72
73 5.4.2 SEM観察及びXRD測定結果
Figure 5.2(a)に本研究で作製したNa2SiF6:Mn2+黄緑色蛍光体のSEM画像を示す。また(b) に本黄緑蛍光体のXRD測定結果を示す。(a)のNa2SiF6:Mn2+黄緑色蛍光体のSEM画像では、
の断面が六角形をした細長い結晶が観測された。断面の径はおよそ100 m程度であり、側 面はおよそ400 mあることが確認できる。K2SiF6:Mn2+のSEM画像とは明らかに異なるこ とから、結晶構造の違いが予想できる。 (b)は本研究で作製したNa2SiF6:Mn2+黄緑色蛍光体 の XRD 測定結果である。上段が実際の実験データであり、下段が三方晶系 Na2SiF6 の American Society for Testing and Materials (ASTM) cardのデータである。両者を比較するとピ ークの位置、強度が完全に一致していることが確認できる。したがって、本研究で作製し た黄色蛍光体は、三方晶Na2SiF(格子定数6 a = 0.8859 nm、c = 0.5038 nm、空間群は 32-P321 ) であることが確認できた。また、K2SiF6:Mn4+赤色蛍光体も同様のX線回折が得られる。2
Figure 5.2 SEM画像及びXRD測定結果
74 5.4.3 EPMA測定結果
Figure 5.3に本研究で作製したNa2SiF6:Mn2+黄緑色蛍光体のEPMA測定結果を示す。 ナ
トリウム(Na, 1.19 Å)、シリコン(Si, 7.13)、フッ素(F, 1.83 Å)そしてマンガン(Mn, 2.1 Å)
のピークが検出された。2.3 Å付近に Cr のピークが検出されている。これは Na2SiF6:Mn2+
を作製するときに、クロム系の不純物が混ざってしまうことが原因である。Na2SiF6:Mn2+黄 緑色蛍光体を作製するときに、あえて Na2Cr2O7·2H2O の量を少し多めに入れることで、ク ロム系不純物が多く混ざったNa2SiF6:Mn2+が作製できる。その時にテフロンビーカーの底に も緑色粉末が貼りついている状態で析出している。その緑粉末をピンセット等で剥ぎ取り、
回収する。するとNa2SiF6:Mn2+が混ざっていなく、クロム系不純物のみ回収できたことにな
る。Figure 5.4はその緑色粉末のXRD測定を行った結果である。単斜晶CrF3·3H2OのASTM
card のデータと完全に一致していることが確認できる。したがって、EPMA 測定で観測さ れたCrのピークは作製の段階で混ざるCrF3·3H2Oが原因であるとわかる。
Figure 5.3 EPMA測定結果
1 5 10
Wavelength (Å)
Count s (a rb. uni ts )
F Na
Cr Si Mn
×100 ×1
30
20 40 60 80
Intensity (arb. units)
CrF3·3H2O-monoclinic Na2SiF6:Mn2+を作製する際に 析出する緑粉末
2 (deg)
Figure 5.4 XRD測定結果(緑色粉末)
75
5.4.4 PL及びPLE測定結果(Na2SiF6:Mn4+及びNa2SiF6:Mn2+)
Figure5.5にNa2SiF6:Mn4+及びNa2SiF6:Mn2+のPL及びPLEの測定結果を示す(室温, 300 K)。
Figure5.5(a)はNa2SiF6:Mn4+赤色蛍光体(NaMnO4·H2O/HFの混合溶液にSiウエハーを浸漬で 作製)、Fig. 5.5(b)は本研究で作製したNa2SiF6:Mn2+黄緑色蛍光体(Mn = 15 g/L)のPL及び PLE測定の結果である。
Fig. 5.5(a)に示すNa2SiF6:Mn4+の赤色蛍光体のPL測定は、励起波長~460 nm、PLE測定は PLモニター波長はStokes光ので測定を行った。~2.0 eV(~620 nm)に観測されるシャー プなスペクトルは Na2SiF6結晶中のSiF62−八面体結晶に置換したMn4+イオン(MnF62−)によ る2E →4A2遷移による発光である。PLE測定結果より、~2.7 eV(~460 nm)に強い励起帯が 観測される。これは4A2→4T2遷移に対応しており、許容遷移である。この4A2→4T2の励起遷 移は非対称MnF62−八面体のある基本振動モードが結合した遷移であり、~55-65 meV程度の エネルギー間隔の連続振動要素で成り立っている。3-5 二番目に強い励起バンドは~3.5 eV
