5 研究活動
5.2 宇宙惑星科学講座
1.金星・地球大気放射の研究
(1) 金星探査機搭載用カメラの開発
为要測器のひとつである1µmカメラを担当。2010年の打ち上げ・同年の金星周回軌道投 入により、雲の撮像を行い、風の場を定量する。他のカメラによる情報をあわせ、長年の謎 である大気超回転生成機構の解明を目指している。2008 年度には初期モデルのテストを完 了し、搭載モデルの製作を進めた。
(2) 金星大気放射の地上観測
ハワイ・マウナケア山頂のNASA・IRTF 3m鏡を用い、2007年に 1.7µm域および2.3µm 域の金星昼面スペクトル取得した。金星雲上の微量成分、特にHCl、CO分布から金星大気 化学・力学に関する情報を得るべく解析を進、HClに関しては出版した。
(3) 極光活動大気応筓のロケット観測
極光に対する大気の応筓をテーマに、前回2004年に北欧において遂行されたロケット・
地上観測キャンペーンDELTAの内容をさらに充实させたDELTA2キャンペーンを2009年1 月に遂行した。
2.Cr同位体比に基づく初期太陽系の研究
Cr には4つの同位体がある。53Cr には消滅核種53Mn の壊変による異常が期待される。炭素 質隕石の中には、54Cr に核合成反応による同位体異常が見られるものがあり、原始太陽系の不 均質を示していると考えられる。しかしこの54Crの同位体異常がどのような粒子によって担わ れているかはまだ明らかにされていない。本研究はこの54Crの同位体異常の担体の発見を目的 とした。先行研究により、54Crの同位体異常は有機物に濃集していることが知られていたので、
有機物に富む試料を作り、シリコンウエハー上にのせ、NanoSIMSを使って分析した。52Crのイ オンイメージを使ってCrを含む粒子を見つけた。その粒子サイズは2~3ミクロンからサブミ クロンであった。このようにして見つけた粒子の Cr 同位体比を測定するために、10pA (0.3 ミクロン)の酸素ビームを2x2ミクロンの領域にラスターし、50Cr、52Cr、54Crと56Fe のイオ ンのイメージを得、粒子上でのカウント数を積分し、比を取ることで、同位体比を得た。50Cr と52Crから質量に依存する質量分別効果を補正した。質量数54には54Crと54Feが重なるので、
56Feを使って補正を行った。質量数54のカウント数と54Feの補正に由来する同位体比の誤差(2 σ)は+/-20‰と見積もられた。およそ 100 個の粒子を測定した結果、この+/-20‰を超える Cr 同位体異常は見つからなかった。
従って、現在の段階では、54Cr の同位体異常は、特殊な(安定な)鉱物によるものなのか、
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太陽系の空間的な不均質のせいなのか、あるいは太陽系の時間的な不均質のせいなのかはまだ わからない。今後は、54Crから判る、不均質性と53Cr等から判る微惑星の集積時期を組み合わ せることにより、初期太陽系の歴史を明らかにしていきたい。
3.SIMSによる同位体分析・希土類元素分析に基づく隕石中の難揮発性包有物およびコンドルー ルの成因に関する研究
今年度は、为として、ここ数年間分析してきた炭素質コンドライト中の細粒難揮発性包有物
(CAI)の希土類元素データの解析・比較検討と、それらの生成条件を推定するための希土類 元素の凝縮計算に力を注ぎ、それらをもとに、原始太陽系星雲内における細粒CAIの生成メカ ニズムに関して新たな解釈を提案した。細粒CAIは、その細粒な鉱物組織の特徴から、高温の 原始太陽系星雲ガスからの凝縮起源だと考えられている。細粒CIの希土類元素は、しばしば難 揮発性の違いに依存した元素分別を示し、細粒CAI形成領域において高温におけるガス-ダス ト(固体微粒子)分別が頻繁におこっていたことを示唆る。とりわけ「変形グループIIパターン」
と名づけたパターンは、高温における超難揮発性ダストの系からの分離にくわえて、Ce、Eu、
Ybに富む低温のガス成分の付加が必要であることが明らかになった。低温のガス成分の存在は、
CAI(あるいはCAIの前駆物質)が、ある領域(グループII形成領域)から他の領域(やや低温 のガス領域)に移動することによってしか説明できない。すなわち、CAI形成領域では固体物 質の移動とガスとの混合が頻繁におこっていたことになる。このことは、細粒CAI形成の時間 スケール・空間スケールに大きな制約を与える。(たとえばX-ウィンド・モデルのように、
CAIの加熱・凝縮を短時間の一連のプロセスで説明しようとすると困難を生じる。)本年度は、
他に、Allende隕石中のFUN包有物(大きな質量依存同位体分別と種々の非質量依存同位体異常 を持つ包有物)の同位体分析(O, Mg, Ca, Ti同位体)・希土類元素分析を進めるとともに、SIMS の応用研究として、立教大学の渡辺圭太氏と共同で、黒曜石の水和年代学に関する研究をおこ なった。
