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対象流域における現状と課題

ドキュメント内 ブータン国 (ページ 51-71)

4-1 マンデ川流域 4-1-1 基本情報

マンデ川流域に位置するトンサ県は、ブータン国のほぼ中央に位置し、標高 800m~4,800m の範囲に広がる山岳地域であり、総面積は1,807 km2である。森林のカバー率は84.13%である。

同県は、5つのゲオグのDrakteng, Korphu. Nubi, Langthil, Tangsibjiで構成されており。県庁所在 地はトンサ(Trongsa)である。

2009 年の推計人口は14,448人、人口増加率 1.4%である。5 つのゲオグのうち、最も人口密 度が高いのは Nubi である。農業が住民の主要な収入源である。ほとんどの主要な農作物が栽 培されているが、とくにトマト栽培を中心とする地域もある。

同県内には多くの神聖なモニュメントがあり、それらは8世紀に高僧がトンサからインドへ 帰る途中で瞑想した場所であると信じられている。面積1,723 km2のSingye Wangchuck国立公 園があり、希少種の動植物が保護されている。

同県に関する基本情報を、以下の表 4-1から表 4-5に示す(出典は、いずれもDzongkhag Administration Trongsa, Annual Dzongkhag Statistics 2010による。)

表 4-1 行政組織

行政組織 2008 2009 2010

Gewogs 5 5 5

Chiwogs 51 51 51 Villages 56 56 56 Households n.a. n.a. n.a.

Towns 1 1 1

表 4-2 行政組織

区分 2008 2009 2010

人口計(人) 14,187 14,448 14,712

(注)“Annual Dzongkhag Statistics 2010”とは別に同県より入手した” Dzongkhag At A Glance, as of 2011”によれば、

2011年の推計人口は男7,732人、女7,508人の計15,240人であり、世帯数は1,725世帯となっている。

表 4-3 第 10 次 5 カ年計画での予算額(Outlay 2008-2011)

単位:百万ヌルタム

行政組織 ゲオグ

総務・管理 22.3 11.3

農業 16.9 54.9

家畜 6.7 1.8

林野 10.5 10.8

教育 n.a. n.a.

保健 35.3 9.5

都市開発・住宅 35.0 3.2

その他 n.a. n.a.

計画計 126.7 91.46

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表 4-4 インフラ施設

インフラ施設 2007 2008 2009

道路総延長(km) 217.12 242.97 283.12 Farm roads 28.92 55.02 94.92 Feeder roads 24.20 23.95 24.20 Forest roads 0 0 0 Highway 164.00 164.00 164.00

橋梁計(数) 27 27 27

Suspension bridge 4 4 4 Suspended 7 7 7 Bailey bridge 15 15 15 Traditional bridge 1 1 1

表 4-5 災害別の被害状況

インフラ施設 2007 2008 2009

県総面積(km2) 1,807.29 1,807.29 1,807.29 耕作面積(エーカー) n.a. n.a. 7,236.6

土砂すべりによる被害 n.a. n.a. n.a.

洪水による被害 n.a. n.a. 11エーカー

干ばつによる農作物被害 n.a. n.a. n.a.

野生動物による農作物被害 n.a. n.a. n.a.

地震被害(件数) n.a. n.a. n.a.

森林火災(件数) n.a. n.a. n.a.

一般火災(件数) n.a. n.a. n.a.

4-1-2 水文・気象災害に関する情報 (1) 流域の観測体制

マンデ川流域には、計2カ所のPrincipal水文観測所(高水流量測定あり)、及び計8カ所 の気象観測所(うち1カ所はAWS導入)が存在している。表 4-6に観測所一覧を、また、

図 4-1にチャムカール川と併せて、流域の主要な観測所の位置を示す。

表 4-6 マンデ川流域の主要観測所

観測所名 ゾンカク 観測開始日 備考

<水位観測所>

Bjizam(ジーザム) トンサ県 1994/03/20 2Staff Tingtibi(ティンティビ) シェムガン県 2005/06/27 2Staff

<気象観測所>

Trongsa(トンサ) トンサ県 Class A Langthel(ランテル) トンサ県 Class C Bjizam(ジーザム) トンサ県 Class C Chendebji(チェンデブジ) トンサ県 Class C Yotongla(ヨートンラ) トンサ県 Class C Zhemgang(シェムガン) シェムガン県 Class A, AWS

Yabilaptsa(ヤビラプツァ) シェムガン県 Class C Buli(ブリー) シェムガン県 Class C

図 4-1 マンデ川、チャムカール川各流域の主要観測所位置図

本調査では、Principal水文観測所の一つBjizam観測所を視察した。Bjizam村は、ブータ ン中央を東西に走るNational Highwayがマンデ川を横断する箇所にあり、水文観測所は橋か ら約800m上流に位置する。

