第 3 章 環境イノベーションに関する決定要因の実証研究
第 4 節 気候変動による病害虫被害への影響と水稲の収量/品質への影響に関する実証研
4.5 推計結果
4.5.2 将来的な気温上昇による影響
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表 4.4 気温が病虫害発生に与える影響の推定結果
表 4.4 は気温上昇が病虫害発生に与える影響をみるため(5)式を推定した結果であり、
水稲の田植が行われる 5 月から刈取が終わる 10 月までの月別平均気温とカメムシ被害率、
ウンカ被害率、いもち病被害率の関係を推定している。カメムシ被害率について、6 月、8 月平均気温がプラスに有意、年間を通して 1℃上がる場合には、被害率が 1.5%上昇するこ とがわかる。ウンカ被害率についての結果では、各月の平均気温とウンカ被害率には 5、7 月平均気温の上昇によって被害率が上昇すること、6 月平均気温の上昇によって被害率が低 下することが有意に示された。いもち病被害率については、5、7~9 月の平均気温上昇が有 意に負の影響をもっているため、気温上昇によっていもち病が起こりにくくなると考えら れる。いもち病は一般的に冷夏の年に発生するといわれているため、この結果は妥当である と考えられる。
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おいて 2.1℃気温が上昇する場合8の収量および品質への影響を計算9する。計算の結果、図 4.7 や図 4.8 のように、地域によって影響は異なることがわかる。図 4.7 は収量に関して 2.1℃気温上昇したときの影響を図示したものであり、気温上昇による直接的な影響と気温 上昇を通じた病害虫による間接的な影響をそれぞれ、オレンジ色と灰色、足し合わせた影響 を青色で示している。北海道では気温、病害虫ともプラスに影響しているため、収量が増加 すると考えられる。東北地方では気温上昇によって収量が減少する一方、冷夏の減少によっ ていもち病の発生が減ることで収量が増加するため、気温上昇の負の影響がほぼ相殺され る可能性が示された。関東以南では、気温上昇による収量の減少が病害虫発生減少による収 量の増加を上回るため、程度は異なるものの収量は大きく減少することが示されている。気 温上昇の直接・間接的な影響は北海道では約 5.6%の増収、関東以南では約 4.7%から 7.2%
の減収となる。
図 4.7 都道府県別気温上昇時の収量への影響
8 Hibiki ら(2020)は東京大学・国立研究開発法人国立環境研究所・国立研究開発法人海洋 研究開発機構の共同研究により開発された気候モデル MIROC5 によって、RCP8.5 シナリ オ下における将来気温のシミュレーション結果から、日本全体の 2050 年における気温上 昇(対 2005 年)の平均値を計算した。その結果、気温上昇が 2.1℃となることが得られて いる。本稿では、この気温上昇を用いて、気温上昇の効果を計算している。
9 この計算は品種改良や作付時期の変更など、気候変動の影響を緩和するような技術開発 を考慮していない最大値を計算したものであり、影響を過大評価している可能性があるこ とに留意する必要がある。
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図 4.8 は図 4.7 同様気温が 2.1℃上昇したときに、1 等米比率に与える影響を計算したも のである。収量と異なり、すべての都道府県においてマイナスの効果が上回っているため、
地域差はあるものの、気温上昇による水稲の品質低下は日本全体で発生すると考えられる。
図 2 では気温上昇による品質の低下は関東地方が最も大きく、1 等米比率が約 9.3%低下す る。また、影響が小さいとされる中国地方や九州地方においても約 2%程度低下する。また、
病害虫の影響について、1 等米比率を低下させる程度は気温による影響と比べて非常に小さ いが、これは気温上昇によるカメムシ被害の発生が大きく変化するものではないことが理 由の一つである可能性がある。
図 4.8 都道府県別気温上昇時の品質への影響
最後に、気温上昇による直接的な影響と、病害虫発生増に伴う間接的な影響を比較すると、
収量に関して気温の直接的な影響は北海道では 24kg/10a の増収、九州では 41kg/10a の減 収に対して、病害虫発生による影響は多くの地方で平均 4kg/10a の増収となる。これは、冷 夏の影響によるいもち病が減少することが大きな要因となっている。品質については、直接 的な気温上昇の 1 等米比率への影響は平均 9.3%低下、間接的な病害虫発生による影響は平 均 0.12%の低下となる。したがって、品質については病害虫の影響は小さいものといえる。
病害虫の影響は水稲の収量に対して少なからず負の影響がみられるため、病虫害の防除 を行うことで発生を抑制すると、収量の低下幅を小さくすることができる。他方で、病害虫 の影響は水稲の品質には、ほとんど影響しない。これまで気候変動と農業について議論され てきた温室効果ガスの抑制や作物の転作、作付時期の変更のみならず、より効果的な病害虫
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防除対策が、米生産に対する気候変動の適応策の 1 つとして重要であると考えられる。