4.宇宙プラズマ中での非熱的粒子加速の研究
高温希薄な宇宙プラズマでは、しばしば熱エネルギーを凌駕する非熱的粒子が存在するが、
その非熱的粒子の起源およびその加速過程については理解されていないことが多い。非熱的粒 子は、選択的に一部の粒子にエネルギーが集中するという物理過程により作られるが、宇宙で は非熱的粒子のエネルギー密度が熱的エネルギー密度と同程度になることもあり、磁気圏プラ ズマシート、太陽風・パルサー風、降着円盤、磁気ループ、ジェットなどといったプラズマ動 力学の理解においても重要な役割を担う。我々のグループでは、非熱的プラズマの性質やその 加速メカニズムについて研究を行ってきている。本年度の为な研究活動は、(1)地球磁気圏にお ける粒子加速およびプラズマ混合過程の衛星データ解析研究、(2)磁気圏境界面の速度勾配層で の乱流渦の発達条件に関する衛星データ解析研究、(3)天体磁気圏における輻射効果を取り入れ た相対論的磁気リコネクションの理論シミュレーション研究、(4)相対論衝撃波における大振幅 先駆波による航跡場加速の理論シミュレーション研究、(5)無衝突衝撃波における宇宙線加速の 理論シミュレーション研究である。
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5.非回転及び回転する磁気圏プラズマ中に於ける磁気流体不安定性の理論的研究
静磁気流体力学的な力の平衡を満たす任意の非回転の磁気圏モデルに対して、最も基本とな る磁気圏の交換型不安定の安定性基準を導き出した。導出は磁気圏のエネルギー原理に基づき、
非軸対称な磁気圏モデル中の沿磁力線電流は磁気圏あるいは電離層中の反磁性電流によって閉 じると仮定する。垂直方向の波数が非常に大きいという極限で垂直方向のプラズマの変位をア イコナールを使って表すことにより、磁気圏の交換型不安定は圧縮性であることが示される。
電離層の境界条件として圧縮性を持つ交換型の発生を許す水平方向に自由な境界条件を与え、
磁気圏のフラックス座標を用い、磁気圏のポテンシャルエネルギーの変分を求める。水平方向 に自由な境界条件の元では、電離層の有限変位はポテンシャルエネルギーへの負の寄与を与え 不安定化に寄与するが、实際に磁場がダイポールで近似される軸対称、单北対称で低プラズマ ベータの磁気圏モデルに対して、m=1あるいはm=2(mは方位モード数)のモードは赤道面のプ ラズマベータ値が1程度より小さければ不安定になることが示される。今まで磁気圏の磁力線 を曲げない交換型モードは磁気圏の圧力勾配のみによって不安定化される圧力駆動のモードと 考えられていたので、これは電離層の有限な変位が交換型モードを励起する可能性を示し意義 がある。圧力駆動の交換型不安定については非軸対称有限プラズマベータの磁気圏モデルに対 して、子午面内だけでなく、経度方向に平行な平面内の圧力勾配と磁力線曲率の相乗効果が圧 力駆動の交換型不安定を引き起こすことも明らかになった。以上の結果からダイポール磁場で 良く近似される内部磁気圏あるいは地球に近い磁気圏の大部分の領域は赤道面のプラズマベー タ値が1以下で、球面の電離層上のプラズマの水平方向の変位によって引き起こされる電離層 駆動の交換型不安定に対して不安定となることが示される。
6.火星・月隕石中に含まれる茶色カンラン石の成因とリモートセンシングデータへの応用
(1) 茶色のカンラン石を含むいくつかの火星隕石(特に、レールゾライト質シャーゴッタイト とカンラン石フィリックシャーゴッタイト)を TEM(日本電子製 JEM-2010:東大・理)
を用いて詳細な観察・分析を行なった。その結果、茶色の呈色の原因として10~20 nmの 大きさの鉄ニッケル合金、もしくはマグネタイトのナノパーティクルが含まれていること が分かった。集束イオンビーム(FIB)(Hitachi製FB-2100:東大・理)を用いて、カンラ ン石の茶色い部分とそうでない部分をTEMで観察したところ、ナノパーティクルは茶色の 部分にのみ含まれることが明らかになった。
(2) TEMで分析したものと同じ隕石中のカンラン石を放射光X線を用いたXANES(高エネ研
PF・BL-4A)により分析し、鉄の価数をカンラン石中の約10ミクロンの領域で見積もった が、茶色い部分とそうでない部分の間に明確な差は認められなかった。
(3) 同様の隕石薄片試料を赤外顕微鏡(日本分光製IRM-3000:東大・理)に本申請によって導 入したオートステージ(日本分光製IR Profile System)を使ってカンラン石の反射スペクト ルを得たところ、茶色部分とそうでない部分に明確な反射スペクトルの差が見られた。
(4) 放射光X線とレーザーパルスを同期させ、ナノ秒オーダーでのカンラン石の衝撃変成過程 をX線回折写真によって得るための予備实験を行った。その結果、10 GPa程度までの衝撃 圧縮による結晶構造変化を追うことができることが明らかになった。