第 5 章 けんかやいざこざから見た乳幼児期の自我発達と養育の在り方
Ⅱ 子どもの自我発達を育むための養育の在り方
本研究では、意識調査によって子どものけんかやいざこざの現状と問題点を把握し、子 どもの自我発達を育むための養育の在り方を検討した。子どもを取り巻く大人は、けんか やいざこざなどの対人行動をどのように捉え、どのようにかかわっていくべきであろうか。
ここでは第1章から第4章を通して明らかにしてきた事実を踏まえ、子どもの自我発達を 育むための養育の在り方について提言したい。
1.大人が子どもの自我発達を理解することの意義
けんかやいざこざは子どもの発達において重要であることは多くの大人が認識してい るが、いざその激しさに触れると、対応しきれなくなり心配の種になることもしばしばで ある。このように頭ではけんかやいざこざの重要性を理解しつつも、具体的な場面ではそ れを許容できない現状がある。大人が子どもの発達を理解することは必要であるが、それ だけでは現代社会において子どもが伸び伸びと育つことは難しい。では、このような状況 の中で子どもの自我発達を育むためわれわれ大人は何をなすべきであろうか。
第3章では、子どもにかかわる大人はけんかやいざこざの重要性を認識していない訳で はなく、むしろ十分に認識していることが明らかとなった。問題は、それを共有できてい ないことなのではなかろうか。同じ価値観を持っていたとしても共有していないがために、
疑心暗鬼になってしまうことがある。隣近所とかかわりたくない人や、子どもの声を騒音
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に感じている大人が増加していることは、第4章で示した通りである。このように互いに 深くかかわりたくない上に、子どもを受け入れる寛容さが薄れている現代では、互いの意 思疎通を図ることは難しいであろう。けんかやいざこざが子どもの発達にとって重要な経 験であることを示し、認識を共有することが大切ではないであろうか。けんかの発達段階 などを提示し、子どもの発達におけるけんかやいざこざの重要性を共有できれば、保護者 も保育者も安心し、積極的にそれらの対人行動を見守ることができるのではないであろう か。
2.大人が子どもの自我発達に寛容であることの意義
子どもはやんちゃであると分かっていても、その具体的な場面になると、表面的な良い 子を求めてしまうのが実情であろう。よい子に育ってほしいとは、多くの保護者が願うこ とであるが、では、「よい子」とはどのような子どものことをいうのだろうか。
平井(1992)は、激しくけんかをする子どもが「よい子」として、けんかをするのも「よ い子」の条件とし、森上(1975)はけんかをしない子は本当に遊んでいないと言えるとま で述べている。
子どもというものは、まっすぐに一直線に発達するものではなく、左にゆれ、右に揺れ ながらジグザグに発達していくものである(守屋,2005)とあるが、われわれ大人はこの発 達の揺れを認識し許容しているのであろうか。現代社会は子どもの発達を受け入れる器の 大きさを持っているのであろうか。発達において一見対極にあるものが互いに支え合って いることがあり、一方の良い部分ばかりを育てようとすると、心のバランスが取れなくな ってしまう。子どもは一直線にすくすく育っていくものだと誤解し、現象ばかりを捉えて、
子どもの発達にとって必要なものを忘れているのではなかろうか。子どもの発達の揺れ幅 を受け入れるには、大人の寛容な心が必要である。第3章のⅡ「保育者への意識調査」で は、けんかの後の保護者対応に難しさを感じると回答した保育者が多かった中、「園の方針 を伝え、理解してもらっているので不安に思うことがない」という記述も散見された。 保 護者に園の方針を伝え理解してもらえば、そこに信頼関係が生まれ、安心してけんかやい ざこざを見守る保育が可能であることを示しているといえる。ここに、本研究で子どもの
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自我発達を育むための養育の在り方を示す意義があると考える。
守屋(2013)は、幼児には幼児の、児童には児童の、青年には青年の、それぞれの年齢 段階にふさわしい教育環境が必要であり、それを可能とする教育風土が必要であり、それ ぞれの年齢段階に応じた教育環境を許容し、尊重する教育風土があれば、人生の年輪もし っかりと明確に刻まれていくに相違ないと述べている。
図32 子どもの自我発達とそれを取り巻く環境
子どもを取り巻く環境は、子どもの自我発達を抑制する力と育む力と両方の働きをする と考える。子どもに対する寛容の心や子どもの発達を受け入れる社会の器の大きさとした 場合、許容の幅が狭まることによって、子どもの自我発達を抑制する力が働き、寛容の心 や園庭や遊び場などの実際の空間が拡がることによって、自我発達を育む力が働くのでは
教育風土
社会の子どもへの意識
子育て観、保護者の意識、
保育者の意識 保護者同士の関係性、
保護者と保育者の関係、
園の方針
遊び場の縮小、遊び方の変化、
遊び相手の変化、、きょうだい げんかの減少
子どもの 自我発達 自我を抑制する力
自我を育む力
136 なかろうか。これを図32に表した。
本研究を通して、けんかやいざこざの意義を検討してみた。社会の変化によって大人の 心に余裕がなくなり、結果的に子どもの発達に寛大ではなくなっている現状が明らかとな った。社会が子どもたちの成長発達に寛大となることの意義を発信し、このような研究を 積み重ねることによって、社会が子どもたちの成長発達に寛大であるように、働きかけて いくことが重要である。
豊かな時代になり、子育ての環境は様変わりしたという、現実を認識する必要があるで あろう。自然発生的に行われていた子ども同士のけんかやいざこざは、放っておくと消滅 してしまうのではないであろうか。今こそ、子どものけんかやいざこざの意義を見直し、
子育てに大いに活用すべきであろう。