第5章 グローバル時代の人間形成を希求する対話型授業の提唱
2 今後の研究課題
研究の成果を確認したうえで、次の諸点を今後の研究の課題としたい。
2-1. 対話型授業に関わる理論研究と実践研究との関連の精緻な分析
本研究の実践的研究において、理論研究の成果の実践研究への援用が、対話型 授業の質的向上資することが検証された。
こうした理論研究の成果の実践研究への援用を促進していくことは、今後の課 題である。たとえば、本研究で、対話型授業において、自己再組織化の時間とし ての「沈黙」が有用であることは明らかになったが、沈黙の概念・機能について は、さらなる理論的探究が必要である。また学習者が論議に参加する折に、自己 決定するが、その自己決定はいかなる概念であるか、またそのプロセスとは何か について「学習意欲の理論」367等を考察することによって、対話場面の更なる 思考の深化への実践上の手がかりを得ることができよう。本研究の研究課題であ る「グローバル時代の人間形成」については、「グローバルシチズンシップ教育 の成果をどのように捉えるべきかということについても、いまだ幅広い合意とい
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うものは得られておらず」368にいる。理論的考察が必要なのである。
教育実践者が、分析・考察が不十分な学術用語に依拠して実践を創ることは、皮 相的・形式的な実践に陥る危惧がある。広義には理論、具体的には学術用語につい て理解を深めることが、実践研究において理論研究の成果を活用する意義を高めて いく。理論を学ぶことは重要である。しかし理論的見地を無批判に受け入れるので はなく、むしろ理論の限定的性格を理解し、理論をうまく活用力を育むことが望ま れる。
また、新たな教育分野の開拓を使命とするグローバル時代の学校教育を推進する 教師には、教師としての専門性を高めることが期待される。グローバル時代の対話 型授業を開発する教師たちには「グローバル時代の対話力の重要性を認識」369し、
また、実践的な問題を研究的に対象化し実践知を吟味・一般化して、自分たちの言 葉と論理を創ったり、再構成したりする力を高めることが重要である。実践から編 み出される理論の構築である。
佐藤学は「教育実践において必要なことは、『主体』を構成している関係の『解 釈』なのではなく、『主体』を構成している関係を編み直す『実践』である。『実 践』の性格こそ問われなくてはならない370」と述べ、さらに実践の中の理論研究 (theory in practice)につい て、「この立場の特徴 は、教師 や子どもが内面 化して いる『理論』の所産として教育の実践を認識するところにある。この立場において は、あらゆる活動は、活動主体に内面化された理論の遂行であり、あらゆる実践は 理論的実践である」371、と記している。
「教師は学びの伝達者ではなく学びの開拓者」なのである372。このことに、深 く共感し、論者は、学びの開拓者・実践型研究者としての意識をもち、対話型授業 の実践研究を傍観者として観察する立場ではなく、共創者としての参加を継続した い。その過程に中で、実践から生起する事実を編み直し理論化し、他方、対話型授 業に関わる理論が提示する言説や用語について、考察・分析・翻訳し、実践研究に 資する理論と実践の橋渡しする研究を促進することを今後の課題としたい。
2-2. 個人卓越型から協同・共創型教師の育成
教 師 の 対 話 型 授 業 へ の 認 識 の 深 化 と 実 践 的 指 導 力 の 向 上 が 対 話 型 授 業 の 推 進 に 多大な影響を与える。グローバル時代の人間形成を希求する対話型授業を開発でき る教師とは、多様な人々と協同し、また多様な教育資源を活用できる共創型教師と 考え,その育成を課題とする。
西穣司は、「地球市民を育む教師教育」について論じ、基本要素としての「傾聴」
「観察」「省察」、教師教育の核心としての教師の「自己探究」、教職における「公 共と同僚性」の新たな開発の3点を上げている。また、地球市民を育む教師教育の 方略として、「フィールドワークを重視した柔軟でリアルな教育観の啓培」を指摘 している373。和井田清司は学習支援の要因として、「第一に学習空間の整備であ り、ここでは、教室の内外における学習フィールドを適切に準備することが 重要と
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なる。第2は探究ツールであり、学習の課題設定・追求・結果の整理・表現等を 効果的にすすめるための技術の総体を適切に準備することが求められる。第3は 支援体制であり、教師間あるいは教師と外部支援者間のネットワークの構築が不 可欠となる」374と述べている。
佐々木幸寿は、教員の使命感・意欲の育成のための、「教員の自律的コミット メントを確保するうえで基盤となる同僚性を育む」施策の必要を論じている375。 若井彌一は「教員の資質向上の施策の展開には、若者にとって教職が魅力ある専 門職であり続けるための条件整備に対する十分な配慮が必要である」と記してい る376。
佐藤学は「実態に即して見ると、日本の教師の危機の本質は、教師教育の(研修)
