ブータン国
氷河湖決壊洪水(GLOF)及び
洪水予警報能力向上プロジェクト
詳細計画策定調査報告書
独立行政法人国際協力機構
地球環境部
平成28年2月
(2016年)
環境
ブータン国
氷河湖決壊洪水(GLOF)及び
洪水予警報能力向上プロジェクト
詳細計画策定調査報告書
独立行政法人国際協力機構
地球環境部
平成28年2月
(2016年)
現地調査写真(1/2)
トンサ市街地上流約 6 ㎞に位置する Bjizam 集落。低位 段丘面上に住居および森林局事務所等が立地する。 トンサ県知事からのヒアリング。急峻な山岳地よりな るトンサ県では、河道沿いの低地が開発されている。 Bjizam 集落上流の水位・流量観測所。2009 年のサイク ロン・アイラで破壊され、現在は復旧している。 Bjizam 集落近辺の極めてリスクの高いエリアに建設 されている農業省管轄の建造物。 トンサ市街地下流で進められている水力発電所のダム サイト。本体工事中の早期警報が求められている。 ブムタン市街地の中央を流下する支流。大雨により 頻繁に増水し、市街地が直接的な被害を受けてい る。iv
現地調査写真(2/2)
ブムタン市街地を望む。写真下は無償資金協力により 完成したチャムカール橋。市街地の一部は 2009 年洪水 で浸水。 クジェ地区(ブムタン市街地より上流 5 ㎞付近)の低 地に立地するバラック家屋。無秩序な移住が課題。 Kurjey 観測所のプロペラ式流速計。2 回/日の水位観測 と、2 回/月の流速観測を行っている チャムカール川上流の Kagthang アーミー・キャンプ。 車でアクセスできる最上流点となる 詳細計画策定調査その1時の協議議事録交換風景 詳細計画策定調査その2時の協議議事録交換風景目 次
プロジェクト対象地域位置図 ... i 現地調査写真 ... iii 目 次 ... v 略語表 ... vii 第1章 詳細計画策定調査の概要 ... 1 1-1 要請の背景 ... 1 1-2 調査の目的 ... 2 1-3 調査団員構成 ... 2 1-4 調査日程 ... 2 1-5 協議結果概要 ... 2 1-5-1 詳細計画策定調査(その 1) ... 2 1-5-2 詳細計画策定調査(その 2) ... 7 1-6 所感 ... 7 1-6-1 詳細計画策定調査(その 1) ... 7 1-6-2 詳細計画策定調査(その 2) ... 10 第2章 「ブ」国における防災分野を取り巻く環境 ... 15 2-1 防災に関する法令、国家政策、計画 ... 15 2-1-1 防災に関する国家政策・計画 ... 15 2-1-2 防災に関する法令 ... 16 2-2 防災組織・体制と具体的な取り組み ... 16 2-2-1 中央政府における防災分野に関連する組織 ... 16 2-2-2 地方政府における防災分野に関連する組織 ... 17 2-2-3 土地利用に関する関係機関、関連法・制度 ... 18 2-3 「ブ」国における自然災害の発生状況 ... 18 2-3-1 気候変動に関連する自然災害 ... 18 2-3-2 その他の災害 ... 19 2-3-3 氷河湖に関する情報 ... 19 2-4 他の援助機関による防災分野での協力の現状・実績 ... 21 2-4-1 国連開発計画(UNDP) ... 21 2-4-2 世界銀行 ... 22 2-4-3 デンマーク政府 ... 22 2-5 「ブ」国における防災分野の課題 ... 23 第3章 DHMS の予警報体制に関する現状と課題 ... 25 3-1 DHMS の組織及び人員体制 ... 25 3-2 国家計画の中の DHMS の取り組み ... 26 3-2-1 第 10 次 5 カ年計画 ... 26vi 3-2-2 第 11 次 5 カ年計画ドラフト ... 27 3-3 水文気象観測体制 ... 27 3-3-1 水文観測体制 ... 28 3-3-2 気象観測体制 ... 29 3-4 気象予報・予警報体制 ... 30 3-5 国家気象洪水予警報センター(NWFFWC) ... 31 3-5-1 UNDP/GEF プロジェクト ... 32 3-5-2 DANIDA:気候変動対応能力強化プロジェクト ... 33 3-5-3 ICIMOD:HKH-HYCOS プロジェクト ... 33 3-6 DHMS 及び NWFFWC の課題 ... 34 3-6-1 水文気象観測の自動化とネットワーク構築 ... 34 3-6-2 既存モニタリング・システムの統合化 ... 35 3-6-3 水文気象情報の分析・予報能力強化 ... 35 3-6-4 予警報発令のための関係省庁間体制の確立 ... 35 第4章 対象流域における現状と課題 ... 37 4-1 マンデ川流域 ... 37 4-1-1 基本情報 ... 37 4-1-2 水文・気象災害に関する情報 ... 38 4-1-3 氷河湖決壊洪水に対する取り組み ... 42 4-1-4 当該流域における災害対策の現状と課題 ... 45 4-2 チャムカール川流域 ... 46 4-2-1 基本情報 ... 46 4-2-2 水文・気象災害に関する情報 ... 48 4-2-3 氷河湖決壊洪水に対する取り組み ... 50 4-2-4 当該流域における災害対策の現状と課題 ... 53 第5章 協力計画概要 ... 57 5-1 協力の基本方針 ... 57 5-1-1 プロジェクトの目的と意義 ... 57 5-1-2 協力概要 ... 57 5-2 プロジェクトの基本計画 ... 57 5-2-1 協力概要 ... 57 5-2-2 投入(インプット) ... 60 5-3 要請機材の妥当性 ... 60 5-3-1 NWFFWC の水文気象監視体制強化のための資機材 ... 61 5-3-2 NWFFWC の水文気象データ分析・予報のための資機材 ... 62 5-3-3 各流域への早期警報システム ... 63 5-4 モニタリング・評価 ... 67 5-5 外部条件及びその他のリスク ... 67
第6章 プロジェクトの事前評価 ... 69 6-1 妥当性 ... 69 6-2 有効性 ... 69 6-3 効率性 ... 70 6-4 インパクト ... 70 6-5 持続性 ... 71 6-6 結論 ... 71 第7章 協力実施上の留意点 ... 73 7-1 他の援助機関との関係整理 ... 73 7-2 パイロット流域の選定 ... 73 7-3 その他 ... 73 【付属資料】 1. 協議議事録(M/M) 2. 詳細計画策定調査の概要(団員構成・日程) 3. 主要面談者リスト 4. 事前評価表 5. 署名済討議議事録(R/D)
略 語 表
略語 英語名称 日本語名称
AWS Automatic Weather Station 自動気象観測システム
AWLS Automatic Water Level Station 自動水位観測システム
BHU Basic Health Unit 簡易診療所
CBDRM Community Based Disaster Risk Management コミュニティ防災
C/P Counter Part カウンターパート
DDM Department of Disaster Management (経済省)防災局
DGM Department of Geology and Mines (経済省)地質鉱山局
DHMS Department of Hydrology and Meteorology Services
気象水文サービス局
DoE Department of Energy (経済省)エネルギー局
DoES Department of Engineering Service 技術局
EWS Early Warning System 早期警報システム
GEF Global Environmental Facility 地球環境ファシリティ
GFDRR Global Fund for Disaster Risk Reduction -
GFS Global Forecast System 米国環境予測センターが提供するメ
ソ気象モデルを活用した気象情報シ ステム
GLOF Glacial Lake Outburst Floods 氷河湖決壊洪水
GNH Gross National Happiness 国民総幸福量
GTS Global Telecommunication System 全球通信システム
HD Hydrology Division (水文気象局)水文部
ICIMOD International Centre for Integrated Mountain Development
国際総合山岳開発センター
JCC Joint Coordination Committee 合同調整委員会