(~350 nm)にピークをもち、ほとんど振動モード等の構造は見られない励起帯である。3-5 Fig. 5.5(b) に示すNa2SiF6:Mn2+の黄緑色蛍光体のPL測定は、励起波長~325 nm、PLE測 定はPLモニター波長~580 nmで測定を行った。PL測定結果から~2.15 eV(~576 nm)にピ ークをもつブロードなスペクトルが観測され、スペクトルの半値幅は~0.34 eVである。これ は第4章で示したK2SiF6:Mn2+とスペクトル半値幅、ピーク位置とほぼ一致している。発光 はNa2SiF6結晶中のMn2+イオンによるものであり、発光準位4T1から基底準位6A1の遷移に 対応する。6,7 またPLE測定結果から~3.8 eV(~326 nm)にピークをもつブロードな励起帯 が観測された。同様なPLEスペクトルがMgO–Al2O3–Ga2O3、8 CdS、9 CdSiO3、10 Zn2GeO4、
11 ZnS、12 BaZnOS、13 MgGeO3、14 MgGa2O4
15などのMn2+賦活蛍光体で観測されてい る。後に示す反射測定の結果から、Na2SiF6の基礎吸収端(バンドギャップ)は5 eV(~248 nm)より大きいとされる。したがって、Fig. 5.5(b)に示したブロードな励起帯は、価電子帯 及び伝導体間の遷移でないことがわかる。
Figure5.6にNa2SiF6:Mn4+及びNa2SiF6:Mn2+のPL及びPLEの20 Kでの測定結果を示す。
Fig. 5.6(a)はNa2SiF6:Mn4+赤色蛍光体(NaMnO4·H2O/HFの混合溶液にSiウエハーを浸漬で作 製)、Fig. 5.6(b)は本研究で作製したNa2SiF6:Mn2+黄緑色蛍光体(Mn = 15 g/L)の低温PL及 び低温PLE測定の結果である。
Fig. 5.6(a)に示すNa2SiF6:Mn4+の赤色蛍光体のPL測定(20 K)は、励起波長~460 nm、PLE 測定はPLモニター波長はStokes光ので測定を行った。PL測定では、スペクトルの半値 幅が狭くなり、高エネルギー(短波長)側のピークが減少している。PLE 測定(20 K)で は、本質的には300 K時とあまり変わらず、~2.7 eV(~460 nm)と~3.5 eV(~350 nm)に強 い励起帯が観測された。~2.7 eV(~460 nm)の最も強い励起帯は、20 Kにおいて、階段状 の構造が観測された。これは非対称MnF62−八面体特有の振動モードが低温で顕著に表れたこ とが原因である。
Fig. 5.6(b)に示すNa2SiF6:Mn2+の黄緑色蛍光体のPL測定(20 K)は、励起波長~325 nm、
76
PLE測定(20 K)はPLモニター波長~580 nmで測定を行った。PL、PLE共に300 K時と比 較して、本質的にはほとんど同じであるが、PL測定からは、低エネルギー側(長波長側)
に弱いブロードなピークが観測され、PLE測定では、300 K時と比較して、~3.75 eV(~330 nm)付近に構造が観測される。
さらに、Fig. 5.5(a)及びFig. 5.6(a)のNa2SiF6:Mn4+の赤色蛍光体のPLスペクトル(~2.0 eV)
付近をよくみると、PLとほぼ重なった状態で、シャープな線スペクトルを示す励起帯が観 測される。この励起バンドは5.4.5 Fig. 5.7で詳しく説明するが4A2→2Eの遷移に対応する。
400 600
800
4A2g→ 4T1g 4A2g→ 4T2g
PL
Wavelength (nm)
PLE
250 1200
4A2g⇔ 2Eg (a)
300
1 2 3 4 5 6
Photon energy (eV)
P L , P L E (a rb. uni ts )
PL PLE
T=300 K (b)
FIG. 4 T. Arai
1 2 3 4 5 6
Photon energy (eV)
PL , P L E ( arb . un it s)
PL PLE
T=20 K (b)
400 600
800
