第 6 章 大学のソーシャル・キャピタルの
一方,中退率や卒業率といった大学全体の現象は,これまでの研究において統制 変数として扱ってきた「大学の属性(共学校―女子校)」や「大学規模」と密接なか かわりがある。たとえば一般に,女子校は就職率が高い(毎日新聞, 2014)ため,卒 業へ向けた動機づけもまた共学校に比べ高いと考 えられる。そのため,大学が女子 校であることは,中退率の低さや卒業率の高さと関連する可能性がある。また,大 学規模は,社会環境の構造的な特徴を説明する変数としてしばしば用いられてきた
(Astin, 1979 ; Pascarella & Terenzini, 1991)。大規模大学に在籍する学生は,たとえば 教員との交流や学生自治会への関与,大学企画プログラムへの参加,あるいは授業 中の発言機会が少ないため,教員とのつながりや授業に不満を抱きがちであること が指摘されている(Astin, 1979)。一方で別の研究において大規模大学の学生は,社 会生活,科学プログラムの質,カリキュラムの多様性において満足度が高く,卒後,
長 期 に わ た り 比 較 的 高 給 で 高 い 職 業 的 地 位 に 就 い て い る (Pascarella & Terenzini, 1991)。これらより,大学の属性や規模もまた,社会関係の質の高さ,そして中退率 や卒業率の高さと関連すると考えられる。
以上より,本研究では大学の属性(共学校―女子校)と大学規模それぞれを,改 めて説明変数とみなし,中退率(1年生)や卒業率(4年間)との関連について探索 的に調べる。調べる具体的な内容は次の(a)から(c)であった。(a)女子校は共学 校に比べ,中退率が低く卒業率の高い傾向がある。(b)大規模校は小規模校に比べ,
中退率は低く,卒業率は高い傾向がある。(c)SC(仲間)は,大学の属性と規模を 統制した時にも,中退率や卒業率を説明する。ただし,中退率は,積極的理由によ る中退も含んでいるため,卒業率に比べてSCとの関連は弱いと予測される。
方 法
本研究は,1. 質問紙調査と2. 大学統計調査の 2つに大きく分かれていた。
質問紙調査
調査対象者 質問紙調査では,大学38 校に通学している大学1年生を調査対象とし た。まず,38校それぞれに所属する教員 1名に調査を依頼したところ,すべての教 員より承諾を得た。その教員を調査窓口として,各校の心理学関連の授業を行って いる学科に調査協力の依頼を行った。それぞれの学科より承諾を得た後に ,計38校 の心理学関連の授業を履修している学生に質問紙調査を実施し ,学生2971 名から有 効回答を得た。各尺度項目に対する回答の欠損および外れ値を除外した 。結果,本 研究では36校 1833名のデータを分析対象とした。調査は 2012年 10月から 2013年 1月の間で実施された。
質問紙調査材料 質問紙において以下の尺度の項目を用いた。
主観的SC(仲間,クラス,教員) SSCS-Uを用いた。α は, 仲間,クラス,教員 の順にそれぞれ88,.91,.84であり, 十分な内的一貫性をもっていた。
大学統計調査材料 読売新聞教育部の「大学の実力 2014」に掲載されているデータ のうち,以下のものを用いた。
大学属性 共学校と女子校では,大学全体の風土が大きく異なると考え, 共学校 を0,女子校を1とするダミー変数を作成し,用いることとした。
大学規模 大学の規模によって大学の中退や卒業の人数は影響を受けると考えら れるため,キャンパスに所属する学生を大学規模の指標に用いた。
中退率 入学から1年間における退学者数を指す。2013年3月までの退学者÷2012
年4月入学者×100 で算出されている(読売新聞教育部, 2013)。
卒業率 標準修業年限(4 年)で卒業した学生の比率であり,2013 年 3 月卒業者
÷2009年 4月入学者×100で算出されている(読売新聞教育部, 2013)。
倫理的配慮 学生のデータは研究 4, 5, 6と同じデータを用いたので,省略する。
統計的解析 本研究では,まず,統計的解析の対象であった大学の中退率と卒業 率,大学属性と大学規模の分布について確認し,それぞれの関連を検討する。そし て,大学属性と大学規模を統制した上で,SCが中退率と卒業率を統計的に有意に説 明することを示す。後者について示すために,本研究では,大学単位で収集した卒 業率,中退率を目的変数とし,学生単位で収集したSCを説明変数としたマルチレベ ル分析を行った。統計ソフトは Mplus Ver6.11(Muthén & Muthén, 2010)を用いた。
結 果
まず,本調査における調査協力校のうち,分析対象であった大学の 1 年生におけ る中退率と卒業率,属性(共学校か女子校か)と大学規模(キャンパス所属学生数)
の分布について確認した(Table6-7-1)。1 年生の中退率について,2%以下の大学が 34校中 24 校(71%)でもっとも多く,卒業率については,80-90%の大学が 36大学 中22 大学(61%)でもっとも多かった。次に大学属性について,共学校である大学
は83%であり,女子校である大学は16.67%だった。大学規模については,0-3000名
の大学が36%,3001-6000名の大学が 31%,6001-9000名の大学が 22%,9001名以上
の大学が11%であった。
次に,大学属性と大学規模それぞれと,中退率および卒業率の関連について調べ た(Figure6-7-1から Figure6-7-4)。まず,大学属性の差異(共学校か女子校か)によ
り,中退率および卒業率は異なることについて,マンホイットニー検定を行い調べ た と こ ろ , 女 子 校 は 共 学 校 に 比 べ , 卒 業 率 が 高 い こ と が 示 さ れ た (Z=3.13, p<.01, η2=.28)。これに対し,中退率に有意な差はみられなかった。一方,大学規模の差異 により,中退率は異なることについて,クラ スカル・ウォリス検定を行い調べた と ころ,規模の大きい大学ほど低いことが示された(χ2=11.72, p<.01, η2=.36)。そして,
