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実験室内および野外の他の生物への影響

態)に基づき、不妊または低受精能と診断された 1019 名の患者群と、いくつかの手法によ り受精能力正常と診断された 475 名の対照群が置かれた。エチレングリコールエーテル曝 露の可能性を、尿中代謝物のMAAの存在によって評価しており、MAAは患者群の1名と 対照群の2名からしか検出されていないが、対して、2-エトキシ酢酸は患者群の39名と対 照群の6名から検出されている。

銅張積層板製造工場のコーティング部門における注入作業労働者では、曝露を受けた労働 者14名と比較対象の13名に、精子数の差は認められていない(Shih et al., 2000)。使用さ れていた揮発性溶剤は、2-メトキシエタノールとアセトンだけであり(70/30)、2-メトキシ エタノールの空気中濃度の幾何平均値は13 mg/m3であった(範囲2.1~95 mg/m3、n = 66)。

女性労働者を対象とした調査から、グリコールエーテル類への曝露と彼女らの出生児にお ける先天性奇形の発生との関係が疑われるいくつかの疫学的な証拠が得られているが(Ha et al., 1996; Cordier et al., 1997; Saavedra et al., 1997)、特定のグリコールエーテル類と関係が あるとするデータは乏しい。

11. 影響の評価

11.1 健康への影響の評価

11.1.1 危害要因特定と用量反応評価

2-メトキシエタノールは、経口、吸入、皮膚曝露によって容易に吸収され、全身に広く分 布する。皮膚からの吸収は、特に職業環境では曝露の重要な経路である。吸入曝露単独に ついては、生物学的曝露の十分な指標が得られないが、尿中代謝物の MAA の濃度は、全 曝露についての特異的で適切な指標として使用できる。経口、吸入、皮膚経路の急性毒性 は、軽度~中等度である。2-メトキシエタノールが皮膚や眼を刺激する能力は低く、モル モットのマキシミゼーションテストで皮膚感作性がないことが示されている。実験動物で は、2-メトキシエタノールへの反復曝露により、健康への様々な有害な影響が観察されて おり、血液学的、免疫学的、神経学的な影響だけでなく、催奇形性などの生殖発生毒性も 報告されている。多数の試験で、試験した最低用量・濃度において、影響が報告されてい る。例えば、サルとラットについて報告されている、経口曝露による発生毒性の LOAEL のうち、最も低い値は、それぞれ12 mg/kg 体重/日、16 mg/kg 体重/日であり(いずれも、

これより低い用量では試験されていない)、ラットは、母体毒性の認められない 31 mg/kg 体重/日で奇形の発生頻度が増加している(Nelson et al., 1989; Scott et al., 1989)。ラットとウ サギを用いた吸入試験では、160 mg/m3の濃度で、胎仔毒性と外表・内臓・骨格の奇形発 生頻度の増加が認められている(Doe et al., 1983; Hanley et al., 1984a,b; Nelson et al., 1984a)。

発生毒性に関するNOAECは、32 mg/m3と算定されている。ラットを用いた1件の発生毒 性試験では、試験したすべての曝露濃度(9 mg/m3 以上)で、循環赤血球数、ヘモグロビン 濃度、ヘマトクリット値の濃度依存的な減少が報告されている。2-メトキシエタノールに 関する発がん性試験は、確認されていない。2-メトキシエタノールは、体細胞で、中間体 のアセトアルデヒド代謝物への活性化によると思われる弱い遺伝毒性を示し、500 mg/kg 体重/日より高い用量または濃度で、雄ラットの生殖細胞に遺伝子損傷を引き起こすことが 報告されており(Anderson et al., 1987, 1996)、これは、雄の生殖に関して観察された影響と 整合している。

症例報告や疫学的調査のデータは、2-メトキシエタノールなどの化学物質に職業曝露され た男性では、血液系と精子形質に影響があることを示している。Shih et al.(2003)は、空気 中濃度が平均113 mg/m3(標準偏差246、範囲2.4~1010 mg/m3)の2-メトキシエタノールに 曝露された労働者において、血液パラメータの統計的に有意な変化が認められ、この変化 は数ヵ月かけて正常に戻ったことを報告している。なお、この間に曝露濃度は、平均 8.4 mg/m3(標準偏差 4.8、範囲 0.6~32 mg/m3)に減少し、引き続いて平均 1.7 mg/m3(標準偏差 2.3、範囲 0.3~11 mg/m3)に減少している。平均濃度が 13 mg/m3の2-メトキシエタノール

に曝露された小グループの労働者では、精子の数や形態への影響はみられなかったが、こ の曝露レベルでは貧血の症状がはっきり現れたことが報告されている(Shih et al., 2000)。2-メトキシエタノールを含むグリコールエーテル混合物の母体内曝露は、自然流産の増加と、

おそらくは妊娠能力と弱い関連性がある。このような潜在的な関連性は、実験動物におけ る観察結果と整合している。

したがって、入手できた試験データによれば、2-メトキシエタノールは、重篤かつ不可逆 的と考えられる影響(催奇形性など)も含めて、様々な有害な影響を引き起こし、一部の影 響は比較的低用量で起こっていることが報告されている。最低の曝露レベルで報告されて いる有害な影響は、赤血球生成への影響である。

