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子どもと支援者との間で育まれる主体的な学び

ドキュメント内 第1章 移動する子どもたちとことばの教育 (ページ 37-61)

日本語の力が不十分な状態で日本での生活を始めた子どもたちにとって、多くの時間を 共に過ごし、自分の日本語能力の発達を支えてくれるのは言語習得支援を行う支援者や教 師の存在であろう。それゆえ、支援者がどのような支援を行うのか、また、支援者と子ど もがどのような関係を築くのかということによって、子どもたちの学びの様相は大きく異 なってくると考えられる。そこで本章では、筆者が実際に支援者として移動する子どもに 対して行った支援を取り上げ、支援者である筆者と子どもとの間でどのようにして主体的 な学びが育まれていくのかを支援者の関わり方に注目して明らかにしていく。具体的には、

移動する子どもVに対し筆者がどのような支援を行ったのか、またその支援のあり方によ ってVの学びにどのような変化が生じたのかを探っていく。まず、3-1.では、子どもの主 体的な学びを支援者の働きかけによって支えていこうとする「スキャフォールディング」

の概念を示す。そして、3-2.から 3-4.では、このスキャフォールディングの概念をもとに 筆者がデザインしたことばの支援の概要および、支援の中でVにどのようなことばの学び が見られたのかを論じる。最後に3-5.では、本章の知見を踏まえ、子どもと支援者との間 で育まれる主体的な学びについて考察を行う。

3-1. 支援者の働きかけによって支える子どもの主体的な学び

本節では、子どもの主体的な学びを支援者の働きかけによって支えていこうとする「ス キャフォールディング(Wood,Bruner&Ross1976)」の概念を取り上げ、スキャフォール ディングが子どもたちのことばの学びをどのように支えていくのかについて、具体的な言 語教育実践の知見をもとに論じる。そして、それらの議論をもとに本章の目的をまとめる。

3-1-1. スキャフォールディングが支える子どもの学び

ヴィゴツキーの発達の最近接領域の概念をもとにしてブルーナ・ウッドらによって提示 されたスキャフォールディングの概念は、現在多くの教育現場において子どもたちのこと ばの学びを支える支援方法の一つとして注目されている。そこで、本節ではこのようなス キャフォールディングの概念を実際に言語教育の中で実践しているオーストラリアの年少 者 ESL 教育の実践を取り上げ、スキャフォールディングの概要と有効性について検討し

ていく。なお、オーストラリアの実践を取り上げた理由は、国家間、言語間、文化間、教 育制度間や学年間など、数々の境界を移動してきた子どもたちが数多く存在するオースト ラリアでの実践が日本の移動する子どもたちのことばの教育と共通する部分が多いと考え たためである。では、そもそもスキャフォールディングによることばの支援とはどのよう なものなのだろうか。まずは、スキャフォールディングによる支援の概要を見ていきたい。

スキャフォールディングには、マクロ・ミクロの二つのレベルのスキャフォールディン グが存在する。それぞれ、生徒たちの異なるレベルや能力を考慮しながらタスクを計画し、

選択し、配列していく「マクロ・スキャフォールディング」と、目の前の子どもとのやり とりの中でその子どもに必要な支援を捉え、与えていく「ミクロ・スキャフォールディン グ」である。

Hammond(2007)は、この二つのスキャフォールディングが在籍学級の教師たちにどの ように使われているのかを調査している。調査の結果、マクロ・スキャフォールディング のよく現れる場面として、以下の五つを挙げている。それぞれ、「生徒がすでに知っている ことを振り返り、これから知るべき教科内容とそのために必要なことばの力を見通して学 習プログラムの目標を立てること」、「学習活動の配列を注意深く計画することで、生徒た ちが難しい概念をより深く理解し、一歩一歩前進できるようにすること」、「それぞれの学 習活動の目標に応じて、さまざまな活動形態を利用し、それぞれの生徒のレベルにあった 支援を与えること」、「生徒たちが学習内容や学習活動をより深く理解できるようにするた め、一つの情報に様々な材料からアクセスできるようにすること」、「授業内容を教えると 同時に、内容に関連することばを教えていくことで、学習過程におけることばの役割に注 意を向け、メタ言語を発達させること」の五つである。一方、マクロ・スキャフォールデ ィングがよく現れた場面としては、以下の八つを挙げている。それぞれ、「過去の体験と結 びつける」、「新しい体験に目を向ける」、「要約する」、「相手の発話を取り入れる」、「生徒 の発言を言い直す」、「IRFシークエンスを活用する」、「ヒントを与えて、引き出す」、「主 体的な発言力を増加させる」(Hammond 2007:40)の八つである。そして、Hammondは このようなマクロ・スキャフォールディングとミクロ・スキャフォールディングの双方の 特性が子どもたちのことばの学びを支え、在籍学級での学習を支えていることを強調して いる。

