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大学のソーシャル・キャピタルと源泉,個人への効用の検討

ドキュメント内 目次 (ページ 136-179)

について検討する必要がある。大学のSCが学生の主観的WBや適応へもたらす影響 とは,すなわち成員が互いを信頼し支え合えると認知している大学にいるという「社 会的風土があること」の影響をさす(Figure5-5-2)。そうした大学であれば,たとえ,

他者を信頼し支え合えると認知していない個人であっても,安心して大学生活をお くることができる(浅野・五十嵐, 2015)。

本研究では,大学のSCが大学間で偏在しているという仮説を立て,これについて 調べることから始める。一般に,SCは家庭や学校,近隣地域などさまざまな属性/

レベルで蓄積されており,同一属性/レベルのコミュニティであっても蓄積されて いる量はコミュニティごとで異なる(Murayama et al., 2012 ; 内閣府国民生活局,

2003)。その理由は,コミュニティにSCを規定する要因があり,その要因の程度に

偏在があるからである。たとえば,埴淵・市田・平井・近藤(2007)によると,コ ミュニティの開発時期(歴史)は,その地理的な位置や地形条件,住居形態や居住 環境,住民の年齢構成や職業構成などに影響を与えると考えられ,それが住宅居住 年数を媒介して現在の人間関係の性質であるSCに影響をあたえるという。これは,

地域コミュニティと一般住民のかかわりの場合であるため,大学と学生のかかわり とは厳密に一致しないが,SC理論に基づけば,大学と学生のかかわりの場合も当て はまると考えられる。つまり,大学間で学生の人間関係への配慮や制度,方針の有 無に大学間で大きな違いがあり(読売新聞教育部, 2013),大学の SCを規定している 可能性がある。以上から,大学の SCの蓄積量に違いがあること(研究5),そして,

大学のSCの源泉と効用について調べる(研究5, 6)。

Figure5-5-1 学生の主観的 SC の作用機序

Figure5-5-2 大学の SC の作用機序

Ⅰ.研究 5 大学のソーシャル・キャピタルと 主観的ウェルビーイング,適応の関連

本研究では説明変数として,大学の性質であるSC(仲間,クラス,教員)をとり あげ,これらが目的変数である学生の主観的 WB(人生満足感や大学満足感)と適応

(抑うつ)を改善する効用をもつことを示すことが目的である。これを検証するた めには,下記のことを示す必要がある。まず 1 つ目は,大学の SC が,SC(仲間),

SC(クラス),SC(教員)の 3つに分かれることである。2つ目は,各変数の集団間 分散の大きさの指標である級内相関係数(Intra Class Correlation ; ICC)の統計的有意 性である。

上記の事前の分析を行った後,上記 の変数の関連とモデルの推定を通して,次の

(A)―(C)の仮説を検証する。(A)SC(仲間)の豊かな大学には,抑うつ傾向の 学生が少ない。(B)SC(クラス,教員)の豊かな大学には,大学満足感や人生満足 感の高い学生が多い。(C)主観的 SC(仲間,クラス,教員)の高い学生は,大学満 足感や人生満足感が高く,抑うつは低い。

上記の各説明用件を満たすために, 本研究ではマルチレベル分析を用いて大学と 学生の性質を分けて検討する。調査方法はこれまでと同様で,学生に対する質問紙 調査である。ただし,大学と学生の性質を分けて分析するためには,調査 対象につ いて,学生数だけでなく,大学数も確保しなければならない。そのため,下記で詳 細を述べるように,本研究では複数の大学の学生へと質問紙調査を行う。そして,

そこから得られたデータにマルチレベル分析を適用し,大学の性質と学生の性質そ れぞれを統計的に独立させ,それぞれの性質間の関連について検討する,という過 程を踏むことにした。

方 法

(a)学生への質問紙調査

調査対象者 大学の性質を考慮する本研究では,大学や学生の抽出に際して,無 作為調査や悉皆調査が理想的であるが ,現実には困難である。そこで次善の策とし て,本研究では縁故法による任意抽出を行い ,国公立・私立の比率や地域・大学規 模による偏りを,日本全国の大学からなるべく少なくするよう配慮し調査対象を抽 出した。結果として,全国38校の大学に調査を依頼し協力を得た。調査対象となっ た大学に勤務する旧知の教員を調査窓口として,各校の心理学関連の授業を行って いる学科に調査協力の依頼を行った。計 38 校 38 学科の心理学関連の授業を履修し ている学生に質問紙調査を実施し,合計で学生3208 名から有効回答を得た。学年に よっても各変数の値は異なると考えたため,本分析対象は 1 年生のみに絞り,各尺 度項目に対する回答の欠損および外れ値を除外した。その結果,計2021名(男性617 名,女性1404 名)を分析対象とした。1つの大学における調査対象者は22 名

158

名(平均 62.77±36.25 名)であった。調査は 2012 年 9月から 2013年 1 月の間で実

施された。

本調査対象の大学の 68%は心理学専攻の学科であり,そのほかは人文学の学科を 中心として構成されていた。今回のデータは概ねにおいて 心理学科に偏っていたこ と,そして 1 年生に限定していたことから,この後に示す 結果の一般化については 注意を要する。しかし,学科や大学でSCやWBが異なるというエビデンスはこれま でのところほとんどないことから,本研究では,大学全体を母集団として仮定し,