11.1.2 耐容摂取量および耐容濃度の設定基準

台湾における調査(Shih et al., 2000, 2003)では、骨髄に悪影響を及ぼすことが知られている 他のアルコキシアルコール類などの化学物質に曝露していない集団において、赤血球数へ の影響が、精子形成への影響が観察されなかった曝露レベルで報告されている。これらの 試験は、MAA について、労働現場の空気中と(実際の取り込み量である)ヒト尿中の両方 での濃度が得られており、それに基づいた信頼できる曝露データが含まれているため、空

気中の2-メトキシエタノールへの曝露のリスクを特徴付ける際に根拠として使用できる。

2-メトキシエタノールの時間加重平均曝露濃度が 113 mg/m3 で、顕著な血液学的影響が認

められ、8.4 mg/m3の曝露濃度となると正常範囲まで回復し、曝露濃度が1.7 mg/m3に低下 すると、さらに回復が進むことが報告されている(Shih et al., 2003)。

6ヵ月間のモニタリング期間中ずっと、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値、赤血球数に 有意な増加傾向がみられたことから、1.7 mg/m3の曝露濃度が、耐容濃度の導出の出発点と して用いられる。ただし、曝露濃度が 8.4 mg/m3 まで減少すると、これらの値は正常範囲 になり、6 ヵ月間の調査中に記録された値の増加は、曝露に関連したものではなく、一時 的なものであった可能性があることは、認識しておく必要がある。1.7 mg/m3 の値を連続 曝露に合わせて調整し、個体間の変動に関して不確実性係数 10(IPCS, 1994)を適用すると、

0.04 mg/m3 という耐容濃度が導かれる。影響が易可逆性であり、長期曝露後に観察されて

いることから、生涯曝露量に満たない曝露を補うための追加の不確実性係数は適用されな い。

実験動物を用いた吸入による発生毒性に関する試験のうち、最も有益な試験では(Hanley et

al., 1984a,b)、NOAEC として 32 mg/m3の値が示されている(ただし、これよりも低い濃度

で、血液への軽微な影響が認められている)。種間外挿と種内外挿に IPCS のデフォルトの

不確実性係数(IPCS, 1994)を使用し(それぞれ 10)を使用し、連続曝露量の補正値(6/24 時 間)を使用すると、0.08 mg/m3の耐容濃度が得られる。試験での曝露は、評価項目である発 生毒性に関連した時期に及んでいるため、生涯曝露量に達しない場合の調整は必要ない。

不確実性係数にデフォルト値ではなく PBPK モデル化を使用しても、耐容濃度は依然とし てかなり高い値になる(Sweeney et al., 2001)。

11.1.3 リスクの総合判定例

カナダの大気における最悪の場合の曝露レベル(5 μg/m3)は、台湾における調査から導き出 された耐容濃度の 13%である。カナダの空気中におけるこの最大曝露濃度と、ラット、マ ウス、ウサギの発生毒性から導き出された耐容濃度との間には、さらに大きな開き(6%)が ある(Hanley et al., 1984a,b)。経口摂取された2-メトキシエタノールの影響について、ヒト を対象に行われた疫学的調査は確認されていない。ただし、1日あたりの吸入量を22 m3、 体重を64 kg(IPCS, 1994)、吸収率を100%と仮定して、2-メトキシエタノールを40 μg/m3 の濃度で吸入した場合に相当する取り込み量(14 μg/kg体重/日)と、飲料水中の2-メトキシ エタノール濃度を0.6 μg/L、1日あたりの水の摂取量を1.4 L、体重を64 kg(IPCS, 1994)と 仮定して、最悪の場合を想定した飲料水からの2-メトキシエタノールの摂取量(0.013 μg/kg 体重/日)との間には、約3桁の開きがある。

しかしながら、非常に限られた情報に基づいて算出された、一部の消費者製品の使用によ

る 2-メトキシエタノールへの曝露量の推定値は、顕著な血液学的影響が労働者に認められ

た濃度(113 mg/m3)に近い。例えば、屋内では多目的スプレー洗浄剤の使用により、最大

76 mg/m3 の濃度に曝露される可能性がある(Table 2を参照)。2-メトキシエタノールが最大

100%含まれているマニキュア除光液の使用による推定取り込み量は、最大で 12.5 mg/kg

体重/日となる可能性があるが、この値は、曝露された労働者で有害な血液変化がみられな くなった濃度を 1 桁上回る。ただし、これらの推定値は最悪の場合を想定した値であり、

検証されていないことは強調されなければならない。製品の現在の組成と使用パターンに 関する情報が非常に限られており、特に、2-メトキシエタノールの使用が多くの国で減少 していることを考慮すると、これらの推定値は、現在の実際の曝露量よりもかなり高い可 能性がある。

11.1.4 健康リスク評価における不確実性

耐容濃度の導出は、曝露された労働者にみられた血液学的影響が根拠となっている。曝露 された労働者に精子の数や形態への影響は認められていないが、調査された集団が小さい 上に、形態学的・精液学的な評価項目に限られているため、生殖能低下などの機能障害が