第 5 章 けんかやいざこざから見た乳幼児期の自我発達と養育の在り方
Ⅲ 今後の課題
136 なかろうか。これを図32に表した。
本研究を通して、けんかやいざこざの意義を検討してみた。社会の変化によって大人の 心に余裕がなくなり、結果的に子どもの発達に寛大ではなくなっている現状が明らかとな った。社会が子どもたちの成長発達に寛大となることの意義を発信し、このような研究を 積み重ねることによって、社会が子どもたちの成長発達に寛大であるように、働きかけて いくことが重要である。
豊かな時代になり、子育ての環境は様変わりしたという、現実を認識する必要があるで あろう。自然発生的に行われていた子ども同士のけんかやいざこざは、放っておくと消滅 してしまうのではないであろうか。今こそ、子どものけんかやいざこざの意義を見直し、
子育てに大いに活用すべきであろう。
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要なけんかを「いじめ」と感じて制止してしまう現状があるのではないかと感じたからで あった。しかし、保護者のアンケートにおいて、いじめに関する項目を挿入することの難 しさから今回は見送った経緯もあるが、不十分な検討であったことは否めない。けんかや いざこざについて、研究を進めていく上で、いじめに関する検討は更に必要となってくる であろう。今後の課題としたい。
第 5 章では、所有をめぐるけんかやいざこざの自我発達過程について、検討を試みた。
今回の研究では十分に言及できなかった面もあるが、新たな着眼点を見出すことができた 点もある。それは、けんかやいざこざから見た乳幼児期の自我発達について、愛着の発達 と、自閉症のこだわり行動の側面から検討することによって、更なる考察が深められるの ではないかという見解である。
前者は、ボウルビィの示した愛着の発達の段階と所有意識の発達との間に、関連性を見 出すことによって可能であろう。後者は、所有をめぐるけんかやいざこざが起こる背景に は、物へのこだわりが存在していることから論じることが可能であろう。自我関与の強ま りと拡がりを考察するためには、一方でその拡がりに困難さがある状態との比較検討が必 要と考え、自閉症のこだわり行動が乳幼児期の自我発達を解明するために有用な手がかり であると考えたのである。
自閉症は社会性の障害やこだわりの強さが主な症状であるが、生物的自我から社会的自 我の段階への移行がスムーズにいかない状態とも言えないであろうか。彼らの物へのこだ わりは、物に支配されたような状態であり、対象物へ自我が没入し、人や社会への関心へ の拡がりに何らかのつまずきを持っている状態とも考えられる。自閉症児の所有意識の発 達を探っていくことで、所有をめぐるけんかやいざこざにおける自我発達の様相について、
更なる考察が深められると考える。この点については今回考察を深められなかったが、研 究における示唆を得たものとして今後の課題としていきたい。
また、今回は養育の在り方を提言したが、今後はけんかやいざこざから見た乳幼児期の 自我発達過程のモデルを示したいと考えている。
140 しさを感じていることが分かった。
第4章「乳幼児期のけんかやいざこざを取り巻く環境」では、核家族の増加や少子化 の進行、子どもを取り巻く環境についてその現状を探り、アンケートで得られた自由記述 の一部を紹介しながら、乳幼児期のけんかやいざこざを取り巻く環境と現代社会における 問題点について検討した。
第5章「けんかやいざこざから見た乳幼児期の自我発達と養育の在り方」では、第1 章から第4章までで明らかにされたことを踏まえ、けんかやいざこざから見た乳幼児期の 自我発達と養育の在り方を提言した。Ⅰ「けんかやいざこざから見た乳幼児期の自我発達 過程」では、守屋の自我発達の三次元モデルに基づいて、所有をめぐるけんかやいざこざ の発達過程の図式化を試みた。また、所有をめぐるけんかやいざこざが自我発達を促すた めの大変重要な経験であることについても示すことができた。Ⅱ「子どもの自我発達を育 むための養育の在り方」では、Ⅰで明らかにされた子どもの自我発達過程を大人が理解 し、寛容であることの意義を述べ、子どもの自我発達を育むための養育の在り方について 提言した。
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総 括
本論は、乳幼児期の対人行動の中でも、けんかやいざこざに着目し、自我発達の観点 からその重要性について論じることを目的とした。
