—学生レベルの検討 —
Figure4-0-1 第 4 章(研究 3,4)で取り上げる範囲
第 4 章 学生の主観的ソーシャル・キャピタルの源泉および効用
— 学生レベルの検討 —
第 4 章では,第 3 章で開発し信頼性と妥当性を示した SSCS-U を用いて,第 2 章 で示した大学の SC/学生の主観的 SC の 3 段階モデルのうち,学生の主観的 SC の 源泉および効用について検討する。モデルの妥当性について示すため,本章では 2 つの仮説について検討する。1つは,学生の主観的 SCが協調行動によって高まるこ とである。そして,もう1つは,学生の主観的 SCが,既存の SCに関連する指標(ネ ットワーク・サイズ)と共に,抑うつや主観的 WB を説明することである。研究 3 では,学生の協調行動が学生の主観的SCを説明することを示す。研究4では,かか わりのある人々の数をさすネットワーク・サイズを統制しても,主観的SCが主観的 WBを説明することを検証する。
Ⅰ.研究 3 学生の主観的ソーシャル・キャピタルと協調行動の関連
研究3では,学生の主観的 SCの源泉として協調行動をあげ,協調行動と学生の主 観的SCの関連について検討する。協調行動にはたとえば,グループワーク,ディス カッションやディベート,投票行動,社会運動などがある。この協調行動は,SCに 関連すると言われるため(藤稿, 2009 ; Harpham, 2008),学生の主観的SCとも関連す る可能性がある。
協調行動のもつ性質や機能について調べることは ,本研究において必要不可欠で ある。大学における学生の協調行動にかかわる環境は,以前に比べて状況が変わっ てきている。まず,自ら大学の成員との協調行動にかける時間は少なくなっている。
授業時間が延長されたことに加え,よりバイトに精を出す学生の多くなっているこ とが指摘されている(大学生活協同組合, 2015)。大学は授業を受ける場所としての 機能を高めている一方,他の学生と課外活動を行う場所としての機能は四半世紀前 に比べ低くなっている可能性がある。したがって,授業内外における大学生活一般 で,同じ大学の成員間における協調行動は少なくなっていると考えられる。
しかし,協調行動は,学生の主観的 SC を高める上で重要な要因である。Putnam
(1993 河田訳 2001)は,積極的な社会参加やボランタリーな活動への参加という 行動的側面が源泉となり,信頼や互酬性の伴ったネットワークが形成されることを 指摘している。一般住民の公共政策という政治上の課題について考えるにあたって,
まず特定のコミュニティに人々が集まることは重要であるため,コミュニティへの
参加を地域のSCの源泉におくことは理に叶っている。
その一方,本研究では,逆の順序の仮説についても検討する。すなわち,学生の 主観的SCが高いほど協調行動をより行っているという仮説についても検討する。最 近の学生は大学へ登校し授業を真面目に受けており(岩田, 2015),自分の周りの他 者を信頼し支え合うことができるかを評価基準として,協調行動をとるかとらない かを選択している可能性がある。もし仮に,信頼し支え合うことができない相手へ 協調行動を行った場合,それによってもたらされると期待された効用が十分に得ら れない可能性がある。したがって,学生が協調行動を選択するかどうかは,そのコ ストによって変動すると考えられる。
以上から,本研究では,①協調行動をよく行っている学生ほど主観的 SCも高い,
②主観的SCが高い学生ほど協調行動を行っている,という 2つの仮説のどちらがよ りデータを説明するのかについて検証する。この検討を通して,学生の主観的 SCと 協調行動の関連について理解を深める。
方 法
(a)調査対象者
2012 年 12 月に,首都圏の私立大学 1 校において,一般教養の心理学を受講する 251名を対象に,質問紙調査を実施した。このうち,デモグラフィックデータとすべ ての尺度項目に欠損のなかった201名(男性118名,女性83名 ; 学年M=2.21,SD=.98)
を分析対象とした。なお,本研究のデータのうち性別・学年とSSCS-Uについては,
研究2-Bのものと重複があった。
(b)質問紙
デモグラフィックデータ 性別(男性0,女性 1)と学年,サークルへの所属(所
属1,無所属0)についてたずねた注 1。
学生の主観的 SC(仲間,クラス,教員) 研究2で開発した SSCS-Uを用いた。α は,仲間・クラス・教員の順にそれぞれ.89,.92,.89であり,十分であった。
協調行動(仲間,クラス,教員) 先行研究(Grootaert, Narayan, Jones, & Woolcock, 2004)を参考に,大学生活における仲間・クラス・教員に関する 協調行動の頻度を 単項目でたずねた。「今学期において◯×(仲間・クラス・教員のいずれか)とどの くらい一緒になにか(授業やイベントにおいて協力 )をしましたか」という文言で たずねた。回答方法は 1:まったくなかった
—
4:非常によくあった,の 4 段階評定で あった。注 1 協調行動の頻度は,サークルへの所属によって異なると予想されたため,統制変 数として採用することにした。
(c)教示方法や倫理的配慮 研究2と同様であった。
(d)統計的解析
SAS InstituteのSAS9.3と Muthén & Muthén(2012)のMplus ver 6.1を使用した。
結 果
まず,学生の人口統計学的変数の分布について確認した。サークルへ所属してい る学生数は,201 名中 88名(43.78%)であった。また,このうち 24 名(12%)が,