IMD India Meteorological Department インド気象局
JSP Joint Support Programme -
JST Japan Science and Technology Agency 科学技術振興機構
MD Meteorology Division (水文気象局)気象部
MHPA Mandechhu Hydropower Project Authority マンデチュー水力発電プロジェクト
M/M Minutes of Meetings 協議議事録
MOEA Ministry of Economic Affairs 経済省
M/P Master Plan マスタープラン
MSS Message Switching System 情報交換システム
NAPA National Adaptation Program of Action 気候変動適応行動計画
NDRMF National Disaster Risk Management Framework 国家災害リスク管理フレームワーク
x NWFFWC National Weather, Flood Forecasting and
Warning Center
気象水文予警報センター
PCRD Planning Coodination and Research Division (水文気象局)計画調整・研究部
PHPA Punatsangchhu Hydropower Project Authority - PHRD Japan Policy and Human Resources
Development
日本開発政策・人材育成基金
PMF Probable Maximum Flood 可能最大洪水
SATREPS Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development
地球規模課題対応国際科学技術協力
SGD Snow & Glacier Division (水文気象局)雪氷部
SOP Standard of Procedure 標準作業手順書
SPF Standard Project Flood 設計洪水流量
TMD タイ気象局
UNDP United Nations Development Programme 国際連合開発計画
WMO World Meteorological Organization 世界気象機関
WRF Weather Research and Forecasting 米国環境予測センターが提供するメ
ソ気象モデルを活用した気象情報シ ステム
第1章 詳細計画策定調査の概要
1-1 要請の背景 ブータン国(以下、「ブ」国とする)は、世界的な気候変動の影響を受け、近年、これまで観 測されなかったような、フラッシュフラッド、サイクロンを含む暴風雨などの水文気象に関する 災害が多数発生している。毎年プレモンスーン期の 3 月~5 月に発生する局所的な豪雨も、年々 発生頻度が高まっており、2009 年 5 月に襲来したサイクロン・アイラは、全土で観測史上最大雨 量、ほとんどの水位観測所において観測史上最高水位を記録した。プナツァンチュ・ウォンディ 観測所では、最大流量 2,600 m3 /s に達し(同観測所における過去 17 年間における平均年最大流量 は、1,250 m3 /s)、被害総額は「ブ」国全土で 1,580 万 US ドルという近年最悪の暴風雨災害となっ た。 また、「ブ」国を含むヒマラヤ山脈の国々では、地球温暖化の影響により山岳氷河の縮退に伴 う氷河湖拡大、ならびにその決壊による洪水災害〔氷河湖決壊洪水(Glacial Lake Outburst Flood:GLOF)〕がたびたび報告されている。「ブ」国では、1957 年、1960 年、1994 年に GLOF の発生が 記録されており、特に 1994 年 10 月のルゲ GLOF の際には、死者 21 名、川沿いの家屋や歴史的 建造物が破壊され、農作物や家畜なども被害を受ける大災害となった。 GLOF については、その発生メカニズム、発生確率等について未解明な部分が多く、JICA では、 日本科学技術振興機構との共同プロジェクトとして、2009 年~2012 年において、「ブータンヒマ ラヤにおける氷河湖決壊洪水(GLOF)に関する研究プロジェクト」(以下、SATREPS とする)を 実施し、インベントリーの作成、発生メカニズム等について、「ブ」国側との共同研究を進めた。 また、SATREPS のパイロット流域であるマンデ川流域において流域最大湖の決壊を想定した GLOF 被害予測を実施している。SATREPS では、対象流域内に現時点で喫緊にハード対策を要す る氷河湖はないと結論づけたが、GLOF は通常の洪水とは異なり、前兆現象を伴わず突如下流域 に襲来するため(1994 年の GLOF の際の最大水位上昇率は 30 分あたり 2.5 m を記録)、ひとたび 発生すれば、住民の命や、国の基幹産業である水力発電の破壊にも繋がりかねない甚大な災害と なる。このため、継続的なモニタリングと早期警報システムの確立の必要性が提言された。 以上のような急増する GLOF と気象関連災害について、ブータン政府としても、第 10 次 5 カ 年計画の中や気候変動適応行動計画(National Adaptation Program of Action:NAPA)の中において も、対策の重要性について触れ、GLOF や洪水に対する早期警報システムの確立や、気象観測ネ
ットワークの拡充などを目的として揚げている。また、それらを実施する体制として、「ブ」国は、
2011 年に経済省エネルギー局内の一部署であった気象水文サービス部を、気象水文サービス局 (Department of Hydro-met Service:DHMS)に格上げするとともに、早期警戒を含めた流域監視 体制の強化を目的として、DHMS 内に国家気象洪水予警報センターを設置した。しかしながら、 現在国内に設置されている 24 カ所の水位観測所、90 カ所の気象観測所は、ごく一部を除き、自 動化されておらず、気象洪水予警報のための観測施設としては十分に機能していない状況にある。
-2- 警報システム導入によるマンデ川及びチャムカール川流域の洪水被害リスク軽減、②GLOF/降雨 洪水を対象とした早期警報システムを活用した早期警報及び情報ネットワークに関する運用維持 管理を目的として、「マンデ川及びチャムカール川流域における統合 GLOF 早期警報システム開 発プロジェクト」を要請した。 1-2 調査の目的 本調査においては、以下を目的としている。 (1) 「ブ」国関係機関のニーズの確認 (2) プロジェクト対象地域における被害想定のための基礎情報収集(災害履歴を含む) (3) プロジェクト対象地域における氷河湖に関する情報収集 (4) 土地利用に係る関係機関や法律・管理体制等の確認 (5) 実施機関の財務状況、費用負担能力、人員配置の確認
(6) カウンターパート(Counter Part:C/P)機関における JICA の技術協力プロジェクトに関す る理解の確認 (7) 他の援助機関による防災分野の協力内容・実績及び現状の確認 (8) PDM、PO を含むプロジェクトの内容・枠組みの検討・提案・協議 (9) 協議議事録(Minutes of Meetings:M/M)への署名 1-3 調査団員構成 付属資料 2 のとおり 1-4 調査日程 付属資料 2 のとおり 1-5 協議結果概要 2012 年 9 月 30 日~10 月 20 日にかけて実施した詳細計画策定調査(その 1)後、対象流域にお ける土地利用の観点の検討・プロジェクトで想定するシステム構築に関する人員配置の検討につ いて、プロジェクト開始前に、先方と協議しておくべきとの指摘があったことを受け、事務所を通 じた情報収集と、C/P 機関に対する状況説明を行い、追加で 2013 年 3 月 10 日~3 月 19 日にかけて 詳細計画策定調査(その 2)を行った。その後 JICA 内の手続きを経て 2013 年 5 月 14 日に討議議 事録 R/D の署名交換を行った。 1-5-1 詳細計画策定調査(その 1) 2012 年 10 月 18 日に別紙2のとおり、M/M に署名を行った。調査結果概要は、以下のとお り。 (1) プロジェクトの妥当性の明確化 本プロジェクトの要請に対する、妥当性についてニーズを改めて確認し、妥当であると 判断した。
(2) 災害種の特定について
