• 検索結果がありません。

対話の概念

ドキュメント内 グローバル時代の対話型授業の研究 (ページ 49-58)

第2章 対話型授業を支える対話理論の考察

2 対話の概念

本節では、対話と人間形成に関わる先行研究の分析の成果を基調におきつつ、

対話の概念について考察し、さらに機能・特色・意義の3つの事項を検討するこ とにより、本研究における対話の概念を明らかにしていく。

その前提として、対話の形態についての先達の研究を検討しておく。

2-1 対話の形態

対話の形態について、大石初太郎は、「会話」は日常の社交における応接的談 話や日常生活上の応待の話し方であり「対話」は広い範囲にわたるものであると している。また「対話」を知的要素の濃い「問答」と、情的要素の濃い「会話」

と、論理的要素の濃い「討論」とした148。大石は、対話の形態について、 1対1 の対話と、それの複合形態としての「会話」に分類している149

西尾実は「談話の形態は、まず話し手との関係が、話手は話手、聞手は聞手と して固定するばあいと、話手と聞手とが交互に交替するばあいによって、独語と 対話・会話との別が生じ、聞手の数が、一人であるか、二人以上であるか、また 集団であるかによって、対話と会話と独語の別が生じる」と述べ、対話を 1対 1、

会話を一対多数、独語を一対集団に分類している150。西尾は、集団の中での会 話や自己内対話は対話には含めていない。

倉沢栄吉は、西尾の対話論をふまえつつ、「対話ということの最も拡大解釈し た端に、自己内対話がある。自己内対話の反対の端には(対話を拡大解釈した場 合に)会話がある。会話というのは、対話型無秩序に飛びかうものである」と記 し、対話の概念を自己内対話まで広げ、また会話も広義には対話に含まれるとし た151

翻訳家池田康文は、「従前の『ダイアローグ』と共に『トライアローグ』(古 典ギリシャ語のトレイス=3に由来)という、より複雑で創造的な対話がある。

古典物理学では、2つの物体が重力で引き合う2体間の運動は容易に記述できても、

3体間(多体間問題)は難しいとされてきた。運動を解析する要素が、より複雑 になるからである。「対話」も、2人の間で交わされる(ダイアローグ)のとき と、3人(あるいはそれ以上)のとき(トライアローグ)では、複雑さが異なっ てくる」と記し152、複数以上での対話の有用性としている。

対話と会話の相違について、高橋俊三は、目的・性格・雰囲気・話題・結果の 5つの視点から会話と比較し、下記の表にまとめている153

45

表 2-1 対話と会話のちがい

目的 性格 雰囲気 話題 結果 対 話 問 題 解決 ・創 発

自 己 伸長

生 産 的 高 質 の真 剣さ 深 く 固 定

物 事 や 他 者 に 対 す る 認 識 の深 まり 会 話 心 身 の新 鮮さ 消 費 的 軟 質 の楽 しさ 広 く 流 動

他 者 と の 人 間 関 係 の 広 ま り

(出典:高橋俊三『国語科話し合い指導の改革―グループ討議からパネル討論まで―』

明治図書,2001年,p.222)

劇作家平田オリザは、会話と対話の違いについて「『会話』=価値観や生活習慣 なども近い親しい者同士のおしゃべり。『対話』 =あまり親しくない人同士と価値 や情報の交換。あるいは親しい人同士でも、価値観が異なるときに起こるその摺り 合わせなど」と説明している154

対話の形態や会話との違いに関する先達の研究に示唆をうけつつ、本研究では、

「自己との対話」および、1対1のみならず、複数以上の参加者同士による話し合い も「対話」とする。

2-2 対話の概念規定

前項の対話理論の考察においてO.F.ボルノーとマルティン・ブーバー、マッ クス・ピカード、パウロ・フレイレ、ミハエル・バフチン、デヴィッド・ボーム、

さらに西尾実等、我が国における対話研究者たちの言説を検討してきた。

先行研究に示唆を受けつつ、本論考における対話の概念を明らかにするため、ミ ハエル・バフチンの対話論についてさらに考察してみる。

バフチンは、「言語活動(言語・発話)の真の現実とは、言語形態の抽象的な体 系でもなければ、モノローグとしての発話でもありません。ましてや、モノローグ

=発話を産出する心的・生理的な作用でもありません。それは、ひとつの発話と多 くの発話とによって行なわれる、言語による相互作用[コミュニケーション]とい う社会的な出来事[共起・共存]です」「言語とは本来、一方から他方へと受け渡 されるようなものではありません。それは連続しているものです。しかも、絶えざ る生成の過程として連続しえるものです。個々人の出来合いの言語を受け取るので はありません。個人の方から言語コミュニケーションの流れの中に入ってゆくので す」と記し、話し手が能動的、聞き手が受動的との安易な前提でなく、「相互作業 による共存・共起」が対話の本質であると主張している155

バフチンは、話し手と聞き手の双方に「意味のある対話」を行うためには、決し て自己と同一にならない「他者の存在」を必要とした。

桑野隆は「バフチンにあっては対話は、複数の主体そのものの存在ではなく、複 数の十全の価値をもった了解が不可欠となっている。このような場合にはじめて、

46 対話的関係が生まれる」と記している156

バフチンの思想を探求したマイケル・ホルクウィストは、バフチンのダイアロ ーグ論における自己および他者との対話における「差異的関係」の重視を指摘し、

「ダイアロジズムにおいては、意識をもちうる能力自体が他者性...

