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第 4 章 TCP 、 MAC 、物理レイヤの動作を考慮したアドホックネットワークの性能評価

4.2 地下街におけるアドホック伝送実験

4.2.2 実験結果

4.2.2.1 直接通信による実験結果

図 4.2は直接通信実験におけるノードの配置を示す。直接通信を行う一方のノードを位 置Aに設置し、もう一方のノードを位置BからLに配置した。このような状況で、位置A にあるノードから、位置BからLのそれぞれの場所へ通信可能であるかを調べ、もし通信 可能であればその通信性能を測定した。位置Bにあるノードは位置Aのある広場に設置し た。位置CとDにあるノードはその広場から右の通路に沿って設置した。位置E、F、G、

Hにあるノードは、その通路に繋がっているもう一つの広場内に設置した。位置 I と Jは 位置Hのある広場よりさらに奥の通路に沿って設置した。また、位置KとLは位置 Aか らは直接見えない場所に設置した。さらに、位置Lのノードは位置Kのすぐ隣にある階段 を登った場所に設置した。

まず、位置AとBにあるノード間のデータ転送実験を行った。位置AとBの間の距離 は約60メートルである。これらのノード間ではお互いに見通すことが可能であった。実験 の結果、FTPによるスループットは5.0Mbpsであった。この通信はとても安定していると 考えられる。

次に、位置AとCにあるノード間によるデータ転送の実験を行った。位置 Aと Cの距 離は約110メートルである。これらのノード間の見通しはよく、お互いが見える位置にあ る。FTPによるスループットは4.6Mbpsであった。詳細な解析結果を図 4.3と図 4.4に示 す。これらの結果は、上記のMACレイヤとTCPレイヤの処理を解析するシステムによっ て得られている。図 4.3は時間に対するTCPシーケンス番号とMAC再送率を示している。

図の折れ線グラフは送信側の TCPシーケンス番号を示しており(左の目盛)、TCPの再送 箇所を折れ線グラフ上に「x」で示している。また図 4.3の棒グラフは、MAC再送率を示 している(右の目盛)。前節で述べたようにMAC再送率は、1つのデータフレームが受信

100 m A

G H

C

D E

K L

広場

広場 階段

通路

通路 F

B

I J

図 4.2: 直接通信の場合のノード配置

ノードから ACK されるまでに送信ノードによって再送されるフレーム数の 1 秒間の平均 値である。図 4.3から、TCPの再送がわずかに発生しているだけで、TCPのシーケンス番 号も順調に増加していることがわかる。また、図 4.3の5秒付近に存在する約300msecの 無通信区間では、TCPの再送は発生していなかった。この区間では、受信ノードが何らか の原因で受信ソケットバッファを読み込めなかったために、受信ノードの送信する ACK セグメントの広告ウィンドウサイズが小さくなり、それを受信した送信ノードではデータ セグメントを送信できなくなっていた。それから300msec後に受信ノードから広告ウィン ドウサイズをオープンする ACK セグメントが送信され、データセグメントの送信が再開 されたことがわかった。また図より、MAC再送率はほぼ 1であり、これは FTP転送によ ってほぼ全てのフレームが MAC レイヤの再送なしに転送できたことを意味する。図 4.4 は、MACレイヤの再送回数に対するオリジナルフレームの数のヒストグラムを示している。

この図から、データセグメントに対して、一度だけ再送されたフレームは108個存在し、2 度再送されたフレームは3個存在する、また3度以上再送されたフレームは一つも存在し ないことがわかる。これは、わずかだが MAC レイヤの再送は存在している、ということ も示している。また、図 4.3より MACリトライアウトが一度も発生していないにも関わ らず、図 4.3では3度のTCP再転送が発生していることに注意する必要がある。我々の実 験では、キャプチャの際のフレームの取りこぼしによって、測定エラーが発生することが 確認されている。

その後通信ノード間の距離を延ばした。つまり、位置Aにあるノードを固定し、もう一 つのノードの位置をD、E、F、G、Hと変えた。位置Aにあるノードからの距離はそれぞ れ、150、160、180、200、240メートルである。

位置Aと位置Dの間での通信実験を行った。この場合もノードは見通し通信が可能で、

距離は約150メートルであった。FTPのスループットは3.93 Mbpsであった。詳細な結果 を図 4.5に示す。TCPのシーケンス番号の時間的変化を見ると、再送が何回か行われてい ることがわかる。この程度の再送ではスループットに対して大きな影響を与えていないと 考えられる。

さらに、位置 Dと近くの位置 E にノードを設置して位置 A のノードと通信実験を行っ た。結果のスループットは 4.63Mbps であり、位置C と同様な性能を得ることができた。

TCPのシーケンス番号の時間的変化を図 4.6に示すが、ここではTCPレイヤの再送がほと んど生じていない。またMACレイヤの再送もほとんど発生していないことがわかる。

次に端末間の距離をさらに延ばして実験を行った。図 4.7と図 4.8は位置AとGにある ノード間によるデータ転送実験の詳細な結果である。ノード間の距離は200メートルであ る。2 つのノードはお互いに直接見ることが可能な位置に設置してある。FTP によるスル