ヒアリングの結果、先方のニーズは、早期警報システム(Early Warning System:EWS) を活用して GLOF を含む流域の洪水災害に係る予警報や、地域防災を含む各セクターヘの 緊急情報発信に対応することであることが明らかになった。また、今回 EWS のモニタリン グ情報を中央の気象水文予警報センター(National Weather, Flood Forecasting and Warning Center:NWFFWC)で統括管理することを希望しているが、将来的には、NWFFWC に、地 震観測網を含め全ての自然災害情報が集約され、情報が一元化されることを目指している。 したがって、本プロジェクトが降雨洪水を対象とすることは先方としても重要であると判断 できる。 (3) 支援対象について JICA に要請されている支援は、流域への EWS と、その管理モニタリング・防災力強化を 含めた中央政府及び NWFFWC の能力強化であるが、あくまでも流域へ導入する EWS は、 国家の予警報能力の向上のための一パイロットサイトに過ぎないことを説明し、理解しても らった。国際連合開発計画(United Nations Development Programme:UNDP)は別途、気象 水文ネットワークの整備を予定しているが、それは JICA プロジェクト成果の全国展開へも 貢献できるものであり、重複は想定されない。 (4) 支援流域選定の経緯について ブータンにおいて、GLOF の危険流域とされるのは、プナツァン川、マンデ川、チャムカ ール川の 3 流域である。このうち、プナツァン川流域には、UNDP による EWS が導入され ていることから、GLOF 対策を要する流域として、マンデ川及びチャムカール川の両河川が 要請されていた。 チャムカール川は、中央ブータンにおいてプナツァン川に次いで人口が集中する流域で あり、2009 年のサイクロンにおいても、市街地の中心部が被災している。近年では、氾濫 原へのニュータウン建設や空港建設により、GLOF 及び降雨洪水のリスクは高まっていると 認識されている。DHMS では、本件プロジェクトが開始されるに先立って、同流域の社会 脆弱性に関する調査を実施しており、その中で EWS の必要性について結論づけている。マ ンデ川の流域は、チャムカール川と比較して地形が急峻であることから、河岸の集落は限ら れているー方で、中流域において水力発電所の施行安全と完成後のダム管理のため、上流部 でのモニタリング及び EWS が求められていることが判明した。 (5) 同国の防災体制及び法制度・計画等の確認 ブータンにおける防災の体制としては、国家災害リスク管理フレームワーク(National Disaster Risk Management Framework:NDRMF)が 2006 年に承認され、それに基づいて国家 防止法案が国会に提出されている(法案作成には UNDP 及び WB が支援)が、2012 年 7 月 の国会では上下院の議決に食い違いがあり承認に至っていない。次期国会は 2013 年 2 月頃 に開催される予定であるが、承認を受けられない場合には、次期法案提出は総選挙後となる ため、現時点で成立の見通しは立っていない。NDRMF では国家防災計画や地方防災計画の 策定が明記されているものの、法案承認が遅れていることもあり現時点では存在していない。 現時点では、NDRMF 及び気候変動適応プログラムとして策定されている NAPA が国家防災
-4-
体制に関する拠り所となっている。また、GNH(Gross National Happiness、ブータンにおけ る計画立案などをする最上位の省庁)委員会によれば、2009 年のサイクロン洪水及び 2009 年、2011 年の地震災害を受けて、第 11 期 5 カ年計画(2013-2018)では、防災分野への取 り組みがより強化された内容になるとのこと(16 の国家主要成果の 1 つとして「災害に強 い社会づくりと防災の主流化」が掲げられる)。 (6) 現状の気象・水文観測体制の確認 国内の気象水文観測は、水力発電や農業セクターが独自に行っているものを除き、基本的 に全て DHMS が管轄する。約 20 の気象観測所、30 の水文観測所があるが、それぞれに 2 名程 度の観測員が常駐する。データの採取は基本的に一日 2 回であり、月毎に DHMS 本部に FAX ないし郵送で転送している。観測体制は良好であるが、手動観測所ではデータの欠落も多い。 特に 2009 年サイクロン・アイラにおいては、複数の観測所にて、最も重要な最大流量が記 録されていなかった。また水文データはリアルタイムで関係セクターに発信することに意義 があるため、自動化を進め、リアルタイムでの情報共有体制の構築を進めたいとの意向が確 認された。 (7) 現状の洪水対策・警戒体制の確認 洪水を含む防災体制に関しては、策定中の防災法案の中に盛り込まれている。緊急時の GLOF 対応として明確に示されているものは、UNDP プロジェクトにおいて DHMS により 作成された、プナツァン川 EWS の標準作業手順書(Standard of Procedure:SOP)である(2012 年 8 月完成)。同 SOP では GLOF 発生時の内務省防災局(Department of Disaster Management: DDM)を含む関連機関への情報発信のプロセスが明記されている。DHMS によれば、DHMS の役割は DDMr への情報発信であり、そこから地方行政への発信は DDM の責任下となる。 しかし、GLOF の場合には緊急性が高いため、地方行政へ直接情報を発信するとのことであ った。 (8) 各流域の地方行政機関の洪水避難計画体制についての確認 1) チャムカール川:ブムタン県
DDM により、コミュニティ防災(Community Based Disaster Risk Management:CBDRM) 普及及びファシリテータ育成のための研修が、県防災担当オフィサーに対して実施されて いる。研修を受けたオフィサーにより、地区(ゲオク)へ展開されることが期待されてい るが、オフィサーの移動により実態は確認できなかった。2012 年 9 月には、新たに防災担 当に専任されたオフィサーおよび DDM 職員により、県内全地区(4 つのゲオク)にて、 GLOF に特化した啓発ワークショップが実施されている(避難訓練は含まれていない)。 DHMS は本件プロジェクトが実施されることを受けて、チャムカール川流域において社会 調査を実施している。行政職員を含む 101 名(抽出の方法は不明)へのヒアリングを実施 した結果、87%が過去洪水被害を受けた経験があり、73%は洪水に対する強い警戒意識を 持っている。特に老人や女性は洪水に対する警戒意識が高いことが明らかになっている。 2) マンデ川:トンサ県 現時点で、DDM による CBDRM 研修は実施されていない。現防災担当官(環境担当と
兼任)は、当時ほかの県に配置されていたため本研修を受けている。トンサ県における防 災分野のプライオリティは火災にあり、洪水災害への取り組みはほとんどない。GLOF 及 び洪水の被災対象となるジーザム村についても、過去、コミュニティヘの防災啓発活動や 避難訓練を実施した経験はない。2009 年から 2012 年で実施していた SATREPS の際に実施 された社会調査によれば、ジーザム村では、住民の 81%が GLOF に対する危機意識を持っ ていると報告されているが、本調査では、同村の被災リスクエリアの河岸に農業省官舎が 新設されている様子が確認された。 (9) 対象流域における既存ダムの運用・管理体制の確認、及び GLOF 発生時のダムヘのイ ンパクトの予備的推定 マンデ川の発電所は現在工事中であり 2017 年 9 月に完成予定。チャムカール川の発電所 は現時点で工事は始まっていない(サイトヘのアクセス道路も未完成)。水力発電電力局 (Department of Hydro-Power &Power System)によれば、EWS が導入されたプナツァン川発 電所では、洪水時のみでなく、常時流域のコントロール・センターと情報共有を行っており、 リアルタイムのモニタリングを行っている。GLOF や洪水に特化した SOP のようなものは なく、プロジェクトに含めることを期待している。マンデ川については、工事中の安全性の 確保からも EWS が重要との認識(2013 年中には、ダイバージョントンネル及びコファダム が完成するため、2014 年からの本体掘削工事時に EWS による監視ができることを期待して いる)。マンデ川水力発電プロジェクト局(工事終了後解体)局長によれば、EWS はダムヘ のインパクトだけでなく、ゲート開放後の下流域への警報という面でも重要と認識しており、 プロジェクトが開始されれば、密接に連携を取っていきたいとの意向が確認された。 (10) 各機材設置場所の選定経緯・妥当性 1) チャムカール川 要請書では、DHMS が運用している Kurjey 水位・流量観測所(ブムタン市街地より 6.5km)、 および、最上流集落(軍駐屯地)である Kagthang(ブムタン市街地より 22.5km)への水位 計の設置が提案されている。Kurjey への導入は維持管理上も課題はないが、Kagthang は MTSAT の見通しができないため、HF を利用した複合的な施設とするか、仰角の高い衛星 を利用することが考えられる。2km ほど下流に設置することにより MTSAT を見通すこと ができるが、DHMS によると周辺小学生による投石が懸念されるとのこと(過去同例で施 設が壊されている)。さらに 2~3 日上流に歩いた軍駐屯地への AWS 設置が要請されてい る。本調査では現地を確認できていないが、DHMS によると、パロ県軍駐屯地に設置した AWS については、軍の協力のもと良好な維時管理がなされており、同様の協力が得られる とのこと。 要請箇所 保全対象から の距離 リードタイム 電力 GSM MTSAT 見通し 維持管理 Kurjey 観測所 6.5km 20 分 ○ ○ ○ 常時 2 名体制で管理 Kagthang 22.5km 68 分 × ○ × 軍の協力可能