Wavelength (nm)
PL
PLE
1200 300 250
4 (a) A2g→ 4T2g
4A2g→ 4T1g
4A2g⇔ 2Eg
FIG. 5 T. Arai
Figure 5.5 PL及びPLE測定結果(300 K)(a) Na2SiF6:Mn4+, (b) Na2SiF6:Mn2+
Figure 5.6 PL及びPLE測定結果(20 K)(a) Na2SiF6:Mn4+, (b) Na2SiF6:Mn2+
77
5.4.5 PL及び PLE測定結果(Na2SiF6:Mn4+ 4A2⇔2E遷移)
Figure5.7はNa2SiF6:Mn4+赤色蛍光体のPL及びPLE(~2.0 eV)を示したものである。測 定温度は20 Kである。PLE測定のPLモニター波長はStokes光の(~1.97 eV)で測定を行
った。Fig. 5.7の上段はPLE測定結果であり、下段にPL測定の結果を示してある。PL測定
結果はLiner及びlogプロットで示した。測定結果より、PLEとPLのピーク位置がほとん
ど一致していることが確認できる。~2.010 eVのピークはゼロフォノン線(ZPL)であり、
PLE測定では、ZPLより高エネルギー側(anti-Stokes)に~2.039 eV()、~2.053 eV()、
~2.088 eV()及びその他振動モード(また複数の振動の結びつき)を観測した。PL測定
では、ZPLより高エネルギー側は観測されなかったが、ZPLより低エネルギー側に、1.977 eV
()、~1.964 eV()、~1.929 eV()その他振動モード(また複数の振動の結びつき)を
観測した。Mn4+(3d3)の発光遷移(PL)は 2E→4A2遷移である。したがって、測定結果か ら得られたPLEの励起遷移は4A2→2Eに対応することがわかる。また、PL及びPLEのピー クシフトがほとんど見られないことから、Na2SiF6:Mn4の 4A2⇔2E遷移はストークスシフト が非常に小さい遷移であるという結論となる。
2.1 2.2
PLE
(eV)
PL E ( line ar )
1.9 2.0
Stokes ↓
anti-StokesZPL
PL
6
4
3
6
4PL ( log) PL ( line ar )
log linear
3Figure 5.7 PL及びPLE測定結果(Na2SiF6:Mn4+ 4A2⇔2E遷移(20 K))
78
5.4.6 PLE測定結果及びポアソン分布解析(Na2SiF6:Mn4+ 4A2→4T2遷移)
Figure5.8はNa2SiF6:Mn4+赤色蛍光体の4A2→4T2(~2.7 eV)遷移の励起帯を示したもので ある。Fig. 5.8(a)は300 K、(b)は20 Kの測定データである。図中の棒グラフは、励起帯をポ アソン分布でフィッティングしたものである。近似式は以下のようになっている。
𝐼𝑛𝑒𝑥(𝑛) = 𝐼0𝑒𝑥exp(-S) 𝑆𝑛!𝑛 …(5.1)
ここで、𝐼𝑛𝑒𝑥は n 番目の振動サイドバンドの強度、𝐼0𝑒𝑥はZPL の強度、Sは光学遷移に伴っ て放出されるフォノンの数である。Sはファン-リー(Huang-Rhys)因子またはデバイ-ワラ ー(Debye-Waller)因子とよばれることもある。Fig. 5.8(a)では、S = 4として計算した。ZPL のエネルギーEZPLは2.45 eVとされ、結晶場パラメータ(Dq)1980 cm-1が得られた。Fig. 5.8(b) では、S = 3として計算した。ZPLのエネルギーEZPLは2.57 eVとされ、Dqは2070 cm-1が得 られた。また振動のエネルギー間隔(ZPLのサイドバンド)は65 meVで計算したところ、
最もスペクトルと一致した。得られた65 meVの値は、MnF62−八面体における2の振動エネ ルギーと一致する。16 吸収、発光スペクトルの形は、フランク・コンドン係数と始状態の 振動準位の熱平衡分布によって決まるため、式(5.1)はスペクトルの解析に置いて重要な式で ある。
400 420
440 460 480 500
Wavelength (nm)
↓ ZPL (a) T=300 K
2.4 2.5 2.6 2.7 2.8 2.9 3.0 3.1 Na
2SiF
6:Mn
4+4A2g→4T2g
