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2-メトキシエタノールへの偶発的または職業的な曝露による健康への有害な影響が、文献 でいくつか確認されている。一般的に、神経系、呼吸器系、血液系への影響が、労働環境 での吸入や皮膚接触による曝露に伴って起こっている(影響からは、数ヵ月後に回復する ようである)。曝露レベルに関するデータは乏しいが、これらの症例報告での労働現場に おける濃度は、25~12316 mg/m3であった(Donley, 1936; Greenburg et al., 1938; Parsons &

Parsons, 1938; Groetschel & Schuermann, 1959; Zavon, 1963; Ohi & Wegman, 1978; Cohen, 1984)。

ただし、これらの労働者は、2-メトキシエタノールに加え、他の化学物質にも曝露されて いた。

2-メトキシエタノールに職業曝露された女性の出生児に、異形症様相と持続的な細胞遺伝 学的損傷(染色体異常、倍数体細胞、核内倍加細胞)が認められた 6 つの症例が報告されて おり、研究者は大量に曝露を受けたと記載しているが(El-Zein et al., 2002)、いずれも曝露 に関する量的データは示されておらず、曝露された母親全員の妊娠結果が評価されている わけではない。母親が妊娠中に吸入と皮膚接触により酢酸 2-メトキシエチルに曝露された 2人の少年に、男性生殖器の発達異常が認められたことが報告されているが(Bolt & Golka,

1990)、この報告でも、曝露量に関する詳細なデータは示されていない。

偶発的中毒に起因する可逆的な腎毒性が、推定で100 mLの 純2-メトキシエタノールを摂 取した 2 人の男性で報告されている(Nitter-Hauge, 1970)。最初の臨床症状は、8~18 時間 後に起こっている。顕著なアシドーシスが認められ、片方の男性はシュウ酸尿症を発症し ている。

唯一確認された関連性のある臨床試験では、ヒトにおける 2-メトキシエタノールの毒物動 態学を検討することを主目的としているが、16 mg/m3の濃度の 2-メトキシエタノールで4 時間曝露した 7 名の男性健康志願者に、肺喚起量や心拍数の変化は認められていない

(Groeseneken et al., 1989a)。

横断調査によって得られたデータは、血液学的異常や免疫・神経系への影響と、吸入また は皮膚接触による 2-メトキシエタノールと他の化学物質への曝露との間の関連を示唆して いる。様々な血液パラメータ〔赤血球・白血球(特に顆粒球と多形核白血球)・血小板の数 とヘモグロビン値〕の変化が、シャツ製作所で襟の処理作業中に 78~236 mg/m3(Greenburg et al., 1938)、 造船所で塗装作業中に最大17.7 mg/m3(Welch & Cullen, 1988)、寄木の床張り 作業中に最大 149 mg/m3(Denkhaus et al., 1986)、化合物の製造・包装作業中に最大 62 mg/m3(Cook et al., 1982)の濃度の 2-メトキシエタノールに曝露された労働者で報告されて いる。寄木の床張りの作業者では、対照群と比較して、リンパ球サブポピュレーションの 分布に有意差も認められている(Denkhaus et al., 1986)。

台湾の 2 つの銅張積層板工場の男性労働者を対象とした調査では、2-メトキシエタノール に曝露された労働者46名(濃度の幾何平均13 mg/m3、範囲2.1~95 mg/m3、n = 66)のヘモ グロビン濃度、ヘマトクリット値、および赤血球数の平均は、間接的に曝露された対照群 93名(範囲は検出不能~1.4 mg/m3、n = 9)と比較して有意に低かった。貧血の発生頻度は、

曝露群(26.1%)が対照群(3.2%)より有意に高かった。女性労働者では、2-メトキシエタノ ールに曝露された場合と曝露されなかった場合で、差は認められていない(Shih et al., 2000)。

Shih et al.(2003)は、工場の1つを追跡調査し、コーティング部門で働く労働者29名(男性

24 名、女性 5 名)を対象に、2-メトキシエタノール曝露と血液学的影響の関連性を調べて いる。6 ヵ月間にわたる 3 回の連続調査で、血液学的パラメータ、8 時間フルシフトでの

2-メトキシエタノール曝露濃度、および尿中 MAA が繰り返し測定されたが、この間に、

労働現場の管理基準の導入に伴い、曝露濃度が大幅に減少している。調査開始当初の 2-メ トキシエタノールの空気中曝露濃度は、平均 113 mg/m3(標準偏差 246 mg/m3、範囲 2.4~

