第3章 大人の意識が子どものけんかやいざこざに及ぼす影響
Ⅲ 乳幼児期の子どもを持つ保護者の意識に関する調査
1. 問題と目的
Ⅰ~Ⅱで、保育を学ぶ学生と保育者のけんかやいざこざへの意識に関する検討を行って きたが、子どもに最も近く、影響を与えるのは保護者である。乳幼児期の子どもを持つ保 護者はけんかやいざこざをどのように捉えているのであろうか。本節では乳幼児期の子ど もを持つ保護者を対象に実施した、乳幼児期のけんかやいざこざの捉え方やその対応に関 する意識調査の結果を検討することを目的とする。
2. 方法
(1)調査対象 大阪府下の保育所又は幼稚園に子どもを通わせている保護者にアンケー ト用紙を配布し、391 名から回答があった(保育所 6 園、幼稚園 2 園、合計 8 園)。1106 枚 配布し、アンケート回収率は 35.4%であった。調査対象者の内訳は表 22 の通りである。
表 22 調査対象者の内訳(n=391)
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* きょうだいの人数は、アンケート回答の該当児を含む。
*性別やきょうだいの数が未記入であった回答もあり、総数に違いがあるものもある。
(2)調査時期 2014 年 2 月末~4 月
(3)調査内容および手続き 子どもの発達におけるけんかの重要性、保育者に介入してほ しいタイミング、子どもや相手の保護者対応をする時の難しさなどについて問う設問を作 成した。設問数は 12 項目で、5 件法と自由記述により回答を求めた(資料4参照)。保育 所や幼稚園(以下「園」と記す)に出向いて園長に調査の趣旨を説明し、賛同を得られた 園については、園長や各担任から保護者にアンケート用紙を配布してもらった。アンケー トが、当該園への要望と混同されないようにするためとプライバシーへの配慮から、依頼 状(資料5参照)とアンケート用紙を一通ずつ封筒に入れ、各園に配布した。きょうだい が在園している場合は、負担を軽減するためにも各家庭に 1 通の用紙を配布してもらい、
回答に該当する子どもが分かるようにチェックの欄を設けた。
アンケート用紙の提出方法については、園長に一任した。園内に回収ボックスが設置さ れたり、担任などに提出するなどの方法が取られた。3 月末から 4 月にかけて当該園に出 向き、アンケート用紙を回収した。
3.結果
(1) けんかの経験は重要か
20 歳 台
30 歳 台
40 歳 台
50 歳 台
男 女 1 人 2 人 3 人 4 人 5 人
保 育 所
幼 稚 園
0歳 台 1 1 0 0 2 1 0 1 2 0 0 0 0 2 2 0 2
1歳 台 3 20 2 0 25 16 7 23 21 2 1 0 1 25 25 0 25 2歳 台 7 24 5 0 36 19 16 35 22 10 3 1 0 36 36 0 36 3歳 台 4 27 7 0 38 16 21 37 19 15 4 0 0 38 30 8 38 4歳 台 4 67 22 0 93 47 45 92 28 50 14 0 1 93 35 58 93 5歳 台 2 75 33 0 110 53 55 108 26 64 17 2 1 110 33 77 110 6歳 台 2 53 31 1 87 45 37 82 24 47 16 0 0 87 36 51 87 23 267 100 1 391 197 181 378 142 188 55 3 3 391 197 194 391
合 計 子 ど も の 性 別
子 ど も の き ょ う だ い の
数 合
計
種 別
合 計
子 ど も の 年 齢
合 計
保 護 者 の 年 齢 合 計
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子どもの発達にとって、けんかやいざこざの経験は重要だと思うかどうかについて、
「重要である」から「重要ではない」まで 5 件法で回答を求め、図 13 に示した。
図 13 けんかの経験は重要か(n=391)