-6- 2) マンデ川 要請書では、DHMS が運用している Bjizam 水位・流量観測所(ジーザムより 0.5km、ダ ムサイトより 8.5km)、および、車両でアクセス可能な最上流集落である Jongthang(ジー ザムより 14.5km、ダムサイトより 22.5km)への水位計の設置が提案されている。最上流 の Jongthang には今回アクセスすることができなかったが、GSM は使用可能とのこと。し かしながら、南北に延びる河川の東岸に位置することから、MTSAT の見通しは期待でき ない。チャムカ-ル川と同様、複合施設とするか、仰角の高い衛星の利用を検討する必要 がある。Jongthang に設置するとしても、ジーザム村に対するリードタイムが十分とは云い 難く(44 分の見通し)、さらに徒歩で上流に設置することも検討する必要がある。 提案箇所 保全対象から の距離 リード タイム 電力 GSM MTSAT 見通し 維持管理 Bjizam 観測所 (8.5km) 0.5km 2 分 (26 分) ○ ○ ○ 常時 2 名体制で管理 Jongthang (22.5km) 14.5km 44 分 (68 分) × ○ × ― ※( )内は発電所ダムを保全対象とした場合 なお、通信に関しては、予想以上に GSM の普及が早いため、UNDP の全国観測網整備 との整合性を鑑みても、GSM を主体として、バックアップとして気象衛星 DCP を利用す る方法が現実的であると考えられる。 (11) 各機材設置後の運用・維持・管理体制 各観測所には 2 名程度の DHMS 観測員が常駐している。本件観測機材導入後においても、 各観測点の管理体制は基本的には同じである。これ以外に、コントロール・ステーションが 新たに設立されることになるが、プナツァン川の実績からは、コントロール・ステーション に 3 名程度の DHMS 職員が配備されることが想定される。しかしながら DHMS 支所の再編 成も検討されており、チャムカール川とマンデ川は同ステーションでの管理下になる可能性 もあり、導入するシステム構成に依存するため検討する必要がある。 (12) WMO の GTS 気象情報中継システムの設置について ブータン側は、DHMS 内の NWFFWC(既存施設であるが、今年中にセンタービル建設が 開始され、全ての機能が移管される予定)の強化を求めている。本センターの任務は EWS のデータ収集・警報発信のみならず、現在 DHMS の各部署が実施している、データの解析 や気象予測に関する業務も移管されることになる。GTS ネットワークの導入は、今後ブー タン側が気象予測の精度を上げ、国内の洪水を含む自然災害に対する予警報を発令するには 不可欠なアイテムであり、GTS 導入に関するニ-ズは非常に高いことが確認された。 (13) 中央政府を巻き込んだ活動 ブーダン側が求めるのは、中央 NWFFWC の強化及び関係省庁との緊急情報体制の確立で あり、流域における EWS の情報も NWFFWC で一元的に管理される。したがって、プロジ ェクトの重点は、むしろ地方よりも中央にあるといえる。―方で、結果的には EWS の裨益 者は流域各セクター及び流域住民であるところ、末端に確実に情報が伝達され安全な住民の 避難につなげるための支援も必要になる。流域住民への予警報及び避難訓練に関しては、内
務省防災局(DDM)の関与が重要となってくる。DDM はこれまでプナツァン川において UNDP ファンドのもと、EWS を用いた住民避難に関する実績を有しているが、本件が技術協 力プロジェクトである点において、財政上の負担が課題となっている。DDM の財政負担を 軽減させ、地方行政予算で避難訓練等を実施する等の工夫も必要となる。 (14) 案件名の変更 本件プロジェクトの目的は、システムの構築そのものではないため、案件名として以下 を提案し、変更について了承を得た。和文タイトル:「氷河湖決壊洪水(GLOF)を含む洪 水予警報能力向上プロジェクト」英文タイトル:「Project for Capacity Development of GLOF and Rainstorm Flood Forecasting and Early Warning in the Kingdom of Bhutan」
(15) プロジェクトの実施体制について
本プロジェクトにおいては、関係する機関が複数にわたり、共働での作業が求められる ため、ワーキンググループの設置を提言し、M/M の「13. others、(5)」に記載のとおり、設 置について合意した。
(16) 他の関達機関のプロジェクトの実施状況の確認と連携可能性の確認
UNDP が地球環境ファシリティ(Global Environmental Facility:GEF)ファンドで実施す るプロジェクトとは、重複なく、かつ効果的な連携が確保されることを確認した。また.UNDP プロジェクトは、JICA プロジェクトの成果拡張に大きく寄与するものである。WB のプロ ジェクトは、地震災害に対する建築物耐震設計に関する技術協力案件であることから、本件 のとの重複がないことを確認した。 (17) JICA 技術協力の特微、及び、先方便宜供与の確認 JICA の協力の特微や、先方便宜について、協議の場において確認を行い、M/M の「11. JICA’s technical cooperation principle」、「12. Input from Bhutanese side」にその旨記載し、確認 を行った。
(18) プロジェクト期間
M/M の「5. Cooperation Period of the Project」に記載のとおり、3 年間の想定と記載した。
(19) 署名者 M/M の表紙のとおり。 1-5-2 詳細計画策定調査(その 2) 2013 年 3 月 18 日に M/M に署名を行った。調査結果は、団長所感に記載のとおり。 1-6 所感 1-6-1 詳細計画策定調査(その 1) (1) 赤津アドバイザー所感 本プロジェクトの調査内容のうち、小職は本プロジェクトのかかわりにおいてブータン 水文気象局の実情および課題について調査した。以下、主要な点における所感を述べる。ブ
-8- ータン水文気象局は、近年 WMO(世界気象機関)のメンバー国になったが、その後指導を 受けつつも、まだまだ国家気象局としての活動としては不十分と言わざるを得ない。国家気 象機関は、サイクロンや大雨による洪水、フラッシュフラッド、地震情報などを国民に伝達 する義務を負っているが、それらの予警報は、全て自国水文気象局の活動で行うのではなく、 まず WMO で定めた地域責任国の国家気象局からそれらの情報を GTS ネットワークを介し て入手し、その後必要に応じ解析を加え国民に発信することが基本である。また、自国気象 局の観測データを GTS/MSS を介して世界各国に配信する責務も負っている。ところが未だ GTS/MSS が未設置であるため、十分な情報が入手できず、現在のところ一日先までの予報 を発表することがせいぜいである。一方、本プロジェクトにおいては、GLOF 監視のために 自動水位・気象観測装置の設置が計画されているが、それらの装置は携帯電話も届かない山 間地に位置する場合が多く、適切なデータ伝送手段の策定が必要になっている。このような 場合、静止気象衛星(MTSAT)を DCP として、現地の観測データを中継し、―且日本の気象 庁が受信し、その後 GTS ネットワークに乗せ、ブータンの水文気象局の GTS/MSS(設置し たとして)に戻すことによって、観測データのリアルタイムでの利用が可能になる。このよ うに GTS/MSS の設置は本プロジェクトにおいても大きな裨益効果をもたらす。本装置の設 置が切に望まれる。