1010 mg/m3)で、特定の日常作業中のピーク濃度より「はるかに高い」濃度であった。この濃

度は、2.5ヵ月後の調査では8.4 mg/m3(標準偏差4.8 mg/m3、範囲0.6~32 mg/m3)、6ヵ月 後の調査では1.7 mg/m3(標準偏差2.3 mg/m3、範囲0.3~11 mg/m3)に低下した。尿中MAA の平均濃度は、57.7、24.6、13.5 mg/g クレアチニンで、2-メトキシエタノールの 1 週間の 時間加重空気中濃度と尿中 MAA 濃度について報告されている関係から期待される値とよ く整合していた(Shih et al., 1999b)。調査の開始時に、男性労働者24 名のヘモグロビン濃 度、ヘマトクリット値、赤血球数は、同じ工場の対照群 90 名に比較して、有意に低かっ た。対照群のうち58名は、2-メトキシエタノールの曝露濃度値は検出不能であったが、32 名は、低い曝露濃度値が測定された(9 名の測定では 平均濃度 0.6 mg/m3、最大濃度 2.5

mg/m3)。貧血の発生頻度は、曝露群(42%)が対照群(3%)より有意に高かった。曝露群の男

性労働者の血液学的パラメータは、2.5ヵ月後の調査で正常範囲まで上昇し、6 ヵ月後の調 査でさらに上昇していた。コーティング部門の曝露された男性は、曝露濃度が 0 または非 常に低い対照群の男性労働者(n = 67)に比較して、ヘモグロビン値は、調査開始時が 88%

で、2.5 ヵ月後に 98%、6 ヵ月後に 100%に上昇し、ヘマトクリット値は、調査開始時が

87%で、2.5 ヵ月後に 94%、6 ヵ月後に 100%に上昇し、赤血球数は、調査開始時に 83%で、

2.5ヵ月後に90%、6ヵ月後に96%に上昇した。

2-メトキシエタノールとともに2-エトキシエタノールに曝露された造船所の塗装工73名の

横断で、精子減少症と無精子症の有病率増加に加えて精子産生量の減少が認められている

(Welch et al., 1988)。

2-メトキシエタノールの製造・包装に従事した男性40名を対象とした調査で、非曝露群の

25名に比較して子供が非常にできにくいことが報告されているが、この2つの小サブグル ープで精子数とホルモン濃度に有意差は認められていない(Cook et al., 1982)。2-メトキシ エタノールに曝露された女性における生殖への影響の可能性については、女性 891 名を対 象にした経時的コホート調査が行われており、14 の半導体工場で、製造部門の女性の自然 流産が、非製造部門の女性に比較して多かったことが示されている〔相対リスク(RR)= 1.45、

95%信頼区間(CI) = 1.02~2.06〕。影響は、グリコールエーテル類に曝露された女性に顕著 に認められている(RR = 1.56、95% CI = 1.02~2.31。定性的な曝露スコアが最高の女性では、

RR = 3.38、95% CI = 1.61~5.73)。曝露に関するデータが限られているため、2-メトキシエ タノールの影響だけを見分けることはできない。この調査における前向きコホートの 481 名の女性の調査でも、自然流産の発生とグリコールエーテル類への曝露との間に有意な関 連性が認められ(RR = 2.0、95% CI = 1.46~2.75)、受胎能力(妊娠する能力)には有意な減少 が認められなかった(P = 0.08)(Beaumont et al., 1995; Schenker et al., 1995; Swan et al., 1995;

Schenker, 1996; Swan & Forest, 1996)。

Veulemans et al.(1993)は、生殖機能障害で診療所を初めて受診した患者を対象に実施した、

ベルギーでの症例対照試験を報告している。試験では、spermiogram(精子頭部と尾部の形

態)に基づき、不妊または低受精能と診断された 1019 名の患者群と、いくつかの手法によ り受精能力正常と診断された 475 名の対照群が置かれた。エチレングリコールエーテル曝 露の可能性を、尿中代謝物のMAAの存在によって評価しており、MAAは患者群の1名と 対照群の2名からしか検出されていないが、対して、2-エトキシ酢酸は患者群の39名と対 照群の6名から検出されている。

銅張積層板製造工場のコーティング部門における注入作業労働者では、曝露を受けた労働 者14名と比較対象の13名に、精子数の差は認められていない(Shih et al., 2000)。使用さ れていた揮発性溶剤は、2-メトキシエタノールとアセトンだけであり(70/30)、2-メトキシ エタノールの空気中濃度の幾何平均値は13 mg/m3であった(範囲2.1~95 mg/m3、n = 66)。

女性労働者を対象とした調査から、グリコールエーテル類への曝露と彼女らの出生児にお ける先天性奇形の発生との関係が疑われるいくつかの疫学的な証拠が得られているが(Ha et al., 1996; Cordier et al., 1997; Saavedra et al., 1997)、特定のグリコールエーテル類と関係が あるとするデータは乏しい。