「重要である」(257 名;65.7%)、「どちらかといえば重要である」(109 名;27.9%)、「ど ちらともいえない(24 名;6.1%)、「重要でない」(1 名;0.3%)であり、「どちらかといえ ば重要でない」は回答者がいなかった。「どちらかといえば重要である」を含めて 9 割以上 の保護者が、子どもの発達にとってけんかやいざこざの経験は重要であると答えていた。
保護者の年齢(20 歳代、30 歳代、40 歳代以上)と、子どものきょうだいの数(1 人、2 人、3 人以上)で、回答に差があるか分散分析を行ったが、いずれも有意差は見られなか った(保護者の年齢; F(2,338)=.406,p<.667)、きょうだいの数; F(2,388)=.916,p<.401)。
けんかの経験は「重要である」(「どちらかといえば重要である」を含む」)と答えていた 自由記述の一部を表 23 に示した。似ている記述をまとめて分類し、カテゴリとサブカテゴ リ名を付けた。記述の中からサブカテゴリに該当する単語を拾い上げ、年次ごとに分けて
( )内にその数を表した。したがって一つの文章が複数のカテゴリにわたってカウン トされているものもある。記述の中で特徴的なものを「具体的な記述例」として表記した。
意味の変わらない程度に記述を省略しているものや削除しているものもあるので、( )と 表記した文章の合計が合わない場合もある。カテゴリ分類については、ベテラン保育士 2 名(20~30 年)、看護師、大学教員、小学校教諭など 4~6 名と一緒に検討を重ねたもので ある(以下の表についても同様の方法で分類した)。
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表 23 けんかやいざこざの経験が重要だと思う理由(保護者による自由記述)(n=328)
カ テ ゴ リ
サブカテゴリ 具体的な記述例
感 情 を 知 る
自 分 の 感 情 に 気づく(3)
けんかを通して、相手の気持ちに気づいたり、(何をされたら嫌か等)/他者との交 流があってこそ自己が分かるから
相 手 の 感 情 に 気づく(9)
相手の気持ちが分かる/相手の気持ちを知れる/他人の気持ちを考えることができる ようになると思う/その経験から相手の気持ちなどを考えられるようになる/お友達 とのけんか等で、相手の気持ちに気づくことができると思うので/経験することで相 手の事を思うなど/何をすれば相手は嫌がるのか、自分がされて嫌なのか、経験する ことで理解していくものだと思う/けんかすることで、相手の気持ちや痛みを考える ことを体験するため/けんかをすることで、こういうことを言ったら相手はどういう 思いになるか、言われてどのような思いをするか、普通に生活しているだけでは得ら れないものが得られると思うから/けんかやいざこざを経験することで、人との接し 方を学んでいけるし、相手の気持ちを考えることができるきっかけになると思うから
/相手の気持ちを理解できる
互 い の 感 情 に 気づく(15)
けんかを通して、友達との距離感や、自分の気持ち、相手の気持ちを知るすべを学ぶ のではないかと思うので/けんかすることでお互いの事を知る/けんかをすること で、友達の気持ちが分かり、自分の感情も育つから/何で怒っているのか、何で辛い のか、自分も、また相手の気持ちも理解できることができるようになるため必要であ ると思う/けんか等を体験することで相手の気持ちや自分の気持ちを考えるきっかけ になればと思う/自分と相手が違うことをけんかすることでより知ることができる/
けんかをして、自分の思いが分かり、相手の思いを知ることができるから/その時々 の状況で互いに感じる感情や言葉を経験し、身に付けてほしいと思うから/自分とも 向き合って、相手の気持ちにも気づくことができるから/けんかをすることで、こう いうことを言ったら相手はどういう思いになるか、言われてどのような思いをする か、普通に生活しているだけでは得られないものが得られると思うから/自分の気持 ち、相手の気持ちを考えるいい機会になると思うから/けんかをして、自分の気持ち 相手の気持ちを分かり合っていくのは、成長段階で不可欠なものだと思う/けんかや いざこざを通して自分と違う考え方や感じ方がいる子どもがいることに気づける/お 互いの気持ちを知るということ、辛い事、悲しいこと等/自分の感情、相手の気持ち を考えることができるから/けんかやいざこざの経験で、他人と意見や気持ちの違い があることを理解し、他人の考えを聞き、時には自分の欲求を我慢するということ、