2名のDHMS地方職員がBjizam村に駐在しており(職員の一人は1998年から14年間駐 在)、2 回/日(9:00AM、3:00PM)の水位観測、1 回/週の流速観測を行っている。また土砂 サンプルは1回/日の頻度で実施している。

観測所には、プロペラ式流速計及びその格納施設が設置されているが、2009 年のサイク ロン・アイラによる洪水により、施設の一部が破壊された。その後、流速計を新調するとと もに、観測施設の護岸整備を行っている。

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Bjizam観測所 ケーブル式の流速計を備える

Bjizam観測所の河川断面図

(2) サイクロン・アイラ時の観測値

2009年5月に襲来したサイクロン・アイラによる観測水位を図 4-2に示す。

マンデ川の観測所、Bjizam及びTingtibiでは、当日5月26日9時の定時観測から15時の 定時観測にかけて観測頻度を上げ、1時間ごとのデータを記録している(ただし、Bjizamの 観測所では既存の水位標をオーバーフローしたため記録がない)。また、15時以降、翌日9 時までは観測を行っていないため、ピーク発生時間についても正確なデータは得られていな い状況にある。

なお、図 4-2では、Tingtibiに別途設置されているFlood Warning Section(インドへの洪 水予警報)のデータを合わせて示している。本観測所では30分毎の観測を行っているが、

やはりピーク時には水位標をオーバーフローしており、正確なピーク水位が得られていない。

なお、Tongsaの気象観測所のデータによれば、日雨量約100mm降雨が2日間観測されて いるが、降雨ピークに関しては不明である。

図 4-3にBjizam、Tingtibi両観測所の流量グラフを示す(定時観測9時の計測値)。Bjizam

における平均年最大流量は約300m3/s、Tingtibiでは約600m3/s程度であるのに対し、サイク ロン・アイラでは、それぞれ、642m3/s、2,174m3/sに達している。

図 4-2 Bjizam、Tingtibi におけるサイクロン・アイラ時の観測水位

図 4-3 Bjizam、Tingtibi における流量観測グラフ(2006 年~2011 年)

Bjizamにおける過去18年間(1994~2011)、Tingtibiにおける過去21年間(1991~2011)

の年最大流量から、Gumbel法を用いて洪水発生確率を算出した(表 4-7)。これによると、

サイクロン・アイラがもたらしたピーク流量は、Bjizam 観測所ではおよそ 200 年確率に達 し、Tingtibi観測所ではそれを大きく超過した。

表 4-7 Bjizam、Tingtibi における洪水発生確率(2009 年を除く)

確率年 Bjizam (cms) Tingtibi (cms)

2年 303.50 584.65 5年 377.02 730.10 10年 426.36 826.41 20年 473.68 918.78 50年 534.94 1038.36 100年 580.85 1127.96 200年 626.59 1217.24

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4-1-3 氷河湖決壊洪水に対する取り組み

マンデ川は、先行案件であるSATREPSの対象流域である。本研究以前には、GLOFを対象と した研究や対策事業は実施されていない。また、当該流域で過去GLOFの発生を示す資料はな い。

(1) ブータンヒマラヤにおける氷河湖決壊洪水に関する研究(JICA/JST)

本研究事業では、「 2-3-3 氷河湖に関する情報」に述べたように、氷河湖インベ ントリー、決壊危険度の定量評価を実施するとともに、現地調査と氷河湖底の測量、モレー ン内部構造探査、下流域への GLOF インパクト評価等を行った。また、本成果に基づいて 早期警報システムの基本的な設計と提案を行っている。

GLOFインパクト評価にあたっては、マンデ川流域の複数の氷河湖の決壊モデルを構築す るとともに、流域最大の氷河湖であるメタツォタ湖の決壊を想定して、下流域への洪水伝播 及び被害範囲の推定を行っている。

その結果、メタツォタ湖の決壊洪水(ピーク流量 2,750m3/s)は、決壊後 3 時間で 62km 下流の Bjizam村に達し(ピーク流量2,000m3/s)、約6時間後に123km下流のTingtibi村に 到達する(ピーク流量1,750m3/s)と見積もられている。メタツォタ湖からBjizam村までの 平均洪水流速は5.7m/sであり、1994年にプナツァン川で発生したGLOFの観測値4.4m/sよ りもやや速い。プナツァン川の平均勾配が1/28に対して、マンデ川では1/20とやや勾配で あることが影響している。

