第 2 章 関連研究
5.2 移動履歴を利用したセンサデータ閲覧手法
5.2.6 実験結果
地図表示や位置情報抽出に用いる空間データとして,国土数値情報[国土交通省 a]
を利用する.具体的には,国土数値情報に含まれる「行政界・海岸線データ(平成 11年度)」,「鉄道データ(平成7年度)」,「道路データ(平成7年度)」を利用している.
図 5.15: 空間補間に基づく集約結果とテキスト情報の生成
の集約結果を,テキスト情報として,時刻情報および位置情報とともに,テキスト 情報表示部(text information area)に表示している.図5.14の各地点のクエリに対 して生成されたテキスト情報を移動履歴の時刻順に並べたものを,次に示す.
気温 12.7 度 14:20 埼玉県和光市
気温 12.8 度 14:42 東京都新宿区
気温 12.3 度 15:20 神奈川県横浜市港北区
通常,GPSを用いて測位した場合は,各記録点の位置は,緯度経度で表現され る.しかし,地図上で対応関係を把握できる場合を除いて,数値情報として緯度経 度座標を表示されても,その位置関係を把握することは難しい.そこで,本実験で は,移動履歴と関連する行政区ポリゴンを選択し,その属性情報である行政区名を 調べることで,指定した地点を含む行政区の名前を位置情報として出力している.
本実験では,国土数値情報の市町村レベルの行政区ポリゴンデータを利用し,履歴 データとの交差関係を調べた.その結果を,図5.16に示す.
本実験では,行政区ポリゴンデータを利用した空間データ統合に基づいて,履歴 中のある点に関する位置情報を抽出しているが,図5.14の移動履歴は,鉄道での 移動時の記録を含んでいるため,当然のことながら,鉄道データとの地理的関連性 が高い.したがって,たとえば,国土数値情報の鉄道データに含まれる駅に関する 属性情報を利用すれば,位置情報として,記録点に近い駅の名前を出力することも 可能であると考えられる.
図 5.16: 移動履歴に基づく行政区ポリゴンの選択
本実験システムでは,地図表示部とテキスト情報表示部の両方に空間補間に基づ く計算結果を表示しているが,実際には,テキスト情報表示部に表示されている結 果のみをユーザに提供することも可能である.たとえば,携帯端末での利用を考え た場合には,地図を表示するのに十分な画面が確保できず,地図上でのセンサデー タ分布表示が困難な場合があるが,そのような場合に,テキスト形式での環境情報 の提供が効果的であると考える.
領域選択に基づくセンサデータマッピング
移動履歴データ(B)を用いて,気温データをマッピングする場合について調べ る.図5.17 に,実験で用いる履歴データと,全履歴データに対するクエリ領域
(SensRange= 50km)に含まれる気温ノードの分布を示す.
図5.18は,図5.17の全移動履歴データに対するメッシュ統合の結果を表す.図 中のセルの濃淡は,気温の違いを示しており,図の右に示した凡例(単位は,°C) に従う.凡例によると,図5.18の左下から右上にかけて,気温の低い地域が存在 することがわかる.この例では,履歴中の記録点のすべての時刻を含む15:00から
23:00までの観測データを利用して,各ノードごとに平均値を求め,その結果を利
用して空間補間を行っている.したがって,図5.18は,移動履歴に関連する時系 列のセンサデータを時空間的に集約した結果であると言え,全体的な傾向を表して いると考えられる.この場合,空間的なデータの分布状況を把握するだけでなく,
時系列データの傾向を予想することもできる.たとえば,平均気温の低い地域は,
短い時間帯で見た場合にも気温が低く,ある時刻に大量に雨が降っていれば,集約
図 5.17: 移動履歴と気温ノードの分布
図 5.18: メッシュ統合に基づくセンサデータ分布表示
結果である積算降水量データも多くなると考えられる.
図5.19は,query-by-regionによって図5.17に表示されている移動履歴のある 区間を選択し,その部分履歴に対するデータを要求した時のメッシュ統合の結果を 示している.この図では,気温データの凡例(単位は,°C)を図の左上に配置して いる.
図 5.19: 選択領域のメッシュ統合に基づくセンサデータ分布表示
図5.19では,図5.18より狭い範囲のクエリ領域を 20×20のメッシュに分割し ているため,より細かな分布傾向が示されている.ただし,query-by-regionに 基づくセンサデータマッピングは,領域だけでなく,結果として時区間も絞り込ん でいくため,図5.19は,図5.18より短い時区間(20:00〜23:00)に含まれるセンサ データを利用した結果となっている.図5.18は昼間から夜にかけての平均値である が,図5.19は,夜間の平均値であるため,全体的に気温が低く,図5.18と比較す ると,10°C以下の領域が広がっていることがわかる.そして,query-by-region を繰り返すことで,最終的には,図5.20に示すように,集約結果として,ある地 点のセンサデータを獲得することができる.図5.20は,図5.19に表示されている 移動履歴のある点を選び,その地点に関するセンサデータを要求した時の結果を示 している.この図では,より短い時区間(21:00〜22:00)のデータを利用している.