第1章 「乳幼児期のけんかやいざこざに関する研究の動向」では、乳幼児期のけん かやいざこざに関する研究の動向を概観し、対人行動におけるけんかやいざこざがどのよ うに位置づけられているかを明確にした。Ⅰ「乳幼児期の対人行動研究に見られるけんか やいざこざ」では、これまでの研究は、けんかやいざこざの方略や、年齢的な変化が中心 に論じられ、その対象年齢も3歳児以上が多くを占め、2歳児以下を対象とした分析は少な く、自我発達の観点から捉えたものがほとんどないということが分かった。また、介入の 研究は多くあるものの、けんかやいざこざに関する意識を調査したものは、少ないことも 明らかとなった。このような点からも、本研究で、けんかやいざこざに関する意識調査を 行う意義と必要性を示すことができたと考える。Ⅱ「発達検査の中に見られるけんかやい ざこざ」では、発達検査の中にあるけんかやいざこざに関連する項目の一覧表を作成し、
乳幼児期の発達におけるけんかやいざこざの重要性を示した。
第2章 「乳幼児期の自我発達とけんかやいざこざ」では、第1章で明らかにされた 乳幼児期のけんかやいざこざに関する研究動向を踏まえ、自我発達の観点から乳幼児期の けんかやいざこざがどのように論じられているかについて検討した。Ⅰ「けんかやいざこ ざが自我発達に及ぼす影響」では、乳幼児期の自我発達に関する諸見解を述べ、自我発達 の観点から見た発達的意義を述べた。これにより、乳幼児期を自我発達心理学的な立場か ら論じる意義と必要性を明確にし、本研究の立場と目的を確認することができた。Ⅱ「自 我発達と所有をめぐるけんかやいざこざの関係」では、子どものけんかやいざこざに多く 見られるおもちゃの取り合いに着目し、所有をめぐるけんかやいざこざと自我発達の関係 について検討した。また、保育園での観察を通して得た1歳児の事例を紹介しながら、所 有をめぐるけんかやいざこざの意義について検討した。これらを通してけんかやいざこざ などの対人行動は自我が密接に関係しており、自我発達において重要な役割を担っている ことを明らかにした。
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第3章 「大人の意識が子どものけんかやいざこざに及ぼす影響」では、子どもを取 り巻く大人たちはけんかやいざこざをどのように捉えているのかについて意識調査を実施 し、それがどのような影響を及ぼしているかについて検討を行った。Ⅰでは保育を学ぶ学 生、Ⅱでは保育者、Ⅲでは保護者を対象として、乳幼児期のけんかやいざこざに関する意 識調査を行い、子どもの自我発達を育む上での問題点や課題を明らかにした。Ⅰ「保育を 学ぶ学生の意識に関する調査」では、ほとんどの学生は、乳幼児期のけんかやいざこざの 経験は重要であると答えていたが、その対応に関しては不安や戸惑いが強いことが明らか となった。その要因として、けんか場面への対応スキルが身に付いていない、けんか後の 子どもや保護者対応において、どのようにしたらよいか分からないことへの不安や苦情に 対する恐れなどが挙げられた。Ⅱ「保育者の意識に関する調査」では、子どもやけんか対 応の難しさを感じている記述の中に、保護者への説明をどのようにしたらよいかに戸惑っ ている保育者が多いことが分かった。子どものけんか後の保護者対応に困難さを感じる保 育者は5割以上に上ったが、保育経験が長いほど保護者の影響から子どものけんかを止め ることはないということが明らかとなった。Ⅲ「乳幼児期の子どもを持つ保護者への意識 調査」では、けんかやいざこざを肯定した上で、子ども同士で解決するのを見守ってほし いと望む回答が多かったが、その対応には戸惑いを感じていることが明らかとなった。ま た、けんか後に保護者同士の関係性に難しさを感じた経験がある保護者が多いことも明ら かになった。また、それが原因でけんかを制止したり、わが子を悪者にしてしまう回答も 散見された。学生・保育者・保護者の三者ともにけんかの重要性を強く認識しているもの の、対応については難しさを感じていることが明らかになり、それが子どものけんかやい ざこざの対応に影響を与えていることが明らかとなった。この結果は、子どもの自我発達 における重要な対人行動が大人によって損なわれる可能性を示唆しており、現代社会にお ける問題点の一部が明らかにされたと考える。また、学生・保育者・保護者の三者間で意 識の差がないか分析をしたところ、けんかやいざこざの経験の重要性については、保護者 よりも学生や保育者の方がけんかやいざこざの重要性を強く感じており、子どものけんか やいざこざの対応の難しさについては、保育者や保護者よりも、学生の方が対応の難しさ を感じていることが分かった。子どものけんかやいざこざ後の保護者対応の難しさについ ては、保育者や保護者よりも、学生の方が子どものけんかやいざこざ後の保護者対応に難