ところで、通常の気象予報ばかりではなく、GLOF 監視やサイクロン、 大 雨 に よ る 災 害 防 止 の た め の 監 視 は ブ ー タ ン 水 文 気 象 局 の 大 き な 責 務 で あ る 。 上 述 の GTS/MSS の未設置という大きな課題がある一方で、現在の予報警報発表体制の人的および 技術的能力が不足している。この方面におけるブータン政府の努力および外国、特に日本か らの系統的な技術支援が必要である。 (2) 団長所感 今般、小職は 2012 年 10 月 11 日(現地着)より途中参団し、二つの対象流域のうちチャ ムカール川を視察する機会を得るとともに、DHMS を始めとする関係機関との協議・意見 交換を行った。以下に、M/M では言及されていない点を中心に今後プロジェクト実施上の 留意点を含めて若干の所感を述べる。 1) JICA の技術協力への高い期待 DHMS からは本プロジェクトに対する強い期待が呈された。これはダショー西岡氏をは じめとして、先人たちが連綿と築いてきた我が国及び JICA に対する高い期待と信頼に裏 付けられたものである。また、我が国が、洪水、台風、地震、津波などの多くの災害を経 験しながらも、その都度教訓を糧として防災体制を構築してきたことに対する尊敬の念が 随所に感じられた。本プロジェクトはこうしたブータン側の我が国に対する高い信頼と期 待に応える必要がある。ブータン国は EM-DAT の災害統計等でみると、アジアの他国に比 して絶対数で見た場合の風水害の被災者・犠牲者、被害額は少ないが、人口 70 万人弱の 同国におけるサイクロン・アイラがもたらした犠牲者 12 名(※要請書ベース)という数 は相対的には決して小さくなく、防災分野の案件の採択や実施にあたっては、被害規模を 国の規模で相対化して捉える必要があると思料する。 2) 第 11 次 5 カ年計画における DHMS 及び本プロジェクトの位置づけ 本プロジェクトは 2013 年 7 月に始まる第 11 年次 5 カ年計画でも明確に位置づけられて
おり、本プロジェクトにかかる DHMS 側の予算確保に関する懸念は小さいとみられる。ま た、2012 年度はインドルピーの下落にともなう同国財政規模の縮小という特殊な状況はあ ったものの、DHMS 予算はここ数年順調に増加傾向にある。特に、2011 年には同局がエネ ルギー局内の課から独立した局に格上げされており、防災、農業、水力発電、航空、イン フラ整備など広範な分野に貢献する気象行政の重要性が正当に認められつつあることが 伺える。また、2011 年の DHMS の格上げに伴い、NWFFWC が将来的に同国の気象・洪水 予報・警報を担う一元的なセンターとして発足し、将来的には現行の観測・予警報を担う エンジニアの多くが同センターにシフトすることが予想される。現状では 2 名体制である が、現在同センター用の新庁舎を建設中であるなど、同センターの機能強化に向けた本格 的な取り組みが行われている。M/M 上では本プロジェクトの DHMS の C/P が引き続き NWFFWC でも活動を継続することを確認した。 3) 災害記録の未整備 同国ではこれまで 1994 年の GLOF や 2009 年のサイクロン・アイラなど大規模災害であ るにも関わらず、災害履歴に関する情報整備が不十分である。サイクロン・アイラの際の 水位は水文観測所の観測可能水位を大幅に超えるなど、同国の観測史上最悪といわれてい るが、多くの観測点でデータが欠測しており、被害の実態は正確な記録として残っていな い。また、災害時のクロノロジー整備など教訓を生かす取り組みはなされていない。現在 同国の防災は DDM が予防から応急対応までを担っているが、国会では防災法が審議中で あり、将来的に防災を担う国の最高機関として首相を長とする国家防災機関(National Disaster Management Agency)の設置が検討されている。本プロジェクトの対象災害種は GLOF と洪水に限定されているが、特に成果 3 の活動に関連して、国の防災機関の動きも にらみつつ、災害の教訓を残す体制づくりにも寄与することが求められる。 4) 洪水危険地域におけるインフラ整備、住居等施設建設の進展 急峻な山々の連なる同国では平地の確保が困難であり、河道近辺の低地に新たな住居や 公共建築物や空港等のインフラ整備が進展している。本プロジェクトでは、降雨洪水と GLOF のリスク分析を踏まえた洪水氾濫予想マップを作成するが、避難訓練のみならず、 リスク地域への居住を制限するなど、土地利用の観点からも DDM や地方行政機関と達携 して啓発を促すことが求められる。 5) DDM による CBDRM 活動との連携 DDM は全国 20 の県を対象に CBDRM 活動を展開中であり、既に 14 県で実施済みであ る。既にマニュアルも整備されておりー定の経験を有している。本プロジェクトにおいて は、成果 3 で DDM や県との連携のもと活動を予定しているが、先行する DDM の活動や 教訓をレビューし、学ぶべき点は学びつつ、進める必要がある。 6) 長期専門家派遣への要望 DHMS からは長期専門家派遣にかかる要望があった。背景には、SATREPS プロジェク トにおいて 2 名の長期専門家の配置があり、日常的に相談し易い体制であったこと、及び プロジェクトに参加する大学の研究者等の出張期間が非常に短かったこと等があると推 察される。長期専門家派遣によるリエゾン機能はプロジェクト運営の観点から有効である
-10- ことは論を待たないが、投入はプロジェクト目標達成のための手段であり、また、リソー スの確保が困難な分野において長期専門家派遺を前提としたプロジェクトの活動や投入 計画を検討することは避けたい。プロジェクト活動計画を十分検討した上で必要な投入の 精査を踏まえて、コンサルタントチームによる対応が困難な分野を整理し、短期・長期不 問で JICA 直営による人材確保が必要な分野を明確にする必要がある。 7) プロジェクト実施上の安全管理 首都ティンプーから本プロジェクトのサイトであるマンデ川、チャムカール川への幹線 道路は急峻な山岳道路であり、特に雨季(5~9 月)において道路沿いの斜面崩落や土砂流 出が頻発する。プロジェクトの工程上雨季中のサイトでの活動を避けることは困難である が、工程の検討にあたっては、可能な限り雨季の移動を避けるとともに、安全性の高い車 両の確保や十分な情報収集により、未然にリスクを避けるよう留意が求められる。 1-6-2 詳細計画策定調査(その 2) (1) 赤津アドバイザー所感 本プロジェクトにおいて投入する機器(システム)の管理およびその気象予警報への活 用は、DHMS の担当になるが、本プロジェクトの持続的効果発現のためには、それらのシステ ムが適切に管理され、また適切に予警報が発表される技術体制の確立がまずもって必要であ る。 小職の主な任務はブータン水文気象局におけるこれらの機器の管理及び活用のための人 員配置について、あらかじめ JICA 側で用意した推奨案に従い水文気象局と協議を行い、実施 可能な人員配置計画を策定することであった。 本プロジェクトでは、(1)NWFFWC において新たに導入される GTS/MSS 等の機器の保守 管理、(2)パイロットプロジェクト地域に展開される機器の保守管理、(3)プロジェクト地域に おけるコントロール・センターのシノップ観測所として役割の充実、および(4)NWFFWC に おける予警報活動の充実が求められる。 いずれも重要な任務ではあるが、敢えて申せば観測通信機器の確実な運用の確保がまず 必要になる。 まずこの点((1)~(3))について述べたい。 - DHMS 本部では、現状の機器の保守管理について、課の枠を越えて機器関連の技術者 を対象に 24 時間保守管理体制を敷いている。本プロジェクトの開始とともに投入さ れる機材は増えるが、JICA から推奨の人員配置に比してやや少ない人員配置となっ た。ただ途上国気象局の実施状況を考慮すれば、実施可能な体制であると思われる。 - DHMS では現在、地方に展開されている機器の保守管理体制を敷いている。保守管理 レベルは二段階であるが、これらの既存の保守体制に本プロジェクトで展開する機器 も含むこととし、また新たに本プロジェクトで展開する機器のみを対象に毎月一回の 保守を追加することにした。これにより地方における機器の保守は新たな増員なしで 可能になった。