対話的なセンサデータマッピング
query-by-regionは,基本的に,ユーザが滞在,通過した移動空間に関する環 境情報を知りたい時,場所に関する情報は記憶しているが,その場所に居た時刻を 記憶していない場合に効果を発揮する.さらに,図5.18 → 図5.19→ 図5.20に示 したように,センサデータの分布状況を閲覧し,全体的な傾向を把握しながら,そ
図 5.20: 選択領域に関するセンサデータのテキスト表示
のデータ分布に基づいて領域選択を繰り返すことで,より具体的に,ある地点に関 する環境情報を取得することが可能である.たとえば,鉄道で移動中に車窓の外で 雪が積もっていることや雨が降っていることだけを記憶しているが,それが,いつ どこで観察された現象なのかを記憶していない場合に,query-by-regionによる 対話的なセンサデータ閲覧により,その場所と時刻を特定することができる.つま り,移動履歴に基づくセンサデータ統合の結果から場所と時間を推論するという,
通常のセンサデータの検索とは逆方向の情報提供ができることを示唆している.
また,センサデータを閲覧していく過程で,提示された統合結果から,履歴中の 別の地点や別の時刻のセンサデータに関心を持つ場合もあると考えられる.たとえ ば,目的地にたどり着いた時に出発地の気温を知りたい場合や,ある地点でのそれ までの気象情報の変化を知りたい場合もあると考えられる.ある場所を訪れた時 に,雪が積もっていることが観察されれば,前日までの降雪量を調べることで,そ の事実を再確認することができる.このような要求に対しては,5.2.3節で述べた クエリパラメータの調整を行ってからクエリを発行することで対応できる.この機 能を利用することで,クエリ領域と時区間を独立に指定することが可能である.
たとえば,図5.21は,図5.18を求めるために生成したクエリパラメータの中で,
時区間パラメータのみを変更し,より部分的な時区間15:00〜16:00 に対して統合 処理を行った結果を示している.
凡例によると,図 5.21において気温の低い地域が,全体的な傾向を示す図5.18 においても気温の低いことが確認できる.この例では,広範囲にわたるセンサデー タ分布に対して,時区間パラメータを変更した場合を示しているが,履歴中のある 1つの地点に関して,別の時刻のセンサデータを参照することも可能である.
移動履歴に基づいてクエリを生成し,その上でパラメータの調整を対話的に進め
図5.21: 時区間パラメータを変更した時のメッシュ統合に基づくセンサデータ分布 ていくことは,何も手がかりのない状態からクエリパラメータを模索していくこと に比べて,ユーザの負担を少なくできると考えられるので,柔軟なセンサデータの 閲覧を実現する上でも有用であると考える.
5.2.7 デジタル写真に対するセンサデータマッピング
5.2.5節のプロトタイプシステムを拡張し,デジタルカメラで撮影した写真(デジ
タル写真)に対して,関連するセンサデータをマッピングするサンプルアプリケー ションを作成した.そのユーザインタフェースの一部を図5.22に示す.
このアプリケーションでは,図 5.12のプロトタイプシステムと同様に,移動履 歴データを読み込み,その結果を履歴表示リスト (log point list)に表示し,軌跡 を地図上に表示することができる.図5.22 では,図5.17と同じ移動履歴を扱って いる.さらに,写真リスト表示部(photo list)に表示されている写真を選択すると,
その画像が写真画像表示部(photo area)に表示され,その撮影時刻情報が写真関連 情報表示部(photo info)に表示される(図5.22).
各写真データは,その撮影時刻に基づいて,最も近い記録時刻を持つ移動履歴 の1つの要素(地点)と関連付けられる.これにより,移動履歴を選択すると,その 構成要素と関連するすべての写真がリストとして photo list に表示される.逆に,
photo list 中の写真要素を選択すると,log point list中の1つの要素が定まる.す
なわち,photo area に表示されている写真に対する履歴要素が選択される.図5.22
では,その選択された履歴要素(selected point)の位置情報(経緯度座標)がテキス ト情報表示部に表示されている.
図5.23 は,図5.22に表示されている写真データの撮影時の気温を求めるために,
図 5.22: サンプルアプリケーションのGUIイメージ
対応する移動履歴中の要素に基づいてクエリを生成し,そのクエリに対する検索結 果を利用して統合処理を行った結果を示している.
図5.23のテキスト情報表示部(text info)に表示されているように,指定した地 点の気温データが求められていることがわかる.さらに,図5.23の[annotate]ボ タンを押すことで,統合結果である気温データが写真データにマッピングされる.
その結果として,写真関連情報表示部(photo info)には,図5.22で示した撮影時刻 情報に加えて,選択地点の経緯度座標と統合結果である気温データの値が表示され る.この実験例は,移動履歴とデジタル写真群を関連付けた上で,提案手法を用い ることで,写真データに対するセンサデータマッピングが実現できていることを示 している.
ただし,センサデータをマッピングするために利用した履歴要素の座標は,その 要素の記録時刻と写真の撮影時刻が近いだけであって,厳密に言えば,写真を取っ た場所に対応しているわけではない.この時,写真を撮影したことや撮影場所を 訪れたことは,ユーザの記憶(あるいは行動記録)として残されているはずなので,
センサデータ統合の結果を写真データに実際にマッピングするかどうかは,ユー ザの判断に委ねられる.もし,選択地点と写真の時刻の間隔や,選択地点に滞在 していた時間の長さを考えて,ユーザが適切であると判断できる範囲内であれば,
[annotate]ボタンによって,センサデータと写真データのマッピングが行われる.