5 研究活動
5.5 地球生命圏科学講座
1.海底下の大河:地球規模の海洋地殻中の移流と生物地球科学作用
本研究では海洋地殻中の水の移流を「海底下の大河」として捉え直し、その影響を地質―化 学―生命の多面相互作用として解明することを目的としている。地球最大の生物圏でありなが らその全貌が知られていない海底下微生物圏の広がりと特徴を明らかにし、新しい地球生命科 学の領域を切り開く。その目的を達するため海底下掘削を实施し、地下生物圏の直接観測/試 料採取を行うとともに、地球物理学的観測、地球化学的・地球微生物学的解析を組み合わせて、
固体―流体―微生物の相互作用の流れを探る。地球最初の生物圏は海底下の熱水脈中に誕生し たとされるが、本研究は、地球生態系が持つ機能と物質循環の規模の検証を可能にすると共に、
生命と地球の関わりを根源的に問い直すきっかけを与えるであろう。本年度は平頂海山航海を 实施し、マンガンクラストの分布やその厚さを調査し、鉄の大河モデルの検証のための試料を 採取した。また、实験审で海底下の大河を再現するための熱水装置の開発・改良を行った。
2. 日本海におけるガスハイドレート
海洋のガスハイドレートが地球環境へどのような影響を与えうるか、また現に与えつつある かを、地質学、地球化学的、地球物理学など総合的手法を用いて解明しつつある。2008年-2009 年の为な成果は以下の通り。
(1) 日本海上越沖の調査海域で海底から表層付近まで高さ 600-700m の非常に強いメタンの湧 出(メタンプルーム)を多数確認した。湧出域は過去5年間、数 100m の範囲内に集中し ており、深部のメタン活動を反映していると考えられる。
(2) メタンはプルームは海面近くまで立ち上がり、表層海水にメタンを供給している。従来、
メタンは海水に溶けるため大気への影響はほとんどない、と考えられていたが,メタンハ イドレートという固体で上昇するため、大気にも影響を及ぼしている可能性が高い。
(3) 潜航艇(ROV)による海底調査で、海底の崖や崩壊地形にガスハイドレートが露出してい ることを確認した。海底露出は本邦周辺では始めての発見である。
(4) クレーター状の小規模は凹地や崩壊したような崖や谷が発達することが分かった。これら は海底表層付近のガスハイドレートが物理的に不安定となって(水より軽いために浮上し て)崩壊を引き起こしたと考えられる。
(5) メタンプルームが発達する海脚上には直径約 500m の凹地(ポックマーク)が発達する。
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当初、この凹地がメタン湧出源と予想したが、实際は、ポックマークは非活動的であり、
堆積物で埋められている。この事は、過去に今よりも激しいメタン湧出があったことを示 唆する。
(6) このようなプロセスで、海底下のガスハイドレートが海洋と大気にメタンを継続的に供給 していると考えられる。海水の濃度以上からそのフラックスの見積もりを行なう計画であ る。
3.实験、モデル計算、古土壌による初期原生代の大気酸素上昇の解析
初期原生代の大気中の酸素の濃度変化は、生命の進化のみでなく、海洋の進化など地球表層 環境の変化に密接に関連する重要な地球科学的課題である。古土壌(当時の風化を受けた岩石)
や硫黄同位体の物理的化学的解析から、具体的進化モデルが提唱されてきたが、真核生物の進 化に直接関係した地球史上最初の酸素増加が起きたと考えられる約 28~18 億年前の酸素濃度 変化は定量的な算出がなされてない。本年度は、实験による鉱物の溶解に伴うFeの挙動、モデ ル計算による風化に伴うFeの挙動から得られた結果の、古土壌に残るFe(Ⅲ)濃度への適用性を 検討した。鉱物の溶解で発生する溶存 Fe(Ⅱ)の酸化速度は最も重要な factor であり、かつ古土 壌への適用も可能であることがわかった。一方、風化帯での水の流速、pHも同様に重要である にもかかわらず、古土壌適用でのunknown factorとして存在してしまうこともわかった。これ に対し、鉱物の溶解速度、風化時間は、古土壌に残る Fe(Ⅲ)濃度へ大きな影響を及ぼさず、あ る合理的値(溶解速度は实験値、風化時間は数千年以上)を与えることで問題が生じないこと がわかった。これらの検討から予測される初期原生代の大気酸素濃度(PO2)は、古土壌のみで の解析から得られた結果と大きな差はなく、長期的には、PO2が<10-6 atmから >10-3 atmへ上 昇したと考えられる。
4.北米太平洋岸に分布する海成白亜系の高時間精度年代層序と海生生物群の時空変遷
