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大学のソーシャル・キャピタル/

ドキュメント内 目次 (ページ 73-107)

学生の主観的ソーシャル・キャピタルの心理尺度の開発

— 学生の主観的ソーシャル・キャピタルに焦点を当てて —

前章に示したSC理論にもとづく大学の SC/学生の主観的 SCの3段階モデルに ついて検討を始めるにあたって,まず学生の認知しているSCを測定する必要がある。

第3章では大学のSC/学生の主観的 SCを測定する心理尺度の開発を行い,学生の 主観的SCの信頼性と妥当性を検証する。本研究において,SCの豊かな大学とは,

SCを認知している個人が多い大学である。そのため,SCの量を測定するには,学 生の主観的SCをまず測定する必要がある。

個人の主観的SCの要素は,国やコミュニティの文化,社会経済的状況などによっ てさまざまであると言われる(Cambell & Gillies, 2001 ; De Silva, 2005)。つまり,国 やコミュニティの属性によって,そこで生活している人々の社会的資源の要素は異 なる,と考えられている。たとえば,近所の人間が互いのことをよく知りよく話す コミュニティもあれば,互いのことを知らないが自由に振る舞うことを承認してい るコミュニティもある(山岸, 2008)。そうしたコミュニティの SCの要素を十分に網 羅するためには,Putnam(1993 河田訳 2001)の示したネットワーク・信頼・支え 合いだけでは不十分である(Carpiano, 2008)と言われる。前章で述べたように,本 研究ではSCの構成要素が,ネットワーク資源の認知,信頼感,互酬的関係の認知で 十分かどうかを検討する必要がある。

したがって,本章では,研究1においてまず本研究で焦点を当てる学生にインタ ビュー調査を行い,大学生活における主観的 SCの要素が,ネットワーク資源,特定 集団への信頼,特定集団への互酬性の3つの他に存在するかを検討する。そして研

究2において,大学生活において学生が認知しているSC,すなわち学生の主観的SC を測定する心理尺度の開発および信頼性,妥当性の検討を行う。

Ⅰ . 研究 1 大学のソーシャル・キャピタル/

学生の主観的ソーシャル・キャピタルに関するインタビュー調査

研究1の目的は,学生へのインタビュー調査を通して,大学のSC/学生の主観的 SCの構成要素を検討することにあった。インタビューは,パーソナル・ネットワー ク図の提示を求めた後,その図に示された人間関係を基に半構造化面接を行う,と いう流れで行った。その後,インタビューで得られたデータを基に KJ法を実施し,

大学のSC/学生の主観的SC の要素をまとめて抽出した。

方 法

(a)調査者

大学院生1名が半構造化された質問項目に沿ってインタビューを行った。

(b)調査対象者(インフォーマント注 1

講義中において調査を依頼したところ,日本大学に通う学生12名(男子8名,

女子4名)がインタビューに応じた(Table3-1-1)。

(c)調査方法および材料

パーソナル(エゴセントリック)・ネットワーク図 インフォーマントのもつ人間

注 1

質的研究においてよく扱う「調査対象者」のことをさす。

関係について視覚化することを目的に,インタビュー当日までに Moreno(1946)な どを参考にしたパーソナル・ネットワーク図に記入し持参するよう事前にインフォ ーマントに求めていた(Figure3-1-1)。インタビュー前におけるパーソナル・ネット ワーク図の作成時において,インフォーマントは「いま目の前に筆記用具と 1枚の 紙がありますが,そちらの紙にあなたの他の人とのつながり(すなわち人間関係)

について,図で表していただきたいと思います」という教示と記入方法についての 記述を読み,記入を行った。パーソナル・ネットワーク図の中央の半円は自分自身,

各々の◯は繋がっているメンバーを指し,矢印は自身と成員とのかかわりの方向を 指していた。たとえば自分自身から相手へ何かしてあげた時には,自分自身の半円 から相手への方向に矢印が引かれた。成員はその領域(e.g. クラスメート,高校の 友達)毎に線で囲いを記入することとした。また,中心円(自分自身)に成員を指 す◯が近いほど,心理的距離が近いことを示していた。

半構造化面接 本研究ではインタビュー方法に半構造化面接法を選択した。時間 は調査対象者により 40—80分で変動があった。半構造化インタビューは,ラポール

(信頼関係)の形成,インフォームドコンセントの確認,学生が認知している SCに ついての話という流れで行われた。このうち,学生が認知しているSCの話は,領域

(ネットワークのメンバーの属性)ごとに一連の質問をしていくという流れで行わ れた。具体的な質問項目についてはTable3-1-2の通りであった。

(d)研究倫理上の配慮とリスクマネジメント

調査者は,インタビューの実施前に,インフォーマントに対するインフォームド コンセントとして,調査目的の呈示,録音機器の使用の許諾,発言に関して任意で あることや撤回の自由,中断や途中退出の自由,および調査によって得られたデー