に基づいている。

この他者性はたんなる弁証法的疎外ではない。弁証法では疎外は止揚への途次に あり、止揚は疎外に、高次の意識において統合的同一性を与えるが、そのような 疎外ではないのである。それとは逆なのである。つまり、ダイアロジズムにおい ては意識とは他者性のこと...

なのである。もっと正確に言うと、意識とは、中心と 中心でないすべてのものとの間の 差 異 的ディファレンシャル関係なのである」と述べている157

このことは「他者との差違(ズレ)」こそが対話を意味あるものにするとの指摘 と受けとめられる。

対話に関するさまざまな言説に示唆をうけつつ、本論文では対話を「対話とは、

自己および多様な他者と語り合い、差異を生かし、新たな智慧や価値、解決策な どを共に創り、その過程で創造的な関係を構築していくための言語・非言語によ る、継続・発展・深化する表現活動」と概念規定しておく。

2-3 対話の機能・特色・意義

対話の概念をさらに明確にするため、機能・特色・意義について考察する。

対話の機能の第一はお互いの考えや感想、情報など伝達し合うことにある。し かし、対話の機能は、相互に情報や知識を「伝え合う・知らせ合う」ことにとど まらない。対話の第二の機能は、意思や感情を伝え合うことを通しての「人と人 とのかかわりづくり」でもある。この対話の機能は、説明、説得、納得、共感な どの行為となる。さらに相互理解、相互啓発、相互扶助を生起させ、創造的・発 展的な関係が構築できていく。したがって、対話力を高めていくことは、人間関 係形成力の育成にもつながっていく。

対話の第三の機能は、自己との対話や他者との対話を通して、新たな解や智慧 を創発していくことにある。前述したバフチンは、「文化はもう一つの文化のま なざしに照らされてはじめて、より完全に、より深く自らを明らかにする。一つ の意味は、別の<他者の>意味と出会い、触れ合うことで、深みを増す。両者の 間でいわば対話がはじまるのであり、対話はこれらの意味や文化の閉鎖性と一面 性を克服するのである」158と述べている。また、ブラジルの教育学者パウロ・

フレイレは、「対話とは出合いであり、対話者同士の省察と行動がそこでひとつ に結びついて、世界の変革に向かうものであり、創造的行為である」と記してい る159。バフチンとフレイレは共に、対話が相互に影響し合う創造的あることを 示している。

先行研究の考察から、対話の特色は次の2点に収斂できよう。そのひとつは「相 互的な関係」である。「相互に影響を与え合う言語・非言語による活動」である

47

対話では、話し手と聴き手は絶えず入れ替わる。また、話し手は常に聴き手を意識 し、聴き手は話し手に共感したり、納得したり、反発したりしつつ受け止めていく。

こうした「相互的な関係」は、対話の2番目の特徴を生む。すなわち「継続・変化 ・ 発展・深化」である。

話し手は、聴き手の反応により、話の内容や表現方法を変化させていく。聴き手 は、話し手から受ける影響により、自分を変化させて、新たな自分の思考や感情を 再組織する。この話し手と聴き手の変化は絶えず継続しつづける。そうした意味で

「対話」とは終わりなき知的世界への旅であり、ひとつのステージにとどまらず、

次々と深まり、広がっていく、したがって、対話とは継続であり、常に「プロセス」

といえる。

対話の意義の第一は、自分の考えを伝え、誰かに認識・理解・共感・納得しても らうこと、他者の考えを認識・理解・共感・納得することを通して相互理解を深め ることにある。第二に、多様な人々が参加することにより、対立や異見を生かし、

新たな解や智慧を共創することにより、協働の愉悦を共有し、信頼感を醸成してい くことにある。第三に、そのプロセスを体験することにより、参加者一人ひとりが 自己成長し、対話する集団そのものも高まっていくことにある。

田近洵一は「話し合いは、相手の話をうけて、それとの関係でこちらの考えをま とめていく。当然、自己自身に対する(対自的な)問い直しもあれば、相手に対す る(対他的な)反論もある。そこでは、相手と自分との関係をとらえる力や、相手 に対して自分を関係づける力、その場で、思考をまとめる力など、関係の中で自己 形成する論理的な思考力が求められるのである」と記し、対話における関係づくり や、参加者の成長の意義を示した160

確かに、対話の意義は、一つの結論に至るよりも、それによって参加した人々が、

思考を深めたり、広げたりし、その過程で、創造的な関係性を構築し、自己変革・

成長していくことにある。

2-4 対話の類型

論者は、対話を4つの型に分類している。すなわち真理探究型・指示伝達型・対 応型の対話、そして共創型の対話である。この 4つの型の対話は、対話の基本的機 能は共通している。ただ、それぞれの型には、目的、参加者相互の関係などに違い がある。各型の特徴を順次考察していく161

2-4-1 対話の4類型

① 真理探究型対話

ソクラテスと弟子との問答が産婆法とよばれるように、「生きる意味とは何か」「自然と の共存はどうあるべきか」といった、真理を希求していく対話方法である。参加者の関係 は、師と弟子のような上下関係である場合もあるし、友人同士のように対等な立場のこと

ドキュメント内 グローバル時代の対話型授業の研究 (ページ 49-58)