の高度化と専門職化の著しい遅れである」377と指摘し、さらに教師にしての専門 的力量 を高めるのに「何より も大切なのは、教育の 専門家として共に学び 育ち合 う仲間の存在である」と述べている378。
グ ロ ー バ ル 時 代 の 対 話 型 授 業 を 促 進 す る 魅 力 あ る 教 師 と は 、 佐 藤 の 指 摘 す る
「共に学び育ち合う仲間の存在」を大切にし、西の指摘する、「傾聴」「観察」
「省察」「自己探求」「公共と同僚性」を重視し、和井田の示す「学習空間」「探 究ツール」を提供でき、「教師間あるいは教師と外部支援者間のネットワーク」
を活用でき、佐々木の指摘する「同僚性」をもつ共創型の教師像と捉えたい。
現代社会にあって次々と発生する教育的課題に対して、教師一人で対応し解決 をはかることは難しい。教師集団が得意分野や個性を生かしつつ、協同して対応 すること、多様な教育資源を活用することが、問題の解決に不可欠となっている。
個人としての卓越した教師から、協同・共創型教師への転換が望まれる。
佐藤学は、研究協力者と現場教師との関わりについて、稲垣忠彦の事例を引用し つつ、「事実、数え切れない教師たちが、この『教育学(ペタゴジー)』に支えら れ、励まされて育てられている。その関わりも、何かを教授したり実践を援助すると いうものではなく、実践と成長の課題を教師と共有しながら、一人ひとりの労苦と 悩みを理解し、そこに稲垣先生自身の成長の契機を見いだす方法で、教師を具体的 に励まし、援助し、育てるのである」379と、記している。
グローバル時代の対話型授業は、多様な他者・事象との関わりを必然とする。共 創型教師が、多様性・異質性を活用し、授業の質的向上につなげる対話型授業を開 発していくと考える。
協同・共創型教師は、実践と成長の課題を教師と共有しながら、一人ひとりの 労苦と悩みを理解し合う関係性の中でこそ育まれる.今後も、教育実践者の一人 として教師たちと連携し,その過程で高度な専門性をもつ、共創型教師の育成を 希求していくことを課題としたい。
2-3. 学習者主体の対話型授業の探究
対話型授業には,教師主導の対話型授業と、学習者主導による対話型授業があ
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る。日本の授業においても、優れた教師たちが主導することにより、質の高い対話 型授業が共創されてきた。教師主導の対話型授業では、参加者の知的好奇心を喚起 させる課題設定、高い学識に加え、議論を拡大・深化させる臨機応変の対応力・論 議構成力などの教師スキルが必要である。
他方、学習者主導による対話型授業では、学習者たち自身の目的意識や必要感を 起点にする。やがて学習を展開する過程で、一人では解決できない、困っている、
分からない疑問や問題がでてくる。そうした場面で,新たな学習課題と学習方法を 子供たち自身が設定(形成)し、学びを深めていく授業である。
論者は、この学習者主体の対話型授業こそ「グローバル時代の人間形成」に有効 な学習と捉えている。佐藤学は「対人関係における対話的実践を遂行するためには,
教室文化を構成している制度化された人間関係、言語、知識をダイアローグの言語 によって変革する実践として展開されなければならない」380と記している。「教 室文化を構成している制度化された人間関係」から変革するとは、本
研究において、「グローバル時代の人間形成」の要件として提示した「多様性」
「関係性」「自己変革・成長」「当事者意識・主体的行動力」「共感・イメージ力」
を十全に伸長させる学びを教室に持ち込むことであり、学習者主体の対話授業は、
そのための最も有効な学習である。
それでは、教師の役割は何か、それは黒田友紀が「児童と教師が異なる他者とし て理解可能性という地平を共有し,自らより多くの責任を引き受ける生き方として 授業や課題を経験する必要がある」381と記すように、傍観者ではなく対話を共創 する他者として参加することなのである。
教室における「協働的コミュニケーション行為としてのことば」を重視する細川 英雄は「学習者の一人ひとりの『個の表現』というものを保証すると同時に『教室』
というコミュニティの中で、共同体メンバーとしての他者との関係をつくることで、
権力という規範から解放されなければならない」と記している382。学習者主体の 授業とは細川の記す、「個の表現」が保証される共生意識に中でこそ展開されてい く。
佐藤は「協同と共有を志向する学習は、通常の教室における効率と競争の原理と 衝突せざるをえない」「意味と関係の構成として再定義される教育実践は、教室の デ イ レ ン マ を 教 室 の 外 に 広 が る 社 会 に 通 わ せ る 実 践 な の で あ る 」 と 記 し て い い る
383。学習者主体の対話型授業は、佐藤の提示する「協同と共有を志向する学習」
であり、社会につながる学習として位置付ける。
学習者主体の対話型授業の基本的問題は、教室そのものに、所与の関係性が厳然 と存在することである。教師の存在、学習者同士の有形・無形の力関係が教室とい う空間を支配する。それを共生・創造の空間にすることなくして学習者主体の対話 型授業は現実化しない。課題は所与の関係性を払拭し、共生・創造の空間にする要 件である。論者はそれを「響(共)感」と仮説的に捉えたい。共通の解決すべき課 題に向かうとき、また、ともに次々視野を広げ,思考を深めていくとき、成就感や