- パイロット地域のコントロール・センターは、シノップ観測所としての役割もあるが、 これを機に WMO 登録観測所に格上げすることを考え、協議の結果 24 時間観測体制を 敷くことができた。これにより本プロジェクトの目的である住民への的確な情報(警 報等)提供のための 24 時間体制も敷くことが可能になった。 次に NWFFWC における予報体制については、現状日勤のみの 1 班体制であるのに対し、 JICA 側からは 4 班編成を推奨していたが、最終的には 3 班編成となった。しかしながら周辺 途上国の予報体制の実情を勘案すると、実施不可能な体制ではないので先ずはこの運用体制 で予警報作業を行ってもらうこととした。NWFFWC においては初めて GTS/MSS が導入され、 やっと国家気象機関として責任を全うすることができるようになるが、―方でこの機器を通 じて入電する多くの気象情報をどのように利用し、予警報の精度向上を図るかが、大きな課 題である。DHMS がすでに保有している観測データのデータベース化を行いながら、型通り ではない丁寧な指導を通じて、予報技術および気象知識の伝達を行わねばならないと考える。 (2) 団長所感 調査の目的の第一は、土地利用に係る関係機関や法律、管理体制などを確認することにあ った。これはとりもなおさずブータンの防災に関する取り組みの現状が土地利用計画や危険 地帯の利用規制を伴ったものになっていないとの推測から始まっている。もしそうであれば、 防災の主流化、すなわち災害リスクアセスメントの情報を基にした予防的防災の視点を全て の開発計画や国土管理に導入するための法的・組織的・技術的ファンダメンタルズを形成す る動きに、このプロジェクトの成果を少しでも生かすためのコンポーネントを加えたい。 第二の目的は、第一次調査の(気象観測の能カ向上に焦点をあてた)結果を踏まえ、投入 予定のシステムに対する適切な人員配置計画を検討することであった。この点については赤 津団員の専門的な知識により適切な判断が行われたので、その報告にゆだねる。 以下、第一の目的に集中して、所感を記述する。 1) 土地利用に関する関係機関、関連法・制度 ① 関係機関 民間、個人による土地の所有・譲渡が可能で、地方自治体がその事務を行い、土地台帳 にて管理している。台帳に変更がある際の承認は、県の土地管理当局を通じて、最終的に は National Land Commission に上がる。しかし、防災の観点でのスクリーニングはしてお らず、国土地理院(National Land Commission Secretariats:NLCS)では所有権の正常な取 引を監視する機能、台帳記録のリダンダンシー確保について取り組んでいる模様。
なお、NLCS では、土地の管理に ArcGIS を導入しており、JICA のプロジェクトなどにも 活用可能。
② 法制度
防災を目的とした土地利用規制については、これまで Wet Zone と Dry Zone という概念 の区分が県の独自判断でなされてきたほか、いくつかの土地の区分によって利用目的が 定められていたが、決して科学的なリスクアセスに基づくものではない。2013 年に防災
-12- 法が施行される見込み(未入手)で、その中では予防的な防災の一部として土地利用の適 正化も含まれるものと期待する。 2) 土地利用に関係する機関のプロジェクトヘの参加 ① NLCS 上記のように現状では防災の視点からの国土管理業務はしていないものの、プロジェ クトヘの参加については合意を得た。ただし、ワークショップヘの参加といった程度の意 識であるのが現状で、プロジェクトを通じてより主体的な土地利用規制への災害リスク アセスメント情報の活用を意識づけていく必要がある。 ② DDM DRR 面での活動が必要であることは認識しているが、現状の Capacity ではできていな いことを認めている。担当者によって意識が異なり、多くのスタッフはレスポンスサイ ドの活動に意識を置いていると思われるため、DDM が強い権限を持って土地利用規制を 指導できるかどうかは疑問。今後、防災法の下に施行規則などが議論されていく段階で、 どの政府組織が強い権限を持って土地利用規制あるいは都市発展計画などを実行できる システムが形成されるのか注視していくとともに、可能な限りプロジェクトの専門家が 政策アドバイスを提供していくべきであろう。NLCS、DDM を含む合同会議において、本 プロジェクトによる lnstitutional な改善の提案は受け入れることに合意できたので、その 議論を通じて実質的な防災的土地利用の制度化に向けた取り組みが開始できるであろう。 3) 土地利用制限の必要性を説明するための簡易リスクアセスメント 4-2-4に詳述の通り、プロジェクトが対象流域のうち、最も河川の氾濫原が広く、 市街地が発達している Chamkharchhu の Jakar を対象に、簡易なリスクアセスメントを行 い、ブータン側に発表した。 リスクアセスメントに対するブータン側の反応としては、土地利用規制の必要性は理 解するも、従来は防災的視点での規制には法的な根拠がないために行われていなかった とのことであった。DHMS としては、危険な区域は十分に知ってはいたものの、情報伝達 の仕組みや権限がない状態である。 4) 防災の視点を取り入れた土地利用計画、都市開発・地方開発計画の策定の可能性 ① 事例 Jakar の都市計画がスイスのコンサルタントによって策定された(未入手)。県の担当 者によると、防災的な視点が反映されているとのこと。本プロジェクトでは、この計画と 洪水リスクアセスメントの情報とを照らし合わせて、より適切な都市計画への助言がで きると思われる。 ② 全国的なフレームワーク 防災の基本法ができたばかりであり、その実施に必要な施行令・規則などの策定はこ れからである。その議論の中に土地利用計画、都市計画・地方開発計画にどのようにリン クするかが盛り込まれるならば、防災の主流化への可能性が見えてくる。本プロジェクト としては、上記の考えを基に、これまでの活動項目に加えて、次の活動を PDM に追加した。
- リスクアセスメントを実施する部局と開発関係部局の連携を促進 - ワークショップを通じた土地利用規制の意識醸成 - 災害リスクアセスメント情報の開発計画への主流化に必要な組織の提案 主たる C/P である DHMS の Director からは、これまでのプロジェクトが気象水文局の 能力向上に的を絞った活動内容としていたことから、対象を予防的防災の分野に広げる と、多くの関係機関を巻き込んだ大プロジェクトになることへの懸念が表明された。しか し、団長からプロジェクトの投入の大半は DHMS への技術的・機材的支援であり、新たに 加える項目への支援はリソース的にはわずかである旨説明し、了解を得た。
第2章 「ブ」国における防災分野を取り巻く環境
2-1 防災に関する法令、国家政策、計画 2-1-1 防災に関する国家政策・計画
「ブ」国における防災分野に関する国家政策・計画としては、以下のものがある。 (1) 国家災害リスク管理フレームワーク
(National Disaster Risk Management Framework:NDRMF)
兵庫行動計画枠組 2005-2015 に基づいて、内務省防災局(DDM)が表 2-1に示す 8 つの コンポーネントで構成される NDRMF を 2006 年に作成している(UNDP が作成を支援。ま た、2006 年当時は、Disaster Management Division であり、2008 年に現在の DDM に昇格し た)。この中で、洪水及び GLOF が対象災害としてリストされており、また、早期警報シス テムの導入が優先度の高い政策として扱われている。 また、DDM は、既に防災計画作成ガイドライン及び同計画作成のテンプレートを中央・ 地方レベルで作成しているが、現在見直し中である。 表 2-1 NDRMF における 8 つのコンポーネント 1) 防災に関する組織、法令、政策の枠組み 2) 災害、脆弱性、リスクアセスメント 3) 早期警報システム 4) 全行政レベルにおける防災計画 5) 国家開発計画及びセクタープログラムにおける災害危険削減 6) 住民への広報と防災教育 7) いろいろなレベルでの災害対応能力強化 8) 緊急通信網と輸送
出典:RGoB, National Disaster Rsik management Framework, 2006
(2) 気候変動適応行動計画(National Adaptation Programme of Action:NAPA)
気候変動対応を担当する国家環境委員会(National Environment Commission:NEC)によ り、2006 年に作成された。この中でも、GLOF は「ブ」国で最も重要な気候変動適応の課 題として認識されている。 (3) 第 10 次 5 カ年計画(2008-2013) 現行の国家開発計画である第 10 次 5 カ年計画(2008-2013)は GNH 委員会(Gross National Happiness Commission:GNHC)が作成しており、分野別に政策課題、戦略が記載されてい る。このうち、地質鉱山分野において、GLOF が重要災害リスクであるとして地質鉱山局 (Department of Geology and Mines:DGM)に氷河・GLOF 課を新設すること、また、国家 目標として以下の 3 活動に取り組むことが記述されている。