Photon energy (eV)
PL E (a rb. uni ts )
↓ ZPL (b) T=20 K
Figure 5.8 PLE測定結果及びポアソン分布(Na2SiF6:Mn4+ 4A2→4T2遷移)
79
5.4.7 PL測定結果及びポアソン分布解析(Na2SiF6:Mn2+ 4T2→6A1遷移)
Figure5.9は本研究で作製したNa2SiF6:Mn2+黄緑色蛍光体の4T1→6A1(~2.2 eV)遷移によ るPLスペクトルを示したものである。Fig. 5.9(a)は300 K、(b)は20 Kの測定データである。
図中の棒グラフは、発光帯をポアソン分布でフィッティングしたものである。近似式は以 下のようになっている。
𝐼𝑛em(𝑛) = 𝐼0emexp(-S) 𝑆𝑛!𝑛 …(5.2)
ここで、𝐼𝑛emは n 番目の振動サイドバンドの強度、𝐼0𝑒𝑥はZPL の強度、Sは光学遷移に伴っ て放出されるフォノンの数である。Fig. 5.9(a)では、S = 5として計算した。ZPLのエネルギ
ーEZPLは2.45 eVとされた。Fig. 5.9(b)では、S = 9として計算した。ZPLのエネルギーEZPL
は2.79eVとされた。また振動のエネルギー間隔(ZPLのサイドバンド)は65 meVで計算
し、Figure5.8に示したNa2SiF6:Mn4+赤色蛍光体のPLEと同じ値を用いた。
1.2 1.6 2.0 2.4 2.8 3.2
Photon energy (eV)
PL int ens it y (a rb. uni ts )
(b) T=20 K
ZPL
↓
400 500
600 700
800
(a) T=300 K
1000
Wavelength (nm)
ZPL
↓
Figure 5.9 PL測定結果及びポアソン分布(Na2SiF6:Mn2+ 4T2→6A1遷移)
80
5.4.8 拡散反射測定結果(Na2SiF6:Mn2+及びMnF2)
Figure 5.10に本研究で作製したNa2SiF6:Mn2+黄緑色蛍光体及びMnF2の反射測定を比較し た結果(室温)を示す。MnF2はHF 25cc/H2O 25 ccに片状Mnを浸漬することで作製する(後 の第7章で詳細を示す)。XRD測定の結果、ASTM cardのデータと一致しており、結晶構造 は正方晶である。Fig. 5.10(a)に本研究で作製したMnF2粉末の反射測定結果(室温)及びPL 測定結果(20 K)を示す。反射測定結果では、複数の吸収ピークが観測された。A-Fの吸収 帯は 3d5(Mn2+)エネルギー準位に相当する。6 田辺-菅野ダイアグラムによると、第三番 目の吸収帯4A1(C)および4E(C)は基底状態6A1と平行である。また第五番目の吸収帯4E も基底状態とほぼ平行にある。そのため、基底状態6A1から4A1、4E(C)、また 4E(E)へ の吸収遷移は結晶場に鈍感であり、比較的幅の狭いスペクトルが得られる。
Fig. 5.10(a)に示したPL測定結果から、Na2SiF6:Mn2+黄緑色蛍光体と同様に、MnF2も3d5
(Mn2+)による4T1→6A1遷移による発光が、赤-緑領域にあることが確認できる。
Fig. 5.10(b)に示すNa2SiF6:Mn2+黄緑色蛍光体の反射測定では、MnF2に示すA-Fの3d5電 子による吸収が、ブロードになっていると考えられる。測定結果からもわかるように、
Na2SiF6:Mn2+黄緑色蛍光体の反射測定は~2.7 eV及び~3.8 eVの2つのピークが観測されてい る。
300 400
500
20 40 60 80 700 100
Wavelength (nm)
(a) MnF2 (Mn2+)
250
4T2g
R (%)
4T1g
(4A1g, 4Eg)
4T2g
4Eg
4T1g
A B
C D E F
PL R
1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5 20 30 40 50 60 70
PL int ens it y (a rb. uni ts )
Photon energy (eV)
R (%)
(T=20 K)
(b) Na2SiF6:Mn2+
PL R
Figure 5.10 拡散反射測定結果((a)MnF2, Na2SiF6:Mn2+)