Bonferroni 法 に よ る 多 重 比 較 を お こ な っ た と こ ろ , キ ャ ン パ ス に 所 属 す る 学 生 が
0-3000名の小規模校に比べて,3001-6000 名の中小規模校(t=2.88, p<.01, g=1.16),
6001-9000名の中大規模校(t=3.34, p<.01, g=1.53),9001名以上の大規模校(t=3.16,
p<.01, g=1.76)では,中退率が低いことが示された。次に大学規模の差異により,卒
業率は異なることについて,クラスカル・ウォリス検定を行い調べた ところ,全体 に差はなかった。
一方,大学のSC(仲間,クラス,教員)が,大学属性と大学規模を統制した上で,
中退率および卒業率を説明する ことについて調べるために,目的変数を中退率,統 制変数に大学の属性と大学規模,説明変数に大学のSC(仲間),大学のSC(クラス),
大 学 の SC( 教 員 ) そ れ ぞ れ を 別 々 に 投 入 し た マ ル チ レ ベ ル 回 帰 分 析注 1を 行 っ た
(Table6-7-2)。なお,大学規模の投入は,石 黒(2013)に従い,対 数変換を行った 後で投入した。まず,それぞれのモデルの χ2値は 48(6),.47(6),48(6), RMSEA はいずれも.00,CFIはいずれも 1.00,TLIはそれぞれ1.06,1.08,1.09,SRMRはい ずれも.00,SRMRはいずれも.04であり,十分な適合度をもつことが示された。そし て,各大学の SC と中退率の関連について確認すると,大学の SC(仲間)が 1 点上 がるとき,中退率は0.48%下がることが示された(B=-.48, p<.05)。この中退率に対
注 1 マルチレベル回帰分析は,マルチレベルSEMと基本的には同じ仕組みで分析さ れる。通常の回帰分析と同様に,1つの目的変数に対する各説明変数の予測性を検討 する。
Table6-7−1 調査対象校の分布
Note1 中退率のみデータの欠損している大学が 2校あった。
Note2 文部科学省(2014)の報告では,2013年の3月の大学卒業率は 90%であった
ことから,概ねにおいて代表性のあるサンプルであると考えられる。
大学数
(校) 大学数構成比 (%) 中退率(年間%)
0-2 24 70.59
2-4 6 17.65
4-6 3 8.82
6- 1 2.94
卒業率(%)
60-70 3 8.33
70-80 6 16.67
80-90 22 61.11
90- 5 13.89
大学属性
共学 30 83.33
女子大 6 16.67
大学規模(人)
0-3000 13
36.11
3001-6000 11
30.56
6001-9000 8
22.22
9001- 4
11.11
Figure6-7−1 大学の中退率と大学属性の関連(N=36)
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
中退率(%)
共学 女子のみ
大学属性
Figure6-7−2 大学の卒業率と大学属性の関連(N=36)
50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100
卒業率(%)
共学 女子のみ
大学属性
Figure6-7−3 大学の中退率とキャンパス所属学生数の関連(N=34)
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
中退率(%)
0-3000 3001-6000 6001-9000
9001-キャンパス所属学生数
Figure6-7-4 大学の卒業率とキャンパス所属学生数(N=34)
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
卒業率(%)
0-3000 3001-6000 6001-9000
9001-キャンパス所属学生数
する大学のSC(仲間)の説明率を調べるために PRV(Proportional Reduction in residual
Variances)を調べたところ,.12 と十分な説明率があった。なお,大学の SC(クラ
ス)と大学のSC(教員)は中退率を説明していなかった。
次に,目的変数を卒業率として,説明変数に大学のSC(仲間),大学のSC(クラ ス),大学の SC(教員)それぞれを別々に投入し,マルチレベル回帰分析を行った
(Table6-7-3)。それぞれのモデルのχ2値はいずれも.47(6),RMSEAはいずれも.00,
CFIはいずれも 1.00,TLIはそれぞれ 1.08,1.13,1.14,SRMRはいずれも.00,SRMR はそれぞれ.00,.03,.03 であり,十分な適合度をもつことが示された。そして,各 モデルの大学の SCと卒業率の関連について確認すると,大学の SC(仲間)が 1点 上がるとき,卒業率は3.09%上がることが示された(B=3.09, p<.01)。この卒業率に 対する大学のSC(仲間)の説明率を調べるためPRVを調べたところ,.18と十分な 説明率があった。しかし,中退率の場合と同様に,SC(クラス)と SC(教員)は卒 業率を説明していなかった。
考 察
本研究では,大学のSC(仲間,クラス,教員)は,卒業率と中退率は大学の属性 と規模を統制した時にも,中退率および卒業率に関連がある,という仮説について 探索的に調べることを目的に, 大学属性と大学規模それぞれと,中退率と卒業率と の関連,および,大学属性と大学規模の統制後における,SC(仲間,クラス,教員)
と中退率および卒業率の関連を検討した。その結果,(a)女子校は共学校に比べ,
卒業率の高い傾向があること,(b)大規模校は小規模校に比べ,中退率の低い傾向 があること,(c)大学のSC(仲間)は,大学の属性と規模を統制した時にも,中退 率や卒業率を説明すること,の3点の結果が示された。特に(c)について示された