-16- - 開発適地、災害リスク地図の作成 - GLOF のリスクの高い湖での緩和策の策定 - 氷河・氷河湖のモニタリング (4) 第 11 次 5 カ年計画(2013-2018) 第 10 次 5 カ年計画に続く第 11 次 5 カ年計画(2013-2018)は現在作成中であるが、表 2-2 に示す通り、2009 年のサイクロン洪水、2011 年の地震災害を受けて防災分野への取り組み が強化され、16 の国家主要成果の一つとして「災害に耐えうる危機管理の主流化」が明記 される予定である。 表 2-2 「ブ」国第 11 次 5 カ年計画 策定ガイドライン(案)
上位目標 “Self-Reliance and Inclusive Green Socio-Economic Development” 「自立し、包括的かつ環境に優しい社会経済開発」 4 つの柱 16 の国家主要成果分野 ① 持 続 的 か つ 平 等 な 社 会 経 済 開発 1. 持続的な経済成長 2. 貧困削減/ミレニアム開発目標 3. 食糧確保と持続性 4. 完全雇用 5. 脆弱な人々のニーズの明言化 ② 文 化 の 保 全 と 推進 6. 世紀的かつ文化的資産及びブータン人のアンデンティティの推進と保全 7. 農村部の生活の持続性を目指した土着の知見、芸術、工芸の推進 ③ 環 境 の 保 全 と 持続性 8. 炭素を出さない(環境に優しい)/緑化及び気候変動に耐えうる開発 9. 持続的開発と天然資源の活用 10. 総合的な水の利用と管理 11. 災害に耐えうる危機管理の主流化 ④ 良い統治 12. 公共サービスの向上、士気の高い公務員、政府パフォーマンスシステム 13. 民主化と統治の強化 14. ジェンダーに優しい環境整備を通した女性の参画 15. 汚職削減 16. 安全な社会
出典: GNHC, Guidelines for Preparation of the Eleventh Five Year Plan (2013-2018)を基に、JICA ブータン 事務所作成
2-1-2 防災に関する法令
NDRMF に基づいて、気候変動と自然災害の関連性を重視して政府が総合的対策をとれるよ うにする国家防災法(National Disaster Management Bill)が作成され、国会に提出されている。 しかしながら、2012 年 7 月の国会では上下院の議決に食い違いがあり承認に至っていない。
また、国家防災法が成立すれば、中央及び県政府は、防災・緊急対応計画(Disaster management and Contingency Plan)の作成が義務付けられており、多くの機関が同法の成立を待ち望んでい る。
2-2 防災組織・体制と具体的な取り組み
2-2-1 中央政府における防災分野に関連する組織
表 2-3は、中央レベルでの防災分野(特に、水防災分野)に関係する機関の関係する役割 をまとめたものである。これ以外に、「ブ」国政府は、現在、国会で審議中の国家防災法案の
中で防災政策の最高意思決定機関として国家防災庁(National Disaster Management Authority: NDMA)の設置を、また、県(Dzongkhag)レベルでは、県知事が主催する県防災委員会(Dzongkhag Disaster management Committee)の設置を規定している。
表 2-3 中央レベルでの防災関係機関 関係機関 役割・活動(本事業での役割を含む) DHMS ・水文気象情報を収集し、関係機関に提供する。 ・国家気象洪水予警報センター(NWFFWC)を設置し、同センター用ビル の建設に着手予定。 ・本事業の主たる実施機関。詳細は、第 3 章に記述。 DDM ・中央・地方レベルでの防災対策を調整する。
・緊急作業センター(Emergency Operation Center)及び災害通信網の整備の 設置促進 ・タイムリーな災害関連情報の収集 ・関係機関と共同して国家災害管理データベースを開発 ・現在、住民参加型防災対策(CBDRM)研修を 14 県で実施済み(全国では 20 県) ・本事業での共同実施機関 DGM ・氷河、GLOF、地震災害のモニタリング(UNDP プロジェクトのトルトミ 湖湖水低下工事を担当) ・本事業での共同実施機関 公共事業住宅省 技術局(DoES) ・洪水危険地域の特定、洪水危険アセスメント研究の実施 ・河川工学研修の企画・実施 ・地方政府への洪水リスク軽減事業の実施 ・本事業での共同実施者(洪水管理課が参加) GNHC ・旧計画委員会であり、全政府機関を調整し、5 カ年計画の取りまとめを行 う。現在、第 11 次 5 カ年計画を取りまとめ中。 ・JCC のメンバー NEC ・環境、特に、気候変動に関する政府全体の調整を行う。NAPA2006 を作成。 出典:各機関へのインタビューを基に、調査団作成 2-2-2 地方政府における防災分野に関連する組織 本詳細計画策定調査においては、早期警報システムを設置予定のマンデ川のあるトンサ県 (Trongsa)とチャムカール川のあるブムタン県(Bumthang)を訪問し、両県の防災対策等をヒ アリングした。両県の状況は、以下の通りである。 (1) トンサ県
同県の防災担当(Disaster Focal Person)は、環境担当(Environment Officer)が兼務して おり、実質的には調整業務を担当している。災害対策課というような災害に特化した体制は ない。災害時には県総務部(District Administration)の下に災害委員長(Disaster Chairman; 県 知事)をおき、各レベル〔郡(Gewog)等〕で災害グループを作って対応する。 災害時には、県職員は指令センター(Command Center)にきて、いろいろな業務をする ことになっており、また、各セクター別に郡から学校等への情報伝達網をもっている。県と 郡等との連絡は、モバイル(携帯電話)を使っている。現在、国レベルで災害専用通信網を 整備し、各県に Control Room を設置する計画である。県では、現段階ではラジオセットを 郡レベルに配置する体制を整備中であり、多目的利用を計画している。災害復旧チームにも 配る予定である。
-18- 災害に関しては、一般的な対策ではなく、対象災害に特化した対策になる。同県の防災 優先度が一番高いのは県庁を兼ねる僧院(Dzong)の防火対策であり、火災には他に村の防 火対策というものもある。洪水はこれまで優先度は低い方だったが、JICA プロジェクトが 始まるのであれば、洪水対策の優先度を高くして、十分な対応をとることになる。 (2) ブムタン県 県知事をトップとして、県・郡レベルでいくつかの災害対応グループが作られている。 各グループには、連絡担当が任命され、緊急時の情報共有等を担当する。郡とコミュニティ の間でも同様に、郡長の指揮下でコミュニティ代表が連絡担当になる。 県には防災専任職員はなく、各部門の長が兼任している。郡(Gewog)、村(Chowog)ご とに防災委員会(Disaster Management Committee)が設置され、連絡担当が任命されている。 2-2-3 土地利用に関する関係機関、関連法・制度 (1) 関係機関 民間、個人による土地の所有・譲渡が可能で、地方自治体がその事務を行い、土地台帳 にて管理している。台帳に変更がある際の承認は、県の土地管理当局を通じて、最終的には NLCS に上がる。しかし、防災の観点でのスクリーニングはしておらず、NLCS では所有権 の正常な取引を監視する機能、台帳記録のリダンダンシー確保について取り組んでいる。な お、NLCS では、土地の管理に ArcGIS を導入しており、JICA のプロジェクトなどにも活用 可能と考えられる。 (2) 法制度
防災を目的とした土地利用規制については、これまで Wet Zone と Dry Zone という概念の 区分が県の独自判断でなされてきたほか、いくつかの土地の区分によって利用目的が定めら れていたが、なんら科学的なリスクアセスに基づくものではない。 2-3 「ブ」国における自然災害の発生状況 2-3-1 気候変動に関連する自然災害 「ブ」国を含むヒマラヤ山脈の国々では、地球温暖化の影響により山岳氷河の縮退に伴う氷 河湖拡大、ならびに GLOF がたびたび報告されている。「ブ」国では、1957 年、1960 年、1994 年に GLOF の発生が記録されており、特に 1994 年 10 月のルゲ GLOF の際には、死者 21 名、 川沿いの家屋や歴史的建造物が破壊され、農作物や家畜なども被害を受ける大災害となった。 また、世界的な気候変動の影響を受け、近年、これまで観測されなかったような、フラッシ ュフラッド(鉄砲水)、サイクロンを含む暴風雨などの水文気象に関する災害が多数発生して いる。また、毎年プレモンスーン期の 3 月~5 月に発生する局所的な豪雨も、年々発生頻度が 高まっており、2009 年 5 月に襲来したサイクロン・アイラは、「ブ」国全土で観測史上最大雨 量を記録するとともに、被害総額 17 百万 US ドルという近年最悪の暴風雨災害となった。 表 2-4は、近年「ブ」国で発生した気候変動に関連する自然災害をまとめたものである。