記述モデルを作成する,という立場をとる。

倫理的配慮 研究4と同様であったので省略する。

調査材料

人口統計データ 性別と年齢,学年についてたずねた。

大学の SC/学生の主観的 SC(仲間,クラス,教員) それぞれを調べるために

SSCS-U を用いた。大学の SC は,SSCS-U で評価されたデータを基に,マルチレベ

ル分析で算出された大学間分散を測定指標とした。マル チレベル分析の詳細は(c)

の項で説明する。αは,仲間,クラス,教員の順にそれぞれ.88,.91,.84であり,十 分な内的一貫性を有していた。

抑うつ 研究2,4と同様に,Kessler et al.(2002)の K6日本語版(古川他訳, 2002)

を用いた。α は.87であり,十分な内的一貫性があった。

大学満足感 研究 4 と同様に,大学環境(物理的環境,教育的環境,心理的居場 所など)への満足感を測定する大学満足感を測定する尺度を作成し ,合計得点を分 析に用いた。7 項目 6 件法(1:全く満足していない

5:とても満足している,0: か かわりがない) で回答を求めた。0 を選択した回答者は,大学環境に満足している か不明であると考え,除外した。αは.87であり,十分な内的一貫性があった。

人生満足感 これまでと同様に,Diener et al.(1985)のSWLSを用いた。αは.86 であり,十分な内的一貫性があった。

(b)大学統計調査 調査材料

各大学のホームページや,調査窓口である38校各1名の教員に質問紙調査を行い,

各校に関する情報を取得した。本分析においては下記の3つを用いることとした。

大学の属性 上述の 38 校のうち,共学の大学は 32校, 女子大は 6 校であった。

前者を0,後者を1としてダミー変数を作成し,分析に用いた。

キャンパス内学生数 平均値に比べ標準偏差が大きいと考えられたため (4989± 4445.28),対数変換を行い分析に用いた。

クラス担任制度 上述の 38校のうち,クラス担任制度がない大学は 7校,同制度 がある大学は 31校であった。前者を 0,後者を 1としてダミー変数を作成し,分析 に用いた。

(c)統計解析

本研究では,階層構造をもつデータの変数間の関連とモデルの作成のために ,統

計ソフトMplus Ver6.11(Muthén & Muthén, 2010)を用いて,マルチレベル因子分析,

マルチレベル相関分析とマルチレベルSEM(Multilevel Structural Equation Modeling)

を行った。まず,マルチレベル因子分析は,通常の検証的因子分析と同様に,事前 の研究で示されている因子構造が研究対象のデータにも当てはまるかを検討する方 法であり,これを大学(集団)レベルと学生(個人)レベルの 2 つに分けて行う方 法をさす。既に研究2において,学生の主観的 SCの因子構造を検討し,学生の主観 的SCは,仲間,クラスメート,教員の3つに関するものがあることを示した。本研 究ではそれを参考に,大学の SCもまた,同様の3つの領域に分かれると仮定し,こ れを検証するためにマルチレベル因子分析を行った。

次に,マルチレベル相関分析は,学生レベルと大学レベルの相関係数を算出する ための分析方法である。通常の相関分析で算出される相関係数では ,以下の 2 点が 問題となることが指摘されている(清水, 2014)。1つは,本研究の場合,同じ大学に 所属する学生は回答が類似する ことであり,もう1つは,上述のように,大学間の

分散と学生間の分散を分けられないこと である。前者の問題は,全体の変動におけ る大学間の変動の割合を指すICCによって表現される(e.g. 清水, 2014)。そして,

後者は,マルチレベル相関分析 を扱うことにより,同一大学内に所属する学生の回 答の類似性を調整し,学生と大学のそれぞれのレベルで相関係数を算出すること で 表現される。このうち,学生レベルの相関係数は学生間の変動に基づいて算出し , 大学レベルの相関係数は大学間の変動から学生間の変動を差し引いて算出した (清 水, 2014)。

さらに,SCおよび主観的 SC による主観的 WBの説明モデルを作成するために,

マルチレベル SEM を用いた。本研究において,マルチレベル SEM は,マルチレベ ル回帰分析を拡張したものであり,目的変数を複数仮定したモデルの分析のことを 指している。

マルチレベル回帰分析は ,通常用いられる回帰分析モデルの切片 ,傾きのいずれ か,あるいは両方について,分散がランダムに生起していると仮定した分析である。

本研究では,(a)Nullモデル,(b)統制変数を投入したモデル(モデル1),(c)SC および主観的 SC の主効果(切片)を投入したモデル(モデル 2),という 3 つのモ デルを作成し,適合度 を比較する。以下では (a)—(c)のモデルの説明をする。

なお,計算式においては,簡略化のため,大学の SC は SC,学生の主観的 SC は主 観的SCと表記している。

(a)の Nullモデルとは,目的変数のみを投入したモデルで,本研究の場合は(1)

と(2)の式により表される。

学生レベル: 主観的WBij = b0j +eij   (1) 大学レベル: b0j = g00 + u0j  (2)

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