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実証モデル

ドキュメント内 開放マクロ経済の理論・実証分析 (ページ 111-117)

第 3 章  利子率の影響を考慮した経常収支の現在価値モデル

3.1 実証モデル

2.2節で述べたように,本小節では利子率の変動を考慮したモデルを展開 する.Bergin and Sheffrin (2000) のモデルは,貿易財・非貿易財の2財モデルで あるが,本小節で展開されるモデルは貿易財のみの1財モデルである.

以下で示すように,本章では無期限間生存する代表的個人で構成される 小国を仮定する.

0

max ( )

t

t

t t

B t

E βU C

= (3-1)

1 1

t t t t t t t t

s t. Y− − − +C I G r B = −B B (3-2) 但し  ( ) 1

1

t t

U C C

σ

σ

=

. β=主観的割引因子

Ct= 実質消費 Yt= 実質産出量

It= 実質投資 Gt= 実質政府支出

Bt= 国外保有資産ストック(株式)

rt= 実質世界利子率(収益率)

ここで,代表的個人が行う外国との資本貸借に対し,時間可変的な実質 利子率が適用されるものとする. Bergin and Sheffrin (2000) のモデルでは,貿易 財と非貿易財の2財が仮定されており,その場合の最適消費径路は,実質利子 率と2国間の非貿易財の相対価格で構成される利子率(consumption-based interest

rate)に影響を受けることが示されている.これに対して,本章では貿易財1財

のみを考えるので,2国間の非貿易財の相対価格が消費の異時点間径路に及ぼす 影響は無視される.さらに本章では,フィッシャーの分離可能性(Fisherian separability)を仮定する.これによって,最適消費径路問題を解く際に,生産な らびに投資は外生変数として扱われる.本章では,代表的個人の消費最適化行動と 経常収支の関係に注目することが目的であり,分析を単純化するために,企業の投資行 動を外生的に扱う.しかしながら,企業の投資行動自体は「Tobin’s q」に依存するもの であり,この点からすると,株価収益率は,消費最適化行動のみならず,企業の投資行 動にも影響すると考えられる.従って,企業投資を内生として分析を拡張する必要があ る.但し,このような問題は,本章が意図した問題範囲を超えているため,企業投資を 内生化するといった分析の拡張は,今後の検討課題としたい.又,ここでは非耐久消費 財のみの1財モデルを前提とするが,耐久消費財の存在を考えた場合,本章の2.3節で 示したように,耐久消費財の使用者費用は利子率に依存する.したがって,耐久財の存 在を考慮した場合,利子率の変動が代表的個人の耐久財消費に及ぼす影響をモデル化す

る必要がある.そこで,本章の補論 3Bでは,耐久財,非耐久財の2財モデルへの拡張 を試みる. 

(3-2)式の制約下,(3-1)式を最大化すると,以下(3-3)式が得られ る.

1

1 t (1 t 1) t

t

E r C

C

σ

β

+ +

  

=  +   .

 

  (3-3)

さらに,実質利子率と消費が,均一分散の結合対数正規分布に従えば,(3-3)

式は以下のように展開される.

1 1

[ ] [ ]

t t t t

Ec+ =γE r+ +cons, (3-4)

但し,γ =1/σ, ∆ct+1 =lnCt+1−lnCtconsは定数項に対応し,近似式ln(1+ ≈r) rが 用いられる.(3-4)式では,実質利子率と消費の分散,共分散が一定であると仮 定されるので,それらは定数項部分に集約される.これに対して,Mehra and

Prescott (1985) に端を発するエクイティプレミアムの研究では,実質利子率と消費

の共分散がエクイティプレミアムを説明する要因の一つとして注目される(e.g., Obstfeld and Rogoff 1995 chapter 5).ここでいうエクイティプレミアムとは,期待 株価収益率と安全資産の収益率の差を意味する.そして,実質利子率と消費の 共分散が時間の経過に伴って変動するならば,本章の(3-4)式でも,その変動を 仮定する必要がある.しかしながら,エクイティプレミアムに関する大部分の 研究では,実質利子率と消費の共分散が時間に依存せず一定であると仮定し,

寧ろ,効用関数を再定式化することでエクイティプレミアムを説明しようと試 みる(e.g., Capmbell, Lo and Mankinlay 1997 Chapter 8).そして,本章でも,分析を 単純にするために,実質利子率と消費の共分散は時間に依存せず常に一定であ

るものとする.

ここで,市場割引因子Rsを以下のように定義する.

1

1 (1 )

s s

v v

R

= r

= ,

+

但し,R0 =0である.さらに,上で定義された市場割引因子Rsを用い,前向き に逐次代入することで(3-2)式の予算制約式を以下のように書き換える.

0

0 0

s s s s

s s

B R NO R C

= =

= −

+

(3-5)

(3-5)式で,B0は純対外資産の初期値,NONOt = − −Yt It Gtで定義される純 産出(純キャッシュ・フロー)である.さらには(3-5)式で,横断条件

limt→∞E R B0( t t)=0の成立を仮定する.

補論3Aで説明するように,(3-5)式を対数近似し,その対数近似式に

(3-4)式を代入すれば,以下の(3-6)式が得られる.

0

0 0

1

1 1

[ (1 ) ] (1 )

t t

t t

t

r c

no γ r no b

β

=

− ∆ − − − = − − − ,

Λ Λ Λ Λ

(3-6)

但し,not =lnNOt, ∆not =lnNOt −lnNOt1,lnB0 =b0である.本章では,分析に 用いる変数全てについて平均を除去しているので,(3-6)式で定数項は無視さ れる. 1 0 t t

B t R C

Λ = − /

= で,Bは定常状態での純対外資産を表し,B=0を仮定

すれば,Λ=1となる.そして(3-6)式は,以下(3-7)式に単純化される.