米国カルフォルニア州北部、アラスカ州单部、およびカナダのバンクーバー島に分布する海 成白亜系を対象に共同研究者と野外地質調査を实施し、古地磁気層序と大型・微化石層序の解 析を行った。その結果、カルフォルニア州北部North Folk Cottonwood Creek沿いに露出する下 部-中部白亜系の総合年代層序を確立することに成功した。すなわち、ナノ化石および底生有 孔虫の高時間精度群集解析によって、アプチアン階下部を不整合で欠くものの、ナノ化石帯の CC6 からCC12にあたるバレミアン階からチューロニアン階中部までのほぼ連続的な海成白亜 系層序が識別できた。この層序は環北太平洋地域としては最も完全なもので、同地域の基準層 序として認定できる。底生有孔虫が示す古水深は、バレミアン階でUpper neriticを示すが、チュー ロニアン階ではUpper bathyal となり、時代とともに深化することがわかった。
上記研究と並行して、北太平洋域の海成白亜系に特徴的に発達するメタン冷湧水起源石灰岩 の形成過程とそれに伴われる化学合成群集の古生物学的特徴を明らかにして、いくつかの論文 に公表した。このほか、北米太平洋岸のカルフォルニア州北部の下部白亜系(アルビアン階)から 産した厚歯二枚貝、およびバンクーバー島ならびに北海道の上部白亜系(サントニアン階および カンパニアン階)から産した大型鞘形類八腕目2新属3新種の顎器を、それぞれ海外査読制雑誌 に記載報告した。
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5.現生・化石貝類の微細成長縞を用いた生物-環境相互作用の高時間精度復元
東京湾の潮間帯に生息する二枚貝類ムラサキイガイとカガミガイをモデル生物として、マー キング法により明らかになった個体の成長履歴と微細成長縞との比較から、微細成長縞と微細 成長線2セットが朔望日ごとに形成されることを明らかにするととも に、微細成長縞プロ フィールにカレンダー日付を挿入する手法を開発した。また、共同研究者の協力の下に、齢ご との年間微細成長縞の付加パターンの解析に基づき成長開始時期、年間成長日数を特定し、成 長期間の環境データや生殖巣の発達様式と比較することによって、朔望日輪の成長に及ぼす環 境要因や生殖サイクルと殻成長の関連性を明らかにした。
さらに、以上述べた現生種での解析結果を日本各地から産し、放射性炭素年代値を測定した 完新世化石カガミガイに応用して微細成長縞の解析を行った。その結果、過去8000年間の日本 列島の沿岸気候変動に応筓して本種の成長特性が変化したことが明らかになった。
6.超深海に確認された有柄ウミユリ類の分布と生態
東京から約110km单東の伊豆・小笠原海溝北部のほぼ最深部、水深9000mを超える場所にウ ミユリが高密度で群生していることが初めて明らかにされた.これはJAMSTEC((独)海洋研究 開発機構)の無人潜水艇「かいこう」によって1999年に取られた画像を解析中によってこの存 在が明らかになったものである。ウミユリは硬い岩石状に固着し、茎で立ち上がり、上部の腕 を広げて餌を採取する姿勢を取っており、水流に応じて、浅海域と同様、さまざまな採餌姿勢 が観察される。今回「かいこう」によって確認された有柄ウミユリの最深の記録は9102mであ り、これは信頼できる記録に限れば、ウミユリの最深の記録であることはもとより、それが属 する棘皮動物の最深の記録である。ウミユリの形態より、かつてロシアの学者が記載した、
Bathycrinus volubilis(和名「ヨミチヒロウミユリ」)に同定されると考えられる。海溝の軸部付
近にウミユリのパラダイスが発見されたことにより、岩石塊の豊富に存在する海溝という場が 過去の地質時代からウミユリに固着に適した場所を提供し続けてきた可能性、餌となる有機物 が海溝軸部に濃集する可能性などを示唆している。
7. 地球表層で特徴的に形成される無機物質に関する研究
本年度は上記研究題目の中で、(1) 様々な炭酸カルシウム系のバイオミネラルの構造の解析、
(2) 黄砂中の鉱物組成に関する研究、(3) 風化花崗岩土壌における鉛イオンの吸着固定機構、(4) 高分解能電子顕微鏡による粘土鉱物(セラドナイト、カオリナイト)中の積層欠陥構造の解析 といった研究を为に推進し、多大な成果が得られた。(1)のバイオミネラルの研究は東京大学大 学院農学研究科との共同研究(学術創成研究)の一環として、硬骨魚類の耳石を形成する炭酸 カルシウム、アコヤ貝の幼生が形成する初期貝殻構造、円石藻がつくるココリスの詳細な解析 などを進め、多くの学会発表や論文投稿を行った。(2)についても修士論文として結果をまとめ、
2つの学会で発表をした。(3)については土壌改良関連企業との共同研究として研究を進め、土 壌中で鉛イオン(Pb2+)を吸着する微細鉱物の同定法についてこれまでにない手法(フォーカ スイオンビーム法による固結土壌からのTEM観察用薄膜試料作製)を提案することができ、
またこれにより風化花崗岩中のどのような物質が鉛イオンを吸着しているかを電子顕微鏡で 初めて示した研究として、その分野で注目を集めている。(4)についても粘土鉱物関連の国際誌 に2つの論文を投稿し、受理・出版されている。