また、Gibbons(2007)は、ESLの子どもたちが在籍学級の中で学んでいくためには、こ とばと教科学習の内容を統合し、在籍学級の学習の文脈の中でことばの学びをデザインす

ることが重要だと主張する。そして、ことばと教科学習の統合に向け、在籍学級の授業を

「ことば」の観点から分析し、スキャフォールディングを与えていくために、以下のよう な支援の流れと枠組みを示している。

① 学習者のことばの実態を知る

② 在籍学級の学習活動をことばの面から分解する

③ その情報をもとに、焦点を当てることばを選ぶ

④ 焦点を当てたことばを教える活動を準備する

⑤ 単元を評価する

(Gibbons2007:68)

では、スキャフォールディングは、子どもたちのことばの学びのどのような面において 有効なのだろうか。

齋藤(2004)は、スキャフォールディングを取り入れたオーストラリアの年少者ESL教育 実践の観察から、子どもたちのことばの学びにおいてスキャフォールディングがどのよう な有効性を持っているのかを考察し、スキャフォールディングの有効性を以下の三つにま とめている。一つめは、「マクロ・スキャフォールディングによる学びの場を設計できる有 効性」である。マクロ・スキャフォールディングとして、支援者がそれぞれの子どもに合 った活動を考え、課題達成のために適切な順番で活動を配列することによって、学習者が 学べる範囲で新たな知識やストラテジーを得ながら課題も達成できる、有機的な学びの場 の設計が可能になるという(齋藤2004:102)。二つめは、「スキャフォールディングによる 4段階の支援の流れの有効性」である。スキャフォールディングによって、「知識・語彙の 共有→教師による見本→共同作業→個人作業」という4段階の教授・学習サイクルを繰り 返すことで、子どもたちが課題に取り組むための「踏み台」を築くことができるという。

そして、この「踏み台」の上で子どもたちはより創造的な思考を展開し、自己表現するこ とができるのだという。また、三つめは「ジャンルアプローチの有効性」である。ジャン ルアプローチとは、スキャフォールディングを通じて物語文、情報文、報告文などのジャ ンルの役割や目的、テクストの構成、特徴的な表現、言語的特徴などを実際のテクストを 用いながら示し、学習活動を展開することで、教室などの共同体の中で使われることばの ジャンルに馴染ませていくという支援である。そして、スキャフォールディングを通じて

このようなジャンルを身につけることにより、子どもたちは共同体の中で自己表現し、相 手を理解するためにジャンルを扱うことが可能となり、共同体の実践への参加につながっ ていくという。

以上の知見から、支援者がマクロ・ミクロ双方のスキャフォールディングを与えていく ことにより、子どもたちが学習に参加していくための足場が築かれ、その足場をもとにし て子どもたちは自分の持っている能力を活用して共同体の中で自己表現したり、相手を理 解したりしながら、学習に参加していくためのきっかけをつかんでいくことがわかる。つ まり、支援者のスキャフォールディングは子どもたちが能動的に学びに参加し、自らの学 びを創り上げていくプロセス、すなわち、子どもたちが主体的に学んでいくためのプロセ スを支えているのである。そこで本章では、支援者と子どもとの間で育まれる主体的な学 びの様相を探るため、スキャフォールディングの概念をもとにしたことばの支援を試み、

支援の中でVにどのような学びが育まれていくのかを明らかにしたいと考えた。

3-1-2. 本章の目的

本章では、移動する子どもVに対し、スキャフォールディングの概念をもとにしたこと ばの支援を試み、支援者と子どもとの間で育まれる学びとはどのようなものなのか、また、

どのようにして主体的な学びが育まれていくのかを明らかにしていくことを目的とする。

支援のデザインにあたり、前掲のGibbons(2007)のスキャフォールディングによる支援 の流れと枠組みを参考にした。なお、Gibbons(2007)では、支援の流れとして「① 学習者 のことばの実態を知る、② 在籍学級の学習活動をことばの面から分解する、③ その情報 をもとに、焦点を当てることばを選ぶ、④ 焦点を当てたことばを教える活動を準備する、

⑤ 単元を評価する」という五段階が示されているが、本章では、「①子どものことばの実 態を捉える、②ことばの実態に応えることばの支援をデザインする、③ことばの学びを評 価する」という三段階の支援の流れに沿ったマクロ・スキャフォールディングを行った。

本章で三段階の流れを設定した理由は、Gibbonsのスキャフォールディングでは、在籍学 級での授業参加を目的として支援の流れが設定されているのに対し、本章で対象となって いるVは、日本語がほとんど話せない状態で来日したため、授業に参加する前段階として 教科学習に参加していくための土台となるようなことばの力を育てていくことが必要だと 考えたためである。そのため、在籍学級の学習活動の分析の代わりにVがその後の学習に 参加していくために必要となるであろう活動を分析し、三段階の流れに沿った支援をデザ

ドキュメント内 第1章 移動する子どもたちとことばの教育 (ページ 37-61)