1

[ ]

i

t t i t i t t

i

E β no+ γr+ no c

=

∆ − = − , (3-7)

一般的に,経常収支CACAt = NOtCtと定義される.(3-7)式の右辺は,経

常収支を構成する各要因が対数表示であることを除けば,経常収支の定義と類 似したものである.そこで本章では,Bergin and Sheffrin (2000)と同様に(3-7)

式の右辺をcaとし,そのcaを経常収支として解釈する.

1

[ ]

i

t t i t i t

i

E β no+ γr+ ca

=

∆ − = (3-8)

(3-8)式によれば,現在の経常収支caは,将来の純産出の変化(∆no)と利子率の

現在割引価値で表される.この意味で,経常収支の異時点間モデルは,現在割 引価値モデルといえよう.(3-8)式で,t期の純産出notが一時的に減少するなら ば(not+1 >not ⇔ ∆not+1 >0),代表的個人は海外資本市場での借り入れを行い,

その消費平準化を目的とした海外からの借り入れによって,t期経常収支(ca) は赤字となる.さらに,γ 0の仮定の下,一時的に世界利子率が上昇するなら ば(γrt+1>0),経常収支は黒字となる.56  本章では,(3-8)式で表される経常 収支の現在割引価値モデルを実証的にテストすることで,世界利子率(収益率)

と経常収支の関係に注目したい.

ここで(3-8)式の制約を実証テストするには,(3-8)式に含まれる純産出の 変化(∆no),世界利子率(r)の将来予測値の代理変数が必要となる.そこで,

消費の現在割引価値モデルの実証分析で,Campbell and Shiller(1987)が採用した ものと同様の方法をここでは採用する.すなわち,純産出の変化,世界利子率 そして経常収支の3変数自己回帰モデル(VAR)によって計算される値を,純

56 利子率の上昇が経常収支の黒字をもたらすのは,現在の消費の一部を海外へ貸し付ける ことで,将来の消費水準を上昇させようとする動機を意味する.しかしながら,本章の実 証分析では,γ ≥0が成立しないケースが報告される.γ <0の場合,利子率の上昇は経常 収支の赤字をもたらす. 2.2節で説明したように,利子率の上昇が恒常所得の増加を意味 するものであれば,利子率の上昇によって経常収支は赤字となることが考えられる.

産出の変化,世界利子率の予測値の代理変数として扱う.

11 12 13 1 1

21 22 23 1 2

31 32 33 1 3

t t t

t t t

t t t

no a a a no

ca a a a ca

r a a a r

ε ε ε

 

 

 

 

 

 

 

 

 

∆ ∆

= + . (3-9)

さらに(3-9)式で,Zt ≡ ∆[ no ca rt, t, t]AをVARの係数行列とすれば,以下の ように簡略化して書くことができる.57

1

t = t + t ,

Z AZ U

ここで,t+i期先の変数ベクトルの予測値は,Et(Zt i+ )=A Zi tで計算される.その 無限期間先までの予測値の和はA I( −A)1Ztとなる.ここでG1=[100],

2=[001]

G とすれば,(3-8)式左辺にある各変数の期待値は,以下のように書 き換えることが可能である.

1 1

1

1 2

1

( )

( )

i

t t i t

i i

t t i t

i

E no

E r

β β

β γ βγ

= +

= +

∆ = −

= −

G A I A Z

G A I A Z

以上より,(3-8)式は以下のように表せる.

1

1 2

( ) ( )

t

t t

t

no

ca ca

r

γ β β

∆ 

 

= − − −  

 

 

? I A

G G

[ ]

t

no ca r t

t

no ca

r

∆ 

 

= Γ Γ Γ  

 

 

, (3-10)

(3-8)式を帰無仮説とした場合,(3-10)式では[Γ Γ Γ =no ca r] [010]の関係が成立する.

ここで,G= Γ Γ Γ[ no ca r] とし,G% を実際に計算されたGと[010]の差とすれば,

57 (3-9)式は,ラグ1VARモデルとして表記されているが,多期間のラグをもつ VARモデルも(3-9)式と同様のラグ1VARモデルとして表記可能である(Sargent, 1987, pp.272-273).

((∂ /∂ ) (∂ /∂ ) )′ 1

G% G A V G A G% は,自由度3のワルド統計量となる.Vは,推定された VARモデル係数の分散共分散行列である.帰無仮説(3-8)式が成立すれば(3-10 式では[Γ Γ Γ =no ca r] [010]),ワルド統計量G%((∂ /∂G A V G A) (∂ /∂ ) )′ 1G%′は自由度3 のカイ自乗分布に従う.

(3-10)式に含まれる未知パラメータγ は,ワルド統計量を最小にするよう

に決定される.この方法は,(3-10)式で未知パラメータγ についての方程式 [Γ Γ Γ =no ca r] [010]を解くことに等しい.しかしながら,VARのラグが2以上で ある場合,VARの係数行列Aの逆行列は存在せず,未知パラメータγについて 方程式の解を求めるのは不可能である.これに対して,ワルド統計量を最小と する未知パラメータγ を求める代替的な方法が,Campbell and Shiller (1989)によ って提案された.また,(3-4)式を個別に推定して,未知パラメータγ を求め るといった方法も考えられるが,その場合(3-1),(3-2)式で表される経済構造を 無視することになる.すなわち, (3-1),(3-2)式で表される最適化問題では,消 費は内生変数として扱われている.そのことを無視して推定されたパラメータ は,不偏性ならびに一致性を満たさず,統計的に信頼性が低い.したがって,

未知パラメータγ は,システム全体からの誘導形である(3-10)式から推定される べきである.

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