本研究事業の最終報告書より、メタツォタ湖決壊を想定した各地点でのハイドログラフ を図 4-4に示す。

図 4-4 各地点における推定ハイドログラフ

出典:「ブータンヒマラヤにおける氷河湖決壊洪水に関する研究」最終報告書

また当該ハイドログラフを用いた氾濫予測図を図 4-5、図 4-6に示す。

マンデ川では、地形が急峻であるため、氾濫範囲は河川沿いの低位段丘面に限られてい る。しかしながら、特にBjizam村では10名以上の住民が直接影響を受けるとともに、後述

するように、河岸に農業森林省のオフィスが新築されるなど、GLOF及び降雨洪水リスクが 高まっている。

図 4-5 Bjizam 村(メタツォタ湖より 62km 下流)における GLOF 氾濫予測図

出典:「ブータンヒマラヤにおける氷河湖決壊洪水に関する研究」最終報告書

図 4-6 Tingtibi 村(メタツォタ湖より 123km 下流)における GLOF 氾濫予測図

出典:「ブータンヒマラヤにおける氷河湖決壊洪水に関する研究」最終報告書

(2) Detail Project Report of Mangdechhu Hydroelectric Project(NHPC Limited)

マンデ川の中流域、Bjizam村からさらに 8km下流には、マンデチュー水力発電プロジェ クト(Mandechhu Hydropower Project Authority:MHPA)により取水ダム工事が実施中であ る。2013年中には、ダイバージョントンネル、及びコファダムが完成し、2014年にはダム 本体掘削工事に入る予定である。図 4-7に取水ダム付近の施設配置を示す。

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図 4-7 マンデ川発電所取水ダム施設配置図

出典:Detail Project Report

本水力発電所工事に先立って、インドのコンサルタント会社NHPC Limitedにより詳細プ ロジェクト報告書が作成されているが、その中で、GLOFインパクト評価とその対策につい て述べられている。

本報告書では、SATREPS と同様に、メタツォタ湖決壊を想定して洪水解析を実施してい るが、ピーク流量はより大きく見積もっており、決壊時に 6,939m3/s、ダムサイト到達時に

3,715m3/s としている(図 4-8参照)。これは、SATREPS では湖底測量から正確な湖盆形

状から決壊ボリュームを算定しているのに対し、本詳細プロジェクト報告書では、湖面積か らボリュームを算定しているためである。

なお、本報告書では、GLOFに対処するために、早期警報システムの設置が提案されてい るが、MHPAによると、現時点で施設を設置する計画はないとのことである。

図 4-8 マンデ川発電所取水ダム施設配置図

出典:Detail Project Report

4-1-4 当該流域における災害対策の現状と課題 (1) 住宅・行政施設新設によるリスク増大

マンデ川流域のトンサ県行政へのヒアリングでは、県の災害対応の中で GLOF 及び洪水 に関する優先順位は高くない。これは、マンデ川流域の地形が急峻なため、古来、集落は谷 底には形成されておらず、保全対象がそもそも少ないことによる。

しかしながら、National Highwayの開通により、マンデ川横断部にあたるトンサ県Bjizam 村やシェムガン県Tingtibi村では河岸に集落が形成され、また、急峻な地形条件のもと、住 宅や公共施設の用地確保が困難なことから、洪水リスクの高い河岸や低位段丘面上に次々と 新しい家屋が建設されている。

こうした洪水リスクの高い河岸に住み着いた世帯は、一般に低所得層であり、洗濯や入 浴等、日常生活の中で河川を利用している。突発的に発生し極めて短時間に水位上昇する GLOFの災害特性を鑑みるに、こうした住民の安全な避難のためには、防災啓発と予警報の 充実が欠かせない。

(2) 水力発電所の保全

一方で、現在工事中の水力発電所へのGLOF及び洪水の影響も深刻な課題である。

水力発電所は、可能最大洪水(Probable Maximum Flood:PMF):6,220m3/s、設計洪水量

(Standard Project Flood:SPF):4,715m3/sで設計されており、設計上は想定されるGLOFに 耐えうるものとなっている。しかしながら、MHPA によれば、洪水時や GLOF 発生時には 施設保全のためにダム操作を行う必要があり、また、放水時の下流域への事前通告のために も、上流部のモニタリングと予警報は重要としている。

さらに、2014 年からはダム堤体本体工事に入る予定であるが、現在工事が進められてい るダイバージョントンネル、及びコファダムは、25 年確率洪水で設計されている。仮にア イラと同等の洪水が発生すれば、これら施設の許容量を大きく上回ることになる。MHPA は、特にダム本体工事時の安全監視を重視している。

河岸に立地するBjizamの集落 河岸に新設された農業森林省オフィス

ドキュメント内 ブータン国 (ページ 51-71)

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