表 2-4 近年「ブ」国で発生した気候変動に関連する自然災害 年 災害種 記録された被害 被害地域 2002 森林火災 25 時間延焼 26 家族家屋焼失 Haa 県 2004 鉄砲水 死者 9 名、162 家屋、664 エーカー、39 灌漑被災 東部 6 県 2005 森林火災 5 住宅消失 Trashiyangtse 県 2005 森林火災 7 商店消失 Bumthang 県 2005-2006 干ばつ 不明 2006 森林火災 死者 2 名、5 住宅消失、森林数千エーカー消失 Trashiyangtse 県 2008 暴風 249 住宅、8 学校施設、宗教施設、政府施設被災 Trashiyangtse 県 2008 暴風 96 住宅、80 エーカーとうもろこし畑被災 Mongar 県 2009 暴風 14 住宅被災 Trashiyangtse 県 2009 サイクロン・ アイラ 死者 12 名、農地、インフラ被害甚大、被害総額 USD17million 全土 2010 鉄砲水・地す べり 4,800 農家の灌漑施設、2,000 エーカー農地、40 エーカー 牧草地、家畜 1,000 頭被災 全土 2010 暴風 432 住宅の農地 5000 エーカー被災 全土 2011 暴風 2,424 住宅、81 宗教施設、57 学校、21 保健所、13 政府施設被災 16 県 2011 鉄砲水・地す べり 200 住宅被災 Phuentsholing, Pasakha 県 2012 暴風 143 住宅、1 宗教施設、1 学校被災 4 県
出典: GEF, Project Identification Form (PIF) on “addressing the risk of climate-induced disaster through enhanced national and local capacity for effective actions (UNDP-GEF project), pp8
2-3-2 その他の災害 DDM によれば、上記以外の比較的大きな災害としては、表 2-5のものがある。 表 2-5 その他の災害 年 災害種 記録された被害 被害地域 2009 地震 震源 Mongar 県、マグニチュード 6.1 死者 12 名、負傷 47 名、4,614 住宅、91 学校施設、 25 保 健 施 設 、 3 病 院 、 50 政 府 施 設 被 災 総 額 USD52million 11 県 2010 住宅火災 建物 14 棟全焼 Wamrong 2010 住宅火災 建物 55 棟全焼 Chamkhar 2011 住宅火災 建物 18 棟全焼 Chamkhar 2011 住宅火災 建物 30 棟全焼 Chamkhar 2011 地震 震源インド・シッキム州 マグニチュード 6.9 死者 1 名、負傷 14 名、6,800 家屋被災、47 郡施設、 117 学校施設被災 総額 USD18.18million 出典:DDM への質問票への回答 2-3-3 氷河湖に関する情報 ヒ マ ラ ヤ 地 域 の GLOF に 関 し ては 、 ネ パ ール に 拠 点 を置 く 国 際 総合 山 岳 開 発セ ン ター (International Center for Integrated Mountain Development:ICIMOD)が氷河湖インベントリーを はじめ様々な研究を実施しており、「ブ」国には 23 の危険氷河湖が存在するとしている。しか しながら、その設定根拠は示されておらず、評価の見直しの必要性が指摘されている。
2009 年より実施された JICA-JST 共同研究事業「ブータンヒマラヤにおける氷河湖決壊洪水 に関する研究プロジェクト(SATREPS)」では、衛星画像解析によりヒマラヤ地域における全
-20- 氷河湖を抽出するとともに、様々な数値標高データを用い、湖水面とそれを堰き止める岩屑ダ ム(モレーン)下端との間の傾斜角から、決壊リスクを定量的に評価している。 具体的には、過去の決壊事例から、湖水面とモレーン下端との傾斜角が 10 度以上の場合に 決壊が発生していることを突き止め、10 度を決壊リスクの閾値と設定した(図2-1参照)。 また、それを超えるものについては、決壊が発生するものと仮定して、傾斜角が 10 度未満に なるまで湖水位を低下させた場合の全流出ボリュームを可能最大洪水量として定めた。 図 2-1 氷河湖決壊リスクの評価手法概念図 出典:「ブータンヒマラヤにおける氷河湖決壊洪水に関する研究」最終報告書 当該評価手法に基づいた、各流域の危険氷河湖の数量を図 2-2に示す。 これによれば、現在「ブ」国には、危険氷河湖(すなわち前述の傾斜角 10 度以上を呈する 氷河湖)が 148 存在する。そのうち最も氷河湖数が多いのは、後述する UNDP/GEF プロジェク トの対象流域となっているプナツァン川で 58 湖。次いで、SATREPS 対象流域であるマンデ川 で 38 湖、さらにチャムカール川の 18 湖の順で多い。 そのうち、可能最大洪水量が 20 百万 m3を超える氷河湖は、ヒマラヤ全域で 9 湖存在する。 ネパールで最も危険性が高いとされているツォロルパ湖や、後述の UNDP/GEF プロジェクトに おいて湖水位低下工事が行われたトルトミ湖も 9 湖に含まれ、本定量評価においても高い危険 性が指摘されたことになる。 また、9 湖のうち 3 湖がブータン国内に位置し、2 つがプナツァン川流域に、もう 1 つがチ ャムカール川流域に位置する。1994 年に決壊して死者 23 人を出したプナツァン川のルゲ氷河 湖の決壊洪水量が約 20 百万 m3であったことを鑑みれば、これら 3 つの氷河湖はとりわけ注意 を要する氷河湖と言える。
図 2-2 ブータン国内の各流域の危険氷河湖数
出典:名古屋大学藤田准教授の非公開データより許可を受け作成
2-4 他の援助機関による防災分野での協力の現状・実績
「ブ」国の防災分野において協力事業を展開している主な援助機関は以下の通りである。 2-4-1 国連開発計画(UNDP)
UNDP は、気候変動及び GLOF に関連した事業として、2008-2012 年に、「Reducing Climate
Change-Induced Risks and Vulnerabilities from Glacier Lake Outburst Flood in the Punakha-Wangdu and Chamkhar River basins」を 2008-2012 の間、地球環境ファシリティ(GEF)の LDC ファンド 等により実施している(以降 UNDP/GEF プロジェクトと称す)。同プロジェクトでは、以下に 示す 3 つの NAPA コンポーネントをカバーしている。
・トルトミ氷河湖の水抜き
・Punakha-Wangdue における早期警報システム ・住民啓発
また、上記プロジェクトの後継プロジェクトとして、「Addressing the risk of climate-induced disasters through enhanced national and local capacity for effective actions」を同様な協力スキームに より実施することを計画中である(以降 UNDP/GEF プロジェクト・フェース 2 と称す)。同プ ロジェクトは、以下の 3 つのコンポーネントにより構成される。 ① 気候変動に関連する洪水及び地滑りのリスク削減 ② コミュニティ・レベルの適応能力の強化 ③ 気候リスク管理のための中央レベルの能力強化 このうち、コンポーネント③の具体的活動として、NWFFWC の機能強化、既存の気象観測 所の自動化、自動気象観測システム(AWS)の全 205 ゲオグへの導入が計画されている。特に NWFFWC の機能強化について本事業との重複が懸念されたが、本事業が技術面の支援を中心 に行い、UNDP 側がハードウエアの提供を中心に行うという補完関係にあり、両プロジェクト での相乗効果が期待されることが確認された。現在、同プロジェクトの実施計画書を作成中で あり、開始は 2014 年になると想定される。