Table3-1-1 調査対象者の属性

Note1 小:小学校,中:中学校,高:高校 Note2 ●●は,特定のスポーツをさす。

被験者

コード 学年 性別

パーソナル・ネットワー ク図で描かれた集まり

インタビューにて抽出し

た集まり 備考

A 2 クラス・アルバイト クラス・アルバイト スーパーのアルバイト

B 3

クラス・他クラス・地元

(小・中)・高・アルバ イト

クラス・高・アルバイト 飲食店のアルバイト

C 2

クラス・アルバイト・

サークル・社会人フット サル

サークル・アルバイト・

社会人フットサル

英会話サークル・定食屋 のアルバイト D 2 クラス・家族・小・中 クラス・家族・小・中 小・中と飲みや麻雀仲間

E 3

クラス・他クラス・ゼ ミ・高(友人・部活)・

彼女・地元(小・中)・

アルバイト・ボランティ

クラス・高・アルバイト 飲食店のアルバイト

F 3 クラス・小・アルバイト クラス・小・アルバイト 服飾店のアルバイト

G 3

学科・サークル・学校外 サークル繋がり・家族・

アルバイト

サークル・学校外サーク

ル繋がり・家族 ●●サークル H 3 サークル・学校外サーク

ル繋がり

サークル・学校外サーク

ル繋がり ●●サークル

I 2 クラス・家族・中・アル バイト

クラス・家族・中・アル

バイト コンビ二のアルバイト

J 2 クラス・家族・サーク

ル・高・地域 クラス・サークル・地域 サッカー少年団のコーチ K 2 クラス・他クラス・家

族・高・アルバイト

クラス・他クラス・家

族・アルバイト 服飾店のアルバイト

L 2

クラス・他クラス・他学 校での知り合い・中・

高・アルバイト

他クラス・中・アルバイ

コンビ二のアルバイト

Figure3-1-1 パーソナル・ネットワーク図の作例

タの使用用途とプライバシーの保護の担保,データの管理や処理,研究成果の公開 予定について記述された同意書にサインを求めた。また,気分がすぐれない際には,

必要に応じて学生相談室のカウンセラーの紹介の用意があることも確認した。

(e)分析方法

インタビューから得たデータを基に,心理学を専攻する大学院生3名による KJ法

(川喜田, 1967)を行った。まず,インタビュー中に録音された内容を PCへ入力し,

これを文節ごとに分割してカードへと印刷し,ローデータとした。その後,ローデ ータはKJ法を通して複数のラベルにまとめられた注 2

結果と考察

領域ごとにKJ法を行った結果,ローデータは Table3-1-3のようにラベルにまとめ られ,最後に4つの構成要素が抽出された。インタビューより抽出したローデータ と,ローデータから作成されたラベルより最終的に抽出された 構成要素の名称の対 応は,以下の通りであった。なお,以下のすべての構成要素の名称は,「大学のSC としての名称/学生の主観的SCの名称」という形で表記している。

(a)構成要素の抽出

まず,「他のグループに比べて,交流というか会う時間が極端に多い」「平日授業 がある日はこの中の誰かしら必ずいる」などの発言より第1構成要素として「つな がり方(ネットワーク資源/ネットワーク資源の認知)」が抽出された。次に,「い

注 2本研究ではローデータより抽出された1つの集まりの中でのまとまりを“ラベル”,

それぞれの集まり毎で得られたラベルより抽出されたまとまりを“構成要素”として 説明した。

つも一緒なので,どういう人間かだいたい分かっている」,「割と心を開いてくれて いるなって感じている」などの発言より第 2構成要素として「信頼の条件や程度(信 頼/信頼感)」が抽出された。さらに,「持ちつ持たれつを保っている」,「基本的に こまめに連絡をとるようにしたり,お礼をちゃんと言おうとする」などの発言より 第3構成要素として「互酬性/互酬的関係の認知」が抽出された。最後に,「ほんと 表面(だけ)で深いところはぜんぜん掘らないみたいな。お互い」,「学校外で会う 機会も少ないんで,繋がりとしては弱い」などの発言より第4構成要素として「親 近性/親近感」が抽出された(Table3-1-3)。

Putnam(2000 柴内訳 2006)はSCの構成要素について,ネットワーク・信頼・互

酬性の3つをあげており,これらの構成要素はしばしば用いられている。しかし,

SCと健康に関連する研究では,必ずしもこれらの 3つの概念を用いていない

(Carpiano, 2008)。本研究では,第2章において学生の主観的SCの3つの構成要素 として示した「ネットワーク資源の認知」,「信頼感」,「互酬的関係の認知」の 3つ の構成要素を中心にしてインタビューを行った。分析を行った結果,3つの構成要素 に必ずしも含まれない「親近性/親近感」が含まれていた。この親近感は,「集まり の差別化」,「集まりの仲の良さ」,「集まりの一体感」といったポジティブな側面と,

「弱い関係の認知」,「疎遠・関係の変化」,「距離を感じる」といったネガティブな 側面のラベルから抽出された(Table3-1-3)。これらの多くが,大学においてよく集 まる仲間に関するコメントであったことから,学生は,仲間との関係を詳細に推測 し,接近と回避を行っていると考えられる。

(b)領域の種類―誰とつながりをもっていると感じていたのか―

一方,本研究を通して抽出された領域(つながりのあると考えている集団)のほ

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