ープットは1.17Mbpsである。図 4.7の結果から、最初の15秒間はデータ転送が開始して いないことがわかる。この間は「x」で示されるようにTCP のタイムアウト再送がいくつ か発生しており、その再送間隔が指数関数的に増加しているのがわかる。その後の15秒か ら40秒の間で、いくつかTCPの再転送が発生するものの、6MByteのデータが送られてい ることがわかる。また、図 4.7の棒グラフと図 4.8の結果から、先程のAとCの結果に比 べて、MAC レイヤの再送回数が増加していることがわかる。この場合、3570 フレームが MAC レイヤの再送なしで送られている。435 フレームが一度だけ再送をしている。また、

190フレームが2度、104フレームが3度再送されており、78 フレームが4度再送されて おり、そのうちのいくつかがリトライアウトしている。これらより、全フレームの80パー セント以上がMACレイヤとTCPレイヤの再送なしで転送可能だったことがわかる。しか し、それ以外のフレームが、特にMACリトライアウトしたフレームがTCPスループット に大きな影響を与えていると考えられる。さらに、上述のように、最初の15秒間にバース ト的なエラー期間が継続して発生しており、このときのTCPタイムアウトが全体的なスル ープットの低下に影響を与えている。

図 4.9と図 4.10は通信ノードを位置Aと位置BからGに設置した場合の実験結果をま

とめて示したものである。今回の実験により、TCP スループット、MAC レイヤの再送、

TCPレイヤの再送、RSS値を測定することができた。このうち、図 4.9は距離に対するTCP スループットとMAC再送率を示している。折れ線グラフはTCPスループットを表してお り(左の目盛)、棒グラフはMAC再送率(右の目盛)を示している。図 4.10はTCP再送 率とファイル転送の間に送信されたデータセグメントを転送するMACフレームのRSS値 の平均と標準偏差も示している。図 4.10 は、ノード間の距離に対するそれらの値をプロ ットしている。折れ線グラフがRSSに対応しており(左の目盛)、棒グラフがTCP再送率 に対応している(右の目盛)。

図よりノード間の距離が 160 メートルのとき(Aと E)と、180 メートルのとき(A と F)で大きな性能の違いが見られる。ノード間の距離が 180 メートルになると、スループッ トは突然減少している。ノード間の距離が160 メートルまではMAC再送率はほぼ1であ る、つまりそれまでは MAC レイヤの再転送がほとんどなかったということがわかる。し かし、距離が180メートルを超えると、MAC再送率は約2になる。これは、平均するとほ ぼ全てのフレームで一回再送が行われたと同じことである。この結果として、無線リンク の帯域は実際の半分に減少することになる。これによりスループットは半分になる。さら にノード間の距離を180メートル以上にしたときには、MACレイヤの再送数の増加により、

TCPレイヤの再送が増加している。160メートル以内のときは、TCP 再送率は1パーセン ト以下であるが、180 メートル以上ではその値は 3パーセント以上に大きくなっているこ

とがわかる。さらに、TCPレイヤの再送の増加によってTCPスループットが減少している。

一方で、RSS値はノード間の距離が大きくなっても、それらのパラメータ値はあまり変化 しない。RSS の平均値は、ノード間の距離が 60 メートルより大きくなったときに減少し ているものの、それ以降はほぼ同じ値を示している。

位置Hは位置Aの広場とは別の広場の端に位置しその間は通路で連結されている。Aと Hの距離は240メートルで、HからAは見ることができない距離にあった。このとき、FTP によるファイルデータの転送は不可能であった。ただし、後述のように短いデータファイ ルの転送は可能であった。

次に、ノードを位置Aと位置K、Lに置いた場合の実験を行った。AとKの間の距離は 約40メートルであったが、その間には店舗が幾つか並んであり、直接お互いを見ることが できなかった。AとKの間のFTPスループットは3.51Mbpsであった。図 4.11は時間に対 するTCPシーケンス番号とMACレイヤの再送率を示す。幾つかのTCPの高速再転送とタ イムアウト再送が発生していることがわかる。それらの再送によってTCPスループットが 減少している。

一方で、位置Lのノードは位置Kから階段を登ったところに設置してある。位置Lにあ るノードは位置Aにあるノードと通信することができなかった。これは、曲がり角や階段 により通信状況が悪くなったためと考えられる。

次に、より距離の離れた場合も含めてping通信による通信実験を行った。結果は次のと おりである。

・ 位置AとG(距離200メートル):データ配送率67% (44/66)

・ 位置AとH(距離240メートル):データ配送率65% (42/65)

・ 位置AとI(距離250メートル):データ配送率43% (27/63)

・ 位置AとJ(距離270メートル):データ配送率26% (17/65)

ここで、位置IとJは、位置Aから通路を経ていったん広い場所に出た後、別の通路に 入った箇所となる。さらに、位置Aを直線に見通すことはできない。このような環境では 通信が非常に困難で、ファイル転送は不可能であった。しかし、ping通信の結果を見ると、

40%または25%程度は 100バイトのデータの往復が可能となっている。したがって、短い

制御情報を転送することは可能であるとも考えられる。

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