そしてその後謝って仲直りすることを学ぶためにも重要だと思う/けんかやいざこざ を通して、色々な気持ちが芽生えたり、学べることもたくさんあると思うので、経験 することは大切だと思う
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痛 み ・ 葛 藤 を 知る(20)
人の痛みを知るから/言われて嫌なことややられていたいこと等を学べる/人の痛み を知ること、傷つくこと(心身含め)許すことの大切さを学んでほしいから/感情を ぶつけ、時には手を出すこと手を出されることで、痛みを知り、手加減を覚えること ができる/人から嫌な言葉を言われたり、手を出された時にどのような気持ちになる か、知ることが出来、その上で「だから自分も気を付けようね」と教えることができ る/やる側、やられる側の気持ちが分かるから/自分と他人とで考えが違ったり、痛 みと感じることでやってはいけないことが、何かを分かったりするきっかけになると 思う/けんかがどういったものか、相手に対して嫌なことをすると、自分も嫌な気持 ちになることを学んでほしいから/子どもの頃に痛い思いをしないと分からないと思 う/けんかして、悲しかったり痛かったりを経験して、相手の気持ちや周りを思いや ることができるようになる/相手への気持ち、力加減など言葉で言っても自分が痛い 思いをしたら、きっと次はやらないと思う。叩かれたり、蹴られたりする前に痛みが 分かり、加減ができる/お友達に叩かれたりして、痛みを感じたり、おもちゃを取ら れたりしたら、とても嫌な気持ちになる等、マイナス感情を乗り越える力をつけられ るから/自分がされたら嫌なことは人にしない、ということを分からせるため/共に 傷つけたり、傷つけられたりして、相手の想いを理解したり、誰かに加勢したりする ことがどういうことでどうプラスになるか、マイナスになるかというのは経験値だと 思うから。精神成長には一番重要だと思う/けんかすることによって上下関係や人の 痛みを感じることができると思う/お友達や兄弟・姉妹でけんかやいざこざの経験を 通して、こういうことをすると嫌な思いをする。又はさせてしまう等など他人の気持 ちを理解できるようになると思う/けんかすることで、相手の気持ちや痛みを知って いくと思うので/けんかやいざこざで自分の嫌なこと、人の嫌なことを身を持って知 る。痛い、悲しい、楽しい、うれしいなどを知る/けんかをして、人の気持ちや痛さ が分かるので、することに意味があると思います/けんかやいざこざが起こること で、してはいけないことやこんなことをしたら痛いなど理解できると思うから/けん かをしていく中で傷ついたりして、辛いと分かれば人にやさしくできるし、傷つけて しまうことで、悪いことをしたと感じて謝るということを理解してもらえるきっかけ になると考えるから/痛みや力加減、人それぞれに考えや思いがあることを学ぶ為/
「手加減」を学ぶ機会。言葉や力の加減
違 い を 知 る
(7)
自分と違う意見を聞き、考え、出来れば解決する過程や経験は必要であるため/けん かをすることで、相手との考え方の違いを学んでいくと思うから/自分の意見や意志 を持ち、自分と違う意見や考えを持つ他人が存在することを体感するよい機会だから
/自分と違う考え方をする子どもがいるということに気づくことができるので/けん か等を通して、自分と違う意見があることを知り、またそれに対する解決策も考えよ うとするであろうから/人それぞれ違う考え方があるということが分かっていくと思 う/けんかして、人は色々な意見や考え方があることを知ると思うので/他人と自分 の考えの差異を学ぶ機会である