サークル内で仲間をつくっていた。その他,163名(82%)は,学科内において仲間 をつくっていた。
次に,各変数の関連を調べるために,Pearson の相関分析を行った(Table4-3-1)。
研究2-Aと研究2-Bに引き続き,学生の主観的SCに弱い内部相関((r 200)=.16―.38) が統計的に有意であることが確認された。続いて,学生の主観的SCと協調行動の関 連について調べたところ,仲間,クラス,教員の順にr(200)=.43, .59, .41(p<.001) と中程度の相関が 0.1%水準で有意であった。また,協調行動の内部相関は弱―中程 度の相関が統計的に有意であった。
つづいて,①協調行動をよく行っている学生ほど主観的 SC も高い,②主観的 SC が高い学生ほど協調行動を行っている,という 2 つの仮説のどちらが妥当であるか に つ い て 順 に 検 討 を 行 っ た 。 ま ず , ① の 仮 説 を も と に 共 分 散 構 造 分 析 (Structural
Equation Modeling ; SEM)を行った(Figure4-3-1)。予め性別と学年およびサークル
へ の 所 属 を 統 制 し た 上 で ① の 仮 説 に 基 づ い た モ デ ル を 推 定 し た と こ ろ , Loglikelihood=-2744.70,AIC=5549.40,BIC=5648.50,ABIC=5553.45,χ2(15)=47.05
(p<.00),RMSEA=.10,CFI=.84,TLI=.77,SRMR=.08であり,適合度は不十分であ った(Table4-3-2)。
一方,②の仮説に基づいたモデル(Figure4-3-1)の検討を,同じく SEMを用いて 行った。その結果,Loglikelihood=-2730.87,AIC=5521.73,BIC=5620.83,ABIC=5525.79,
χ2(15)=19.39(p=.20),RMSEA=.04,CFI=.98,TLI=.97,SRMR=.05 であり,適合 度は十分であった(Table4-3-2)。また,学生の各主観的 SCから各協調行動へのパス 係数は,同じく仲間,クラス,教員の順に.38(p<.001),.54(p<.001),.40(p<.001)
であり,弱―中程度の関連があった。また,各決定係数は,仲間,クラス,教員の 順にR2=.25(p<.001),.31(p<.001),.22(p<.001)であり,十分な説明率があった。
考 察
本研究では,①協調行動をよく行っている学生ほど主観的 SC も高い,②主観的 SCが高い学生ほど協調行動を行っている,という 2つの仮説のどちらが妥当である かを検討するために,SEMによる推定を行った。その結果,①の仮説モデルは適合 度が悪く,②の仮説モデルの適合度が十分であったことから,②の仮説を支持する 結果が示された。
②の仮説の検証結果が示唆しているのは,学生の主観的 SCが高まることで,より 協調行動をするという可能性である。学生の主観的 SCは,周りの成員を信頼し支え 合えると考えるかという大学の他の成員に対する認知的評価であり,それが高い学 生ほど周りの成員への協調行動を選択していることが わかった。山岸(2013)によ ると,一般に人間は,周りの他 者一般が自分の行動に対してどのような反応をする かを推測したあとで行動を選択している。第 2章で提示した大学の SC/学生の主観 的SCの3段階モデルを踏まえると,学生は自分が協調行動をすることで大学の教職
Table4-3-1 学生の主観的 SC と協調行動の関連(N=201)
Note1 ***p<.001, **p<.01, *p<.05
学生の主観的SC
仲間 6.58 .89
クラス .35** 8.33 .92
教員 .16* .38** 7.88 .89
協調行動
仲間 .43** .24** .07 0.88
-クラス .23** .59** .22** .32** 1.00 -教員 .10 .29** .41** .20** .47** 0.92
-Cronbach's α 仲間 クラス 教員 仲間 クラス
学生の主観的SC 協調行動
Mean SD
-43.38 35.99 35.02
-Figure4-3-1 協調行動,学生の主観的 SC の関連のモデル(N=201)
Table4-3-2 モデル修正による適合度の変化
Note1 ***p<.001 情報量基準
AIC 5549.40 5521.73
BIC 5648.50 5620.83
ABIC 5553.45 5525.79
χ2
RMSEA .10 .04
CFI .84 .98
TLI .77 .97
SRMR .08 .05
仮説②モデル
(学生の主観的SC→協調行動)
仮説①モデル
(協調行動→学生の主観的SC)
47.05(15)*** 19.39(15)
員が自分に効用をもたらす,という推測を行うことを通して,協調行動を選択する と考えられる。学生がこの協調行動をとることは,大学の制度の確立や取り組みと いう反応を引き出す上で重要な要素である。なぜなら,学生が協調行動をとらない 場合,大学の制度や取り組みが失敗している可能性が高いと判断する根拠となるか らである。この点については,総合考察において詳しく検討を行う。
研究 3 のまとめ
研究3では,学生の主観的SCと協調行動の関連について検討を行った。その結果,
学生の主観的SCが高いことと協調行動を行っていることの間には関連があり ,学生 の主観的SCから協調行動への影響を示唆するパスがひかれた。このことから,主観 的SCの高い学生は,より協調行動をとることが示唆された。