008 年では、環境経営度が低い企業ほど高業績を維持で きる可能性が高いという結果である。これは、景気回復期(好況期)において は、環境経営への積極的な取り組みが業績維持に貢献していないということを 示唆している。言い方を変えれば、高業績企業が業績維持のみ追求するのであ れば環境への積極的な取り組はそれほど必要でもなかったともいえよう。
仮説
2
については、前節の分析結果と本節の分析結果はほぼ同様であり、もともと業績の高い企業に関していえば、たとえ環境経営度が低いからといって 環境経営度が高い企業ほど業績が悪化するわけではないという結果であった。
この結果については前節と本節の結果から、好況時、不況時を問わず成り立つ 可能性が高いといえよう。
仮説
3
については、仮説2
と同じく、前節の分析結果と本節の分析結果はほ ぼ同様であった。分析の対象とした企業はもともと低業績の企業であり、その 企業が高業績を達成するためには、本業にどこまで力を入れるかという点が重 要であると確認された。仮説
4
については、設定した期間の違いもあり、前節の分析結果と本節の分 析結果とでは多少異なるものの、前節の分析期間2002-2004
年に限っていえば ほぼ同様の結果になった。特に2004
年は景気回復期の初期に該当するため、本節の分析結果と同様の結果になったものと思われる。すなわち、もともと低 業績の企業にとって、環境経営に積極的に取り組むことは、そうでない場合に 比べ、仮説
3
が示すように高業績を達成するわけではないが、少なくとも業績 低迷の状態から抜け出す可能性が高いという点が確認された。6.
小括本章における研究の目的は、
97
年の京都会議開催以降、環境対策の具体的な 取り組みが実際に多くの企業で行われ始めた2000
年から2004
年までの最近5
年間の日本企業(製造業)における環境対策と財務業績との関係について、定 量的な分析を行うことであった。さらに、2008
年までの財務データを用いて同 様の関係について追試を試みた。相関分析では、2002 年と
2004
年で、相反する結果となり、5
年間全体の傾 向としてはっきりした関係性は認められなかったが、環境経営度、財務業績の 上位/下位それぞれ10%の際立った企業のみを対象として行った t
検定では、2002
年と2004
年において、環境経営度と財務業績の間にプラスの関係が認め られた。さらに同一年でなく、時系列で、比率の差の検定を用いて分析した結 果、両者の関係は、従来いわれているような、単にプラスの関係やマイナスの 関係といった単純なものではなく、その企業の特性(高業績か低業績か、環境 経営に積極的か消極的か)や基準年、短期・中期などの期間設定の違いによっ ても大きく異なってくることが明らかになった。通常、環境経営を積極的に行 う際の、財務業績や企業価値への影響は、中・長期に現れると仮定されること が多いが、本研究から、条件によっては、2年後という比較的短期間であって も、その影響が現れる場合があることが明らかになった。また、環境経営への 取り組みの度合いは、過去の業績に左右される部分が大きいとされるが、分析 の結果からは、その傾向は見出されなかった。本研究全体を通じての私見として、相関分析で唯一正の相関が認められた
2002
年が一つのターニング・ポイントであったと考えられる。最初に述べたよ うに、京都会議開催の97
年以降、特に99
年から2001
年の間に、企業の環境配慮行動に関連する多数の法律が成立している。法令によって企業の責任が明 確に規定されたことは、環境対策に関する投資、コストなどの点のみならず、
通常の事業活動に及ぼす影響も大きく、その結果が
2002
年ごろから財務業績 という形でも現れ始めたのではないかと思われる。環境経営の巧拙が競争優位 という観点から企業経営に影響を及ぼすようになると、環境対策は、法令遵守 をはじめとした受動的・対処療法的な対応では不十分であり、企業全体の経営 戦略の枠組みで捉えていくことが必要となる。Reinhardt (1998)は、「環境責 任戦略を実行するからといって、すべての企業が競争優位を生み出すことがで きるわけではない。むしろ注意を払うべきは、環境責任戦略の実行が競争優位 の確立に寄与しうる状況が整ってきたことである。」と述べている。2002
年を 契機として、わが国においてもこのような状況が整い始めているのだろう。環境に配慮した経営が、財務業績への寄与度という点で、どの程度影響を与 える要因であるのかについて検証していくことは、今後の重要な課題であるが、
現実には、環境経営に関する要因を含めて、あらゆる経営要因や異なった条件 が複雑に絡み合って最終的に結実したものが財務業績であり、純粋に環境経営 に関する要因のみを取り出すことはきわめて困難である。そのため、本研究の 後半部分、比率の差の検定では、財務業績を決定する環境経営以外の要因と、
環境経営を決定する企業財務以外の要因が一定であると仮定した上で、それぞ れの上位企業/下位企業をグルーピングして、その後の財務業績/環境経営の 変化の比率を検証することで、両者の関係を見ようとした。しかし、研究対象 とした
2000
年から2004
年までの5
年間は、企業を取り巻く外部環境の変化が 激しく、それら企業外部の経済要因は、他の年以上に財務業績に大きな影響を 与えたと考えられる。そこで、単年度の影響を平準化し、環境経営度得点、財務業績共に
2
年分の 平均を取り、分析対象期間を2003-2008
年の景気回復期、好況期に限定して追 試を行った。その結果、仮説1
に関しては分析結果が異なるものの、仮説2、
仮説
3、仮説 4
についてはほぼ2000-2004
年に行った分析とほぼ同様の結果と なった。仮説1
以外については環境経営への取り組みと財務業績の関係には景 気動向よりも別の要因、すなわち本章第4
節で指摘したように経営者の環境問 題への意識や環境経営を企業内でどう位置づけているかという戦略的観点に よって左右される部分が大きいと考えられる。この分析結果はOrlitzky et al.
(2003)で示された財務業績と社会的パフォーマンス(本研究では環境経営度)
の相互補完的な循環関係や
McGuire et al.
(1988)の指摘するように、単純に過 去の業績がその後の社会的課題への取り組みに影響を与えるとする先行研究 とは異なるものであった。本研究の貢献を述べるならば、